レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

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 もう やめた ここで ×××××××のは


Mission7 ディケ(10)

「どしたの、ルドガー。まだどっか痛い?」

 

 エルが不安げにルドガーを見上げてきた。

 

 はっとする。澄んだ翠眼には心配だけでなく、置いてけぼりのような、迷子のような、恐れの色がある。

 

(何で気づかなかったんだ。もう俺一人の問題じゃない。今の俺にはエルがいる。俺が自分の殻にこもってうじうじ悩んでる間、エルは誰に頼ればよかった? 俺しかいないじゃないか)

 

 エルはカラハ・シャールのエリーゼを頻繁に訪れていた。こんなにも分かりやすくサインを発していたのに。

 

(このままじゃダメだろ。ローエンみたいに、気づいてやれるようにならないと。エルはこんな俺を『アイボー』だって言ってくれたんだから)

 

「大丈夫だよ。もうどこも痛くない」

「ホントに?」

「本当に。エルがずっと呼んでてくれたから、もう、大丈夫なんだ」

 

 エルは頬を緩めて、マシュマロみたいなやわこい笑顔を浮かべた。ルドガー自身も、きっと自然に笑い返せている。

 

「兄さん」

 

 ルドガーはユリウスを見据えた。心臓が強く打って気持ち悪い。拳を固める。前のようにがむしゃらに拒絶したいという気持ちにはならなかった。

 

「俺に、クルスニクの一族として働いてほしくないってのは、今日のでよく分かった。兄さんが俺のこと、本気で心配してくれてるのも。世界のためとか、精霊のためとか、俺には正直分からない部分のが多いよ。でも、今の俺には、カナンの地に『行く』ことそのものが目標なんだ。一度『やる』って決めた。だから俺、やめないから。エージェントの仕事も、カナンの地を目指すのも。途中で投げたり、しない」

 

 ユリウスは蒼眸を軽く瞠り、ルドガーを凝視してきた。『オリジンの審判』とやらより兄のこの目のほうがルドガーにはよほど審判だと思えた。それでもルドガーは目を逸らさなかった。

 

「――本気なんだな」

 

 無言で確と肯く。

 

「ずっと子供だと思っていたのにな……いや、俺が思っていたかっただけか」

 

 哀愁を漂わせていたユリウスだが、その表情を厳しいものに変えてルドガーを見据える。

 

「『オリジンの審判』は非情だ。およそ人が予想しうるあらゆる惨劇を詰め込んでいる、と評した祖先もいる。それでも、決心は変わらないか」

「ああ」

「即答か。ここで詳しく聞き返していたら突っぱねてやれたんだが……こうなったらお前は聞かないよな」

 

 ユリウスは握り拳でルドガーの胸を軽く突いた。開いた手の中から落ちた物を慌ててキャッチする。

 

「ミチシルベ!」

 

 白金の歯車の集合体、カナンの道標『マクスウェルの次元刀』。

 今日入手した『海瀑幻魔の眼』と合わせて、これで集まった道標は3つ。

 

「大切なら守り抜け。何に替えても」

 

 ルドガーは反射でエルを見下ろした。数奇な縁で出会った同行人で同居人。カナンの地を共に目指す小さな相棒。

 

「――エル、手、繋いでいいか」

「え!? きゅ、急にどうしたの?」

「エルがイヤならいい」

「い、イヤじゃ、ない!  ……けど。ルドガーがどうしてもって言うなら、いいよ」

「じゃあ、どうしても、だ」

 

 ルドガーはしゃがみ、エルの手を取った。小さい。ルドガーの掌に載せてなお余りある、こんなにも小さな手。手だけではない。背丈も足も首も頭も、人体に大事な部分はどこも小さくて脆い。

 

(俺にとって大切なもの。何に替えても守り抜かなきゃならない女の子)

 

 

 

 

 そんな彼らを見守っていたユリウスがついに踵を返した。その背にローエンが声をかける。

 

「行かれるのですか」

「ああ。弟とも話せた。あまり長居してもいられない」

「宛てはあるの?」

「悪いがそれは秘密だ」

 

 むすっとするミラを、ミュゼがくすくすと隠さず笑った。

 

「じゃあな、ルドガー。機会があったら、バランとアルフレドによろしく伝えといてくれ」

 

 ――ユリウスは去った。まるで長期出張にでも出かけるような、日常が壊れる前と同じ声音。

 ルドガーはエルと手を繋いで並んで立ち、兄の背中を見送った。

 

 

 

 

 

 一行はキジル海瀑を出てガリー間道を進んだ。イラート海停に帰るには一度ハ・ミルを経由しなければならない。

 

「ローエン。さっきはありがとう。フォローしてくれて」

「何の。お助けすると先に口にしたのは私ですからね」

「正直メチャクチャ助かった。これからも、頼っていいかな」

「ルドガーさんが必要とあらばいつなりと」

 

 ローエンが芝居がかった礼を取ったので、ルドガーもつい笑った。

 

 

(さて、あともう一人)

 

 ルドガーは少しペースを上げ、ミラとミュゼに囲まれておしゃべりしているエルに声をかけた。エルと二人で話したいと告げると、姉妹は心得て列の後ろへ下がった。

 

「今日はごめんな。怖い思いばっかさせて」

「こわくなんかなかったもんっ」

「はいはい。エルは強い子だもんな。でも真面目な話、今日は俺がふがいなかったせいでかなりヤバイとこまで行ってた。今日だけじゃなくて明日からも、また同じようなことがあるかもしれない。俺も無敵じゃないからさ」

「うん……」

 

 エルの前に片膝を突く。エルの翠眼に映る自分はいつになく緊張している。

 

「エル。こんな俺だけど、まだ一緒にカナンの地に行くって約束、有効か?」

 

 エルはパチパチと瞳を瞬き、次いでぎゅっとリュックサックのベルトを握りしめた。

 

「ユーコーに決まってんじゃん! ゆびきりしたんだから、ウソついたらハリセンボンなんだからね」

「はは、そうだったな。うん。今日、みっともないとこ見せたけど、これからもよろしくしてくれるか?」

「あ、あれはルドガー、エルを守ってだから……これからもなんて、当たり前だし」

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑い合うルドガーとエルを見守りながら、最後尾にいたユティはぽつんと、自己のみを対象とした採点を口にした。

 

 

「――状況、失敗」




あんだあ「あんだあでーす(≧▽≦)」
るしあ「るしあでーす(・д・。)」
あ・る「「二人合わせてあんだるしあでーす(≧▽≦)(・д・。)」」
るしあ「して(なれ)よ。まずは今回の見所を訊こうか」
あんだあ「やっぱりルドガーとエルが本当の意味で『アイボー』になったとこっしょ! エルはルドガーが大事で、ルドガーはエルを必要としてる。基本の関係にようやく持ち込めた! この成果はデカいぜ!」
るしあ「ルドエルの『最初から成立してる感』に乗らずあえて関係構築に時間をかけた。これが作者なりの『アイボー』の答えなり」
あんだあ「続いてルドガーがユリウスへの劣等感を吹っ切ったとこ! どっかのドラマの台詞で『許してもらうんじゃなくて、認めさせる』みたいなのがあってそのスタンスお借りしました!」
るしあ「両親がおらず記憶も曖昧。唯一の肉親のユリウス氏はルドガーを猫可愛がりでルドガーに逆に不安感を植える始末。挙句ルドガーのためとはいえ八百長不合格やら時計取り上げるやら散々信頼を裏切りおったというに」
あんだあ「それでもルドガー君くじけない! 幻魔の毒に侵されたからこその極限状態で、エルたんとSoullink! メンタル持ち直して、ついに兄さんに決別宣言。もうルドガーは『そこにいる』ことを『許してもらわなくてもいい』。ルドガーは外界の象徴たるユリウスに自分の考えを『認めさせた』のだから――!」
るしあ「後半戦に向けてついに浮上した。よきかな、よきかな――などと」

w( ̄_ ̄;w ¬o( ̄- ̄メ) スチャ…

るしあ「(なれ)は素直に信じておらんよの?」
あんだあ「ああ、信じてなかったぜ相棒。俺らは作者の潜在心理『ひたすら暗く悲劇的に美しく』を二人で分担してる仲だからな」
るしあ「では」
あんだあ「うむ。この回でも当然問題は残ってる。オリ主だ。前書きやラストの台詞などから、オリ主の烈しい後悔と自責の念をお感じ頂けると思う」
るしあ「皮肉にもルドガーの心理が決着するための一連の事件が、そのままオリ主を追いつめてしもうた」
あんだあ「だってあの子カメラ捨てたのよ!? カメラ! パーソナリティっつっても過言でないCA・ME・RAを! どうすんだよこれで本格的に無個性オリ主だよ!」
るしあ「そこは作者の腕の見せ所ぞ。ルドガーのように復活させてみよ」
あんだあ「本作最大級の無茶ぶりキタァ━━━━━ヾ(;゚;Д;゚;)ノ゙━━━━━ !!!!」

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