ユリウスの捜索は、二手に別れて行うことになった。
街道の西は、ジュード、レイア、アルヴィン、ローエン。
ハ・ミル方面は、ルドガー、エル、ユティ、ミラ、エリーゼ&ティポ。
ガイアスは海路を捜索するリドウとイバルに同行することになった。
メンバー分けもすんでいざ出発、という時になって声を上げた者があった。ユティだ。
「はいはーい。このパーティー編成はとても偏ってると思いまーす」
「偏ってる?」
「偏ってる。よろしくない。実によろしくない。よってメンバーチェンジを要求する」
ユティはエリーゼの両肩を掴むと、戸惑うエリーゼに構わずぐいぐいと押し、アルヴィンの前に置いた。次に、ローエンと腕を組んでこちらに戻ってきた。
「こゆこと」
これでハ・ミル側は、ルドガー、エル、ミラ、ローエン、ユティ。西側はジュード、アルヴィン、エリーゼ、レイアとなった。
なるほど、一人入れ替えただけで安心感のあるパーティーだ。それに正直、女だらけの編成で上手くやれる自信がルドガーにはなかった。
ルドガーはこっそりユティに向けて親指をグッと立てた。ユティも能面のまま同じしぐさを返した。彼女のこういうノリは大好きだ。
ハ・ミルには果物農家の荷馬車に乗せてもらって向かうことになった。ローエンが農夫と交渉し、イラート間道で出る魔物から農夫と荷馬車を護衛する代価で成立した。
商品を売り切って空の荷台に5人の老若男女がぎゅうぎゅうと詰めて座る。エルとルルをルドガーの膝の上に乗せてもまだ苦しい。
「撮るよりスペース確保に集中しなさいよ!」
「ねえ三脚使っていい? ガタガタ揺れて上手く撮れない」
「却下。手ブレ修正機能と己の腕を駆使して乗り切れ。てか三脚置くスペースがあらば俺らの誰かに譲れ」
「ユティさんはどこにいてもブレませんねえ」
「上手いこと言ったとか言わせねえぞ、ローエンっ」
「っきゃあ!」
「ミラ危ない! ……はー、ナイスキャッチ」
「~~っどこ触ってんのよ!」
「助けたのにこの仕打ぐはッ!!」
「ルドガー~~っっ!」
「ナァ~~~!」
「――激写」
こんな感じで進んでいれば、到着する頃には死屍累々(一部を除く)になってハ・ミルに降りるのも当然だろうに――
「もう朝になってる!」
「ナァ~!」
エルとルルは、村の崖際の柵に登って、元気に声を上げていた。
ルドガーも気合で保ち直し、山の彼方の、薄紅に色づく空を見上げた。イラート海停に集合したのは夕方、馬車での行路を考えてもまだ夜の真ん中の時間帯のはずなのに。
「エル。そんなとこにいたら危ないわよっ」
「ヘーキだし! ミラはカホゴすぎーっ」
――“どうしたルドガー!? 転んだのか? まさか誰かにやられたのか!?”――
――“平気だって! ユリウスはカホゴすぎなんだよ!”――
――“弟がケガしてるんだから当たり前だ! ほら、見せてみろ”――
さらに言い募ろうとしたミラを、ルドガーは肩を掴んで制した。
「本人が平気って言うなら好きにさせてやれよ。ケガが心配なら俺たちでフォローすればいい」
「エルはまだ8歳なのよ? 放っておけるわけないじゃない」
ミラは荒々しくルドガーの手をふりほどいて走り、エルを後ろから抱えて柵から下ろした。
「――大丈夫だって言ってんだろうが」
小さく小さく、ルドガーは呟いた。
「エルさん。今はまだ朝ではありませんよ。この地域は暁域という霊勢でして、一日中朝焼けなんです」
「じゃあずーっと朝なの? 寝る時困らない? 暗いのは好きじゃないけど、エル、夜にならないと眠れないよ? 時間とかどうやって計ってるの?」
洪水のような「何で?」攻撃。ローエンはイヤな顔一つせず、ていねいに解説していく。エレンピオス人のルドガーも分かっていない部分は拝聴させてもらった。
「んー……でもやっぱ、エルは朝が来たら昼になって夜になるほうがいいな」
「断界殻シェルがなくなったので、霊勢の偏りは徐々になくなっていくでしょう。エルさんがもう少し大人になる頃には、ハ・ミルの青空や星空を見ることがきっとできますよ。空の色を肴に一杯、なんて乙な楽しみ方もできるかもしれませんね」
「空にサカナいるの!?」
「酒のつまみって意味だよ」
エルがむくれて足にもたれてきた。ルドガーは心得て、エルの両脇に腕を入れて支えてやった。するとエルは安心してかさらに背中を預ける。ここからはバランス勝負だと、エルとの付き合いも長いルドガーは承知していた。
「これは失礼。ちと年寄りくさい言葉でしたね」
「そんなことないって。俺でも分かった」
「ありがとうございます。――ルドガーさんはお酒はイケる口ですかな?」
「呑んだことないから分からないな。せっかく呑める歳になったことだし、今度教えてくれるか?」
「喜んで。ここのパレンジワインなどで一杯やりながら語り明かしましょう」
「ルドガーとローエンばっかズルイー」
エルがじたじたと抗議してきた。めんどくさくなったルドガーはそのままエルを抱き上げた。
「しょーがないだろ。実際に俺たちのほうが大人なんだから」
「パレンジはジュースもありますので、エルさんもご一緒しましょう」
「う……しょーがないからそれで許してあげる」
エルは明らかに嬉しそうだ。だが指摘するとエルはムキになって否定するので黙って、ローエンと目配せして苦笑し合った。
カメラフリークはどこにいてもブレません。そしてローエンじーちゃんもそういう人への対処法を心得ている辺りはブレません。要するにツッコミがいないボケ合戦です。本当にツッコミの大事さを知るRPGですよねえ(しみじみ)
ミラさんの「どこ触ってんのよ!」の下りは皆さんミラEP2でご存じの通り例のルドガーのラッキースケベハプニングです。代価の魔物退治は果たしてちゃんとできたのでしょうか…?