「〈獄炎〉イヤーッ!...完璧だ!」
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの効果によって強化された地獄の炎が、藁人形を一片も残さず消滅させる。
(これで魔法は使えることが分かった...そしてアウラとマーレへの実力アッピールも問題無いだろう)
「おおーっ!流石ですモモンガ様!まだ藁人形はご利用になられますか?」
「いや、それには及ばない」
「〈伝言〉......セバス、聞こえるか?」
「これはモモンガ様、いかがいたしましたか」
セバスには〈伝言〉が通じたことで若干安心したモモンガだったが、問題は他のギルドメンバーの反応が無かったことだ。ナム妄想のサワタリは仕方ないのでともかくとしても、他のメンバーから反応が無いとなると、やはり寂しく思わずにはいられない。
これでもしも自分一人だけだったらと考えると、背筋に名状しがたい悪寒が走った。
(想像するだに恐ろしいな。本当に一人じゃなくて良かった...)
「周囲の様子はどうだ?」
「全く見渡す限りの草原です」
「沼地ではなく、草原なのか?」
「はい。はっ...フォレスト様が写真を撮影したので後程それを御覧にいれる、と仰せです」
(となるとここはユグドラシルのゲーム内ですらないのか?幸いフォレスト=サンが写真を撮ったというんだから、それを見てから判断しよう)
「さて、次だ。〈召喚〉!」
モモンガの号令と共に、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンからレベル80相当の火精霊が出現する。どうやら魔法周りについては完全に使用することが可能のようだった。
「アウラ、マーレ、良かったらこいつと戦ってみないか?」
どことなく悪戯っぽいアトモスフィアを漂わせながらモモンガが問うと、アウラが喜色満面でこれに応えた。
「ハイヨロコンデー!」
一方弟のマーレ、実際太股部分を核心とする絶対領域が瑞々しいが、弟、男の娘というジャンルのキャラクターだが、マーレは乗り気ではないようだ。
「僕はちょっと遠慮させ「いいから早くこっち来て戦うの!早く!」そんなぁ~」
姉に襟を掴まれて引き摺られていく、実際カワイイな光景が展開された。
カワイイな姉弟であったが、戦いぶりについてはレベル差も相まって火精霊を相手に危なげ無い戦いを展開し、順当に大きなダメージを負うこともなく勝利した。
「二人とも見事であったぞ。」
水差しから注いだ冷水を二人に渡し、戦いぶりを褒めるモモンガだったが、ここで新たな事実が判明する。
「こんなに激しく動いたのは久しぶりなので楽しかったです!...あ、でもまたフォレスト・サワタリ様に模擬戦に付き合って頂けたらなぁ~」
(そういえば茶釜=サンに頼まれて、よくフォレスト=サンが戦闘時のAI組むためのアグレッサー引き受けてたっけ...)
(ということは、NPCはゲーム時代の事を覚えているのか?)
「お前達はフォレスト=サンが模擬戦の相手をしてくれていた事を覚えているのか?」
反応は激烈だった。
「あったりまえですよ!その時はまだ至高の御方ではありませんでしたが、それでもぶくぶく茶釜様の御友人!その上、たっち・みー様に引けをとらない戦士である御方から教えを頂いておいて、覚えていなかったりしたら恩知らずの極みです!」
「そ、そうか。そうだな。マーレも同じか?」
「は、はいモモンガ様。僕もお姉ちゃんと一緒にぶくぶく茶釜様の見ている前で、ご指導頂きました。」
「なるほど。よくわかった、二人ともありがとう。模擬戦については私からフォレスト=サンに伝えておこう」
「本当ですかっ?ありがとうございます、モモンガ様...ってことはフォレスト・サワタリ様御帰還ヤッター!ぶいっ!」
「ええっ!フォレスト・サワタリ様がお戻りなんですか!?良かったね、お姉ちゃん!」
「ヤッター!ヤッター!」
(これでNPCがゲーム中のことを覚えているということがハッキリしたな。そして、PvPについてユグドラシル中で三本の指に入る強さであるたっち=サンと比べて、十本の指には入るがたっち=サンには敵わないと自認していたフォレスト=サンの強さをアウラは引けをとらないと評した。こういった細かいところからNPC達の認識を知らなくては)
「あら、わたくしが一番でありんすか?」
血に狂う美少女真祖吸血鬼、第一~第三階層守護者シャルティアのエントリーだ!
「なんだか焦げ臭いでありんすねぇ...あぁら我が君、我が愛しの君。ご機嫌麗しゅう存じんす...」
瞬時に間合いをつめると、モモンガに熱烈なハグ!胸にも何かがつまっている!胸が異様だ!
「...偽乳」
アウラが鋭い一言を呟く!まるで切れたナイフだ!
「テメッコラ、アウラテメッコラー!モモンガ様の御前で何てことオラーッアリンス!」
コワイ!オイラン・ヤクザスラングだ!
「何よ変な盛り方しちゃってさ!一目瞭然でしょー?」
ヤナギめいて受け流すアウラにシャルティアは更なるヤクザスラングを繰り出す!
「ダマッコラーチビスケ!あんたなんか無乳でしょ!」
「私は将来性バツグンだもんね~、それにフォレスト・サワタリ様も酔ってらっしゃった時に金髪エルフ元気娘と激しく前後したいっておっしゃったもんね!どちらが優れてるかは明白でしょ!」
(おいおい、それリアルが忘年会だった日にフォレスト=サンが酔っ払ったままログインしてきて女性陣にボコボコにされたインシデントだろォ!?そんな事も覚えてるのかよ!)
「アンデッドは実際ノーフューチャーだもんね~?本当大変、満足することを覚えたら如何であ・り・ん・す?」
「ザッケンナコラ、チビスケッコラー!待てコラー!」
「走ると胸が行方不明になっちゃうよ~?」
「んのぉ!?」
「サワガシイ!御方ノ前デ遊ビスギダゾ...失礼デアロウ」
第五階層守護者、甲冑めいた蟲王にして、氷河の支配者コキュートスのエントリーだ!
「このチビスケが!」「実際パッド重点な!」
シャルティアとアウラの掛け合いはモモンガにペロロンチーノとぶくぶく茶釜のやり取りを思い出させ、実際微笑ましかったが、話が進まなくなると困るのでコキュートスの登場はモモンガにとって良いタイミングであった。
「やれやれ、皆、揃っているようですね。モモンガ様、御待たせして申し訳ありません」
第七階層守護者、炎獄の造物主デミウルゴスと守護者統括アルベドのエントリーだ!
「良い、許す」
「では、モモンガ様。フォレスト・サワタリ様がお戻りになられましたら忠誠の儀を執り行いたいと存じますが、よろしいでしょうか?」
アルベドの発言にモモンガが頷きを返す。すると丁度良くセバスを連れたフォレストが、円形闘技場に姿を見せた。
「アイエッ!?フォレスト・サワタリ様御帰還ヤッター!」
「ヤッター!ヤッター!」「お姉ちゃん良かったね!えと、僕も嬉しいです!ヤッター!」
「オオォ...ナント慈悲深キ至高ノ御方、ヤハリ我ラヲオ見捨テニナッタワケデハナカッタノダナ...ウオォォ!」
「アルベドっ!?貴女はこの事を知っていて黙っていたのですか!フォレスト・サワタリ様の御帰還という一大事を!?」
「モモンガ様のご意志よ、デミウルゴス」
(え、俺?)
「モモンガ様の...なるほど、そういう事ですか。」
(どういう事?俺にも教えてくれデミウルゴス!)
「フォレスト・サワタリ様の御帰還を全ナザリックに知らしめる第一歩として、先ずは我らを集め、その忠誠を確認した上で、モモンガ様が懐刀たるフォレスト・サワタリ様を迎え入れ、このナザリックに支配者として今までよりも一層強大に君臨なさることを宣言なさるおつもりだったのですね!」
(アイエ!?支配者ロール強制重点な!)
「うむ、流石二人は私の考えを正確に読み取ってくれるか。私は嬉しく思うぞ。」
「勿体無き御言葉にございます」
「愛しい御方の思いに添えるよう、今後も精進いたします」
「うむ。では、皆、フォレスト=サンの帰還が嬉しいのは分かるが静粛にな。今からフォレスト=サンの帰還の挨拶の後、セバスが地上偵察の結果を話す。フォレスト=サン、頼む」
(よし、これで一旦はフォレスト=サンに注目が移るぞ...ガンバロ!)
「ドーモ、ナザリックの皆さん。アインズ・ウール・ゴウンのフォレスト・サワタリです!実際ご無沙汰しています!」
サワタリが自身の口で自分の所属をはっきりと口にしたことで、守護者達は涙をこらえることが出来なくなった。
自分たちは見捨てられた訳ではなかった。モモンガ様と志を同じくするあの御方が我らを見捨てるはずもなかった。最後まで残ってくださった、仕える喜びを与えて下さった御二人に深き海より深く、どのような霊峰よりも高い忠誠を捧げよう!至高の中の至高の御方々に忠誠を!アインズ・ウール・ゴウン万歳!
ナムアミダブツ!しゃくりあげる音が、守護者達の純粋な忠誠心がサワタリを追いつめ、ナム妄想に追い込む!
ここは地獄のナムの前線基地。比較的安全とはいえ、いつベトコンの自爆攻撃があってもおかしくはない場所だ。
モモンガ連隊長が目線でサワタリに発言を促す。連隊長に敬礼、そして正面に敬礼。その後ろ姿をセバスはじっと見ている。
「全体気を付けェッ!休め!」
サワタリの発する大音声が闘技場全体に響き渡り、守護者達は弾かれたように頭を上げ背筋を正し、サワタリを見詰める。ついでにモモンガも弾かれたように頭を上げ背筋を正し、サワタリを見詰める。一目でナム妄想に囚われているのが分かるので気が気ではない!
「諸君!私とモモンガ=サンの何よりの宝であり、我々42人の想いの結晶たる諸君!我々はこれから、モモンガ=サンの下に一丸となって大事にあたらねばならない。
であるのにも関わらずッ!その腑抜けたツラは何だァッ!
良いか、俺と肩を並べる戦士たる諸君は!自信に満ちた不敵な面構えでなくてはならない!
自分に自信を持て!かくあれと創られた自分と忠義に自信を持て!俺とモモンガ=サンはお前達の全てを許そう!
そして、俺の帰還等という些事に涙を流すのではなく!
アインズ・ウール・ゴウンの栄光をかけて挑むに値する大事に!不敵に笑いかけようではないか!そして再び共に戦おう!」
もはや号泣し、叫びを上げることを耐えていない者はいない!モモンガなど三回はひかっている!そして誰もが号泣しながらも、下唇を噛み締めながらも前を向いてフォレストを見ている。フォレストの話を聴き、至高の42人の櫛の歯が欠けたような状況に対して、弱気になり惰弱になっていた自身を見出だしていた。
モモンガは実際のところ不安に思っていた。自分は現実に戻る価値を見出だせない人間だが、フォレスト・サワタリという男は違うのではないか?
この人は、この男は、いや、この男もまた、皆のように現実に戻るために自分のもとから、ナザリックのもとから去っていってしまうのではないか?
だってフォレスト=サンのニンジャ野伏力があれば一人でもやっていけるんじゃないか。そしたら現実に戻るためにナザリックを離れて二度と戻ってこないんじゃないか。フォレスト=サンにはそれを成し遂げる力が在るんだから。
それにフォレスト=サンは仮にもヨロシサン。メガコーポのサラリマンならリアルに立場も地位も在るだろう。
だって皆リアルが在るんだもの。仕方ない。仕方ない。仕方ない。仕方...ないわけあるかスッゾコラー!
皆で作ったナザリックだろ?簡単に捨てないでくれよ!ここにいてくれよ!また冒険しよう!楽しい思い出を作ろう!俺を一人にしないでくれよ!
そんな思いが全部吹き飛んだ。沢渡森はフォレスト・サワタリになる気でいる。狂気に身を任せても自分という友達と一蓮托生の覚悟でいるということが伝わってきたからだ。
何だかようやく頭の中の霧が晴れて、この不思議な世界での冒険を楽しめそうな、そんな気がした。
「では、まず皆様にお配りした写真を御覧ください。これはフォレスト様の撮影された御写真です。私の記憶では、ナザリック地下大墳墓は毒の沼地に囲まれていたように思います。が、現在地は草原が広がっています。」
先ほどのフォレストの話から十分が経過していた。その場の全員が落ち着き、喉の渇きを癒す時間が必要だった。
演説ぶちかましておきながら、今さら恐縮しているフォレストにモモンガは無限の水差しから水を注いで渡してやった。他の階層守護者達にもモモンガは手ずから水を注いで渡していた。
「人工的な建造物や知的生命体も見当たらなかったか?」
「はい。あ、いえモグラは...おりまして、いただきましたが、他には生物の姿も特には。」
「モッチャム!実際美味かったぞ!今度モモンガ=サンにも食べさせて...やりたかったが難しいな」
このセリフにアルベドとデミウルゴスは小さな悲鳴をあげた後、セバスの言葉の意味に気付いたのかジト目でセバスを見ている。
「そうか。しかし、写真によるならば本当に見晴らしの良い草原が見渡す限り、といった具合だな。よろしい。アルベド!」
「はっ!それでは我らが忠誠を至高の御方々に捧げます。皆、忠誠の儀を」
「第一、第二、第三階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン、御身の前に」
「第五階層守護者コキュートス、御身ノ前ニ」
「第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ、御身の前に」
「おっ、同じく第六階層守護者マーレ・ベロ・フィオーレ、御身の前に」
「第七階層守護者デミウルゴス、御身の前に...」
「守護者統括アルベド、御身の前に。第四階層守護者ガルガンチュア及び、第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者御身の前に平伏し奉る」
「御命令を、至高なる御方々。我らの忠義全てを御二人に捧げます」
「素晴らしいな...」
どうやら俺は、死の超越者になってしまったみたいだが、少なくとも一人ではないらしい。
まだコミカライズ一巻の半分もいってないぞ...