レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

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 この世界は 異常だ


Mission9 アリアドネ(6)

「造った、って、兄さん、が?」

 

 正史世界に送り込むためだけに子供を産んだ?

 

 目的のために大事なものを無視しすぎている。具体的に何を無視しているのだと問われたら答えられないが、とにかく、可能性の中の兄はおかしい。男としても父親としても非道すぎる。

 

「まさかユティの母さんが出て行ったのって…!」

「かーさまは世界が終わるまでとーさまの理解者だった。かーさまは、ユースティアを産むための結婚だって理解してた。自分がいたらとーさまの邪魔になるって自分から身を引いた」

 

 ユティにあるまじき早口で遮られた。まるでルドガーが言いさしたユリウスへの批判を封じるような。

 

「大博打だったってさ。いくらおばあちゃまが『鍵』だったからって、ワタシも『鍵』として生まれるかは分かんなかったんだもん」

 

 自らを「展示」するように両腕を広げるユティが、ピンで縫い止められた夜光蝶の標本に思えた。

 

「でも、生まれたユースティアは『鍵』で、オマケに骸殻まで持ってた。とーさまにとって最高の素材が産まれた。とーさまは賭けに勝った。とーさまは素材を武器として鍛え上げて、正史世界に送り込んだ」

 

 水を打ったように静まり返る。疑問も批判も上がらない。口出しできないほど、未来は絶望的だ。分史であっても、未来軸ならば今から起こりうる可能性だ。ユティの語る終末世界をルドガーたちは回避できるのか――

 

 

「誤解しないでほしいのは、アルおじさまたちは望んでワタシを送り出したんじゃないってこと。アルおじさまも、未来のアナタたちも、ワタシを使わずに世界をどうにかしようとしてたよ。でも、グラスから零れた水が戻らないように、一度溢れた災いは還せない」

 

 ユティはエルの前まで来ると、エルの前でしゃがんで右頬をなぞる。

 

「エル姉は『審判』に負けたのに責任感じて、世界中を巡って、瘴気に苦しむ人たちを助けて回った。その内『ニケ(勝利の女神)』って呼ばれるようになった。エル姉はスーパーヒロインで、存在そのものが人々の希望だった。ワタシも少しだけ、憧れた時期、あったから」

「エ、エルがお姉ちゃん? …ユティのあこがれ…みんなのキボー…」

 

 ほんわ~とエルがトリップする。危険域に行く前にとルドガーはミラにエルをパスした。

 

「でも、そんな状況なら、源霊匣(オリジン)研究はもっと進められそうなものだよね。その辺の事情はどうだったの?」

 

 ユティは立ち上がり、ジュードの正面まで行って告げた。

 

「ワタシは16年間『番外』で暮らしたけど、源霊匣(オリジン)なんてモノ、聞いたことも見たこともなかった。生活はすべて、黒匣(ジン)

「……今までの成果がそれかあ……ちょっと堪えるな」

「ジュード」

「うん、分かってるよレイア。すぐに上手く行きっこないって。でも、先に結果言われちゃうと、ちょっと、へこむ」

 

 レイアの手がジュードの背中をぽんぽんと優しく叩いた。ジュードはされるがままレイアに体を預けた。

 

 次にユティはアルヴィンの前まで歩いて行き、アルヴィンの手を持ち上げて包んだ。

 

「ワタシたちが山奥で生活できたのは、アルおじさまとユルゲンスさんがいたから。二人は瘴気でライフラインが絶たれた土地に物資を供給するお仕事してた。物資を詰んだワイバーンで颯爽と目的地に降りる運び屋コンビ。エル姉と並んで庶民のアイドルだった。アルおじさまたちがお世話してくれたから、山奥でとーさまと二人きりでも、ご飯、困らなかった」

「俺とユルゲンスが……慈善事業に転向すんのか」

 

 ユティはアルヴィンの手をほどくと、ガイアスたちの前まで行き、正式な作法で跪いた。

 

「アーストは相変わらず王様してた。でもローエンが亡くなってから、エレンピオスとの仲がこじれてきて。ただでさえ住める土地が少なかったエレンピオスが、リーゼ・マクシアの土地に無理に移住しようとしたから。新宰相にはシャール家のお嬢様が就いた」

「ドロッセルお嬢様が私の後任ですか」

「その辺の人事は知らない。お国事情だから。全部アルおじさまから又聞き」

 

 横にいたエリーゼの手が恭しく捧げ持たれる。

 

「エリーゼは叩き上げで軍の指揮官に登り詰めた。ローエンの二つ名を継いで、『指揮者(マエストロ)ルタス』。ティポももちろん一緒。『指揮者(マエストロ)』に『指揮棒(タクト)』は欠かせないから。新宰相と対を成す、黎明王の双璧として活躍してた」

「わ、わたしたち、軍人さんになっちゃうんですか」『意外予想外奇想天外ー!』

 

 ユティはふっと笑んで立ち上がり、再びルドガーたち全員を見渡せる位置に立った。

 

「以上がユースティア・レイシィが語れる限りの『もしも』のお話。紳士淑女の皆々様、ご清聴誠にありがとうございました」

 

 大仰な礼をする。場が少しだけ弛緩した。

 これだ。今までにも気づかなかっただけできっと在った、小さな気遣い。

 

 

「結局、お前は俺たちに何を選ばせたいんだ? みんなが救われる未来って何なんだ」

「分からない」

 

 ここまで引っ張っておいてその答えはひどすぎないか。殴るぞ。と、ルドガーが遠慮なく態度に出せばジュードが止めにかかった。

 

「ワタシも過去の全てを知ってるわけじゃないの。だからワタシは、とーさまやおじさま方から聞いた昔話を元に、その場で最善と思える行動をしてきた。時には聞いた通りの出来事を起こさせないよう妨害もしたわ」

 

 少女は曇り空を仰いでから、静かに胸の前で両手を握り合わせた。

 

「後は気が遠くなるほど積み重ねた小さな行いが、最後の『審判』によい影響を与えるよう、ただ、祈るのみよ」

 




あんだあ「あんだあでーす(≧▽≦)」
るしあ「るしあでーす(・д・。)」
あ・る「「二人合わせてあんだるしあでーす(≧▽≦)(・д・。)」」

る「して(なれ)よ。あれだけ気合を込めたが2回で状況説明が終わったぞ」
あ「振り返らない! 全力疾走だ!」
る「早速近日観たアニメに振り回されるでないわ」
あ「だってあくまで状況説明だもーん。気づいてる? これ、番外ユリウスの心理とか一切語られてねーの」
る「言われてみれば未来の方々の心情を意図的に省いたような?」
あ「いえーす! つまりオリ主は背景を語りながらもまだまだ隠し玉を温存しているのだ!」
る「それもどうせラストでぐわーっと明かして読者を( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚ )にすること請け合いよな」
あ「(ノ)・ω・(ヾ)キュ…」
る「そこは嘘でも違うと言わぬか阿呆!」

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