レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

17 / 103
 だって、ウソはあなたの専売特許だから


Mission5 ムネモシュネ(2)

 アルクノアによる列車テロは起きなかった。

 無事の列車旅を終え、アルヴィンたちはアスコルド自然工場に到着した。

 

「写真はいいのか、カメラフリークさん?」

「帰る時でいい。任務優先」

「……そうかよ」

「ルドガーってばオコサマー」

「エルにだけは言われたくない」

 

 人もいない、どの部屋が何という案内板もない。とりあえず道なりに進んで行くことになった。

 

「シゼンコージョーってなに?」

「野菜や果物をつくる工場なんですって」『変な感じだよねー』

 

 他愛ないおしゃべりだが、自国の常識を「変」と言われると胸中穏やかではない。

 アルヴィンからすれば大地に農作物が育つリーゼ・マクシアのほうが「変」だ――今でさえそう思う。それが「自然な形」であると納得するのと、個人の感覚は別――

 

 

「来たのか、アルフレド」

 

 

 ――この世で二度と聞けるはずのない声が、した。

 

「――っジランド!」

 

 ふり向き、反射的に臨戦態勢に入る。

 忘れもしない。ジランドール・ユル・スヴェント。スヴェント分家当主にしてアルヴィンの叔父。そして旧アルクノア首領。

 アルヴィンたちと戦い、死んだはずの男。

 

「スヴェント家の次期当主を呼び捨てとは。いつまでも本家嫡男のつもりでいられては困るな」

「あんたが次期当主……?」

 

 知り合いか、分史世界のアルヴィンと勘違いしている、中に入れてって頼んで、などなど後ろで囁きが交わされる。長引かせるとここのジランドに怪しまれる。

 

(事情がどうあれ、しょせんは分史世界だ。適当に話を合わせればいい)

 

「すまない、叔父さん。以後気をつけます」

「分かればいい」

「アスコルドの成果を見せてもらいたいんだけど」

「いいだろう」

 

 ジランドが歩き出す。アルヴィンは後ろの仲間に肯いて見せ、ジランドの後ろを付いて行った。

 

 ジランドは目的地に着くまでにとくとくと、アスコルドの成功がいかに偉業か、スヴェント家の利になるかを説いた。

 アルヴィンは複雑だった。ナハティガルの膝下で被っていた気弱な仮面と、旧アルクノア首領の狡猾な中身を同時に見せられているのだ。

 

(これが文字通り『世界が違う』ってやつなのかね)

 

 右から左に受け流していたアルヴィンだったが、ジランドの次の台詞には耳を奪われた。

 

「お前もそろそろ身を固めたらどうだ。レティシャ義姉さんも安心する」

「母さんが――?」

「アルフレドが遊び回って困ると愚痴ばかりだ」

 

 しまった、とどこか冷静な部分が思った。――母親。アルヴィン最大の泣き所。

 

(この世界を壊したら、母さんも世界もろとも消滅する。元気なのに? 病気じゃないのに? 『俺』が分かるのに?)

 

 まずい。揺れるなと念じても一度浮かんだ未来図は消えてくれない。ジランドの目に訝しさの兆し。心臓の音が速すぎて集中できない。早く何か言わなければ。早く――

 

 ふいに、アルヴィンの手を他人の手が握った。

 

(ユティ?)

 

 ユティはアルヴィンを見ず、ただ手を握る力を強めて、離した。

 

「ここの動力源は光の大精霊アスカだそうですね。捕獲なさったのはご当主ですか?」

「そうだ。私が発見し、捕獲した。アスカの力はアスコルドの全エネルギーを賄って余りあるものだ。精霊の利用は、今後のエレンピオスの未来を左右する産業になるだろう」

 

 エレベーターが開く。アルヴィンたちが乗り込むと、ジランドは下降のボタンを押した。

 

「アスカのマナを効率的に施設に行き渡らせるには、アスカを工場の中央部に配置してケーブルを全館に通さなければいけなかったのでは?」

「無論それには労を費やした。ドーム中央にケージを据えることでケージの下からでなく上からという発想の転換により」

「アスカのマナを一点に集め、施設への分散を可能としたのですね。ひらめきを労苦を厭わず実現する、すばらしい姿勢ですわ」

 

 ありふれた賛辞ながらジランドは満更でもない様子だ。

 

 エレベーターのドアが開き、再び長い回廊と、奥のドア。全員がエレベーターから降りる。

 

「さすがはエレンピオスきっての名家、スヴェントの次期ご当主。ねえ、」

 

 アルフレド、とユティは唇の動きだけで彼を呼んだ。

 

 これだけ時間を稼いでくれれば立て直せた。アルヴィンはジランドの背後に歩み寄ると、銃のグリップを手加減なしでジランドの延髄に打ち込んだ。

 ジランドが床に倒れる。

 

「サンキュー。ごめんな、叔父さん」

 

 エリーゼから非難の声が上がる。だが、アルヴィンは冷静に答えることができた。

 

「こいつが時歪の因子(タイムファクター)じゃないなら、怪しいのはアスカとかいう精霊だ。けど、見張られてたら手は出せないぜ。――そもそも俺たちは、この世界を壊しに来たんだ」

 

 言葉にしても、今度こそ心は揺れなかった。定まっていた。

 

「そうだろ、ルドガー?」

「――ああ」

 

 ルドガーは固く、強く肯いた。――彼にはそう在ってもらわねばならない。ルドガーだけが分史世界の生殺与奪権を持つ以上、彼はアルヴィンたちの指針だ。

 

 代わりにアルヴィンも二度と揺るがない。惰性で仲間と付き合っていた1年前とは違う。自分の力で、「ここ」をアルフレド・ヴィント・スヴェントの居場所にするのだ。

 

 そのためにもまずは、助けてくれた仲間に礼を述べておこう。

 

「すらすらしゃべれんなら普段からそうしてくれよ。急に普通にしゃべり出したからビビったぜ」

 

 ルドガーとエルが全力で同意している。同居中にユティと何があった。後で聞かせろ。

 ユティは申し訳なさも含んだしかめっ面をした。

 

「……めんどいから、やだもん」

「おたくがイヤならいいんだよ。――さっきはありがとな。フォローしてくれて助かった」

「よけいじゃなかった?」

「なかった。気づいてくれてサンキューな」

「よかった。ああいうの、アナタのほうが巧いから、ワタシ、怒られないか心配だった」

 

 言われた内容は酷いはずなのに、アルヴィンが注意を引かれたのは別の所だった。

 

(笑うんだ、この子。写真の話題でさえ能面のまんまで話すから、てっきりそういう子かと)

 

 ルドガーがユティの頭をぐわしと掴んだ。

 

「ユティ。今のはさすがにアルヴィンに失礼だ。謝れ」

「ルドガー、頭重い。髪乱れる」

「元からどこが毛先だってくらいに巻きまくってるだろうが。むしろ一周回って直毛になるんじゃないか?」

「ストレートいやー」

「だからお前の『イヤ』の基準はどこにあるんだ! 斜め上すぎて理解できねえよ!」

 

 ルドガーはユティの頭をさらに掻き回す。エルがそれを半眼で見上げる。ローエンとエリーゼは微笑ましく見守っている。

 

 アルヴィンは我慢せず声を上げて笑った。




 アルヴィンが心を固める回でした。本当ならアルヴィンEP4でなのですが、彼の役回り上、少し早めました。オリ主やユリウスとの関係のかねあい上、アルヴィンにはしっかりめのお兄さんでいてもらわないといけないので。
 オリ主はアルヴィンのほうが騙しに長けてるのを知ってます。TOX2のアルヴィンは「いかにしてウソツキをやめるか」がテーマでしたが、拙宅のアルヴィンは「悲しいウソツキ」で通します。

 オリ主がストレートヘアを嫌がる理由はちゃんとあるのですが、明かされる日は来ないでしょう。他にもルドガー曰く「斜め上基準のイヤ」はすべて理由ありです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。