絶望《ファントム》が希望《μ's》を守っちゃ駄目ですか? 作:帆金 焔
絶望した。
ただひたすらに絶望した。
そりゃあもう、ファントムを何匹でも生み出せるぐらいに。
「……は……ははっ………私自身が既に絶望《ファントム》なんだ…。新しいのが生まれることはない、か……」
降りしきる雨の中、私はその場を後にした……。
〇〇〇
「…ここって…」
『そこ』へたどり着いたのは、完全に無意識のことだった。
和菓子屋『穂むら』。
…恐らく、無意識のうちに身体が記憶をたどり、私をここへ『帰らせた』のだろう…。
(……違う……)
そう…、違うんだ…。ここは私《僕》が帰る家じゃない……。
そもそも、この世界で私《僕》に帰る場所なんて存在しない…。ましてや、雪穂ちゃんの帰るべき場所に雪穂ちゃん本人を殺した私《僕》が居て良いはずがない…!
(………っ!?)
お店の玄関、その向こう側に誰かの影が見える。
サイドポニーの髪型、……間違いなく『あの娘』だ。
私は怖くなって、逃げるように走り出した…。
〇〇〇
「…………」
参拝客の居ない神田明神。
私は一人、雨に打たれるのも構わず、うずくまっている…。
「……『だって可能性感じたんだ そうだ……ススメ』……」
口ずさんだのは、μ'sの曲の中で一番好きな『ススメ→トゥモロウ』。
それを聴けば、どんなに辛いことや嫌なことが起きようとも、『まだ頑張れる』って気持ちになれた…。
………でも、今回ばかりは全然そうならない…。
私はμ'sの力になりたかっただけなのに…。まさか、転生していきなり、μ'sメンバーの身内を殺すなんてね……。
後悔しかなく…、私の前に、μ'sの皆と一緒に歩ける道なんてあるはずもなく…。
「『後悔した…くない 目の前に───」グスッ
……神様……………。
「…………こんなのって、あんまりだよ…………」
「……こんな所でどないしたん?風邪引いてまうよ…?」
優しく呟く声とともに突然、降っていた雨が止んだ。…いや、降り続いている雨を『誰か』が遮ってくれているんだ…。
『誰か』、なんていうのは変な言い方か…。誰なのかは声だけで分かってるんだから…。ただ…、もっと別の形で会いたかった…。
「……私のことは放っておいてください…」
「そんなわけにはいかんよ。全身びしょびしょやん。私の家、近くだから雨や──」
純粋に、目の前に居る私を心配してのことだろう…。私は差し出されたその手を──
「──放っておけって言ってるだろ!?」
ファントム化した左手で強く払いのけた。
希さんの手から血が飛び散るのを見て、私の心は更に深く後悔へと沈む…。
(あぁ…やっぱり、駄目なんだ…)
μ'sをまた一人、傷つけてしまった……。
私《ファントム》じゃ、μ'sの皆を守れない……。誰も守れない……。傷つけることしか出来ないんだ…。
私はファントム化を左手から全身へと広げる。
『化け物』に抱く感情なんて畏怖が当たり前、構う人間なんて居やしない。
さぁ、恐怖し、逃げろ。
(……お願いだから)
私にこれ以上、貴女達を傷つけさせないで……。
「……見たら分かるでしょ?私は『化け物』なんです…。…お願いですから、放っておいてください……」
ファントム化を解き、私は立ち去ろうとした。
パシッ
腕を掴まれる。
「──離し「放っておくことなんて出来ないっ!」……えっ……?」
振り向けばそこには、何故か泣きそうな顔をしている希さんが居た。
「たとえ、あなたが人間じゃなくても…。……そんな、見てるこっちまで泣きたくなるような悲しい顔をされてちゃ、放っておくことなんて私には出来ないししたくもない‼」
分からなかった…。
私を『化け物』だと認識したはずだ、人間が化け物に恐怖しないわけがない。
なのに何で…、そんな言葉を叫ぶことが出来るんだ…?
「どう……して……。私は…………化け物……なんですよ……?」
「……うん、分かってる……」
「わた……し……は……貴女を………傷つけたんですよ……?」
「…大丈夫大丈夫。こんなの、かすり傷程度と思えば」
「……わ……わた……私……は……」
「…………心配しないで──」
希さんは私を、そっと抱き締めて呟いた。
「──私はあなたを否定したりなんかしない…」
その言葉がどれだけ嬉しかったことか…。
誰かの言葉が嬉しくて泣きそうになるなんて、前世を振り返ってもそんな記憶はない。
この人で良かった…。最初に会ったのが希さんで本当に良かった…。
そう思った途端、緊張の糸が切れたのか全身の力が一気に抜け、私の意識は途切れた──。