最初の方はかなりほのぼのといきます。途中からバトルが少々入りそうな予感です。これからよろしくおねがいしますね。
カランカランという音が聞こえて僕は即座に顔を上げた。
「いらっしゃいませ!」
客が来た合図が聞こえた僕は笑顔を作って言った。扉の前には見覚えのある男プレイヤーが立っていた。黒いコートを羽織っている軽装のプレイヤーで、盾を持たず一本の片手剣を背中に背負っている。
「キリト! 久しぶり!」
「ああ、久しぶりだなレイン!」
キリトは稀に見る笑みで言った。本当に元気になったんだな、とその姿を見て僕は思った。一人で罪を抱え込もうとしていた時とは表情がまるで違う。心から楽しんでいる時に見る柔らかい笑顔だった。
「聞いたよ、キリト。ギルドに入ったんでしょ?」
「やっぱり知ってたんだな」
もちろんだよ、と僕は威張っていった。伊達に情報屋をかじってはいないのだ。キリトは半年以上前に月夜の黒猫団というギルドに加入していた。そこでメンバーと共に少しずつ攻略組を目指しているそうだ。最近メキメキと実力をつけてきているようで、その夢は現実に近づいてきているそうだ。それもひとえにキリトの後ろ盾があってこそだ。しかし、そう言うとキリトはそれを否定した。
「いや、それは違うよ。俺は戦いのコツを教えてあげているだけだ。ほとんどあいつらの力だよ」
「そっか……キリトがそういうのならきっとそうなんだろうね」
そのギルドとキリトとは信頼しあっているのだろう。どうやら仲良くやれているようだ。これでひとまず安心である。
「マスター。おすすめは?」
「最近だったら新しくメロンソーダを作ってみたよ」
「おお! 懐かしいな、それ! それにしよう」
メロンソーダといえばコーラに次ぐ定番さがある気がする。コーラを以前作ったところ、なんとも悲惨なことになった。これはコーラではない、なにか別の飲み物だと否定したくなってしまう味、といえば伝わるだろうか。
とにかく、そんなコーラならざる物は置いといて、メロンソーダをキリトに出してみる。
「見た目もメロンソーダそのものだな」
「だってメロンソーダだもん」
そりゃそうだなといってキリトと一緒に笑う。自分の分も作ってキリトと乾杯をして、一口飲んだ。キリトも満足してくれたようで、彼の持つグラスはすぐに空になってしまった。
「久しぶりに会ったけど、元気そうだね。キリトは」
「そっちこそ。むしろよく笑うようになったんじゃないか? レインは」
「それを言うならキリトもじゃない?」
二人してまた笑った。今のキリトとは以前よりも仲良く話せそうだ。それほどキリトにとって月夜の黒猫団はとても影響力が強かったのだろう。
「やっぱりギルドに入ったから?」
「そうだろうな……いろいろ考えさせられるよ、ほんと」
これでもう二杯目になるメロンソーダをまた飲み干し空にした。それに応じて僕はまたキリトにメロンソーダを差し出す。
「そういえば、一つ相談があるんだ」
「え? キリトから相談なんて珍しいね、どうしたの?」
キリトには僕の方から相談することがほとんどだったため、これは何か新鮮でいい。僕はそれに対して真剣に答えようと思った。
キリトは三杯目のメロンソーダを一口飲んで一息つくと、話し始めた。
どうやらキリトが月夜の黒猫団に入るときに、レベルをその時のレベルの二十ほど下の数字で言ったらしい。そしてそのまま流れでギルドに入り、今に至るというわけだそうだ。正直に言う機会もなく、結局ズルズルとここまで来てしまったようだ。
「どうしたらいいと思う?」
「うーん……」
それは当然、キリトが嘘を教えたのに非があるのだから、正直に言う方がいいに決まっている。しかしそれを聞きたいというわけではなさそうだ。キリト自身も本当は正直に言ったほうがいいのだとわかっているはず。
なら何を悩んでいるのかは、きっと正直に言った後のほうだ。それを正直に言ってしまえば、ギルドメンバーの信用を裏切ってしまうことになる。もっと遡れば、キリトは攻略組なのにも関わらず低階層で狩りをしていたのだ。それは本来なら荒らし行為として見られる可能性だってある。それを考慮して、どうするか。それをキリトは悩んでいるのだ。
「僕がキリトの立場だったら……正直に言わなくてもいいと思うな」
「……え!?」
僕のその回答にキリトは驚いた声を上げた。その表情をみて僕は穏やかな笑みを浮かべて、言葉を続けた。
「だってレベルを偽ってただけでしょ? 別に嘘を言ったのはギルドに加入する前なんだから、素性の知らない人にレベルを聞かれて嘘を付いても良くない?」
「で、でもそれは加入する前の話だろ?」
「さっき自分で言ったよね? 言う機会がなかったって」
キリトが慌てふためく姿を見ながら僕はくすくすと笑った。まあ不満を浮かべるのも仕方のないことだ。逆に言えば、ここで不満を浮かべないほうがよっぽどである。心から信頼しているということが垣間見えた瞬間だった。
「キリトはそのギルドのメンバーを信頼してるんでしょ? なら難しく考えることはないよ。レベル偽ってたんだ、ごめんって謝って許してもらう。ただそれだけのことだよ」
キリトをギルドに入れた時点で相手側からの信頼をある程度得ている。キリト自身も信頼しているようだし、誠心誠意謝ればきっと笑って許してくれるだろう。
結局のところ、言っても言わなくても支障はないということだ。
「……そうだな。ちゃんと謝ってこようかな」
「うん。気楽にね」
僕は手に持った新しいメロンソーダのグラスをキリトの前に突き出しながらそういった。キリトはそれを見てニヤリと笑うと、飲みかけのメロンソーダを手に持って、僕たちは二度目の乾杯をした。何度飲んでもメロンソーダは変わらず美味しかった。
最近ストックを書いていたら思います。
「この少年はどうすれば救われるんだろう」
それが今の作者の悩みです。
追記→キリトのレベルに関してと、ギルド加入日に関してを加筆しました。しかしあからさまにレベルを記入したり、日にちを書く修正をすると加筆どころか内容自体を少し変えないと無理だったため伝わる程度に修正しました。これでいい感じになっていればいいのですが……。