恐怖に囚われた少年は舞台を演じる   作:Narvi

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 章で分けてみました。第一章はいわばプロローグです。それにともなって第一話のタイトルも変えました。
 もう少しだけこのほのぼのが続きますので、のんびり見ていってください。


第四話 スキルとレベルと女の勘

 キリトはあの後残りのメロンソーダを飲み干すと代金を払って立ち去っていった。これからギルドメンバーに会いに行くのだろう。

 もしかしたら今日で正直に謝るのかもしれない。まだ本当のことを言わないのかもしれない。そもそも言ったところで許してもらえるかなんて僕には知る由もない。

 でも、いうことに意味があるのだ。言う前にいくら考えても、その答えは結局言ってからでないとわからない。

 

「頑張ってね……」

 

 僕にはどうすることも出来ないけれど。キリトには同じ道を辿ってほしくなかった。どうか、頑張って欲しい。僕はそう思いながら店の看板をまた、裏返した。

 もうそんな時間だった。キリトと会うのは久しぶりだったため、時間を忘れて語り合っていたのだ。明日はどんな客が来るのだろうか。今から少し楽しみである。

 

 

 

 

 

「へぇ……そんなことができるのね」

「ね? やっぱりすごいでしょ?」

 

 次の日、僕の店には二人の客がやってきた。二人は先程出したコーヒーを飲みながらそんなことを言っていた。

 一人は常連さんで、隣の武器屋さんを営むリズベットだ。そしてもう一人が。

 

「攻略組の閃光のアスナさんが、こんな店になんの御用です?」

 

 僕は笑いながらそういった。

 そう、今日この店に訪れたのはなんと、かの有名なアスナだったのだ。第一層攻略の時に一度だけパーティーを組んだことがあるが、その時から閃光の片鱗を見せていた彼女は今や血盟騎士団の副団長。とんだ化物になったものだと、僕は満面の笑みを浮かべ続けた。

 

「なに? 私が来たら悪いっていうの?」

 

 アスナは不満でもあるのか、と睨みをきかせながら言った。有無を言わせぬその姿から攻略の鬼という噂は本当なのだろう。僕はまた笑う。

 

「いえいえ、そんなことないですよ?」

「ふーん……どうだか」

 

 どうやらかなり不機嫌のようだ。おそらくリズベットが何かいらないことを言っていたのだろう。僕がリズベットの顔を伺うと、バツの悪い顔を浮かべた。

 

「いや、本当に何もないですよ? 攻略組のお客様は二人目なので」

「あら? 二人目なの?」

「はい。誰とは言いませんが」

 

 一応プライバシーのため名前を出さないが、アスナならなんとなく誰だかわかってくれるだろう。それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 アスナはその後もいろいろと聞いてきた。キリトのことについて何か聞いてくるのかとおもいきや案外そうでもなく、主な内容といえば料理スキルのことだった。

 

「まさかレイン君に先を越されるなんて。料理スキルのコンプリート」

 

 どうやら少し悔しいらしく、苦虫を噛み締めたような笑いを見せた。そもそも僕は毎日何かに追われている身なわけではないので、料理スキルの完全習得は苦でもなかったのだ。

 

「いやでも、攻略組でありながら料理スキルをもうすぐコンプリートできるというところまで来ているんですから、相当だと思いますよ」

 

 それに比べて、本当にアスナはすごいと思う。それと同時に、いつ料理スキルを上げる時間があるのだろう、と少し疑問に思った。しかし、そんな疑問を浮かべてるとはつゆ知らず、アスナはジト目で僕の方を見始めた。

 

「……どうしたんですか」

「料理スキルの件もそうだけど……そういえば、レイン君の今のレベルは?」

「ちょっとアスナ!? 人にレベルを聞くのはルール違反じゃ――」

「七十一だよ」

「ってレインも……まああんたがいいならいいけどさ」

 

 別にレベルをいうことに躊躇いはなかった。リズベットがアスナを止めようとするが、アスナは無言で押し通していた。

 鍛冶師のリズベットは最前線のレベルについて知らなかったのだろう。アスナは僕のレベルを聞くと驚いた顔をした後、呆れたようにため息を吐いた。

 

「……私よりレベルが高いじゃない。なんであなたは攻略組を続けなかったの?」

 

 鍛冶師のリズベットには何とも思わない数値だが、アスナからしたら素直に疑問に思ったのだろう。確かに、僕は昔は攻略組として真剣にフロアボスと戦っていたし、アスナとも何度か攻略について話し合いをしたことがある。

 

「攻略に嫌気が差した?」

「いや、そんな無責任な!」

 

 アスナは問いかけを続ける。リズベットもそれをただ眺めていた。

 嫌気が差したとかそんなふざけたことではない。そんな私事で攻略を怠っていいような状況ではなく、今も攻略組は一生懸命になってボスフロアを探しているのだ。現実世界に帰るために。それは立派だと思う。こんなところで喫茶店を営んでいる僕とは大違いだ。

 

「……それとも、誰にも言えないようなこと?」

「んにゃ、そんなことないよ! 僕は喫茶店がやりたかったの。時雨という名前で、さ」

 

 僕は何時も通りの笑顔で言った。

 そうだ、そうだ。僕はずっとこうやって店を開いてみたかったのだ。そのために料理スキルをコンプリートして、ここに店を構えたのだ。別に嫌気が差したわけでも、何か誰にも言えないようなことを抱えているわけでもない。

 

「……キリト君も、レイン君も、なんでそうやってすぐ抱え込んじゃうのかな……」

 

 アスナはぼそり、と独り言を言った。その言葉はとても小さくリズベットの耳には届かなかったようだが、それは鋭利な刃として僕の胸に突き刺さった。

 それを無理やり覆い隠すように、僕はまた満面の笑みを浮かべて、こういった。

 

「だからアスナ。暇な時また来てよ! 歓迎するから!」

「……わかったわ」

 

 アスナはリズベットの手を引いて僕の店を出て行った。その後ろ姿を見ながら、僕は静かに手を振って見送った。

 

「女の勘って……とんでもないね」

 

 そんなことが、身にしみてよく分かった日だった。




 お気に入り登録ありがとうございます。UAも少しずつ増えていてとてもうれしいです。

 後数話でバトルシーンが始まります。一応裏設定やちょっとした説明を活動報告に書きましたので読んでみるのはいかがでしょうか? 読まなくても話は進みます。
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