絶望《ファントム》が希望《μ's》を守っちゃ駄目ですか? 作:帆金 焔
(……………)
無防備な少女の背後に忍び寄る影…。
(……………)ニヒッ
影は己の欲望を満たそうと、両手を少女の背後から伸ばし──
「……いい加減わしわし止めないと、貴女の部屋に大量のキャラメルを送りつけますよ?」
──たものの、私の言葉によりその動きを止めた。
「なんや、気づいとったんやね」
学校帰りの神田明神。
振り向くと、そこには一人の乳揉み魔《巫女さん》の姿があった。
「ち、乳揉み魔ってヒドいんじゃないかな…?」
「いや…『東條先輩』、貴女、実際、乳揉み魔でしょ?」
東條 希。言わずと知れた、後にμ'sの一人となる人物であり、スクールアイドル『μ's』の名付け親でもある。…あと、女の子の胸をわしわしする乳揉み魔だ。
「だから、乳揉み魔違うもん!」
「はぁ…私も何度揉まれたことか…」
「む~~…!……はぁ~。最近、雪穂ちゃんの反応が冷たい…」
「何言ってん「初めて会ってから間もない頃は、『の、希さん……私の胸、また成長したみたいで……そ、その…触って確かめてくれませんか…?』って頬を赤らめながら言うてた雪穂ちゃんが可愛」おいコラッ、黙れ変態…」
はぁ~……ったく、この人は…。
「…あのですね、東條先輩」
「……む~。東條『先輩』やなんてよそよそしいから、『希』って呼んで言うてるやん 」
「はぁ~…希さん。そもそも貴女」
「ん?何や?」
「私《僕》の中身が『男』だって知ってるでしょうが」
そう、希さんは知っている。
私が『ファントム』であることも、『転生者』であることも、前世の性別が『男』であることも全て。
どうしてかって?そんなの、私が話したからに他ならないんだけど……それにはちゃんと、希さんとの間にそうなる出会いがあったからだ。
今回はそれを話そうかと思う。
私と希さんの出会いは今から半年ほど前──
〇〇〇
(…ここ…は…?)
僕は無事、転生を果たした、のだろうか…?そう疑問を感じざるを得ない状態だった。
暗い。
感覚はある。立っている感覚も目を開けている感覚も体が動く感覚も、間違いなくしっかりと。
ただ、暗い。自分の身体さえ見えないほどの暗闇だった。
それに、凄く気持ち悪い。乗り物酔いとかそんな気持ち悪さじゃなく、とにかく気持ち悪かった。一分一秒でも早くここから抜け出したい、そんな強い衝動が僕を走らせる。
先なんて見えずとも走った。『何か』がまとわりつくような感覚があろうとも、それを振り払って走った。
どのくらい走っただろうか…、光が見えた。
遠くて小さいのか、小さくて近いのか距離感が分からない。それでも直感で分かったことがある。
あの光で僕は助かる。
走った。あの光を掴もうと、手を伸ばしながら必死に走った。
『誰かの悲鳴のような雑音』が聞こえるが、知ったことじゃない。僕は早く、ここから出たいんだ。
走って、走って走って、走って走って走って、走って走って走って走って──
漸く、その光を掴んだら瞬間──
《お…………姉……ちゃ……ん……………》
そんな、誰かの呟く声が聞こえたような気がした──
〇〇〇
「……?」
最初に見たのは曇天の空だった。
上半身だけを起こし、周りを見る。
どこぞの海に面した岩場、見覚えは……あった。
仮面ライダーウィザード本編にて、操真 晴人がウィザードになるきっかけとコヨミ嬢との出会いを果たしたあの場所と同じなんだ…。でも──
「…何で『私』、こんな所に……」
……ちょっと待て。『私』って何だ、『私』って。『私』じゃなくて『僕』だろうが。
訳がわからず、それでも状況を把握しようと立ち上がろうとしたところで…、
「………えっ?」
自分の手が『異形』であることに気づいた。
手だけじゃない。
全身だ。頭から足の爪先まで、全身が『人間からかけ離れたもの』になっている。
「えっ…?えっ…?」
全身が芯から冷えていくような、気持ち悪い嫌な予感がした…。
ゆっくりと、ゆっくりと、海へと近づき、海面を覗き込む僕の目に映ったもの、それは──
「ひっ……!?」
一匹の『ファントム』だった…。
ま…………待て……待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て!?!?!
な……何なんだ、これ!?どういうことだよっ!?!
「そ……そん………な……」
無意識に、姿が『人間』へと戻る。
「どう………して……」
気が動転して、自分の姿が変わったことに気づかない僕は再び海面を覗き込んで──絶望した……。
「………………………………………………………えっ?」
海面に映るのは一人の少女。
見覚えがある、ありすぎる。『ラブライブ!』を知っている人間なら誰だってその名前を答えられる女の子…。
μ'sのリーダー、高坂 穂乃果ちゃんのただ一人の妹、名前は──
「雪……穂…………ちゃん……?」
高坂 雪穂ちゃん…。
更に気づく。自分には『高坂 雪穂としての記憶が引き継がれている』ことに。
否が応でも、ある事実が僕の心を残酷に貫く。
「殺………し………た…………?」
殺した。
殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した───。
僕は絶望《ファントム》として雪穂ちゃんを──
殺した
「う…………あ…………あ………………………ああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」