Infinite・Possibility   作:びじーうぇいてぃんぐ

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第3話「能無し」

「ここで少し待っててください。担当の方がすぐ来ますから」

 

 ドアの前で立ち止まった試験官は七の方に向き直ると事務的な声でそう言い、中には入らず元来た道を戻って行った。

 開いたドアはスライド式の隔壁の様な見た目をしており、七はドアが自動で閉まってしまう前に案内された部屋へと入った。

 

(ここは......IS用のピット?)

 

 部屋の中にはISを固定するプレートや射出するためのレールが敷かれている。

 七はさっきまではそわそわとしていた心が少し落ち着くのを感じた。

 いや、実際には落ち着いたわけではなく好奇心で緊張が上書きされるように塗りつぶされただけなのだが、それでも固く握っていた手を解けるくらいには余裕が出てきた。

 

(ん?あれは......ISか)

 

 ピットの中を見回していると、レールのすぐ側に試験に使われるのであろうISが二機鎮座しているのを見つけた。

 〈打鉄〉と〈ラファールリヴァイヴ〉どちらも第二世代型のISだ。

 七は鎮座する二機のISのそばまで近づくとスラスターや装甲をじろじろと見回す。

 

(うーん......どうしたもんかな......)

 

 七がIS学園に来た理由の一つは記憶を探すためだ。自分はISに関係していた。そんな記憶とも呼べない確信を信じてここまで来た。

 しかしどういうことか、実際にISを見てみても何も思い出すような気配はない。

 

(一次適性試験の時にも実際に触ったけど何も思い出さなかったなぁ)

 

 七は記憶の手がかりが見つからないことに困りながら、一次適性試験の時のことを思い出していた。

 今受けている試験の名前は二次適性試験。一次適性試験は実際にISに触れることでその人のIS適性を測るというものだ。

 ちなみに二次適性試験は操縦技能のテストである。

 あの時も実際にISに触れば何かわかるんじゃないかと思っていたが、結果は残念。七はISに触れても何も思い出せなかった。

 そのことで沈んでいたらさらに追い打ちでランクが低いという結果をもらったことを覚えている。

 

(......テンション下がるようなことを考えるのは止めるか。とりあえず今は......)

 

 七は目の前のISを見つめた。

 

(コイツのことを考えよう)

 

 これに乗れば自由に空が飛べる。

 青い空。近くを飛ぶ鳥。雲を突き抜けて自由な太陽のもとへと飛んでいく。

 七は雲の尾を引きながら音速を超えるようなスピードで空を駆ける。

 さっきまでの緊張なんて何処かへ行ってしまい、七の頭の中は空を自由に飛ぶイメージでいっぱいになっていた。

 思わず崩れる顔を手で押さえる。

 記憶のヒントが見つかるかもしれないという興奮とは別に、今はISに乗ることで空を飛べるのが楽しみで仕方がない。

 

「お待たせしました」

 

「うおっ!?」

 

 急に後ろから声がしたため慌てて顔を真面目モードに切り替える。

 いつの間にピットのドアが開いたのだろうか。恐らくは模擬戦の相手を務めてくれるのだろう、見ようによっては七と同年代なんじゃないかとも思えるような小柄で童顔な女性がドアを開けて入ってくるのが見えた。

 その胸にある膨らみだけは七のモノとは比べ物にならないくらいにでかいが。

 

「私が試験官を務めます。山田真耶と申します。よろしくお願いしますね」

 

 試験官は軽く微笑みながら自己紹介をする。七は容姿のせいで、本当に試験官か怪しんだがやはり試験官だったようだ。

 

「お、おう。じゃなくて...。よろしくお願いします」

 

 さっきまで浮かれていたのに加え、目の前の試験官の童顔っぷりについ普段通りの言葉遣いになりかけてしまう。

 慌てて直ぐに慣れない敬語に戻したがこれで減点などはないと願いたい。

 顔はとっさに真面目な表情にしたが心はまだ浮ついているようだ。

 試験官はそんな七の態度は全く気にしていない様子で話を進める。

 

「えーっと、では早速ですが。試験に使うISはどちらに乗りますか?」

 

「そ、そうですね......」

 

 七はさっきまで空を飛ぶ妄想はしていたがどっちに乗っているかまでは決めていなかった。

 打鉄とラファールリヴァイヴ。

 どっちも万能機であり、打鉄の方が防御よりでラファールの方が機動力は上。

 ちなみに七のこの知識はIS学園を受験すると決めた際に猛勉強した成果である。

 大好きな稽古を我慢してまで詰め込んだ知識なのだ、そう簡単に忘れてたまるものか。

 

 さて、どちらのISに乗るかだがその前に。

 七にはひとつの疑問があった。

 

(この模擬戦は負けたら不合格になるのか?)

 

 受験生はそのほとんどがISの操縦経験のない素人のはずだ。それに適正試験と呼んでいるのだから、そんなことはないとは思うが、「もしも」がありえるかもしれない。

 七は答えてくれるかは分からないが試験官に質問をすることにした。

 

「この試験って模擬戦なんですよね?」

 

「そうですよ、試験官、今回は私ですね。私との模擬戦です」

 

「......負けたらやっぱり不合格なんですかね?」

 

「うーん、確かに不合格になる人は負けてる人なのは間違いないんですが」

 

 試験官の人はそう区切ると教えてもいいのかを考えているのかムムムと唸る。

 

「ですが?」

 

「ですが......他の人には言っちゃダメですよ?模擬戦の勝敗は試験の合否には関係しないんです。あ、もちろん勝ったほうがいいんですけど、あくまでもこれはISの適正を見るための検査ですから」

 

 そう言って微笑む試験官。

 うん、やはり負けちゃいけないという訳ではないらしい。

 七は一安心するとラファールの方に視線を向けた。

 であれば防御力より機動力。

 勝敗が合否に直接的に関係するのであれば打鉄とラファール、それぞれの特性を考えて勝つために機体と作戦を決めるのだが今回の模擬戦はそういうわけではないらしい。

 七は打鉄で制限時間いっぱいまで耐久なども考えていたが、最終的には単純に速いほうが気持ちよさそうという理由でラファールを選んだ。

 

「じゃあ、ラファールリヴァイヴでお願いします」

 

「わかりました、では私は打鉄を使いますね。早速ISに乗っちゃいましょうか」

 

 そう言って打鉄を素早く装着する試験官。

 七も続いてラファールに乗ろうとする。

 しかし搭乗席に乗ってもラファールからの反応はない。

 七は乗れば起動音なり、モニタなりが出てくると思っていたので首をかしげる。

 

「......ん?ここに乗ればいいんですよね?」

 

「そうですけど......おかしいですね?本来であれば搭乗者を認識するはずなんですが」

 

 予想通り本来は乗るだけで反応するらしい。しかしラファールはうんともすんとも言わず、その場に鎮座して搭乗席にいる七を認識しない。

 

「......もしかして」

 

 そう言うと試験官は何か心当たりがあるように受験者の資料を打鉄で呼び出した。ラファールが反応していれば試験官の人がするようにモニタを指で操作できたりしたのだろうか。

 

 七の頭の中に不安が広がる。

 

 さっきまで自由に飛び回る想像をしていたが、そもそも動かせないのではないだろうか。筆記試験は努力して合格した。道場のみんなも背中を押してくれた。ここに来て才能ないから落ちました。なんてのは悪い冗談だ。教室での待ち時間中に考えていたことが現実に起こっちゃいましたとかシャレにならない。

 

「あー、えっと。蓮田七さん?ISの適正試験を先日受けたはずですよね?その時のランクを教えていただけますか?」

 

 七は自分の記憶を掘り起こした。

 適正試験、確かに受けている。

 適正ランクを測るのが一次適正試験でこの模擬戦は二次適正試験だ。

 七も当然受けていてランクがどうたら言われたが、その時はISに触っただけで実際にISに乗ったわけではない。

 記憶の手がかりが見つからなかったことがショックでランクについてはあまり考えていなかった。

 低いのかな?という感想を持ったことは覚えているがそんなに重要な数値だったのだろうか。

 というか今思えばこの数値が才能を示すものだったりするんじゃないだろうか。

 だとしたらまずい。

 非常にまずい。

 

「確かアタシのランクは...」

 

 七は検査時に貰った書類に書いてあったアルファベットを必死に思い出す。いや、思い出すまでもない。本当はわかっている。ただそれを認めたくないだけだ。

 ISの適性はA〜Dまでのアルファベットで表されるのだが、七の頭の中には不安と同時に一つの文字が浮かんでいる。

 

「え、えーと......D......だったかな?」

 

 恐る恐る七が答える。

 その答えを聞いて試験官が眉をひそめながら言う。

 

「......やっぱりD......ですか。えーっとですね......蓮田七さん?とっても言いにくいんですけど......」

 

 そう前置きすると試験官は悲しそうな顔で答えた。

 

「IS適正Dランクは『適正なし』なんです......」

 

「え......じゃあアタシ......IS乗れないのか?」

 

 予想していた不安が当たってしまう。

 七は敬語も忘れて聞き返してしまったが今はそこまで気を回す余裕はなかった。

 適正ランクなんてあまり重要なものだと思っていなかった。Dでも。努力次第でIS操縦者にはなれるだろうと。

 

 ピットの中央辺りで申し訳なさそうに打鉄に乗る試験官。そして動かないラファールの操縦席に跨りながら驚きで固まる七。

 このままでは記憶を取り戻す前に甚六の元へ帰るハメになってしまう。

 七の始まったばかりの記憶探しには早くも暗雲が立ち込めていた。

 

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