そんなこんなで第二話です。連続投稿はこれにて終了です。
ジリリリリと言うけたたましい音を耳元で聞いて、僕はもうこんな時間なのかと一つあくびをした。この絶対に目を覚ます事ができるアラームがなったということは、時刻は朝七時なのだろう。
さて、今日からはまた喫茶店《時雨》を開店させなければならない。
「いらっしゃいませぇ! 喫茶店《時雨》へようこそ!」
声良し、笑顔よし。いつでも開店出来そうだ。
開店するのは今から数時間後のこと。それまでにすることといえばもう一つの仕事であり、鼠の依頼の延長として始めた情報収集だ。僕はLAボーナスで手に入れた素早さにプラスの付いた高性能コートと、リズベットに作ってもらったこれまた素早さに補正のある短剣を装備して、店を出た。
実はこの短剣、どう頑張っても切れないのである。前に《攻撃は出来なくていいから素早さ重視》と依頼してみたところ、リズベットから不審な目で見られたが筋力値が下がるどころか、そもそも切れないという残念武器が出来上がったのだ。だが、その分の性能が全て素早さにかかっているので、その部分だけはなんとも言えないことになっている。最近の装備といえばこれがメインとなってきているのだから、おかしな話だ。
情報収取とは言っても、実のところ身のある話を聞けることは少ない。こんなデスゲームの世界だとしても、そんな頻繁に事件が起きるはずもなく、最近の事件で言えばPKが活発化し始めていること、クエストの報酬について、個人的なものであれば攻略組の黒の剣士キリトがギルドに加入したことくらいのものだ。
キリトとは第一層攻略の時にパーティを組んだ仲間だ。騒ぎを鎮めるために周りからの反感を全て自分が買い、全て背負ってボスフロアから去っていった僕の数少ないフレンドである。
「よかった……キリトは救われたんだね」
ずっと心配だった。キリトはきっと溜め込む性格なのだろう。自分で抱え込んで、誰にも迷惑をかけずに解決しようとして、パンクする。誰か影でキリトを支えてくれるような人がいれば安心なんだけれど。そこら辺はアスナに頑張ってもらいたい。
「さて、帰るかな」
時刻は十一時で、開店まで残り一時間しかない。僕は足早に店へと走りだした。
店に帰るとそこには鼠がいた。彼女のことだ。どうせ僕がもうそろそろ戻ってくることをわかっていたのだろう。鼠は店の壁によしかかりながら手を振っていた。
「ニャハハハハ! 今日も来ちゃったゼ」
「後一時間くらい待ってればいいのに……」
僕は苦笑しながらアルゴにそう答えると、急いで店の鍵を開けた。アルゴと一緒に店の中に入る。
アルゴは情報屋であり、鼠の愛称で呼ばれている。仲の良いベータテスターから勧められて会ってからは、なんだかんだ仲良くやっている。情報だったら何でも売るというなんとも商魂たくましい性格だが、僕は絶対に見習いたくない。
「じゃあ、今日も情報交換しようゼ」
アルゴの言葉を合図に、僕たちは情報を交換しあった。僕が手に入れることのできる情報は限られている。それもそのはず、そもそも時間があまり取れないため情報の鮮度が足りないのだ。それでアルゴの知らない情報を売る代わりに、アルゴの情報を喫茶店のマスターとして話のネタにする。そんな情報交換がいつからか当たり前になっていた。
「ふーん……料理スキルのコンプリートカァ、それは初めて聞くナ」
「そうなんだ」
「俺っちが聞いたことないんだからな。おそらくレー坊が初なんだろうナ」
アルゴは良かったじゃないかといって笑いながら僕の背中を強めに叩いた。圏内だからダメージがないとはいえ痛みがないわけではない。
「痛いって!」
「ニャハハー、そんな怒んなっテ!」
そんなことを言うアルゴ。最後まで笑顔を絶やすことはなかった。
アルゴと雑談していると、とうとう開店の時刻になった。僕は扉の前の看板を裏返し、システムウィンドウをいじる。
「お? 開店かい?」
「うん、時間だからね」
僕はアルゴの言葉に笑顔で答えながら店を開店させた。喫茶店《時雨》のスタートである。気合を入れていかなければ。
そんなことを考えていたところで、客足が伸びるわけでもなく、どうせ相変わらずなのだ。その間僕がやることといえば、休憩すること。ただそれだけだ。
「結局いつも通りなんだナ」
「そうそう、それが一番いいんだって」
笑うアルゴを尻目に僕は一つ大きなあくびをした。
「ん? なんだいレー坊。寝不足かい?」
「んにゃ、そんなとこ。最近眠れなくてねぇ……」
「……そうカ」
なんか疲れているような気がする。すごく眠たいような感じはするのだが、それでいて全然眠れないのだ。きっとこのデスゲームのせいなのだろう。リアルよりずっとリアルなこの世界は、普通に生きるにしてはあまりにもハードすぎる。どうしても神経を使うのだ。
「そろそろ俺っちは立ち去ろうかナ」
「帰るの? 情報屋は忙しいね」
僕は満面の笑みでアルゴを見送った。アルゴはカウンター席から立ち、扉に手をかけてその場に止まった。どうしたのだろうか。
「どうしたの?」
「なんていうか、ナ……あんまり背負いこむなヨ?」
「急に何さ、変なアルゴだね」
僕はケラケラと笑いながら言った。今日はやけに優しいが、何かあったのだろうか。キリトじゃあるまいし、僕が背負い込むことなんてほとんどないのだ。
「アルゴこそ、何かあったら相談してね。仲間なんだから」
またね、と手を振るとそれに気づいたアルゴは手を振り返してくれた。忙しいというのにそ合間を縫ってここに来る必要はあるのだろうか。
くすりと笑って、僕は次来るお客様のためにさっきまで使っていたグラスの後片付けを始めた。閉店まではまだまだ先である。
次話はいつごろになるでしょうか……今から心配です。残り二話分のストックはいつごろ消費して、いつごろストックがなくなってしまうのでしょう……。