「これで画面をスクロールして、視点の変更は...こうか。よし!出来たぞ!」
「おめでとうございます、モモンガ様」
先ほどまでモモンガが、セバスの視線を気にしながらも、実際パントマイムめいた動きをしていたのはこの遠隔視の鏡を用いるためだった。
遠隔視の鏡は文字通り、自由に離れた場所の景色を見ることが出来るアイテムで、ゲーム中はともかく現状ではかなり役立つこと間違いなしなアイテムだ。
「ん、これは...祭りというには何か違うな...?」
「どうした、モモンガ=サン」
遠隔視の鏡に映るのは、兵士らしき武装した者たちが集落を襲う映像だった。狂おしいトラウマが、偽りのベトナム戦争の記憶が甦る!
「こ、これは...おのれベトコン!焦土戦に守るべき民間人まで巻き込むか!許さん!」
サワタリから自然に威圧的なオーラが溢れ出る!半神の威圧Ⅳだ!
「フォレスト=サン、落ち着くのだ!一旦落ち着け!」
(ヤバいヤバい、フォレスト=サン完全に海兵隊モードだよコレ。しかし、不思議な事に人が殺されてるのを見ても何にも感じないな)
「どういたしますか?」
「助けに行く理由も利益もあるまい。」
「畏まりました。」
セバスが一礼した瞬間!わなわなと震えていたサワタリが大音声を発した!
「誰かが!誰かが困っていたら!」
「助けるのは当たり前...たっち・みー様の御言葉ですな」
サワタリの言葉を引き継いだセバスにたっち・みーの面影が完全に重なる。
モモンガは二人を順に見ると、大きく一つ頷き、決意した。
「分かりました。行きましょう!セバス、供をせよ!」
「ヨロコンデー!」
「〈転移門〉!イヤーッ!」
「ジェロニモーッ!」
モモンガが〈転移門〉を発動させた瞬間に、サワタリが二本のマチェーテを抜刀し飛び込んでいった。すかさずモモンガとセバスもサワタリの後を追う。
「サイゴン!ホーチミン!」「アバーッ!?」「アバーッ!?」
ストライク!ポイント倍点!全身鎧の兵士二名はボーリングのピンめいて首をマチェーテに吹き飛ばされる。
サワタリがコマンドワードである武器の銘兼カラテシャウトを発すると、投擲された二刀が瞬く間に、先ほどの軌跡を逆再生するかのように手元に戻る。
「何とか間に合ったか。モモンガ=サン!民間人二名を無事確保!」
「うむ、流石は我が懐刀よ」
「お見事にございます」
フォレストに庇われるような位置に、幼女を抱きしめるようにしてうずくまるのが姉で、抱き締められている方が妹だろうか。
「さて、お前たち、傷を負っているのではないか?」
「ひっ!お姉ちゃん...!」「大丈夫よ、ネム!大丈夫!」
モモンガが比較的やさしみのある声を出すが、姉妹の間には今から死ぬかのような悲観的アトモスフィアが満ちている。
どこぞの兵士に殺されかけていたところを、傭兵か冒険者めいた男に救われたかと思いきや、骸骨のオバケが話しかけてきた。悲観的になっても仕方がないだろう。おぉ、ブッダよ!寝ているのですか!?
モモンガの問いに答えないという不敬に、温厚なセバスですら若干眉をひそめる。そこにモモンガのアイ・コンタクト・ジツだ!
(私のかわりにポーション渡してあげてください。なんかオタッシャ重点な勘違いされてますし)
(ハイヨロコンデー!)
「お前、負傷しているな?コレを飲め。これは実際俺がヒースを煎じてつくったポーションだ。傷に効く。この通り...毒ではない」
サワタリが差し出したポーションを自分で一口飲んで見せたことで、安心したのか瓶を受け取り、姉と思わしき少女は一気に飲み干した。
「スゴイ...」「お姉ちゃん治ったの?ヤッター!」
「傷は治ったようだな。では、〈生命拒否の繭〉!イヤーッ!」
モモンガは姉妹の周囲に生物侵入拒否の結界をはりおえると角笛を投げ渡し、告げた。
「そこに居れば大抵は安全だ。村人か私達のうちの誰かが迎えに来ない限り、そこから出ないことだな。ついでにその笛を吹けば小鬼の軍勢が守ってくれる、いいね?」
「アッハイ...あの、あなた方は一体?」
サワタリとモモンガは一瞬顔を見合わせ、お互いに頷いた。そしてサワタリとセバスが神妙な顔付きになるなか、モモンガは誇り高く名乗った!彼らのギルドの名を!
「よろしい、我々こそアインズ・ウール・ゴウン!覚えておくがいい!」
「アインズ・ウール・ゴウン...あ、あの、助けていただいてありがとうございました!本当にありがとうございました!」「ありがとうございました!」
「良い、気にするな」
サワタリが二刀のマチェーテ〈サイゴン〉〈ホーチミン〉を構えながら前進していく。その後ろにはモモンガが続き、殿はセバスだ。実際これは磐石なる陣形である。サワタリかセバスが時間を稼ぐ間に、シンゾウ・ニギリを仕掛ける算段になっている。モモンガは密かにこの陣形を、ハートブレイク・スゴイヤミ・スティレットと名付けた。そして、なんかやみの魔法詠唱者っぽい仮面を取り出しつけた。おぉ、なんという邪悪なデザインだろうか!嫉妬に狂う人間の表情めいている!これではどのみち一般人は失禁するだろう!ナムサン!
「サイゴン!ホーチミン!サイゴン!ホーチミン!」
スススストライク!ポイントが倍点!3倍点!4倍点だ!投擲されたマチェーテが精確に首だけをピンめいて弾き飛ばされ、敵戦力は恐慌状態だ!これではシンゾウ・ニギリをしかける必要もないぞ!?モモンガは肩透かしを食らった気分だった。
「ベトコンどもが!民間人は撃てても、この俺は撃てないか!俺は元第10山岳師団だ!俺は何をするか分からないぞ!」
(え?元海兵隊じゃないの?設定日替わりナンデ!?)
(なるほど、フォレスト様は元々軍人だということは存じておりましたが。それも山岳師団となれば人間の中でも精鋭のはず、そこでレンジャー技能を磨かれたのですね)
欺瞞!実際には院卒四年目のヨロシサン末端研究員だ!
「アイエェェ!?アイエェェ!?死にたくない!死にたくない!」
最早、敵の兵士達は腰が引けている!
「ドーモ、はじめまして。我々はアインズ・ウール・ゴウンです。」
「アイエェェ!アイエェェ!?」
ナムサン!話を聞いていない!しかも失禁している!NRS(ニンジャ・リアリティ・ショック)だ!
「話をきけい!我々はアインズ・ウール・ゴウン!諸君の飼い主に伝えろ。この辺りで再び騒ぐようなら今度は、貴様らを皆ネギトロに変える...とな」
「アイエェェ!?ヨロコンデー!」
兵士達は一様に失禁しながら駆け出していった。全身鎧で分からないが、まず間違いなく激しく失禁しているだろう。
モモンガが兵士を追い散らしている間に、サワタリが無事の村民を引き連れて戻ってきた。サワタリは既にマチェーテを鞘に戻し、肩にタケヤリ〈ディエンビエンフー〉を担いでいる。が、タケヤリの先端が異様だ!メザシめいて、一見して他の兵士よりも地位が高いと見られる男の頭蓋骨を貫通し、ぶら下げている!ちなみに彼のハイク(辞世の句)は 「オカネ、オカネ、実際オカネ」だった。そんなに金が大事だったのだろうか。そんなに言うほどお金があるならそれを使って、オークションで神器級アイテムでも落札しとけばよかったのに。ナム妄想で混濁した意識の中、サワタリは訝しんだ。
「モモンガ=サン、明日の朝ごはんにどうだろう」
「メザシのつもりか?悪趣味なことだな」
(あ、お目目がぐるぐるしてる。狂気だ)
「べトコンどもは片付いた。彼はこの村の村長だそうだ」
血濡れのサワタリに促され、年嵩の男が前に出た。
「この村を助けていただき、まことにありがとうございます!私がこのカルネ村の村長でございます。どうか御三方にお礼をさせてください!」
「フフ・・・何、私はこの通りの魔法詠唱者だ。自身の研鑽の結果を試してみたくなったまでよ。このようにな!<中位アンデッド作製・デスナイト>イヤーッ!・・・ああ、小銭がもらえればなお良いのだがな」
黒々としたコールタールめいた闇が、サワタリの放り出した頭蓋骨貫通死体にまとわりつき、飲み込んでいく。
(スゴイ!死体に乗り移っているぞ!)
出来のいいホラームービーを見たときの視聴者めいて盛り上がるモモンガ!だが当然のようにひかる!沈静化!
(えー)
しかしその間にデスナイトは姿を現している。ユグドラシルでは見慣れた姿とはいえ、現実になった今はかなりの威圧感を放っていた。漆黒の禍々しい意匠の鎧兜にフランベルジュ・ケンとタワーシールドを備えた威容である!ボロボロのマントには<死の騎士だ><恐れを知らない>などのショドーが威圧的なフォントで描かれている。
「小銭などと仰らずに、カルネ村をあげて出来る限りのお礼をさせていただきます!」
「実際奥ゆかしいことだな、村長。では、お言葉に甘えてセッタイしてもらうとしようか・・・」
「ハイヨロコンデー!」
(デスナイトを従え、実際ヤバイ級戦士存在なフォレスト=サンとセバスを従えているように見える俺は、キョートの元老めいてもてなされた。だが、本当にほしいのは情報だ)
朴訥な村長夫妻は三人のナザリック者を心を込めてもてなした。サワタリの強さについては村長夫妻も直に目にしているため、警戒のため(ニンジャ知覚力で地面の振動を捉え、接近する存在を確認すつのだ)モモンガの背後に立つ二人はどちらも凄腕の戦士で、この貴族めいて世俗のことを知らない魔法詠唱者の護衛なのだと思われ、丁重に扱われた。
実際この朴訥な村長夫妻は、この三人のナザリック者が遠い異国の地から転移魔法の実験の結果転移してきたという、モモンガが話した事情を心から信じ込んでいる。欺瞞!
夫妻はモモンガ達に知る限りのことを話した。先ず、ユグドラシルの通貨は流通していないこと、そして周辺の地理について。このカルネ村とナザリックが転移してきたあたりは、リ・エスティーゼ王国という国の領土らしい。また、王国は巨大な山脈を挟んで反対側にあるバハルス帝国と対立しているらしい。加えていうならば、毎年のように国境付近の城塞都市エ・ランテル近くの平野で争っているとのことだった。さらにその二国の南方には、スレイン法国という宗教国家も存在するそうだ。
村長によると、カルネ村を襲った兵士たちの盾や甲冑にはバハルス帝国の紋章が刻印されていたため、カルネ村を襲ったのは帝国の騎士たちということになるとか。確かに少数の部隊が防御線を突破し、浸透して後方の村を襲う。べトコン共ならば容易いことだろう、とサワタリは首肯した。
「村長殿、他にはなにかあるかな」
「はい、村からもっとも近い都市がこのエ・ランテルになります。街道をまっすぐに行けば迷うことはないかと思いますが、道中オークやゴブリン、オーガなどがでるやも。御三方には無用の心配でしょうが・・・それとエ・ランテルには魔物退治等を生業とする冒険者達の組合などもございます。」
「ほう・・・それは面白い。貴重な情報感謝するぞ」
モモンガとサワタリ、そしてセバスは現在、カルネ村の墓地で行われている葬儀の様子を眺めていた。もちろんワンド・オブ・リザレクションはある。だが、まだまだ未知の世界を前にして死者蘇生を行うのは躊躇われた。そしてもっとモモンガを憂鬱な気分にさせたのはアルベドの取り乱しようだった。
状況終了後、ある種の酔いから覚めたモモンガがアルベドに<伝言>を繋ぐと、セバスを連れていたとはいえ突如として消えたモモンガをどれほど心配していたかということを、千の言葉をもって説かれた。純粋な忠誠、愛情はモモンガとしても嬉しかったが、実際かなり息苦しいのも確かだった。現在アルベドは透明化のできるシモベを連れ、完全武装の状態でカルネ村付近に待機しているという。今後はアルベドにも一報入れることを約束し、頼りにしているとの言葉を添えて即座に帰還させた。実際サラリマン時代の経験が生きていた。一言添える、これが重要だ。
(冒険者か・・・フォレスト=サンとなら冒険タノシイヤッターだろうけど、守護者たちが許してくれるかな)
「モモンガ=サン、厄介なことになったぞ」
狂気から覚め、先ほどから一言も発さずにいたサワタリが不意に口を開いた。
「どうした、フォレスト=サン」
「騎乗しているであろう戦士存在が30やそこら接近している。間違いなく狙いはこの村だろうな」
「増援か?」
「いや、わからん。だが生き残りの村人を村長の家にでも集めて戦いに備えねば。セバス!」
「はっ!」
「今の話を村長に伝え、村人を村長の家に誘導しろ。俺とモモンガ=サンとセバスがいれば村長ぐらいは守れるだろうから、交渉役に村長を広場に寄こせ」
「ヨロコンデー!」
セバスが走り去ると、モモンガが額を手で押さえる。やっかいなことになった。
「フォレスト=サン、俺、本格的に人じゃなくなっちゃったみたいです。あんなネギトロみたら普通は嘔吐するだろうに、何も感じないんです。NPCの忠誠も重いし、このまま、この世界でやってけるんでしょうか・・・」
「一人だったらヤバイことも、二人いれば実際何とかなります。人じゃないのは俺も同じです。モータルを何人ネギトロにしようと後悔も憐憫もない。邪悪ですね。だが、今日の殺しはナザリックと俺たちに必要な殺しだった、でしょう?たっち=サンの思いを果たし、情報も手に入れた。かなりの成果です。だからコレが終わったら、フロに入ったりフートンで憩いましょう。そして冒険の相談をしましょう!ダイジョブダッテ!」
「ははは、そっか・・・そうですね。たっち=サンから受けた恩も返せたし、情報も手に入った。冒険もある。頼りにしてますよフォレスト=サン」
サワタリは大きくうなずくと、モモンガと連れ立って村の広場へと歩き出す。これが異世界における、アインズ・ウール・ゴウンの刻む一歩目であった。
ヒロインが足りない・・・