恐怖に囚われた少年は舞台を演じる   作:Narvi

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 とうとう来ました。これで一応舞台は整います。七話にして、ようやくスタートラインに立ったというところですね。案外長くなりそうですけどそれでも三十話くらいで終わるかな、と思っています。


第七話 少年は恐怖に囚われる

 どれほど経っただろうか。気づけば短剣を握っていた。その短剣はプレイヤーの胴体に突き刺さっていた。その手に持つ鋭利な刃を勢い良く引き抜くと、僕は操られたかのように次のターゲットに引き寄せられ、その刃を振るっていた。

 

 この手を止めるなんてことは頭の片隅にも存在しなかった。斬れば斬るほど、刺せば刺すほど何かが満たされるような気がした。とても心地よく、とても甘美な気持ちだ。

 

 最初はただ許せなかった。裏切りレインと呼ばれるのが、心の底から許せなかった。裏切ったことを認めることこそ、今は亡き親友達の信頼を裏切る行為になってしまうから。それだけは何よりも嫌だった。

 

「お、おい。もうよせ」

「ハハハハハ!」

 

 気づけば笑いが止まらなかった。短剣を片手に、僕はひたすら笑い続けた。誰かの止めるような声があったような気がするが、僕の耳はその声を聞き流した。目の前で腰を抜かしている者達を見ていると、どうしても笑いが止まらないのだ。もっとよく見たい。なのに目の前に靄がかかっているかのようで、よく見えなかった。

 ただ感情のままに短剣を振るい、親友達がやられた時のことを今度は僕が再現したい。彼らが憎い。感情の奥底から湧き上がってくる嫌悪感に身を任せ、彼らに同じ痛みを与え続ける。

 

「よせって……レインよぉ!」

「ハハハハハ!」

 

 どうやら邪魔が入ったようだ。僕の腕を掴み、動きを阻害しようとする何者かに舌打ちをする。しかし、素早さ寄りのステータスでは、どれだけ力を込めても思うようにはいかなかった。

 

「……レイン」

「ハハハハハ……ハハ、ハ?」

 

 染みるかのように入ってくる低音に、ゆっくりと僕の笑いは止まっていた。あたりを見渡すと最早踏まれていないところのない地面に、たくさんの瀕死プレイヤーが転がっていた。恐らく聖竜連合のメンバーだろう。最初に見せていた戦意は見る影もなく、息も絶えた状態で地面に這っている。

 後ろを見てみると僕を抑えるクライン達《風林火山》と、悲しそうにアイテムを持つキリトがいた。

 

「……足止め……ありがとな」

 

 キリトは僕の目を見て言った。しかしその目は沈んでいるわけでも、浮かれているわけでもなかった。ゲームだというのに一切の光も差さない瞳は、色もなく真っ黒だった。

 

「……」

 

 僕は返答することが出来なかった。キリトならその手に持つアイテムのため、殺すことも考えていたはずだ。しかし、僕の目の前にいるのはHPバーが赤く染まっている約三十人ものプレイヤーだった。どのプレイヤーも疲労困憊のようで、片膝をつく者や前のめりに倒れている者。ましてや、武器を放り投げて仰向けになっている者までいた。

 

 結局僕は誰一人殺すことは出来なかったのだ。

 

 あれほど怒っていたのに。

 あれほど恐怖していたのに。

 

 僕の刃は人の命までを刈り取ることは出来ないようだ。それに安心してしまって、そんな自分がたまらなく嫌だ。

 そんな僕達を見るクラインの目は、とてもじゃないが見ていられなかった。

 

「そのアイテムが――」

「ほら」

 

 僕が言い切る前に、キリトは手に持っているアイテムを僕に投げ渡した。クラインはその正体をもう見てしまったのだろう。その表情で大体わかってしまった。

 それは、蘇生アイテムだった。それも、過去に死んだものには使えないよう設定されたもの。

 ようはキリトのギルドメンバーは生き返らない。過去に死んだものには使えないということは、死んだもののデータは完全に消去されているということであり、僕の親友も全員この世界から存在を消されてしまったようだ。

 

「……許せない」

 

 現実だときっと今頃血が滲んでいただろう。それほどまでに強く短剣を握ると、その行き場のない力を全部地面へと発散させた。

 

「……キリト」

「……なんだ?」

「これから……どうすればいいんだろうね」

 

 僕は今できる最高の笑顔をキリトとクラインに見せた。自然と涙がこぼれてきた。それは元から溜まっていたのかもしれない。止めようと思ってもそれは重力にしたがって下へ下へと落ちていった。

 

「どうすれば……いいんだろうな」

 

 キリトは表情を一切変えないまま、ぽつりと呟いてこの場を去ろうとした。

 

「キリト……レイン……お前ェら絶対に死ぬんじゃねぇぞ……生きて……生きて現実世界に帰るぞ……」

 

 何度も繰り返すクラインに、僕は恐怖を覚えた。僕はそんな大層な存在ではない。ちっぽけな一人間なのだ。

 

 その後は一切言葉も交わさぬまま、三人別々に歩いた。イベントのボスは誰かの手によって倒され、聖竜連合は裏切りのレインによって死者が続出した。そんな噂が各層で広まった。




 UAも着々と増えてきてますね。お気に入り十六件も来てて本当にびっくりです。ありがとうございます。すごく嬉しいです。
 いろいろ疑問もあるでしょうが、答えれる範囲で答えますので感想の方にどうぞ。

 これでレインは完全に恐怖に囚われてしまいました。この調子で壊れてしまうのでしょうか。それは僕のさじ加減で全て変化する……。恐ろしい。
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