少女よ、大志を抱け 作:七瀬 凌
ガープさんに連れられて、着いたのは大きな海軍の船。そこで制服をもらって着替えたが、少々大きい。ズボンはぶかぶかすぎて腰からずり落ちる。「すまんがこれ以上小さいのはないんじゃ、下は適当にはいておけ!」と言われた。なんとも自由な人だ。仕方がないから代わりに、マキノにもらったスカートをはいておいた。ズボンの色と似ているから大丈夫だろう、うん。
早く成長期こないかな。大きいっていいよね。強くてかっこいいし。僕は是非ともガープさんくらい大きくなりたい。ムキムキになりたい。
「それでガープさん、この子は…」
おそるおそる、といったような感じでガープに声をかける海兵。
「わしの孫じゃ。海兵になりたいと言っておってな、連れてきた」
ガープさんはそう言って、ポン、と僕の頭に手を置いた。
「「「ええぇええええ!?ガープさん孫いたんすか!?」」」
一斉に両手を挙げて目を見開いて驚く海兵達。海兵ってコント集団だったのか?
「それに連れてきたって…この子まだ子供じゃないですか!」
驚愕する海兵たちに、にこりと微笑む。
「よろしく頼むっ!」
マキノに習った敬語を使って挨拶をした。海兵たちが動揺しているように見えたが、まあそのうち慣れるだろう。
船に乗り始めて1時間くらいすると、ガープさんは寝はじめてしまった。…暇だ。見張りの海兵にでも話しかけるか、と思いザッと周りを見渡せば、こちらに向けていた顔を一斉にそらす海兵たち。…よし、とりあえず僕が話しかけても大丈夫そうな人に話しかけてみることにしよう。
「ねえねえおじさん」
「うん?どうした?」
僕がいても唯一こちらを向かず、ずっと真面目に見張りをしていたおじさんに駆け寄って話しかけた。
「海軍って、誰が一番偉いんだ?」
「そうだな…今は元帥のセンゴクさんだな」
「センゴク…その人倒せば僕が元帥?」
「ははは、面白いことを言うんだな。海軍は海賊を倒して、功績を挙げた数だけ位が上がる。もし仮にセンゴクさんを倒したとしても、反逆者として捕らえられるだけだぞ」
「ふーん…」
つまり海賊を片っ端から倒せばいいんだな、なんて考えていたら、船が大きく揺れた。
「うわっ…」
「大変です、大佐!!海からバカでかい海王類が出てきました!!」
大きな船を見下ろすのは、船の二倍ほどあるんじゃないかと思われるほど大きな魚。グラグラと揺れる船につかまりながら見上げる。
「うわー、おっきいー!」
「グズグズするな!!大砲を撃て!!」
ドーン、ドーンっ、と大砲を撃つが、これっぽっちも効いてない。あんな大きな魚にとっては蚊に刺された程度だろう。
「っ、くそ。なんでこの海域にこんな大きな海王類がいるんだ!ガープ中将を起こしてこい!!早く!!」
焦る海兵たち。ドタバタと船の上で走っている。
「ウオォオオオオオ!!」
魚は大きく威嚇の声を上げると、船に噛み付いてこようとする。このままじゃ海でも息ができる僕は大丈夫だとしても、船に乗ってる海兵たちが危ない。
「ストップ」
僕は魚の前に立って両手を広げて、そう言った。
「おい君!!危ないぞ!!何し、て…る?」
魚は止まり、僕をジッと見る。大きな目と僕の目が合った。
”攫われたんじゃないのか、天に愛されし一族の末裔よ”
「まさか。僕は僕の意思でここにいる」
っていうか、天に愛されし一族の末裔ってなんだ。
「え…おい、どうなってる?」
「なぁアレ…喋ってないか?」
ヒソヒソと喋り合う海兵たち。ギョロリと魚が目を向ければ、ヒッと引きつったような声を出して尻餅をついた。
”…どうやら勘違いだったようだ。驚かせてすまなかったな”
「ううん!間違いは誰にでもあるものだよ。今は見張りの手伝いしてるから、今度会ったらもっと話そう」
ちゃんと謝れるなんて、この魚はいい子だ。大きくてカッコイイし、ぜひとも友達になりたいが今は仕事中。魚は僕の言葉に返事をするように一鳴きしてから、海の中へと戻っていった。
「え、も、戻った?」
「っていうか今…」
「ぶわっはっはっ!!面白いもんが見れたわい」
大きな笑い声に振り返ると、そこには上機嫌な顔をしたガープさんがいた。
「あ、ガープさん。起きたの?」
「あんなに大きな声で海王類が吠えとったら、わしも起きるわい」
「かいおうるい?」
「海に住んどる化け物みたいな大きい魚のことじゃ。今のやつがいい例じゃな。この海域にはぎょうさんおるんじゃ。あんなに大きいのは滅多にいないはずなんじゃがな。それに、海軍の船には滅多に攻撃せんようになっとるんじゃが…レム、お前話せるのか?」
「うん、魚とは昔から話せるよ。あんなに大きいのと喋ったのは初めてだけど」
世の中にはあんなにデカイ魚もいるのか。
「そうか。さすがわしの孫じゃ!!」
わしゃわしゃっと大きな手で頭を撫でられた。なんだかよくわからないけど、褒められたことに嬉しくなって笑った。
「この子を頼む!」
海軍本部に着き、ガープさんに連れてこられたのはアイマスクをしている男のところ。
「なんですかガープさん、いきなり〜。びっくりするでしょうよ」
よっこらせ、と立ち上がる男。その背の高さに驚いた。ヒョロっとしていて細長い。僕の二倍はありそうだ。
「わしの孫じゃ」
「え?ガープさん孫いたんすか?」
なんだろう、このだらけきった喋り方は。海軍ってもっとシャッキリしてるものだと思ってた。天然パーマっぽい髪、眠そうな目、棒のような長い身体。
「じゃあ頼んだぞ!わしゃセンゴクに呼ばれててすぐ行かにゃならん!」
「え?ちょっと待ってくださ…あーあー、行っちゃった」
取り残されたのは僕と目の前にいるノッポ。この男は、強いのだろうか?まあきっと、そんなに位は高くないだろう。僕は海軍に入ったばかりで雑用だろうし、この男は雑用のちょい上くらいにいるに違いない。
「えーっと…まぁ、あれだ。お嬢ちゃん、名前は?」
「レム」
「んー、じゃあレム、そこの植木に水やっといてくれるか?」
やっぱり雑用か。
「ああ、わかった。ところであんたの名前は?」
「クザン。でもよく青キジって言われてる」
「そうか、よろしく青キジ!」
ニコッと笑えば、青キジは呆れたようにため息をついた。
「お前さんもう少し敬意ってものを…まあいい。おれのモットーはだらけきった正義だ、よろしく」
「それでいいのか!?」
思わず突っ込んでしまった。
「正義でも、行きすぎるのはよくないからな」
そう言って青キジは、椅子に座るとまたうたた寝をはじめた。