ユリウスとユティが離れて話している間、アルヴィンはルドガーたちの誰かと連絡がつかないか試していた。
ルドガー、ジュード、レイア、エリーゼ、全員がGHSを持っている。せめて一人でも連絡がつけば合流のめどが立つのだが。
「どうですかな」
「だめだ。エリーゼも出ねえ。山ん中の秘境だし、電波状況よくねえみてえだ」
「全滅でしたか。となると、村人の方々から目撃情報がないかを聞いてみるしかありませんね」
「ああ。ニ・アケリアじゃねえどっかに落ちたんでない限り、それで大まかな位置は掴めるだろ」
アルヴィンはGHSを畳んで背広のポケットにしまった。
すると、エルが足元からズボンを引っ張ってきた。
「このままルドガーたちと会えないなんてないよね? ちゃんと見つかるよね?」
不安をいっぱいに湛えた翠の瞳には、歳よりずっと大人びた潤みが含まれていた。
(ルドガーたち、じゃなくて、ルドガーに、の間違いだなこりゃ。お子ちゃまでも女ってことか)
内心のにやつきを隠し、アルヴィンはしゃがんでエルの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「やーめーてーっ」
「心配すんなって。ジュードたちも一緒だし、滅多なことにゃならんって」
「きっとルドガーさんもエルさんを心配して、今頃あちこち探し回っていますよ」
ローエンも紳士らしく笑んで屈んで加勢してくれた。
そこでこちらに近づいてくる足音が二人分聞こえた。
立ち上がると、ユティとユリウスが戻ってきているところだった。ユティはアルヴィンと目が合うや、小走りに先駆けてきた。
「ただいま」
「お疲れさん。何話してたんだ?」
「ユリウスお兄ちゃんに弟くんの報告会。あとは向こうが列車テロの日以降どうしてたか」
正直に話したように錯覚させて、肝心の内容は明かさない話術。アルヴィンにも覚えがある。
(隠し事をされた側はこういう気分になるのか。以後気をつけねえと)
ふと、ユティが背伸びして内緒話の姿勢を取った。アルヴィンも応じて耳を近づける。
「アルフレド。ユリウス、覚えてた。アルフレドのこと」
「マジか?」
アルヴィンの目はつい、たった今到着したユリウスに向いた。ユリウスに首を傾げて見返され、アルヴィンはバツが悪くなって頭を掻いて顔を逸らした。
「……あー、久しぶり、でいいのかね、ここは」
ユリウスはふっ、とまとう雰囲気を和らげた。
「そうだな。あの泣き虫アル坊やがずいぶんでかくなったもんだ」
「ちょ、そこまで覚えてんのかよ!」
「そりゃあなかなかに忘れがたい思い出ばかりだからな。お前やバランといた時期は特に。周りの女の子より背が低いとバランにからかわれて泣いてたとか」
「ちょっとでも再会を喜んだ俺が馬鹿だったわ……」
アルヴィンはがっくりと肩を落とした。この分だとバラン以上にアルヴィンの恥ずかしい過去を仲間に暴露されかねない。
「そうか? 俺は嬉しいぞ」
ユリウスは大切なものへのまなざしをアルヴィンに注いでいる。
「生きてエレンピオスに帰って来てくれてよかった。――おかえり、アルフレド」
「っ!!」
危うく涙腺が決壊するところだったのを、アルヴィンは寸での所で食い止めた。
(『おかえり』は反則だろ、ユリ兄)
これが初めて聞く「おかえり」ではないのに、どうしてこうもダイレクトに胸を揺さぶったのか。――決まっている。ユリウスがアルヴィンの帰郷を心から祝福し、口にしているからだ。
「よかったですね、アルヴィンさん」
「ばんざーい」
「はは。ありがとよ、じーさん。あとユティ、祝ってくれんのは嬉しいが、せめて作り笑いでいいから笑顔で」
「ばんざーい?」
「それ笑顔じゃなくて寝顔。立ったまま寝るとかおたく器用ね」
「……なんか話がどんどんダッセンしてる気がする」
エルは半眼でおバカな会話をくり広げる大人たちを見上げている。
この場で一番年若い幼女が、この場で一番冷静だった。
どうも中だるみの空気が漂っているのをPV数と感想板から感じる今日この頃……
ユリウスは意外とルドガー以外も大事にしてると思います。アルヴィンEP4の分史ではアルヴィンとの付き合いがありましたし、そもそもバランとも友達ですし(バランはユリウスの好物知ってたから付き合いは深いと見た)。
多少ご都合主義ですがエレンピオス幼なじみ3人組を本作はプッシュします。