レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

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 だめ だめ やめて!


Mission9 アリアドネ(9)

 ユリウスは反射だけで露店カウンターの外に飛び出した。アルヴィンがユティの抱えて同じ行動に出たのはほぼ同時だった。

 

 隠れていた露店が爆発した。

 店が潰れたことで橋の天井や壁もまた吹き飛ぶ。シャウルーザ越溝橋の一角に穴が開き、乱気流が吹き込む。橋の中にいた兵士や通行人がざわめく、悲鳴を上げる、逃げ惑う。

 

「遊興に付き合うのもここまでだ」

 

 ユリウスは舌打ちした。穴の向こう、空と海を背にしてクロノスが浮かんでいる。

 

 クロノスとの戦闘には終わりがない。いくらダメージを与えてもクロノスは肉体時間を巻き戻して快復する。だからこそユリウスは、この厄介な敵と遭ってしまったら、次元を跨いででも逃げてきたのだ。

 

(ここは正史世界。『いつもの手』は使えない。かといって倒せる宛てもない。どうすれば――!)

 

 クロノスが軽く手を上げる。それだけだ。それだけで、ユリウスたちが立つ一画を丸ごと消せる大きさの陣が展開した。

 

「二度は逃がさん。探索者、そして分史世界の『鍵』よ。ここで消滅しろ」

 

 周囲の無関係な一般人ごとユリウスたちを葬る気だ。クルスニクはもちろん、人間を一括りに嫌悪しているクロノスには無関係も一般人もない。このシャウルーザ越溝橋が落ちようと奴には知ったことではない。

 今戦っても勝てない。打開策が、ない。ほぼ諦めた。

 

 だが、まるで諦めたユリウスを殴り飛ばすように、銃声が轟いた。

 

 アルヴィンだ。彼はクロノスではなく、展開した術式のコアを狙って撃っている。架け橋を落とそうとする暴威に持てる全力で抗っている。

 

「ふざけんなよ…! この橋が建つまでにどんだけの人間の苦労があったと思ってやがる…!」

 

 分史ニ・アケリアで再会したアルヴィンが、昔話がてらユリウスに語った。

 ――エレンピオスとリーゼ・マクシアのの架け橋となる。それが彼の決意。

 ――両国のマクスバードを結ぶこのシャウルーザ越溝橋は、人々が両国を行き来するための唯一の道。

 

「アルフレド、ワタシも手伝……」

 

 ユリウスは、夜光蝶の時計を出して今にも変身しようとしていたユティの、腕を掴んで止めた。

 

「っ、なに、離し」

「奴は俺がどうにかする。アルフレドと一緒に下がれ」

 

 この精霊が正史世界にいてはこの少女が、幼なじみの夢が脅かされる。

 倒せないならば、「いつもの手」の逆を打てばいい。クロノスを大規模算譜法(グラビティメテオ)ごと分史世界へ連れて行く。

 

「! ダ、ダメ。だってアナタ、アナタの体、因子化して、もう、」

 

 泣き出しそうな声でしがみついてくるユティ。そんな感情的になれるなら最初からなってくれよ、と逃避気味に思う。

 

「お前は正史に待機しろ。ルドガーのそばから離れるな。クロノスはルドガーを『鍵』だと勘違いしたままだ。俺を突破してルドガーを襲うかもしれない。だから、」

 

 これを他者にさせるのには大いに抵抗がある。だが、ルドガーが命の危険に晒されたあの時、ユティはカメラを捨てて戦った。ユティの実力が確かなのも海瀑幻魔との戦いで明白だ。

 

(この子はルドガーを死なせない。たとえ自分が命を落とすことになったとしても)

 

「お前に()()()()の一番大事なものを託す。()()()()()()ルドガーを守りなさい。できるな、ユースティア?」

「――――、ぁ」

 

 

 どこかで、何かの歯車が、ガキンと噛み合う音がした。

 

 

「とーさまが、そうして、ほしい、なら。ユースティアはルドガーを守る」

「いい子だ」

 

 子供騙しがよりによって自分の娘に覿面に効くなどどんな皮肉か。

 

「安心しろ。クロノスなんぞにやられやしない。ルドガーに悪い未来になると知った以上、死んでも死にきれないからな。すぐに帰るから、信じて待ってろ。アルフレドが一緒なら寂しくないだろう?」

「うん……さびしくない」

 

 ユリウスは前へ向き直り、走り出した。

 走りながらハーフ骸殻に変身し、壊れた壁を伝い、天井から大きくジャンプした。骸殻で強化した跳躍で、遙か空中のクロノスまで肉薄する。

 

「血迷ったか、探索者!」

 

 クロノスがターゲットを修正するコンマ以下の空白。ユリウスは骸殻を解き、銀時計を突き出した。さすがのクロノスもこれには瞠目している。ざまあみろ。

 

(お前なんかに壊させない)

 

 とにかく正史世界から遠い座標をイメージする。最悪、クロノス域外へ出て、時空の狭間をさまよっても構わない覚悟で。

 

 血に流れるクルスニクの力をありったけ開放する。「鍵」でないクルスニクの者でも使える力、次元を超えて別の世界へ行く力。

 

 正史世界から跳び出す寸前、地上を顧みた。

 かつての弟分も未来の娘も無事だった。




(2013/8/15追記)
あ「あんだあでーす(≧▽≦)」
る「るしあでーす(・д・。)」
あ・る「「二人合わせてあんだるしあでーす(≧▽≦)(・д・。)」」

る「して(なれ)よ。まずは本編に後書きが間に合わなんだ事を謝罪しようぞ」
あ「OK相棒。読者の皆様。本来なら一緒に上げるべき後書きをこういう形で付け足してしまい誠に申し訳ありません<(_ _)>」
る「申し訳ありません<(_ _)>」
あ「割と(しばらくお待ちください)で放置の後書き多いかんな~。そろそろ書き足したほうがいいべか?」
る「そろそろでなく迅速に書き足せ」
あ「善処します(゜_゜>)。では今回の解説だ。お待たせした分サクサク行こうぜ」
る「是非も無し。ユリウスがアルヴィンとオリ主にダダ甘な回であった。幼なじみの夢の一部を守るため。未来の娘を守るため。ルドガー命!でないユリウスというのは業界でも珍しいのではないかえ。『ブラコンでないユリウスを描く』との試みは今の所ブレておらんの」
あ「ちょっとヒーローっぽかったヨネ、ヨネ!? 勝ち目がないと仰いますがユリウスさん、本当は娘を因子化するくらい使えば勝てますよ? 無意識に避けましたね? やだーアルの言う通り兄さんいい人じゃないですかー(*^^)>」
る「されどルドガー優先でオリ主に待機命令を出すブレないルドコン」
あ「台 無 し だ よ !orz お前そこまでして天の声に逆らうかチクショウ!」

る「蛇足であるが、シャウルーザ越溝橋建設についてアルヴィンは関わっておらんでの。アルヴィンの台詞に特別な意味があるわけではないぞよ。彼はあくまで一市民として元難民として『両国を繋ぐ唯一の橋』を守りたかっただけぞ。もし誤解された読者諸賢がおられたならば紛らわしゅうて申し訳ない」

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