現実充実勢
「どうしようどうしよう!」
このままだと京ちゃんの家に行くのが遅れちゃう! 目覚まし時計は確かにセットしたはずなのに……。
現在時刻は11時55分、京ちゃんの家に到着する予定だった時刻は正午。ちなみに起床時刻は11時45分。お昼ご飯を食べる時間も無いよぅ……
「お、おしゃれして行かなくちゃ!」
大慌てでクローゼットの中にある様々な服を両手一杯に抱え取り出して、ベッドの上に雑に撒き散らす。
普段着ているテンプレート的な私服の組み合わせはあるけど、それじゃ京ちゃん的には見慣れすぎてあんまり特別な印象を持ってくれないかも。とは言っても私のコーディネートのセンスのイマイチさと私自身の地味さの所為で、目新しい組み合わせなんて作れそうに無いし……
「と、とりあえず京ちゃんに遅れるって連絡しておこうかな」
こんな事なら昨日までに着ていく服とか決めておけば良かった。昨日も浮かれちゃって服装に全く気が回って無かったし。
普通の女の子ならまず第一に着ていく服を選んだりするんだろうなぁ……
なんて落ち込んでる場合じゃ無いね 。
「とにかく着替えなきゃ、それも特別可愛いのに!」
それから十数分可愛いコーディネートを考えたけど、結局普段あまりおしゃれに気を遣っていない自分に思いつくはずも無かった。結局いつもの格好にヘアピンを付けるという微々たる変化で妥協する事に。
「ま、まあ服装は決まったし……あ!」
ホッと安堵の息を吐こうとしたその時、またひとつ大切な事を思い出した。いや、思い出したというより気が付いたと言った方が正しい。
「当たり前だけど今日はクリスマスだった……!」
そう、今日はクリスマス。しかし大切なのはそこでは無い。もしかしたらクリスマスより大切な事かもしれない。
「プレゼント用意してないよ……」
クリスマスプレゼントと言えばクリスマスイブの次にクリスマスっぽい言葉なのに……
「うちは仏教だし許しくれる……かな」
宗教的には正しい理由だけど恋人的には最悪な言い訳かも。というか今から何かプレゼント見繕えばどうにかなるかも。でもそれじゃ愛情が入ってないよね。
「特別なプレゼント……難しいよぉ」
辺りを見回しても殺風景な部屋のシンプルな家具とベッドの上に撒き散らされた衣服類が目に入るだけ。愛に関する特別が私の部屋にあるわけも無くガックリと肩を落としかけた時、ひとつの妙案が浮かんだ。
「コレなら特別性はあるよね」
思い付いたソレを手に取って鞄にしまう。ラッピングはされてないけど、してあったら逆に京ちゃんは開けるの面倒くさがりそうだからいいかも。
「そろそろ出発しないと遅くなりすぎちゃう」
姿見で軽く自分をチェックしてから鞄を手に玄関へ向かう。ここでも靴選びという重要な選択があるけれど、急いでるし実はそれほど靴を持ってないから選ぶ必要は無いんだよね。
「このまま行くと十二時半には到着できそう!」
京ちゃんに家を出たって連絡しておこう。
というかこの街ってクリスマスらしさがあんまり無いなぁ。夜になればイルミネーションとかで綺麗になるんだろうけど。今のところ感じるクリスマスらしさは肌寒さくらいだよ。
そんな事を考えながらスキップ気味にしばらく歩き続け、目的の須賀京太郎宅に到着した。玄関の前に立ち、インターホンに指を添えるが、そこで緊張からか無意識に深呼吸をする。
「ふぅ〜……よし」
震える指で軽くインターホンを押す、よくある呼び出し音が聞こえ、家の中から足音が近づいて来る。
「いらっしゃい、咲」
「おじゃまします、京ちゃん」
玄関を開けて出てきたのは、見慣れた顔。
「遅れてごめんね」
「全然気にしてないから大丈夫だ」
「少しは気にしてほしいけど……」
「咲が集合場所に遅れるなんて日常茶飯事だからな」
そう言いながら京ちゃんは中私にに入るように促す。従わない理由もないので、玄関に靴を揃えて階段を上り、京ちゃんの後へ続いてひとつの部屋に入る。
「とりあえず適当なところに座ってくれ」
「じゃあ適当なところに座らせてもらうね」
京ちゃんは適当なところに座れって言ったけど、用意されたように置いてある二つの座布団については触れない方が良いのかな。
「こんな時ってまず何をすれば良いんだろうな」
「私に言われてもわかんないよ」
「そうだよな、ごめん」
「謝らなくてもいいけど……」
微妙な空気になり、静寂が訪れる。無言のまま何分か経ったと意識し始めた頃、京ちゃんがその空気に耐え兼ねたのか口を開いた。
「あのさ……これ」
そう言って手渡してきたのは、綺麗にラッピングされた包み。
「開けていい?」
「もちろんだ」
ラッピングしてある紙をなるべく傷つけない様丁寧に開くと、中にあったのは花柄のマフラーと手袋だった。
「やっぱり咲と言えば花かなって思ったからさ」
「すっごく可愛いよ、ありがとう!」
京ちゃんが照れ臭そうに頭を掻く。これは私も渡した方が良い空気なのかな。
「実はね……私もプレゼントを持ってきたの」
そう言いながら私は鞄からある物を取り出した。京ちゃんの目が輝いてるよ……
「コレ……なんだけど」
そう言って京ちゃんにプレゼントを手渡す。
「これって……ヘアピンか」
「そうだよ」
「そういえば咲、今日はヘアピンしてるんだな」
「今更すぎるよ……」
「てことはこのヘアピン」
「うん、私とお揃い」
ふふっ、と京ちゃんが嬉しそうな声を漏らした。どうやら気に入ってもらえたみたい。
「そういえば咲、最近疲れたりしてないか?」
「え、どうして?」
「いや、何となく疲れてるように見えたからさ」
「今日は朝からジタバタしてたからその影響かも」
そうか、と言って京ちゃんが話を一旦区切る。そして一息吐いた後、笑顔でまた口を開いた。
「そういえば、メリークリスマス」
「こちらこそメリークリスマス」
「そういう使い方するもんなのか?」
「言葉の乱れた若者だからね」
我ながら訳のわからない事を言っていると思うけど、京ちゃんが何も言ってこないのでよしとしよう。
そんな事を考えていると、突然京ちゃんの顔がシリアスになった。
そして
「咲、好きだ」
と言った。そしてその言葉に私は
「私も京ちゃんのこと、大好き」
と返す。
そのまま私と京ちゃんは静かに抱き合い、互いの体温を感じ、そして更に強く抱き合った。
ラブラブシーンを極力削ってやったぜ、へっへっへ
ちなみに全13話構成です。
あと受験の影響で更新が遅れるかもしれません。