「いくつもの世界を破壊してここに立っているお前が、ここで世界を放棄するというのか!」
「世界世界うるさいんだよ! そんな現実味のないもんで人の人生に踏み込んでくるな!」
ルドガーは立って吼え返した。初めて、明確に、己の意思で、彼らに反抗した。
世界の存亡と言われてもピンと来ない。壊した分史の命を背負うといっても実感が持てない。だから世界救済のお手本であるジュードらの
「エルの言う通りだよ。あんたたちで何とかしろよ。一度やったことあるなら今度もできるだろ? そう思うから今駆けずり回ってんだろ? 何の権利があって俺のたった一人の兄貴を奪ってくんだ。死んだり殺したり……もう、ウンザリだよ。俺にだってなあ、踏み躙られたら痛いココロはあるし、失くしたくない人だっているんだよ!」
肺の空気を使えるだけ使って叫んだ。酸欠に喘ぐ余裕はない。ルドガーは頭を高速で回転させる。
ジュードたちはユリウスを殺す。心優しい少女たちは別の方法を、と訴えているが、2000年でそれが模索されていないはずもない。現に、ルドガーたちが探しても有効策は見つからなかった。
世界のために個人を惜しんでいられる状況ではないのだと、そう諦めて彼らはユリウスに剣を向ける。
彼ら全員を退けてユリウスを守ることは可能か。
可能ではある。誇張でなく、今日までの任務やクエストでルドガーの実力は彼らを上回っている。8人全員を同時に相手しても殺せる。
だが、敵方にはリーゼ・マクシアの王と宰相、気鋭の
だが、一人でも生かせば確実に彼らは実行する。
ユリウスを連れて逃げるか。ダメだ。ユリウスにはすでに走れるだけの体力が残っていない。
何も浮かばない。ルドガーもまたジュードたちのように心を諦めに支配されていく。どうしようもないから諦めろ、諦めて殺せ。でなければ生き延びられないぞ、と。
(あきらめて、ころす)
次の瞬間のひらめきは、まさに天啓だった。
(あきらめるのは、どっちを?)
――“殺すの。ルドガーとか、ユリウスとか、強い骸殻能力者を”――
なんだ、とルドガーは口の端を歪めた。とっくに解答は示されていたのだ。
ルドガーはユリウスから離れ、ユリウスとも仲間たちとも距離を取った。両サイドから中間に当たる位置に立つ。
「俺が最初の頃の、言いなり人形のままだと思うなよ」
ホルスターの片方から銃を抜いた。戦う気か、とジュードたちも身構える。
どんなに格好つけても、これがルドガー・ウィル・クルスニクの限界。
勝手に挑んで勝手に挫けたピエロの末路。
来るべくして訪れた、似合いのピリオド。
死ぬのが怖かった。死なないためなら他人を殺してやるとついさっきまで本気で思っていた。
なのに今はただ、彼らに思い知らせたい。
世界のためを謳ってルドガーをいいように操ろうとしたカレラに。
ルドガーが何か失敗するたびに「やっぱり」と上から嘆き続けた兄に。
ルドガー・ウィル・クルスニクの命を使って思い知らせてやりたい。
銃を自らのこめかみに押しつけた。息を呑むジュードたち。青ざめるユリウス。
――何てすかっとした気分。
「みんなが、悪いんだからな」
ただ一人の家族を知らない所で殺される辛さ。友だと信じた人たちが隠れて実行する悲しさ。家族である人に欠片も頼られない寂しさ。誰ひとり本当の味方でも理解者でもなかったと思い知らされた、絶望感。
ここにいる誰も、分からなかった。想像もしてくれなかった。ただ裏切るよりたちが悪いではないか。
だから、この結末を招いたのは、最後までルドガーを「情で都合よく操れる人形」としか認識しなかったこの場の全員だ。
指をトリガーにかける。1秒もあれば確実に死ねる。誰にも止められない――はずだった。
「やっぱりこうなった」
抑揚のない声を合図に、広範囲大威力の精霊術が発動し、ルドガーたちを押し潰した。