三脚の悪魔   作:アプール

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第11話

テロス密林を脱出してから12時間以上が経過した。

未だに適切な上陸地点を発見する事ができず、俺は海中を彷徨っている。

空はすっかり黒に染まり、そこからたくさんの星がクリスマスツリーの如く煌々と輝いている。

(クソッ、忌々しいほど綺麗な空だな)

 

悪態をつきながら俺は心の中でそう呟く。

空一面に広がる星景は、見る者を魅了し、慰めてくれるだろうが、俺にはそんな気持ちは一切沸かなかった。

上陸地点が見つからず、腹も徐々に減っていくといった状況に追い込まれている俺は、星を楽しむという余裕は一切無いのだ。

上陸地点は見つからず、焦燥感ばかりが募ってくるが、どれだけ前に進もうとも見つからない。

元々上陸地点に人間がおらず、なおかつその奥にも人間が居ない土地などそうある物ではないと思っていたが、心の中では何処か楽観的に考えていたのかもしれない。

モンスターハンターの世界は自然の脅威が地球のそれよりも何十倍も強力だ。

さらには科学力が地球よりも遥かに劣り、モンスターを討伐するにはその超人的な力を誇るハンターが必要だ。

無論、そんなハンターが畑に生えている野菜の如くポンポンと生えてくるはずが無い。地球よりも遥かに少ない人数で、そこからさらにハンターに適切な人間を育成するのだ。

そんな状況で村がそう簡単に開拓できる訳が無い。ハンターの需要に合わせて開拓をせねばたちまちの内にモンスターに襲われてしまうからだ。

俺はそう推測していた。しかし、現実は俺推測とは違っていた。

村は人数は少ないがそれなりの数があり、都市の数もまたそれなりにある。少なくとも俺の巨体がばれずに生活する事は不可能と判断される程の範囲でそれらはひしめき合っている。

こんな状況で上陸したらすぐさまギルドに報告され、俺の位置はばれてしまうだろう。

 

(俺の推測は間違っていたのか? ハンターの数は俺が考えていたよりもずっと多いのか?)

 

俺は自問するが、勿論解答は帰ってこない。

 

(……何にせよ、やる事は変わらないか。上陸地点を探し出し、もし見つからなかったら、人間に見つかる覚悟で狩りをする)

 

それしか、生き延びる術が無い。

俺はそう心に噛み締める。

もし後者に陥った場合。間違いなく俺は人間――ハンターと戦う事になるだろう。

元人間であった俺はハンターを殺す事を躊躇ってしまう。幸い俺にはシールドがあるため攻撃は受けないだろうが、人間は執拗だ。

俺が攻撃をしてこない事を良いことに、どんどん攻めて来るだろう。そうなれば、睡眠さえまともにとれなくなるかもしれない。

そんあ状況に陥れば、恐れよりも怒りが勝り俺は人間を殺すだろう。人間罪に罪悪感を覚えるのは最初だけで、次からは躊躇無く人間を殺す事が出来るだろう。

モンスターとしてはむしろそれが当たり前なのかもしれないが、俺は元人間だ。モンスターになるのが怖い。人間を捨てるのが怖い。

 

……まあ、こんな事考えてもどうしようもない事は分っている。いずれ、人間を捨てねばならない時が来るだろ。

モンスターは人間を殺し、人間はモンスターを殺す。これがモンスターハンターの法則だ。この世界でトライポッドとして生を受けた俺はどう足掻いても人間と対立する。これは覆かされない事実だ。

 

(ああっ、クソッ。何分かりきった事を考えているんだ俺は。眠気のせいで遂に頭がおかしくなっちまったのか?)

 

時間を見れば、今は9時30分。現代人の感覚ではまだそれ程の時間ではなく、むしろここからが本番だ。といった時間帯だ。

しかし、俺は12時間以上海中を歩き続けている。体力面では全く消耗が見られないが、精神面では消耗している。

何せいちいち足元に陥没した地面が無いか確認してから歩かなければならないのだ。こういった単純作業は神経を磨り減らせる。

本来ならば睡眠をとるべきなのだろうが、今はとりたくてもとれない。

何としてでも上陸可能な海岸を見つけなければならないのだ。今は一秒でも時間を無駄には出来ない。

(……元気ドリンコが欲しいよ、全く)

 

無い物をねだりながら、俺は暗闇に包まれている海中を淡々と進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テロス密林を脱出してから一日が経過した。

空はすっかり明らみ、太陽が周囲を照らしている。これに鶏が居れば完璧だ。

そんな中、俺は未だに海中を歩き――まわっていない。

最良の上陸地点が見つかったのかといえば、そうではない。じゃあ諦めたのかといえば、それも違う。

正確には、俺は歩いてはいない。浮かんでいる。

事が発覚したのは、午後11時の事だ。

空腹と極度の眠気に襲われていた俺はフラフラになりながら歩いていたが、ふと、俺の身体には航海出来る機能が内蔵されているのかと思った。

トライポッドは人類殺戮兵器だが、基本陸しか歩けない。

しかし、地球には海があり、そこにいくつもの大陸や島が浮かんでいる。

火星人は各大陸や島国にトライポッドを送り込んだ事により解決したが、もし一方面の状況が著しくなかった時の対策は考えていたのだろうか?

宇宙船での輸送はコストが掛かりすぎる。だとしたら、解決策はトライポッドに航海能力を持たせる他無い。

 

そう考えに行き着いた俺は、何か航海できる装置はないかと探し始めた。

探す、と言っても、実際は何をどうすればいいのか分らないため、ただ背中に力を込め、何か出るように念じた。

すると、何やら背中ではなく、人間でいう臀部に何かが出てくる感覚に陥った。

始めは何事かと思ったが、利用方法が頭の中に入ってくると、コイツはいい物だと思わず顔が綻んだ。

臀部に出てきた物体は、現代でいうウォータージェット推進機のような物だった。

これまでは己自身の脚で海底を踏みしめて歩いていたが、その速度はハッキリ言って遅かった。

何より水の中であるため抵抗が強く、陸にいるときよりも更に遅い速度しか出せなかった。

 

――こんな状況じゃ、とても無理だ

徹夜を覚悟で歩き回っていた俺の脳裏にそう掠めていったが、ウォータージェット推進機を発見した事によりその考えは一気に吹っ飛んだ。

何せその航海速度はこれまでの努力が水の泡になるくらい速い。歩きよりも何十倍もの速度が出せるのだ。

 

――救われた

 

俺はそう安堵の息を吐いた。

そして、さっそくウォータージェット推進機のエンジンを作動させた。

臀部辺りがエンジンの作動により細かな振動を訴えてくるが、極度の疲労からか、そんな物は全く気にもとめなかった

周囲の海水を吸い込んだウォータージェット推進機は、海水を勢い良く噴出し始めた。

その推進力によって、俺の巨体はいとも簡単に押し出され始める。

自然体は前にのめり込めるような姿勢になり、3本脚や触手が海中に漂い始め、最終的には引っ張られるような格好になる。

その速度は優に50ノットは超えているだろう。

水の抵抗力など全く考えられていない俺の身体は、それだけ海中では動きが鈍くなる。

それを差し引いても、それだけの速度が出るのだ。火星人の優れた科学力をまたしても見せられてしまった。

嬉しい事に、ウォータージェット推進機はコンピューターで制御する事も出来るので、自動運転が可能だ。

センサーで障害物を探知しているので、ぶつかる事はまずない。

更には熱探知機も自動化することができ、もし睡眠中に上陸可能な地点があればウォータージェット推進機とリンクし、エンジンを自動で止める事が出来るのだ。

お陰で俺は安全に睡眠をとる事ができ、目が覚めればそこは俺の楽園――何て事もあるかもしれない。

極度の眠気に襲われていた俺はすぐさまその妙案を採用し、僅か数秒で夢の中へと飛び立った。

 

そして、目が覚めると、俺は海を漂っていたのだ。

ウォータージェット推進機のエンジンは活動を停止している。つまりここは上陸可能な海岸だと言う事だ。

それを理解した時、俺は歓喜に打ち震えた。

これで暫くは人間に邪魔されず生活する事が出来る。そして何より――食事がとれる。

俺の腹はもう常に鳴っているような空腹に襲われているのだ。

正直、形振り構わず上陸して生血を吸いたいが、それは出来ない。まずは周囲の捜索から始めなければならないからだ。

俺は一本の触手を潜望鏡のように海面に突き出し、レンズを展開させる。

そして、レンズとリンクした俺の脳裏に浮かんだ光景は、木、木、木だ。

木と言っても、テロス密林のような南国風の物ではない。言うならば、『樹海』に生えている様な木だ。

テロス密林のそれよりも遥かに太く、長い木が連なっている。そして周囲を熱探知機で熱を測れば、テロス密林よりも多くのモンスターの熱を探知する事が出来た。

 

(なるほど、道理で人間が住み着いていないわけだ)

 

俺は現地の風景を収集すると、この地に人間が住み着いていない訳を悟った。

まず、この大地は樹海と呼べるほど膨大な量の木がひしめき合っている。

下手にこの樹海に入ろうものなら、薄暗い風景や何時までも変わらない木の連鎖に変更感覚が失われ、遭難するだろう

それでも、入植ができないという訳ではない。金と時間はかかるが、木を切り開き、道を作り、田畑を作れば村は生成されるだろう。

問題は、モンスターの数の多さだ。

見た所、その熱反応はテロス密林よりも遥かに多い。木の伐採中に襲われるかもしれないし、農作業中にも襲われるかもしれない。ましてや遭難などすれば生存は絶望的だ。

こんな危険地帯に、進んで入植しようとする自殺願望者は居ないだろう。何より、こんな所に入植するほど土地に困っているという訳でもあるまい。

その様な理由から、ここには人間が居ないのだろう。

 

――が、俺としては都合がい良い

 

何せ人間が手をつけていない為、餌となるモンスターが数多く生息している。

そして周囲は木々に深く囲まれているため、人間ではこの樹海を歩く事は非常に困難だ。

俺の場合は、むしろその木々を薙ぎ倒して進むので関係ない。

 

(って、そんな事考えている場合じゃなかったな。安全確認は出来たんだし、朝食を食べねば餓死してしまう)

 

俺の腹が極限状態だったのを思い出した俺は、思い腰を上げながら上陸可能な海岸に向けて脚を動かし始めた。

そして、俺の身体が一日ぶりに空気に触れ、その面積はどんどんと増えていく。

歩く事5分。俺の身体は既に全貌が浮かび上がっており、目の前には樹海の大地が広がっている。

 

(新大陸に上陸、てか)

 

――そして、俺は樹海の大地に第一歩を踏み出した

 

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