「ボウケンシャスレイヤー」
タダオーン!好評連載中!
「囲め!前衛はとにかく囲んで棒で叩け!まだ魔法を使用できる者はとにかく弾幕を張れ!奴を近付けるな!」
ウシミツアワー、エ・ランテル近郊。普段は何の変てつも無い緑の絨毯が広がる草原は、今宵熾烈なイクサの開始点と化す!
囲む側はスレイン法国の誇る精鋭、風花聖典の反逆者追討部隊。
囲まれているのは一人。しかも、軽装の女戦士だ。ビキニめいた鎧で豊満なバストとスラリとした魅力的肢体を見せつけている。彼女はクレマンティーヌ。スレイン法国の最精鋭部隊、漆黒聖典第9席次だった女で、今は人類の敵と言っても過言ではない存在だ。
彼女は既に出奔する際に、叡者の額冠を奪い巫女姫を発狂させた他、100名を優に越える神殿のバトルボンズ達を皆殺しにしている。
また、エ・ランテルまでの道すがら、行き掛けの駄賃とでも言うつもりかスレイン法国の一般市民や治安部隊の人間を数多く手に掛けていた。彼女のキルレートは300を越えていた。クレマンティーヌが爆発させた殺人衝動と拷問欲求は、法国に凄まじい被害を与えた。
スレイン法国が打撃を受けるということは、人類の生存圏維持という崇高な使命に何らかの不都合が生じることに繋がる。即ち、クレマンティーヌは人類全体の裏切り者であり、かのズーラーノーン・テツオに匹敵するパブリックエネミーなのだ。
「んふふー あんたらサンシタがいくら居たってぇ、このクレマンティーヌ様に敵うわけないじゃあん?お分かりー?」
撃ちかけられる魔法を避け、時には風花聖典隊員の死体を盾に、次々と魔法詠唱者を殺戮していく。
二刀のスティレットが閃けば、次の瞬間には一人は喉元を貫かれ倒れている。クレマンティーヌ追討部隊は半ば恐慌状態に陥っていた。
魔法詠唱者を守るべき前衛はクレマンティーヌと一合も切り結ぶ前に殺され、或いはそもそもクレマンティーヌの速度についていくことすら出来ないのだ。風花聖典の戦線は崩壊していた。
「〈流水加速〉〈超回避〉〈四光刺突〉イヤーッ!」
ぬるぬると低空を這うように進むクレマンティーヌを狙い撃つことは極めて難しい。ホノオ・ノ・アメを唱えようとした魔法詠唱者は正中線に四つの大穴をあけられ、絶命した。
(バカな...我々は風花聖典の中でも選りすぐりの20人だぞ!?奴はニンジャか!?)
「ほらほらほらほらァ!あんたらの生命線、魔法詠唱者の皆が死んじゃうよー?いいんでちゅかー?」
前衛の喉元をスティレットが貫通!同時に二人も!
「マジックアロー!マジックアロー!マジックアロー!マジックアロー!イヤーッ!」
マジックアローを24本、6本一組にして立て続けに打ち出す。追討部隊の隊長は熟練の魔法詠唱者だった。当たればただでは済まない威力のマジックアロー!
だが、当たらない。
「〈能力向上〉〈流水加速〉イヤーッ!」
あぁ、また前衛の隊員が二人倒れた!最早クレマンティーヌ追討部隊は隊長を含めて数人という有り様だった。
「ホノオ・ノ・アメ!」
「マジックアロー!」
「バインド!マジックアロー!」
一糸乱れぬ集中砲火だが、クレマンティーヌは温存していたスティレットの蓄積魔法を使用!僅かに傷を負うも、その殆どを相殺!そして最後の前衛を刺殺し、盾にする。ゴ、ゴウランガ!CLEMENTEIN!
「あ、あぁ、ぁぁぁ嫌だ!死にたくない!死にたくない!」
魔法詠唱者の隊員達は、時間稼ぎにすらならずに打ち倒されていた。残すは隊長のみだ。
「あれあれー?最初の威勢はどこにいっちゃったのかなー?」
クレマンティーヌが一歩進む。隊長が後ずさり、何の窪みも無い場所で転倒し、それでも後ずさる。クレマンティーヌがゆっくりと一歩分の間合いを詰める。
「ひぃっ...!?来るなっ、来るなぁぁぁ!」
既に追う側と追われる側は逆転していた。
「んふふー あのね神様は居ないの。あなたは私に拷問されて無惨に死ぬ。ちょっとずつ顔の皮を剥ぐんだぁー いいでしょ?」
良いわけがない。腰が抜けて立てない男がひたすら後ずさる。
「イヤーッ!」「グワッー!」
クレマンティーヌは待ちきれないとばかりにスティレットを男の右足に突き刺し、地面に縫い止めた。
「イヤーッ!」「グワッー!」
クレマンティーヌは最早辛抱ならないとばかりにスティレットを男の左足に突き刺し、地面に縫い止めた。
「奇跡も魔法も、無いんだよー」
「いや、あるね」
その時、隊長の男がもつトンファーから眩い光が!これは一体!?そして今までの醜態は演技だったのだろうか。いや、彼はいざというときには自爆覚悟で魔法武器の蓄積魔法を使用するよう自己暗示を掛けていたのだ!
「ナンオラー!」
「アバヨ、裏切り者!地獄で会おうぜ!」
トンファーに込められた魔法は龍雷、それも使用すればトンファーが自壊するような最大強化された龍雷だ。そして、魔法の込められたトンファーが二本!これはクレマンティーヌをも殺し得る威力!
「離せ!離せ!ザッケンナコラー!」
「死ね!クレマンティーヌ=サン死ね!」
顔を近付けて煽っていたクレマンティーヌは、死を覚悟した男のヤバレカバレの筋力で捕らえられていた。勿論、あと5秒も有れば振りほどけるだろうが、魔法の発動にはそれで十分足りるのだ!インガオホー!
二つの龍雷が男とクレマンティーヌを貫き、焼き焦がす!
「ンアーッ!ンアーッ!アババババーッ!?」
「アバーッ!?」
凄まじい土煙が上がり、二つの死体を覆い隠す。
土煙の中、男は肉が焦げる強烈な臭いを嗅ぎ、最早嗅覚が在るかも分からないが、ニヤリと笑った。本国の腕利きの魔法詠唱者達が、完璧なトランス状態によって連携して詠唱し封じ込めた高位魔法は裏切り者を仕留めたようだった。男は自分と部下たちの挙げた成果に満足し、逝った。
クレマンティーヌを龍雷が貫いた瞬間、彼女が感じたのは痛みではなく激しい怒りだった。
(私はクレマンティーヌ様だぞ!こんな、こんなファッキンサンシタ野郎と相討ちになって良いわけがないッ!私は!クレマンティーヌだ!)
その時、彼女は生死の狭間で遥か上空に浮かぶ黄金立方体を見た。オヒガンの向こうから、何か強大な存在が彼女を見ているのが分かる。クレマンティーヌは激しく怒り狂った。
(何見てやがるッコラー!ザッケンナ、ザッケンナ、ザッケンナコラー!)
突如としてクレマンティーヌを襲う浮遊感。だが不快な感覚ではなかった。クレマンティーヌは怒りを湛えたまま、全身の力を抜き浮遊感に身を任せた。彼女ほどの戦士になると感情と肉体の連動を制御するのは容易だ。
そして気が付いた時には、彼女だけが草原に立っていた。彼女は勝利者だった。無惨な黒焦げ死体は、彼女に逆らった者の末路だった。
その時クレマンティーヌは自分がニンジャになったことを確信した。そして自分を評価しなかった世界に、自分を愛さなかった世界にアイサツを決めた!
「HELL-O、皆さん。コロス・ニンジャです。私は私がそうしたい時に、皆さんを無惨に殺戮します。拒否権はありません。投降も受け付けていません。刮目しろ!私を見ろ!私こそがニンジャだ!私こそクレマンティーヌだ!CLEMENTEIN!」
礼節!だが、おぉ、見よ!その瞳は嘲弄の色を宿し、その口元は無能者を嘲笑う形に歪んでいる。この時、クレマンティーヌの世界は二つに別たれた。即ち、ニンジャ(自分)か非ニンジャの屑かである。英雄級のカラテを持つ戦士が、パブリックエネミー存在として位階を上げた結果、彼女はリアルニンジャへと変貌したのだ。
今のこの世界に彼女を止められる者は存在しなかった。
「先ずはカラテだ。ズーラーノーンでカラテ鍛練を積み、その後に逆襲だ。法国の人間は皆殺しにして神器は奪う」
彼女は一山幾らのニンジャソウル憑依者ではない。よって万能感に酔うこともない。そこには冷徹な戦士の状況判断があった。
「素晴らしいワザマエだったな。クレマンティーヌ=サン?」
「デバガメだなんてエッチ!変態!スケベ!」
一瞬にして邪悪な忍者の表情は鳴りを潜め、短距離転移を行使して現れた魔法詠唱者を出迎えた。彼は革命的秘密結社<イッキ・ズーラーノーン・ウチコワシ>の幹部、十二高弟の一人、カジットである。
「ふふふ・・・まあそう言うな。同志クレマンティーヌ=サン。我らズーラーノーンはオヌシを歓迎する。ワシの手に掴まるが良かろう。オヌシをアジトに案内する」
「はーい、出迎えお疲れちゃーん」
クレマンティーヌがカジットの腕を掴むと、二人の姿は忽然として消えた。そして風花聖典の者たちの死体もまた同じく。彼らの死体はカジットの邪悪なるネクロマンシーで、邪悪なる企みに利用される運命にあった。ナムアミダブツ!
エ・ランテル地下、イッキ・ズーラーノーン・ウチコワシ訓練ベース。
「革命!」
「闘争!」
「前進!」
「イヤヤヤヤーッ!」
ハンマーや鎌を手にクレマンティーヌへと襲い掛かったズーラーノーン戦闘員達は、瞬く間にクレマンティーヌの放った攻防一体のメイアルーアジコンパッソめいた回し蹴りを受けて吹き飛ばされた。
「そこまで!如何だろうか同志諸君。これが同志クレマンティーヌ=サンの実力だ。皆も知っての通り、クレマンティーヌ=サンと闘った彼らは特に戦闘に長けた革命闘士達だ。その革命闘士達をベイビー・サブミッションの如く制圧する同志クレマンティーヌ=サンは、我が組織の指導局たる十二高弟に迎え入れるに足る実力の持ち主!私はそう考え、彼女を推薦する!どうだろうか!」
「承認!」
「承認!」
「承認!」
「承認!」
「承認!」
「承認!」
「承認!」
「承認!」
「承認!」
「承認!」
「承認!」
「承認!」
翻る赤いノボリ!威圧的文言!〈一揆打壊〉〈共産主義革命だ〉〈市民連帯感〉〈前進〉〈闘争〉〈総括〉〈貴族は自己批判重点〉〈決断的赤色テロル〉などの文言がショドーされたノボリが見守る中、〈イッキ・ズーラーノーン・ウチコワシ〉エ・ランテル支部書記長にして指導局委員十二高弟カジットの提案は承認された。
鉄兜にゴーグル、フロシキで口元を隠し、メイスやモロトフ・カクテル、もしくは魔法発動体の杖などで武装した〈イッキ・ズーラーノーン・ウチコワシ〉構成員たちが並び、承認の声を上げる。
壁には極めて邪悪な掛け軸!〈ハラハラ時計〉〈球根栽培法〉などの革命的かつ戦闘的ショドーがされている!
「いつもこんなことやってるのー?大袈裟なんだからぁ」
「まぁ、そう言うな。エ・ランテル滞在中は同志達にカラテ鍛練でも施してやってくれ。ワシは儀式で忙しくしているでな...それなりに自由にやってくれて構わん」
クレマンティーヌはあの特徴的嘲るような笑いを浮かべると、頷いた。
「カジッチャン話が分かるねー 程好く遊んだりトレーニングしてる事にするよ。でもまぁ、ただのモータルじゃあ殺しても満足出来なくなっちゃったしぃ?あんまり手間は掛けないよー」
「意外だな」
カジットは目を丸くして、心底意外だという表情をした。
「んふふ、心境の変化ってやつですかねー詳しくはナイショ」
そういうとクレマンティーヌは、構成員に案内させ、与えられた自室へと去っていった。
「惜しいな...同志にして導師たるズーラーノーン・テツオの思想に触れ、より深く理解すれば良い革命闘士になるだろうに。だがクレマンティーヌ=サンが同志達の戦闘訓練を担当してくれれば、戦力向上は間違いない、か...それ自体は嬉しいことだ」
カジットに対して言ったことは嘘ではない、が本当の心情を伝えたわけではなかった。
確かに今は手当たり次第に殺したい、拷問したいという衝動はおさまっていた。しかし、クレマンティーヌの心の中のジンジャ・テンプルでは怒りの炎が今もまだ、いやニンジャになる前よりも激しく燃えている。
自分を認めない兄への怒り、自分を認めない両親への怒り、自分を認めない祖国への怒り、自分を認めない世界への怒り。
要は彼女はグルメになったのだ。最早獲物を選り好みしないと満足出来ないのだ。クレマンティーヌを内側から焦がす炎は、より激しい抵抗を制圧し蹂躙する事を、そして瑞々しい鮮度の恐怖を求めていた。ただの一般人では、殺しても殺し甲斐がなく、彼女の渇きは癒されないのだ。
「イヤーッ!」
クレマンティーヌが怒りのままに振るったチョップ突きは、固い岩盤の壁をバターのように貫き、抉った。
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
一週間後、地下訓練ベース。クレマンティーヌは工作部門構成員に製作させた木人にコッポ・コンビネーションを叩き込んでいた。ジンチュウ、アゴ、無防備股関への流れるような連続攻撃。漆黒聖典の者は誰でもある程度の近接格闘術を修めているが、クレマンティーヌのコッポ・ドーはかなりのものだった。システマティックで無慈悲な殺人カラテであるコッポは、名誉と人間性を捨てねば研鑽していくことが難しいとされている。
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
怒りの掌打!木人が半ばよりへし折れ、吹き飛ぶ!
「鍛練にも精が出るな、同志クレマンティーヌ=サン」
「カジッチャンかー」
「ンフィーレア・バレアレがエ・ランテルに帰ってきたそうだ。同志から報告が有った」
万感の思いを込めて、カジットは言葉を発した。
「へぇ、出番?」
「そうだ。ンフィーレア・バレアレを拉致し、アンデス・アーミーを発動、オヌシはワシの護衛を頼む。革命の為にも、ワシの望みのためにも冒険者だの何だのに邪魔はさせん」
「待ってましたー んふふ、どんなのと戦えるか楽しみだなぁ」
クレマンティーヌは舌なめずりをした。死の祭典が始まるのだ。
次回はモモン一行の話に戻ります。ちょっとオバロというか、ユグドラシルの設定資料集みたいなの有ったら購入したい気分ですね。