少女よ、大志を抱け 作:七瀬 凌
”神様はこの世にいる”
今僕がそれを高らかに宣言しよう。なぜそんな中二病じみたことを言ったかって?
中学二年生だから?違う。
左手が疼くから?違う。
現実逃避の最中だから?違う。
ーーどれも違う。正解はたった一つ。真実もたった一つ。
「あ、俺、神様!よろしくっ」
目の前に神(自称)がいるからだ。…あ、ちょっと待て、落ち着け、ページを閉じようとするんじゃない!
あーあー、こほん…話を続けよう。さて、一応断っておくが僕は馬鹿じゃない。目の前で自分が神だと言い張る人間を見て、あいつは神だ!なんていちいち信じない。
生まれた時から不況の真っ只中で生きてきた。夢も希望もクソもない世界で、ただ平穏に公務員にでもなって食をつなごうと思っていた現実的な僕。
そんな健気で慎ましい僕がどうして神がいるなどとほざいたのか、それはひとえに目の前にいる男の神々しさによる。
まず何かっていうと、眩しくて顔が見えない。声は聞こえるが、その声もものすっごく心地よい声(喋ってる言葉が馬鹿っぽいのを忘れそうになるほど)。こんな存在見たことがない!!だから僕はとりあえずこの自称神を神と認めることにしたのだ。
そもそも神とはなんなのか、と考え始めればキリがないのでここでは人知を超えたものとしておこう。目の前にいるヤツは間違いなく僕の常識の範囲内を超えたもの、だから僕はヤツを【神】と呼ぶ。
「実はさ、君死んだの」
出たよ。
おきまりの『あー、お前俺のミスで殺しちゃったわ』パターン。転生ものの小説によくありがちで、ありふれて、ぶっちゃけありえないパターン。
「あ、違う違う。俺のミスじゃねぇよ?俺がミスるわけねーじゃん。これはー…なんつーか、あれだ。神様クジっつーので、お前が運良く選ばれたってだけ」
「神様…クジ?」
「そうそう、年末恒例のアレよ。年末の総決済で神様んとこに死んだ奴の番号が書かれた紙が来るんだよ。んで、その番号が正月過ぎてちょっとしてから抽選が行われてな、選ばれた奴が神様に呼び出されるわけ」
年賀状じゃねぇか。
「あー…まぁ、これは人間の真似して始めたからな。だけどこれがまた結構評判よくってさあ」
ケタケタと笑う神。どうでもいいわ…って僕いつの間に死んでたわけ?まだぴちぴちの中二なんですけど。
「あ、ちなみにお前三等ね」
「三等?一等はなんなの?」
「生き返り券」
「マジで!?そんなのあるの!?つーかいいのかよ、生き返らせて!死んだ奴を生き返らせるなんてそんなことっ…」
思わず興奮して目を見開いて目がやられた。ちくしょう、眩しすぎる。太陽を直視したとき並みに眩しい。
「おいおい俺を誰だと思ってる。神様だぞ?」
…ムカつく。無駄にいい声だからなおさらむかつく。チッ、と舌打ちしたい衝動に駆られたが目の前にいるのは一応神様、下手に機嫌を損ねるようなことしないほうがいい。
ふぅ、と息をついた。
「…それで、三等ってなんなの?」
「よくぞ聞いてくれた。三等は別の世界での生き返り券だ」
「別の世界?」
「おうよ。どの世界に行きたい?」
「どの世界って言われても…どんな世界があるのかわかんないんだけど」
「んー…そうだな。忍者とかバスケは募集終わっちまったしなぁ…料理とか暗殺もあるけど…無難に海賊とか行っとく?」
なんだかどこかで聞いたことがあるような話だ。…これは、僕が生前読んでいた漫画じゃないか?
「あっは、バレた?お前の頭ん中にある記憶から引っ張り出してきたんだけどよー…お前もうちょっと遊べよ!!人生楽しめよ!!お前の人生クソつまらねぇ」
急にボロクソに言われた。なんて失礼な神だ。僕は僕なりに楽しんでいたのに。
「せめて祭り行ったらカタヌキだけして帰るのやめろよ!友達も困ってんじゃねェか!!」
そんなところまで見るのか。カタヌキの楽しみを知らないとは…難儀な神様だ。
「はぁ…まぁいい。んで、海賊でいいな?海賊行ってハーレムでも作りやがれ」
確かに…あのスーパーボインなキャラクターたちに囲まれたら楽しそうだ。
「よし、じゃあ行ってこい!チチに揉まれてこい!」
チチは揉むんじゃないのか?と思いつつも白くなる視界に、ぎゅっと目を閉じた。
「あ、ちなみに向こうではこっちの記憶しばらく消えちゃうからな〜」
そういうことはもっと早く言え!!と突っ込もうとした時、身体が水に包まれたような感覚に陥って意識が途絶えた。
***
眩しい光に、目を覚ます。
「ぅ…」
起き上がって、辺りを見渡す。そこは森…というよりジャングル。なにも手入れをされていないような木々や草が生い茂っている。
不意に、木の上にいた金髪の少年と目が合う。なんだか品が良さそうな雰囲気が漂っていて、このジャングルにはミスマッチだ。
「やっと起きたか」
「…あんた、だれ?」
「おれか?おれはサボ。お前は誰だ?」
「ぼく?ぼくは…」
なんだっけ?えぇっと…あ、そう、ハーレムだ。ハーレム作るんだ。
「はーれむ」
「ハー・レム?レムって言うんだな」
なんか違う。なんか違うけど訂正するのも面倒だからそれでいいか。それにしてもなんだこの舌ったらずな感じは。うまくしゃべれなくて気持ち悪い。
「お前、昨日海に廃材と一緒に打ち上げられてたんだ。エースが助けなきゃ死んでたぞ」
「えーす?」
「あぁ、エースって言うのは…」
「おいサボ」
どこからか、声がした。
「あ、エース!ちょうどよかった。お前が拾ってきた子供、今起きたんだ」
黒い髪に、頰にそばかすのある活発そうな少年。こちらはジャングルにしっくりくる感じがする。…というか、子供に子供って言われると腹立つ。どう考えても僕の方が年上だろ。ん?僕って何歳だったっけ?まぁいい、とりあえず助けてもらったなら礼を言うべきだな。
立ち上がって、そのエースという少年の方を向く。
「たすけてくれて、ありがとう」
…やはり違和感が拭えない。なんだこの幼稚園のお遊戯会みたいな喋り方は。それに視線がおかしい。なぜエースという少年の方が僕より背が高いんだ?
「…別に」
そう言って、ふいっと顔を逸らした。
「つーか、お前も捨てられたんだろ。そんなちっせぇのに」
捨てられた!?なんて物騒な響きだ。でもよくよく考えてみれば僕はハーレムってやつをつくるって目的しか知らない。ここがどこだかわからないし、自分がだれなのかもわからない。
「だからおれの子分にしてやる」
「こぶん?」
なんだその小物臭漂う感じは。それにこいつ、なんでこんなに偉そうなんだ。
「やだ、ぼくはこぶんになんてならない」
「なっ!?お前、だれが助けてやったと思ってんだ!」
そう言って怒り出したエースを、サボがなだめる。
「まあまあ、落ち着けよエース!相手は子供だぞ?」
お前たちも子供だけどな、と思いつつも黙っておく。これ以上怒らせると殴られそうだ。殴られたら殴り返すけど。
「お前なんか俺たちの子分にならなかったらな、すぐにのたれ死ぬんだからな!!」
なんて言い草だ、聞き捨てならない。
「ぼくはそんなによわくない!!」
「じゃあ勝手にしろ、おれは知らねェ!!」
「エース!!」
怒って出て行ってしまった。だがウマが合わなかったのだ、仕方ないだろう。
「ったくあいつは…気が短いんだから…」
やれやれ、とため息をつくサボ。
「さぼ」
「ん?」
「おなかすいた」
ぐーー、とおなかが鳴る。やはり人間の三大欲求には抗えない。
「しかたねェな、じゃあ狩りに行くか」
「かり?」
ジャングルの中。周りは鬱蒼としていて、気味が悪い。よくわからない鳥の鳴き声とか、カサカサ動く音とか。
「お、あれ食えそう」
「あれ、って…」
目の前にいるのは自分と同じくらいの大きさのイノシシ。あんなのに突進されたらひとたまりもないだろう。背中を冷や汗が流れる。
「よし、ちょっと待ってろ」
サボはそう言うと、イノシシに突進して行った。イノシシが突進してきたんじゃない、イノシシに突進して行ったのだ。
「さぼっ!!」
サボが危ない、と思ったけれど、彼は持ってる棒でうまいことイノシシをやっつけてしまった。なんてやつだ。第一印象の上品そう、が一気に覆された。7歳かそこらの子供が、自分と同じ大きさの獣をやっつけるなんて。
サボはすっかり伸びてしまったイノシシを縄でくくり、ズルズルと引きずる。それから火をおこすと、それを焼き始めた。なんて野性的なんだ。
辺りはもう日が落ちて、暗くなっていた。
「ほら、食えよ」
渡されたのは骨がついたままの肉の塊。
「いただき、ます…うまっ!!」
恐る恐る口にして、その美味しさに目を丸くした。空腹だったから余計に美味く感じるのかもしれない。
「だろ?ここの動物はちょっと凶暴だが、倒せるようになればこっちのもんさ」
まさか食べ物を取るところから始めるとは驚きだ。ここでは相当なサバイバルが強いられるらしい。
「…レム、どうしてエースの子分を嫌がったんだ?」
「こぶんって、かっこわるいから」
「ふーん…じゃあ、おれの妹になるか?」
妹…ん?妹?
「おとうとじゃないのか?」
「弟って…レム、お前女の子だろ?」
ピシャーンッ、と雷に撃たれたような衝撃を受ける。女?僕が女?とっさに股間に手を当てた。そこにあるはずの…男にとって一番大切といっても過言ではないものがない。
「おんなあああああ!?」
ーーこうして、僕の新たな人生が幕を開けた。