レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

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 彼はちゃんと人を愛してくれたかしら?


Mission9 アリアドネ(3)

 

 ユティはエルとジュードを連れてチャージブル大通りへ戻り、駅へと歩いていた。

 ルドガーとミラの会話の流れによっては、誰もがあの場にいるのが気まずくなりかねない。港の宿で待ってもよかったのだが、彼らの話し合いがすめば烈火怒涛の質問大会だろうから、マクスバードに向かいやすいよう駅の近くで待っていたほうが無難だ。

 

「ユティも分史世界から来た人間だったんだね。ミラさんと、同じ」

 

 ちょうどクランスピア社の前に来たところでジュードが口を開いた。ユティは足を止めてジュードを顧みた。

 

「ええ。イバルやDr.リドウの言うとこの『紛らわしい』『ニセモノ』」

「ニセモノなんかじゃないし!」

 

 エルがユティの前に回り込み、ユティに詰め寄った。

 

「ミラはミラだよ! ユティだってユティだし!」

「――アリガトウ。エルみたいな見方の人はレアだわ。大事にしないと、ね」

 

 片膝を突き、潤むエルの目をまっすぐ見返した。澄んだ翠色がこの先も両目共に(・・・・・・・・)翠であればいい(・・・・・・・)と想う。それはユティの本心だ。

 

「分史から正史にってことは、もしかして、ユティの世界はミラさんと同じ――」

「ストップ。ジュード。その先はルドガーとミラの件が終わってからって、言ったでしょう」

「ご、ごめん」

「エルもね。『審判』や一族関係については全員が揃ってからじゃないと、話さない。同じことを話すのは二度手間で、疲れるの。心、が」

「分かったよ。ごめん。僕が無神経だった」

「気にしない。謝られたいわけでも、悲劇を想像してほしいわけでも、ない」

 

 ジュードは消沈した。静かになって助かる、と考えるユースティア自身を、他ならぬユティが重く感じた。

 

 

 何となく停まっていた一行はまた歩き出した。5分と経たず、エルが次の質問を投げかけた。

 

「ねえユティ。ルドガーがミラに伝えたいことって何なの?」

 

(これはクルスニク関係じゃないから答えていいか)

 

「オトコとオンナのQ&A」

 

 エルは首を傾げていたが、意味を理解したらしくボンッと真っ赤になった。

 

「あれ? ひょっとしてエルもそうだった? ごめん、失敗した。お詫びに後でチャンス作って」

「ちちちちちちちちがうもん! ルドガーはエルの…! エル、の…」

「『ルドガーはエルの』?」

「アイボー、だから……」

 

 ――ユティが最後の「道標」を持っていたことで「あの」分史世界に行く必要はなくなった。ミラは命を繋いだが、代わりにエルは真実を知る機会と父親との再会を失った。エルはこの先、父親が正史世界のどこかにいて、ルドガーと自分は赤の他人だと信じて疑わないまま大人になるのだろう。

 

 エルが黙り込んだ所で、今度はジュードが質問を発した。いつから順番制になったのだろう。

 

「……あのさ。ユティは、ルドガーとミラさんの子なんだよね?」

「違うよ?」

「だよね……ってあれ!? だ、だって、クルスニク、って、え、ええっ?」

 

 横でエルも、顔文字みたく丸目四角口でショックを受けている。可愛い。幼さと身内の欲目を引いても可愛い。ルドガーが羨ましい。

 

「そう勘違いさせれば、あの二人が腹を割って話す口実になると思って」

「えー……」

「ユティ……ワルだね」

「ナァ~」

「そうよ。ユースティアは性悪。今頃気づいたの?」

 

 呆れるジュードとエルを、斜め下から見上げるようにふり返った。

 

「まあ、わざわざあそこまでする必要があったかは、ワタシ自身も疑問。ただ、彼は不気味なくらい簡単に自分をなげうつ。まるで絶壁の綱渡りに迷いなく踏み出すような。だから、そうできなくなってもらおうかと思って」

「ええっと。それって要するに、ルドガーに自分を大事にしてほしいってこと? ミラさんとの仲を後押ししたのは、ルドガーがもっと慎重になってくれるように、大事な人を作ってもらおうとしたの?」

「正解」

 

 父からの言いつけにあそこまでは含まれていなかったが、ユティが教わった過去の出来事だけでは、ルドガーは兄以上に大事なものを作らなかった。

 憎ませるのは簡単だが、愛させるのも簡単。ミラをターゲットにしたのは、だから。

 

「ただね、愛は別れない理由にはならないの。ジュードはよく知ってる、でしょう?」

 

 ジュードははっとし、胸の中心を握った。おそらくは、そこに提げているペンダントを。

 

「ルドガーがどんなにエルやミラとの仲を深めても、ルドガーがそれに執着しないんじゃ意味はない。愛に執着がないのは、この世に未練がないのに似てて、危うい」

 

 ルドガーを死なせないため、ユティは今日まで叶う限りの手を打ったつもりだ。手数の内、どれが当たりでどれが外れかまでは心を覗けないユティには分からない。――結局、最後の判断はルドガー次第なのだ。

 

「エル。エルはルドガーのアイボーよね」

「うん」

「ジュード。アナタはルドガーの友達?」

「もちろんだよ」

「なら二人とも、この先ルドガーがどうしようもなくなったら味方、してあげて。ワタシ一人じゃ役者不足だわ」

「――約束するよ。友達、だからね」

「エルも! エルはルドガーのアイボーだもん」

「ナァ~!」

 

 ユティは肯き返した。――天秤の皿に載せる重りは多ければ多いほどいい。数こそ力だ。ミラがいる、エルがいる、ジュードがいる。その認識はルドガー・ウィル・クルスニクを無意識下で縛り、父が望んだ選択肢へとより近づける。

 

(とーさまはただ弟を守ることだけを願ってた。ルドガーにどうしろなんて言わなかった。これはユースティアからとーさまへのプレゼント。とーさまが欲しがった結末を、ワタシが仕組むんじゃなく、ルドガーが自身の意思で選ぶ。それが何よりも、あの人たちの手向け花になると信じて)

 

 

「あ」

「わっ。なに?」

「『道標』、持って来ちゃった。コレ、分史対策室に預けてくる」

 

 ユティは踵を返した。

 

「って、今から!?」

「ルドガーとミラの話し合いが終わってからじゃタイミング、逃す」

「はあ~、もう……行ってらっしゃい。僕とエルはここで待ってるよ」

「早くしてよっ」

「ナァ~」

「10秒で行ってくる」

「そのスピードは力学的にも物理学的にも無理! 普通のペースでいいから」

 

 ジュードには答えず。ユティは砂埃を上げてクランスピア社まで走って行った。

 

 

 

 

 

 

 本社ビルの正面玄関はそこだけで一つセレモニーが催せるほど広い。現に新入社員の入社式はここで行われているという。

 

(若い頃、クランスピア社に正式入社した頃のユリウスは、ここに立ってどんな想いでビズリー社長の訓示を聴いていたのかしら。どんな想いで、毎日この場所を行き来し続けたのかしら)

 

 ユティはお守りのように最後の「道標」を握りしめ、意識をシフトした。

 

「そういうわけだから。ミラにちょっかいかけないでね、お医者さん」




あんだあ「あんだあでーす(≧▽≦)」
るしあ「るしあでーす(・д・。)」
あ・る「「二人合わせてあんだるしあでーす(≧▽≦)(・д・。)」」

あ「 S A N 値 が 直 葬 さ れ た 」
る「いきなり何ぞ!?」
あ「作者のマジ二者面談(家庭内)によってPCに逃避することで忘れていた情緒不安定がぶり返した。そこそこヤバイ。予告なしに俺ら消されるかも」
る「……何とも理不尽な。せっかく久しぶりの更新だというのに冒頭から水を差されたではないか」
あ「オリ主ちゃんの隠し事の9割が明かされる段取りが付いたのが唯一の救い。次々回でやっと彼女の分史がどんなだったか明かします」
る「これ。スケジュールだけでなくせめて今回の解説もしてゆくがよい」
あ「う~(/_;)グジュ 今回はね、エルたんのルドガーへの感情がほぼ恋愛だと分かったってとこ。テイルズじゃソフィたん以来「ロリを恋愛対象(ヒロイン)にしていいのか?」って議論がされてきたと思うし、エルたんでも議論したお人らがおられると思うのよ。で、しかも本作ヴィクトル分史カットだからエルとルドガーの仲が知らないとこで禁断に突っ込みかねないっちゅー、「無知への皮肉」を書いてみたかったんだとさ。作者が」
る「おいやめろ」
あ「あー後ねえ。『愛は別れない理由にならない』って台詞を使いたいと思ってたらアレこれジュミラじゃね? よし行け! となった」
る「何が「よし!」かがさっぱり分からぬのだが……。重ね重ね申し上げてすまぬが、ここからは一気にラストへ向かう。もうしばしお付き合い召されよ」

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