レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

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 好きなだけ盛り上がればいい わたしは「そこ」にいないから


Mission8 ヘベ(2)

 何でルドガーの部屋に全員集合している。ジュード、仕事は? ガイアスとローエン、政務は? ミュゼ、大精霊がこんなとこにいていいのか?

 

 ルドガーが笑ってイスを立ち、後ろから両肩を押した。促されてテーブル前まで歩き、テーブルの上には無数の手作りフォトアルバムの素材。

 

「俺どうせ半分自由業だし」

「わたしもーっ」

「わたしは学校お休み中ですから」

「僕は……バランさんにいい加減、休暇消化しろって言われちゃって。あ! もちろんイヤイヤ来たんじゃないからね!」

「我々は本業を離れているのでスケジュールは無茶が効きます。ねえ、アーストさん?」

「他ならぬあの子のお誘いだし、来ないわけにはいかないわ」

 

(ああ、そういうこと。分かった。これはテストなのね)

 

「いつもお前には驚かされっぱなしだから、今日は俺たちからのサプライズだ」

「それで、アルバム作り」

 

(ワタシが本当に写真を捨てられるか。こうして密に自分が撮った記録と触れ合っても決意を鈍らせないでいられるか。とーさまが用意してくれた試練なんでしょう?)

 

「カメラ、やめるって言ってただろ。ユティは腕いいし、今までいい写真たくさん撮ってくれたのに、何で急にってのが俺たちの正直な気持ち。でもユティは性格上やめるって言ったら撤回しないってのも知ってる。だからみんなで相談して、こういうワークショップやってみようってことになったんだ。俺たちみんなの大事な瞬間を記録して残してくれたユティへ、ありがとうの気持ちを込めて」

 

(分かりました、とーさま。ユティがちゃんとできるとこ見せるから。安心して?)

 

「困ったオトナね。発想が貧困」

「ぐ」

「でも締めを飾るだけの価値は充分にあるサプライズだわ。みんな、アリガトウ」

 

 部屋の中の空気がぱあっと明るく華やぐ。――ほらできた。写真を捨てたユースティア・レイシィはこんなに身軽だ。声も笑顔もウソなのに、ルドガーたちは騙された。

 彼女はルドガーとエルに会った初めての日の性能(らしさ)を取り戻している。今日までの重苦しさや暗さが悪い夢だったようだ。

 彼女は確信した。これならば最後までやり抜ける。

 

 

 

 

 

 こうしてささやかでにぎやかな宴が幕を開けた。

 

 ユティが撮っていた写真はそれこそ膨大だった。彼女が持って帰った親睦旅行の分に加え、今までの記録写真を全て、しかも人数分焼き増ししてあった。

 

「お前こんだけの写真どこに隠してたんだっ」

「三脚ケースの中」

「あの三脚ケースは〇次元ポケットか!」

 

 ルドガーはテーブルを叩いて突っ伏した。よしよし、とエルが同情のなでなで。最近はこれにはミラも加わって、適当に背中を叩いてくれる。どっと部屋の中が沸いた。

 

(よかった。ユティと普通に話せている。ユティはいつものユティだ)

 

 ルドガーがエルとミラと買ってきた文房具や素材を埋め尽くす写真の束。いや、これはもはや海と表現したほうが正しいかもしれない。写真の海からおのおのが自分が写った写真、自分が関係する写真、単純に気に入った写真をサルベージしていく。

 

(うわ。これ列車テロの時のじゃねえか。なつかしー。そーいや社長のほうから握手してもらったんだっけ。今考えるとすごいことだよな。あ、これ、エルの。これ撮った後でエルが怒ってユティとケンカんなったんだっけ。げ、リドウ! ドヴォールでのアレか。ヤなこと思い出しちまった)

 

 一つエピソードを思い出しては百面相。それは仲間の誰しも変わらないようだった。

 

「ルドガー。写真、直接台紙に貼らないほうが、いい」

「えっ。下に何か敷いたほうがよかったのか」

「違う。のべつ幕無しに直貼りしてったら、最後のほうでページが足りなくて、泣くことになる」

「はは、ごもっともで」

 

 その道のプロのアドバイスに従ってスティックのりを放り出し、マスキングテープで仮留めするにとどめた。そして次の写真を探していたルドガーは、見過ごせない一枚を発見して思わずイスを立った。

 

「こんなのいつのまに撮ったんだっ」

 

 路地裏でユリウスが白猫を撫でている写真をユティに突きつける。

 

「結構前にドヴォール寄った時。レイアがマクスバードで逃がした猫ユリウス。見つけたから追いかけた。そしたら人間ユリウスともエンカウント」

「何ですぐ俺に言わなかった!」

「忘れてた」

 

 ルドガーは再び、今度は本心からテーブルに沈没した。もうイヤだこのカメラフリーク。

 

「で、偶然会ったアルフレドと一緒に届けに行った。飼い主のおじいちゃんに」

「慈善事業家のじーさんだったんだけどな。娘二人亡くしてるっつってた」

「そばに置いときたくなる気持ち、分かる気がします」『おじーちゃん、寂しいんだね~』

 

 写真には白猫を抱えて闊達な笑みを浮かべる老人。いかにもその筋らしきハゲ頭にサングラス。

 

(ほんっと人は見た目で測れないよなー)

 

「プリンセシアの花二輪、献花に持ってこいって依頼もあったよね。そのままア・ジュール地方の親睦旅行に突入したやつ!」

「あったあった。思いがけず姫の故郷に行けてラッキーだったよな」

 

 アルヴィンが選び出したのは、エリーゼの生家跡地のプリンセシアの花畑で撮った集合写真。

 この写真を撮った後、エリーゼの実の両親の死とエリーゼ自身の過去の断片を打ち明けられた。過去に負けずに笑う彼女をルドガーも応援したくなった。

 

「あ、これ。ドロッセルのお屋敷です」

 

 エリーゼが持つのは、ドロッセルの依頼で屋敷の「害虫」駆除をした時の一部始終を収めた写真。

 本気の女二人+ぬいぐるみと、諦め半分の青年+老人がアレを追いかけ回す構図はかなりシュールだ。

 

「これもシャール家……だけどちょっと雰囲気がちがうね。ローエン、覚えある?」

「ああ、こちらですか。エリーゼさんが『ルナ』さんと仲直りの電話をされた時の様子ですね」

 

 真剣にGHSに話しかけるエリーゼと、それを見守るローエンとルドガー。少女の成長の1ページ。

 

「む。これは……カーラか? お前たち、いつ会っていたんだ」

 

 渡り鳥の風切羽を手にVサインの女性講師に、ガイアスが物申してきた。

 

「ガイ…アーストはその時いなかったもんねえ」

「えっと、依頼があったんですよ。渡り鳥の風切羽がほしいって。その羽で作った羽根ペンは千年消えない文字が書けるとか」『そのペンでガイアスの伝記書くってカーラ張り切ってたんだぞー』

「俺の? カーラの奴、俺に許可も取らず何をやっているんだ……」

 

 文句を言いつつも決して妹を否定せず写真の選別に戻る王様。数人が忍び笑いを漏らした。

 

「これとこれはレイアのじゃない?」

「んーどれどれ? あ、そうそう! リーゼ港とカン・バルクで取材した時のだ。ありがとジュード~!」

「あとは……あ」

「ナニナニまだあった? ……あ」

 

 ジュードが見つけたのは、レイアと、分史世界のアグリアのツーショットだった。

 並んで歩くふたり、ケンカするふたり、協力してバングラットズァームを退治するふたり。正史では決してありえない「ふたり」の光景。

 

「レイア……」

「ん、大丈夫だよ。忘れないって決めたもん」

 

 レイアはアグリアがいる写真を集めて、ていねいに向きを揃えた。

 

「そーゆー意味では、こっちもおんなじ?」

 

 エルが差し出したのは、ローエンとナハティガルがオルダ宮で語らっている写真。さらに、ローエンの手に載った古びた髪飾りの写真。

 

「ええ、大事な――本当に大事な記録です。ありがとうございます、エルさん」

「こっちも?」

「それは――」

 

 ローエンが和平反対過激派と密かに激闘をくり広げる様と、先日の宰相誘拐事件の一部始終が映っていた。

 事情を知らなかったジュード、レイア、アルヴィンが詰め寄る。釈明に必死で指揮者(コンダクター)形なしだ。

 

「ローエン」

「報告が遅れて申し訳ありません、陛下。不肖ローエン、僭越ながら暗躍させていただきました」

「お前のことだ。抜かりなく準備してから実行したのだろう。暗躍自体は咎めん。が、次からはどんな形であれ意を伝えていけ。王が宰相の行動も把握していないとあっては民に示しがつかん」

「御意にございます」

 

 恭しく礼をするローエン。

 

(ガイアス、心配だったなら素直に伝えればいいのに)

 

「しかしそうおっしゃるガイアスさんこそ、四象刃(フォーヴ)の皆さんと写ってらっしゃるではありませんか」

「何だと? ……何だこれは!」

 

 ガイアスが見咎めた写真は、モン高原でウィンガル、ジャオ、プレザ、アグリアがふり返り、ガイアスに「友だ」と笑いかけたシーン。

 

「撮っちゃいました」

「撮られちゃいましたねえ、ガイアスさん」

「……くっ。この俺に気配も悟らせんとは……!」

「座して待ってもシャッターチャンスは来ない。ベストショットのためなら盗撮もいとわない」

『盗撮ゆっちゃったー!』「ユ、ユティ、さすがに公言はまずいです!」

 

 当のカメラマンは「今日、耳、日曜」とばかりにわざとらしく耳を塞ぐのだった。




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