Infinite・Possibility   作:びじーうぇいてぃんぐ

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第4話「キスって床の味がする」

「...残念ですけど適正なしの方の試験は...」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!いや、下さい!」

 

 このままでは勝敗云々よりも先に不合格が決まってしまう。そうなれば記憶探しもできず師匠の元へと帰る羽目になるだろう。それだけは回避しなければならない。

 

 七はうんともすんとも言わないラファールの中で闇雲に手足を動かそうとしてもがく。しかし体を覆う装甲は少し揺れる程度でラファールが七を認識するような気配はない。

 

「ふぐっ......んぎぎぎぎ」

 

 はたからみれば滑稽な様子だがそれ以外にできる方法も思いつかない。

 試験官が心配そうな顔をしているのがチラリと見える。

 七は正直馬鹿にされるかと思っていたのでこの反応は意外だった。

 

(アタシとアンタは赤の他人で、アタシが試験に落ちたらもう会うことなんてきっとない。だからそんな顔しなくてもいいのに)

 

 それからも何度となくラファールを動かそうとする七。

 額には汗が浮き、頬を伝って流れ落ちる。

 そうして10分くらい経っただろうか。

 試験官が何かを見た後、七に告げる。

 

「あの......蓮田七さん?そろそろ時間の都合で......試験を強制終了させて頂くことに......」

 

 七が待機していた教室には、まだまだ他の受験生が少なからず残っていた。強制終了は当然の措置だろう。

 むしろIS適正Dで、絶対に動かないとわかっているのにここまで好きにさせてくれただけでもありがたい。

 

「はぁっ......はぁっ......なあ?試験官さん」

 

「なんですか?」

 

「ISを、動かすのに、はぁっ......コツとかあんのかい?」

 

「それは...技能でしたら教えられますけど、適性のあるなしはちょっと......」

 

「...ははっ、だよな......」

 

 七は、ラファールの登場席で力なくうつむいた。

 

「アタシはさ、どうしてもIS(コイツ)を動かしたい理由があるんだ」

 

「理由......ですか......?」

 

「そ。理由。この学園に入学したい理由とは別にさ......どうしてもIS(コイツ)を動かしたい理由」

 

 七がIS学園に来たのは自分の記憶を探すため。

 しかしそれとは別に、七には絶対にISを動かしたい理由があった。

 動かして、どうしても成し遂げたいことが。

 

「頼むから聞いてくれよ、試験官さん。そんでその間だけでいい、アタシがコイツを動かそうとするのを許してくれ。......お願いします」

 

 そして七は、試験官に頭を下げるとぽつぽつと語り始めた。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 七が甚六に拾われてから5年が経った夏のある日。

 七はいつものように道場で近所の子供と一緒に稽古に励んでいた。

 

「七姐、強すぎ!ちょっとは手加減してくれよ!」

 

 道場の中では、いつもは放課後や土日に稽古に来ていた地元のガキンチョ共が夏休みに入ったおかげで昼間っから七に勝とうと奮戦している。

 

「ハハハハハ!アタシに勝とうなんて百年早えぞガキども!」

 

 七も七で、大人気なく子供をちぎっては投げちぎっては投げを繰り返す。

 

「ほらほらぁ!」

 

「やべえ!あの目はマジだ!逃げろ!」

 

「キャーーー!」

 

 そうして子供たちと追いかけっこをしていると、道場の扉が開いて、七よりもひと回り大きい体格の青年が二人入ってきた。

 

「七姐またやってんのか......」

 

「もう、夏の風物詩だなコレ」

 

「...ん?おお!ヨッシーズじゃないか!」

 

「その呼び方はやめてくんねーか?」

 

 七は子供達を追いかける手を止めてヨッシーズもとい、弟弟子である義隆、正義兄弟を見る。二人は双子で、恐らく七より歳が上なのだが、道場では七の方が先輩であるため二人とも七姐と呼んでいる。

 

「お前ら勉強はいいのか?東京行くんだろ?」

 

 二人は東京の大学に進学したいらしく、少し前から道場の稽古を休んで勉強を頑張っているのだが、なぜここに来たのだろうか。

 

「息抜きだよ息抜き」

 

 義隆が持ってきた道着に着替えながら答える。

 

「ずっと勉強してたら頭が溶けっちまうわな」

 

 今度は正義が答える。

 

「そうか、まあいつでも来たらいいさ。アタシはずっとここにいるしな。準備できたら呼んでくれ、組手するだろ?」

 

 そう言うと七はまた子供達を追いかけ始めた。

 

 それからちょっとして。

 着替えを終えた後、準備運動をして互いに軽く組手を終えた兄弟が七に声をかけた。

 

「七姐!準備OKだ。今日こそ勝たしてもらうぞ」

 

「東京行きの餞別に一回は勝ちたいよなぁ」

 

 今までの兄弟の戦績は全戦全敗。

 決して兄弟が弱いわけではない、むしろ対外試合などでは兄弟が先に2勝するせいで七に順番が回る前に試合に勝つことも珍しくなかった。

 しかし、七はそれを上回るくらいに恐ろしく強かった。

 

「はっ!アタシに勝てると思ってんのかよ?」

 

「もしも勝ったら?」

 

 兄弟が期待に満ちた目で七を見る。

 

「......言うじゃねえか。いいさ、もしも勝ったらなんでも一つ言うこと聞いてやるよ」

 

「お!マジで?!」

 

「よっしゃ!俺チューしてもらお!」

 

「ちょ!待てよ!俺だってしてもらいてぇぞ!」

 

 七のことを放置して、まだ貰えると決まっていないご褒美に目を輝かす兄弟。

 その時、七の近くに群がる子供の一人が七の道着の裾を引っ張った。

 

「ん?どうしたコースケ?」

 

「七姐チューすんのか?」

 

 裾を握る手はプルプルと震え、目には薄っすらと涙が浮かんでいる。

 

(子供のくせにいっちょまえに妬いてんのか?かわいいなぁもう)

 

 七は屈むと、周りに集まる子供達に目線を合わせた。

 

「お前達。アタシが誰かにチューすんの嫌か?」

 

「ヤダ!」

 

「嫌!」

 

 口々に嫌だという声が上がる。

 ちょっと嬉しい。

 七は顔に笑顔を浮かべて「じゃあ、アタシが勝ったらさ」と言葉を続ける。

 

「大喝采を頼むよ」

 

 ▼

 

 道場の中に子供達の拍手が鳴り響く。

 兄弟と七の試合の結果は、まあいつもの通り七の圧勝だった。

 子供達に囲まれる中で七がガッツポーズをしていると、道場の扉が開き甚六が入ってきた。

 

「賑やかじゃな」

 

「あ、師匠」

 

「せんせーこんにちわー!」

 

「こんにちは。みんなよく来たな」

 

 七の周りにいる子供達が甚六に挨拶をする。

 すると、七と兄弟の試合を見て興奮した子が甚六に試合のことを早口で喋り始めた。

 

「あのねー!さっきねー!七姐とヨッシーがたたかってね!七姐のあっしょうだったんだよ!」

 

「圧勝なんて言葉よく知っとるのお」

 

 甚六はその子の頭を撫でながら、七の方を見る。

 

「そのことなんじゃがの。七、お前は強くなった。じゃがそのせいで張り合う相手がいなくなっちまったじゃろう?」

 

「......いや、アタシは義隆や正義も十分強いと思うけどよ」

 

 七が甚六から顔を逸らしながら言う。

 口ではこう言っているが七自身も物足りないと感じてはいるのだ。

 兄弟の事を強いと思っているのは決して嘘ではない。しかし七と比べてしまえば、それは比べる相手が悪い。

 七は県内の強いと言われている相手とも何度か試合をしており、その中で負けた事もある。甚六にだって負けることがあるし、決して常勝無敗というわけではないのだが、負けるたびに七は努力した。血反吐を吐くまで体を動かし、夢の中でも試合をした。

 そうしてきた七は、今では周りの手が届くような相手との試合では、心が躍るような全力での戦いができない状態であった。

 

「だが全力じゃねーだろ?」

 

 甚六はそれを見抜いている。仮にも甚六も七を負かせる少ない人物であり、そして全力の七を知る人物である。

 七もその目に根負けしたのか、道場の床で子供達に遊ばれている義隆と正義をチラリと横目で見ると小さい声で言った。

 

「まあ......強いやつと戦いたいとは......思うけどな?」

 

 甚六は七のその言葉を待ってましたと言わんばかりに笑顔を見せると、とある道場にいる一人の人物について話し始めた。

 

「篠ノ之道場って知っとぉか?剣術の道場なんじゃがよ」

 

「知んねえな」

 

「そうか、じゃあ『織斑千冬』。こいつなら知っとるじゃろ?」

 

 記憶を失う前の自分はISに関係していた。そんな確信を持っていた七は、もしかしたら記憶が戻るかもしれないと思い意識的にISに関する情報なら集めるようにしていた。

 と言ってもTVでニュースをやっていたら見る。新聞に載ってたら読む。くらいのものだが、そのくらいでも織斑千冬の名前は聞いたことがあった。

 

「モンドグロッソ総合優勝者。世界最強のブリュンヒルデ様だろ?そんくらい知ってるさ」

 

「戦いたいとは思わねーか?」

 

「え?」

 

 戦う?アタシが?誰と?

 

「世界最強と戦ってみてーとは思わねーか?」

 

 耄碌したかこのじじい。

 

 ドヤ顔で突拍子も無いことを言い出す甚六に七は、ついにボケたのかと肩を落とした。

 

「師匠......とうとう頭がオシャカになったか......」

 

「阿呆、ワシはまだ現役じゃ。その織斑千冬がな。いるんじゃと。篠ノ之道場とやらに」

 

「......マジで?」

 

「戦ってみてーとは思わんか?」

 

「マジで!」

 

 戦える!世界最強と!あの鬼のような強さを誇って優勝したとニュースで言ってた織斑千冬と生で戦える!

 本当なら七にとっては願ってもいない話だ。

 もちろん七は戦える。あとは向こう側が戦ってくれるかどうかだ。

 

「っしゃぁあ!愛してるぜ師匠!」

 

 七は返事の代わりに親指を立てた甚六に抱きついたのだった。

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