恐怖に囚われた少年は舞台を演じる   作:Narvi

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 あと数話ほのぼのとした展開が続くと言っていました。僕もそうなるものだと、信じていました。
 あれは嘘でした。なんと、物語が動き出します。

 念のためタグに急展開という物を足しました。一応この話もプロローグですので、まだまだ続きます。


第五話 いつも事件は唐突で

 それは突然だった。

 今日もいつも通り、喫茶店を開いて最早常連と言っても過言ではないリズベットの愚痴を軽く聞き流していた時だった。

 

「レー坊ッ!」

 

 最近よく聞くようになった自分のあだ名が、驚くような声量で発せられたのだ。朝からずっと感じていた眠気は一瞬で吹き飛び、僕は必死な形相のアルゴを見た。

 

「どうしたの? アルゴらしくないよ」

 

 話を聞き出す前に、僕はアルゴを落ち着かせるためにカウンター席に座らせてお茶を渡した。アルゴはそれを受け取ると両手でゆっくりと体に流し込んでいく。

 アルゴが取り乱すほどだ。相当のことがあったのだろう。それは情報屋としてのものか、それともアルゴという人間としてのものか。

 どうすることも出来ず、取り敢えずリズベットを帰らせた。流石にこの場にいさせるわけにはいかなかった。

 

「落ち着いた?」

 

「ああ、ありがとうレー坊」

 

「それで、何かあったの?」

 

「レー坊も知っていたよナ……。キリトがギルドに加入したってことハ」

 

 アルゴは淡々と喋り始めた。キリトがギルドに入っていたことは知っている。以前、キリトにギルドのことを相談されたばかりだし、きっと仲良くやっているだろう。

 

「うん。知っているよ」

 

「そのギルド……壊滅したんダ」

 

 ――え?

 

 声にもならなかった。たった約一週間前のことだ。キリトは楽しそうにギルドのことを話してくれた。このまま急成長し続けてくれれば、今の攻略組の閉塞的な雰囲気を変えてくれるかもしれない、と嬉しそうに話していたのだ。明るくて仲も良く、数あるギルドの中でどこよりも活発なギルドだと、キリトは心から評価していたのだ。

 

 なのに。

 

 なのに、だ。

 

「嘘でしょ」

 

「本当のことダ。情報屋の名前に泥を塗るつもりはナイ」

 

「嘘だッ!」

 

 僕の否定の声にも、アルゴは全て本当のことだと言い続けた。それが信じられなくて、僕は感情のままに怒鳴りつける。

 

「じゃあ、キリト以外のギルドメンバーはどうなったのさ! みんな死んじゃったの!?」

 

 それこそありえない話だ。攻略組屈指の実力を持つキリトが付いていながら、一瞬で一つのギルド壊滅する場所。

 そんな場所が存在するなら、その時点で攻略は止まっている。

 

 それでもアルゴは、それを否定した。

 

「そうダ……。信じられないかもしれないが、キリト以外のギルドメンバーは全員死んだヨ」

 

「だからなんで!」

 

「彼らは、最前線から三層下に行ったソウダ」

 

「ッ!」

 

 最前線から三層下といえばトラップ多発地帯であり、攻略後は誰もが近づかなくなった場所だった。その分経験値稼ぎやお金稼ぎにはいいが、それと引き換えに命を差し出していては、どれだけHPがあっても足りやしない。

 

「……そこでキ―坊でも切り抜けられない何かがあったんだろうナ」

 

 例えば、モンスター多発トラップや移動制限トラップ。終いにはクリスタル無効化エリアまであるのだ。そこに足を踏み入れてしまえば、高価な結晶アイテムがいくらあろうとも意味をなさない。

 

「それで……キリトは」

 

「……アリでレベル上げ、きっと今もナ」

 

 現時点でレベル上げの効率がもっとも良いとされる場所で狩りを続けている。アルゴ曰く、圏内に戻ることもしないそうだ。

 きっと辛いだろう。苦しいだろう。本来ならギルドメンバーと狩りをしているはずだったのに。

 

 キリトには、守るべきものがいなくなってしまったのだから。

 手を差し伸べることも、差し伸べられることもない。それはとても悲しいことだ。

 

「レベルを上げているってことは、あのイベント狙ってるのかな」

 

「ソウだろうナ……」

 

「……蘇生アイテム。本当にあるのかな」

 

 クリスマスのイベントで、こういう噂があった。

 それは、たった一度だけ死んだものを組成するアイテムをボスが落とすというものだった。それがどれほどの効力を持っていて、どう発動するのかはわからない。そもそもそれが本当に存在するのかもわからない。そして、そのボスがどこに現れるのかも不明なのだ。

 

 しかし。

 

 それでもだ。

 

「きっと……キリトなら探しだすよね」

 

「そうだナ」

 

 キリトならその一縷の望みにすがるだろう。そのためにレベルを上げて、きっと彼らに謝るのだ。一言、ごめんを言うためだけに。キリトはその限りなく細く、ちぎれやすい糸の上を歩く。

 

「レー坊……。無理を承知で頼む。キリトを、救ってやってくれないカ……?」

 

 アルゴは消え入るような声で言った。きっとアルゴは僕のこともわかっているのだ。この世界一の情報屋は、僕の過去も、攻略組を抜けた理由も、刃のない短剣を使っている理由も。全て、全てわかっている。

 それでも、アルゴは頭を下げた。

 

「もちろん! 僕が助けないわけ無いでしょ!? 友達なんだから!」

 

 僕は先程までのことが嘘だったかのように笑いながら言った。

 

「……ありがとナ」

 

 アルゴは悔やむような表情でお礼を言った。クリスマスまで後一週間。その間にそのボスが現れる場所を見つけなければならない。

 僕はアルゴに情報を得るべく、今回のイベントについていろんなことを聞いた。アルゴはそれを断らず、たくさんのことを教えてくれた。

 クリスマスまでに間に合うか。ただそれが、なによりの気がかりだった。




 まさかここまで物語が動くとは、本当に急ですよね。
 でも世の中何が起こるか、その時になってからしかわかりませんよね……。天災なんかも、だから恐ろしいのだと思います。
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