少女よ、大志を抱け 作:七瀬 凌
風邪が治ったからダダンの家を出て、サボの小屋に戻る。
「サボっ」
「おー!治ったのかレム!」
「うん、治った!」
「よかったな」
それから寝るのはサボと同じ小屋で、朝起きて朝食を食べたらエースの家に行きダダンの手伝いをする。1日のノルマをこなしたら夕飯を狩りに行き、帰ってからサボと食べる。
グレイ・ターミナルに行くのはしばらくやめることにした。また海賊にあったらと思うと、少し怖い。
「レムはよく働くなー」
「手際も早いし、いいお嫁さんになれるんじゃないか?」
山賊は話してみれば、なかなか気のいい人たちだった。不満はなかった、不満はなかったが…エース達がなにをしてるのかが気になっていた。最近二人はこそこそと何かをやっている。いや、最近じゃない。僕が拾われたときからそうだった。
まぁ、別に僕には関係ないけど。
「ダダン!洗濯終わったから今日は帰る」
「気ィつけて帰んな!」
「うん!」
弓だけじゃ海賊には敵わない、と思い知って風邪が治ってからずっと廃材で銃を作っていた。威力の強いものは多少腕に負担がかかるが、ずっとサバイバルで生きてきたのだから問題ない。常に二丁の銃を持ち、使ったら弾を補給する。
いつもの帰り道を歩いていると、声が聞こえてきた。
「っ、離せ!やめろ!」
その声はエースの声だった。
「おれたちの金だぞ!!」
サボの声も聞こえてきて、バレないように木の上にのぼる。エースとサボ足元にはキラキラした金がたくさんあった。それを見て、海賊は厭らしい顔で笑う。
「ガキがよくもこんなに金を集めたもんだ、ごくろーさん」
「てめっ…」
男が金に触れようとした手を、撃った。銃弾が男の手を貫通する。
「ひっ、イテェ!!」
それから続けてマシンガンを男達の足元に撃つ。
「な、なんだ!?なにが起きてる!?」
死角からの攻撃に、男達は尻尾を巻いて逃げ出した。木の上から飛び降り、スタッとエース達の前に出た。
「なにしてるの、二人とも。僕びっくりしたんだけど」
「びっくりしたのはこっちだ!!」
「お前、おれたちにも撃ちやがったな!」
「あはは…まぁ落ち着いてよ二人とも。エースとサボなら避けられるでしょ?それより二人とも、先にそれを移動したほうがいいんじゃないの?」
足元を指差せば、思い出したように二人が声を上げた。
「あっ!」
「そうだな!」
「ーー海賊貯金?」
今日とった肉を食べながら、二人の話を聞く。
「あぁ。俺たちは金を貯めて、いつか海に出るんだ!」
「へえ…」
「へえ…ってなんだよ。お前も来たいんだったら連れてってやってもいいぞ」
「僕はいい」
海賊なんてやってる暇ないのだ、ハーレムを作るんだから。それに海賊は嫌いだ。この前誘拐されかけたばかりだし。あのときの恐怖は今でも忘れられない。
二人はそれをわかってるのか、それ以上なにも言わなかった。
最近、水が恋しくなる。それが自分の身体によるものだとわかってるから、毎日のように川に行き水を浴びる。川に浸かればみるみるうちに足は尾ひれとなる。海でも大丈夫だろうが、やはり海はまだ怖い。
はじめは一人だったが、危ないとかなんとかで今では必ずサボかエースが一緒についてくることになってる。別に一人でも大丈夫なのに、と思うこともあるが、それが二人の優しさだと知ってるから断ることはなかった。
「レム、気持ちいいか?」
「うん!」
水の中にいると、安心する。身体を包まれているのが、心地いいのだ。ただ川は流れがあるし、浅いから深くは潜れない。
「そういえば、エースのところに新しい奴が来たんだってよ」
「新しいやつ?」
「あぁ、年下らしいからお前と同い年くらいじゃないか?」
「男?女?」
「男だってさ」
「へえ〜」
どうしてここはこうも男が多いのだろう。女って言ったらダダンくらいしかいない。あれは女とカウントしていいものだろうか?
今日はダダンの家に行く日だ。今は週に3回ほどダダンの家で家事を手伝っている。サボに話を聞いてから初めて来たが、そこに新入りはいなかった。
「あれ?新入りは?」
「それがよー、初日にいなくなってから帰ってきてないにー」
「そうなの?」
ジャングルで獣に食い殺されたのだろうか、それともエースが何かしたんだろうか。エースはああ見えて天邪鬼なところがあるからな。僕もはじめは仲良くなるのに相当時間がかかった。
とりあえず仕事が終わったらどこか探してみるか。
川に行き、魚の声に耳をすます。何度も川に来てわかったことだが、僕は魚の話してることがわかるらしい。今では友達になってしまい、食い損ねたやつが何匹もいる。
”谷のほうに変なやついたよ、姫!”
”変なやついた!”
「谷か…わかった、ありがとう」
魚はなぜか僕を姫と呼ぶ。そんなガラではないのだけれど。尾ひれから足に戻すと、サンダルを履いて谷のほうに行った。
「…あ」
「誰かー!助けてくれー!」
そこには泣きながら狼に追われている少年がいた。どうしてあんなところに、と思いながら銃を撃つ。銃弾が当たったオオカミは、逃げていく。
「よっ、と」
ザザッと谷に下りて、麦わら帽子を被った少年の前に立つ。
「お前誰だ!?」
「僕はレム。ここらへんに住んでる」
「そうか、おれはルフィ!お前今、助けてくれたんだろ!?ありがとうな!」
陽だまりのような無邪気な笑顔に、一瞬言葉が詰まる。ここにいる人間とは、雰囲気が明らかに違う。
「…気にしなくていいよ。ここに来たばかりなら、慣れなくて大変だろ」
「そうなんだよ!なぁ、レム!エースって知ってるか?」
「知ってるも何も、エースは僕の友達だ」
「そうなのか!?おれはぜひともエースと友達になりてェんだよ!どうしたらなれる!?」
まっすぐな感情に、クスリと笑みをこぼす。
「お前ならきっと大丈夫だよ、すぐにエースと友達になれるさ。じゃあ、あとはここを登ってまっすぐ行けばエースの家に帰れる。僕は先に行くよ」
他の場所より比較的緩やかな坂を駆け上がった。
それから少し経った頃、グレイ・ターミナルで海賊達がエースを探してるのを見かけた。またエースが何かやらかしたらしい。エース達の宝のありかに行くと、そのそばですでに海賊達がいて麦わらの少年ーールフィを掴んでいた。
「っ、」
どうやら宝のありかを知ってしまったらしいルフィは下手な嘘をついて連れてかれてしまった。ルフィが連れて行かれた後、エースとサボの二人が出てくる。
「二人とも、何してんだよ!!あいつ連れてかれたぞ!!助けに行かないのか!?」
「どうせあいつはすぐに口をわる。だからまず宝を移動させる」
「でもっ…今のは海賊だろ!?しかもここらじゃやばいって言われてるブルージャムっ…」
エースに口を塞がれた。
「大声を出すな、気づかれる」
エースとサボは五年前からずっと、海賊になるために金を貯めてきた。その宝にかける思いも、相当なものなのだろう。だけどあの少年を見殺しにしていいのか?
「お前はダダンのところにいろ。サボの家は港の入り江にも近くて危ない。わかってると思うが、絶対に海賊には手を出すなよ」
「っ…」
「悪いな、レム。これは譲れねェんだ」
エースとサボはそう言って、宝を別の場所に移動させ始めた。海賊は怖い。エースにもサボにも譲れない夢がある。放っておけばいい、海賊に目をつけられたのが運のつきだったのだと。
”エースと友達になりてェんだ!”
あの陽だまりのような無邪気な笑顔が脳裏をよぎって、ダダンの家に向かっていた足を止めた。見捨てて仕舞えばいいのに。海賊なんて大嫌いなのに。
「くそっ…」
ーーそれでも今あいつを助けなかったら、僕は一生後悔する。
エースとサボの言ったことに背いてグレイ・ターミナルに行くと、そこには子供の泣き声が響いていた。その痛々しい声に、胸がチクリと痛む。殴る音が聞こえてくる。
「おじさん、あそこに子供がいるの?」
「あぁ、そうなんだ。さっきからずっと殴られてて…」
「なにかを隠してるみたいなんだが、ずっと黙ってるんだ。言ってしまえばいいものを…」
二丁の拳銃を持ち、セットする。
「おい嬢ちゃん!行っちゃダメだ!!」
手も足も、震えていた。それでも僕は、あいつを見殺しにして後悔するくらいなら、死んだほうがマシだ。
バンッと小屋のドアを開ける。
「なんだ!?」
煙幕を投げ、パンパンッと男の足に銃を撃つ。
「ぐっ…誰だ!?」
ルフィのいる場所に行き、縛られている縄を切って解放する。
「助けに来た」
「レム!」
「おい抑えろ!!」
その声に、まずい、と思う。小屋がボロボロで、煙幕が消えるのが早すぎた。
「よくエースとサボと一緒にいるって言われてるガキじゃないか!?」
襲いかかられて、怖くなって銃の引き金を引いた。パンッという音とともに、自分に大量の血飛沫がかかる。
「あ…」
怯んだ瞬間、身体を押さえ込まれた。
「っ…」
「こんな廃墟にいるガキにしちゃあ…ずいぶん上玉じゃねェか」
「に、げろっ…ルフィ!!」
「おいレム!!やめろ!!レムに手を出すな!!」
ルフィがこちらに来ようとして、海賊に捕まる。ルフィだけでも逃したかったのに…
「こいつもブルージャム船長に引き渡せば…このミスも帳消しになるだろうよ」
ゾクリ、鳥肌が立つ。
「あのガキはなかなか場所をはかないんで困ってたんだよ、その綺麗な顔に傷つけられたくなかったら…俺たちの金のありかを吐け!!」
「イヤ、だ」
「どいつもこいつも!!」
投げ飛ばされて、身体が床に打ち付けられる。
「っ、」
「さっさと吐け!!」
ガンっ、ガンっ、と身体を踏まれる。何度殴られても、ルフィは場所を吐かなかった。それなのに僕が、場所を吐くようなみっともない真似できるわけない。
「ルフィを…帰せ。そいつは関係ない」
「俺が聞きたいのはそんなことじゃねェんだよ!!」
「っ、かはっ…」
「レム!!やめろよっ…レムが死んじまう!!」
再び足が振り下ろされそうになった時だった。
「やめろおおおおおお!!」
小屋の壁を突き破って、エースとサボが入ってきた。二人の姿に安心して、意識を手放した。