恐怖に囚われた少年は舞台を演じる   作:Narvi

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 本当に久しぶりです。特に理由はないけど何故か期間が空いてしまって、何だかんだストックも残りわずか……。
 よし、ちょっと頑張ろう。

 シリアスの中にあるほのぼの。今回はシリカさんとのんびりしてもらいましょうか。


第九話 美味しいケーキ

 三十五層の主街区には大勢の人が行き交っていた。中層プレイヤーの主戦場と化した今では、どうやらこの光景がいつもどおりのようだ。

 シリカはそんな光景を特に思うこと無く歩き続けている。僕は周りから感じる視線に恐怖を感じて、装備のフードをより深く被った。

 

「あの、シグレさん。どうしたんですか?」

「ん? いや、なんでもないよ?」

 

 どうやら僕の行動は他の人から見ると怪しかったようで、シリカはフードの中にある顔を伺おうとしてきた。そんなシリカの心配を笑って流して顔をそむけると、僕はいつも通りを取り繕った。

 その間にもシリカへの勧誘は続く。先程からいろんなプレイヤーがシリカの元へと歩み寄ってくるのだ。それも全員男のため、少女に群がる男どもの構図を思い浮かべたらこのゲームのプレイヤーの変態さがよく分かる。

 それをシリカは全て断りながら歩き続ける。小さな少女に相寄ろうとするプレイヤーも無様だが、それを丁重に断られて逆恨みするプレイヤーは無様を通り越して滑稽で、僕は必死でこみ上げてくる笑いをこらえた。そのたびに僕はプレイヤーを装っている変態共に睨まれている。

 笑われて当然なことをしているのだから、僕には睨む意味がわからない。

 

「す、すみません……迷惑かけちゃって」

「いや、気にしてないよ?」

「でもそのフードは――」

「あ、これは元々だから。心配しないで」

 

 僕は我慢せずに笑いながらそういった。シリカもそこそこ信用してくれていたのだろう。クスクスと笑いながら僕の少し前を歩いていた。

 

「それにしても、シリカは人気者なんだね!」

「そんなことないですよ……ただ私をマスコット扱いして……私が勝手に調子にのっちゃって……それで――」

「それ以上は言わなくていいよ。大丈夫、絶対に助けるから」

 

 悲しそうな顔のシリカの止まらない発言を無理やり遮って、優しく言った。そんな僕の必死な言葉を聞いてか、シリカはまた先程の顔に戻った。

 

「やっぱり人は笑顔が一番だよ! そのほうが可愛いよ!」

「ッ! もう……からかわないでくださいよ!」

 

 お互いに顔を見合わせて、二人して笑った。そんなことをしている間に、僕たちは目的の宿にたどり着いた。別に僕は眠れないのだから宿に泊まる必要などないのだが、どうしてもシリカが心配だった。少しの間だが一緒に行動するということもあるので、今回は一緒の宿に泊まることにしたのだ。

 

「ここのチーズケーキはうまいんですよ!」

 

 とても笑顔でシリカはそう言っていた。料理スキルをコンプリートしているこちらとしては、どれほどのものか気になるものである。

 

「あら、シリカじゃない」

 

 楽しく会話をしながら歩いていたところを、一人の女性が邪魔をした。真っ赤な髪が特徴的な、槍を背負った女性プレイヤーだ。

 

「……どうも」

 

 シリカは明らかに嫌そうな表情で言った。赤髪の女性もそんなシリカを見て嫌な笑みを浮かべている。僕はそんな女性に笑顔で向かっていった。

 

「なに? あんたもたらしこまれたの?」

「いやぁ、そんなことないですよ? ただの使い魔蘇生の付き添いです」

「ふ~ん。じゃあ思い出の丘に行くんだぁ。そのレベルで大丈夫なの? あんた、見た目弱そうだけど?」

 

 どこで情報を仕入れたのかわからないが、赤髪の女性は思い出の丘のことを知っていた。確かにシリカ本人には聞いていないが、圧倒的にレベルの方は足りていないだろう。だが、そんなことは関係なかった。

 

「絶対にッ! ピナは助けます!」

 

 シリカは声を張り上げて、赤髪の女性を睨んだ。その決意があれば充分だ。僕は意志の固まっているシリカを見て静かに笑みを零した。

 その後、赤髪の女性は立ち去っていった。最後に嫌味ったらしく頑張ってねと告げて。口角は上がっていて誰がどうみても嘲笑っていたが、密かに闘志を燃やしているシリカを見てそんなことはどうでも良くなった。

 

 シリカ一押しの宿《風見鶏亭》に着いた僕たちは一階のレストランに立ち寄っていた。シリカは赤髪の女性との会話からは浮かない顔をしていたが、レストランに来てからは表情が一変した。

 料理は人を笑顔にする力があるのだ。それは僕もそのとおりだと思う。

 シリカがNPCにチーズケーキを二つ頼むと、程なくしてウエイターがチーズケーキを届けに来た。この世界のレストランはどこも料理が届くのが早い。

 

「う~ん! やっぱり美味しいですよ!」

 

 早く食べてみてください、とシリカは零れ落ちそうな頬を抑えながら言った。それほど美味しいのだろうか。僕は期待して渡されたフォークを持つと、ケーキを小さく切って口に含んだ。

 

「あ……美味しい」

 

 思わず声が零れた。でも、何かが違う。本当のチーズケーキはもっと甘く、それでいて甘過ぎはしない。濃厚なチーズが舌の上で主張するが、しつこくはなくすーっと溶けていく。

 だから、これはチーズケーキを模した何かだ。僕はそう決定づけた。そんなことはつゆ知らず、シリカはですよね、と笑顔で言った。

 

「ちょっと待ってて」

 

 そう言って僕は席を立った。シリカは不思議そうな顔をして僕を見送っていた。

 作ってみたくなったのだ。これの何が違うのかなんてことは、それは今このチーズケーキもどきを食べてよくわかった。それならば、僕なら作れるはずだ。

 

 それから数分後。それほど経たずしてシリカのところまで戻った。どうしたのかをシリカに尋ねられたが僕は思わせぶりに内緒だと答えてみた。それから数秒経って僕達のところに料理が届いた。

 

「え?」

 

 それは先程と同じくチーズケーキだった。驚いて首をかしげるシリカを見て声に出さず笑って、言った。

 

「ちょっと食べてみてよ」

「え……これをですか?」

 

 さっき食べたけど、と少し不満に思ったのか少し食べるのを躊躇っていたが、シリカはチーズケーキをひとすくいして、一口食べた。

 

「……!」

 

 何も言わず、シリカはそのチーズケーキを食べ続けた。僕は美味しそうに食べるシリカを、微笑みながら眺め続けた。




 チーズケーキ大好きです!

 もう少しほのぼのを続けれればと考えています。少なくとも次はまったりしてるのでご安心を。
 レイン君はシリカさんと仲よさげですけど、その後はどうなっていくんですかね。そこのところは作者もまだ知りません。
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