(ふむ、案外あっけなかったな)
俺はオオナズチの”居た場所”を見ながら心中でそう呟いた。
俺の放った光線は、熱探知機のよって捕捉されたオオナズチから移動スピードを瞬時に計測し、未来位置が割り出され自動的にその位置へと着弾した。
計算どおりその場所へやってきたオオナズチはその光線をモロに浴び、結果として骨一つ残らず消滅した。
その光景を、俺は分かりきっていたかのように無表情で見ていた。
いくら古龍とはいえ、オオナズチは古龍の部類では比較的弱い。
クシャルダオラのように天候を変えることは出来ないし、テオ・テスカトリのようにバリアを張ることも無い。
そしてなにより、オオナズチは飛べないのだ。
この点で、オオナズチは他の古龍よりも大きく劣るだろう。
空を飛べなければ、身軽に戦えることもできないし、逃げることもできない。
まあ、だからそんな状況にならないように光学迷彩で姿を消しているのだろうが、残念ながら相手が悪かった。
いくら姿を消せたとしても、体温だけは誤魔化しようがない。体中に泥などを塗りつければ多少はマシになるが、そもそも俺が熱探知機を持っていることを知らないオオナズチにはその発想自体浮かび上がってこないだろう。
そんなオオナズチだが、攻撃はなかなか優秀だ。
オオナズチの攻撃手段はその巨体を活かした突進と伸びる舌攻撃。そして毒霧ブレスだ。
毒霧ブレスとは地味に聞こえるかもしれないが、その効果は抜群だ。
なにせ毒霧ブレスは外部からではなく内部から身体を侵食するのだ。
モンスターであれば頑丈な鱗、ハンターであれば頑丈な防具で外部からの攻撃を阻止することができるが、内部からの攻撃はどうしようもない。
そして何より、毒は例外を除きほぼ全ての生き物に対して有効だ。これほど汎用性に富んだ攻撃手段はこの世界にはないだろう。
ただ、射程距離の短さと無機物に対しては効果が無いという短所もあるが。
そして、俺は生きていることは生きているがそもそも肺が存在しないため酸素は必要なく、呼吸をする必要も無い。毒は、俺に対してはまったくの無意味だ。
状況からして、オオナズチが負けることは必然的だったのだ。
(まぁ……例えオオナズチでなかったとしても、それは変わらんがな)
高度な科学兵器で武装している俺にとって、モンスターの種類差や個体差など何の気にもならない。
ハンターならば、モンスターの種類のよって戦法や武器が違ってくるが、俺の場合はそんな事を考えなくてもいい。
ただ、光線兵器を相手に向け、照準を付け光線を発射すればそれでお終いだからだ。
たとえ運よく俺に接近できたとしても、そこに待ち構えているのは現代兵器でさえ破壊できなかった強固なシールド。
これを壊すことなど、ミラボレアスでさえ不可能だろう。
(しかし、まさかいきなり古龍に出会えるなど思いもよらなかったな)
初めはイャンクックとこそこら辺の中級モンスターが見れると思っていたが、意外だった。
というのも、古龍はこの世界の生態系の頂点に達している生命であり、個々の能力は人間とは文字通り天と地ほどの差がある。
だが、自然の法則に従い古龍の生息数は非常に少なく、そうやたらと現れるものではない。
その点、イャンクックは個々の能力はそれほど高くないが、それ相応の繁殖力がある。
そのため、イャンクックの生息数は多い。生息数の多いモンスターほど遭遇確立が高くなるのは自然の道理だ。
しかし、実際行ってみればそこに居たのはオオナズチ。
正直、運が良いなんてもんじゃないだろう。
生息数が極小の古龍に合える事など、そうそうありえない。
(とは言え、やはり運が良かったとしか言いようが無いな)
俺は少々息を吐きながら、そう呟いた。
天文学的な確率でオオナズチと遭遇したが、俺の気持ちは複雑だった。
――古龍は、最後で見るからこそ達成感があるんじゃないかっ!!
正直、チートでいきなり古龍の姿を拝んだような気分だ。
俺としては、やはり最初はイャンクックを拝みたかった。
モンハンの世界に来たからには、やはり先生の雄姿を見てから輝かしい冒険のスタートを切りたかったのだが……
まあ、こればかりは仕方がないか。
運ばかりは、科学でもどうしようもない。
(……測量、始めるか)
少々やるせない気分になりながら俺は仕事を思い出し、測量を開始した。
樹海のある洞窟の奥深くに存在しているアイルー・メラルーの集落は、大騒動となっていた。
事の発端は、食料調達班の帰還にあった。
食料調達班の帰還を最初に気づいたのは、洞窟の入り口を監視していたメラルーであった。
予想よりも早く帰ってきた食料調達班に疑問を抱くも、苦労を労うべく彼らに近づき、絶句した。
リーダーのアイルーと若いアイルーが仲間のアイルーとメラルーに支えられながら歩いてきたのである。
しかも所々に血が付着した毛があるなど、一目見て緊急事態が発生したことが分かった。
それを見て仰天した監視員のメラルーはすぐさま集落へと駆け出し、食料調達班の帰還と2匹の負傷を伝えた。
集落ではすぐさま医療準備が整えられ、そしてすぐに2匹の治療に当たった。
その他の班員には一体何があったのかと集落の群集が詰め寄り、そして絶句した。
曰く、全高何十メートルもの超大型モンスターが現れた。そのモンスターの戦闘能力は凄まじいの一言に尽き、古龍であるオオナズチがそのモンスターが放ったブレスにより僅か数秒で”消滅”したなど、想像を絶するような内容であった。
本来はオオナズチが現れたこと事態、集落壊滅の危機であるのに、さらにそのオオナズチを文字通り消滅させるほどの力を持つ超大型モンスターが現れるなど、誰が想像できようか。
興奮は収まらず、さらに多くの群集が班員に詰め寄る。
が、それは騒ぎを聞き現れた長老によって止められた。
そして長老は班員達に労いの言葉を言うと、全員に自宅で待機をするよう命じた。
彼らの精神状態は多少乱れており、安静が必要だと判断したからだ。
無論、班員の自宅には誰一人近づいてはいけないと集まっている群衆に硬く禁じた。
それに反論するものは、誰も居ない。
何もかもが分からない状況だが、無闇に混乱すればろくな事にならないと、誰もが理解していたからだ。
そして迎えに来た班員の家族に連れられながら自宅へ帰宅している班員達の姿を見納めた群集は、次第に熱が冷め各自の仕事に戻っていった。
その中で、長老はヨボヨボと歩きながら一軒の建物を訪ねた。
その建物の看板に書かれている文字は、『医療所』であった。
長老は医療所の扉を開き、ここで働いているアイルーに尋ねながら目的の猫物を探した。
「あっ、長老……」
ある病室のドアを開けた長老は、そんな声を聞いた。
見ると、食料調達班のリーダーのアイルーがベットから上半身を起こし、長老を見つめていた。
「疲れているところ悪いが、少しいいかな?」
長老がそう尋ねると、リーダーのアイルーは頷いた。
「ええ、私も退屈していたところですニャ」
その言葉に、長老は「そうか」と微笑みながら言い、置かれていた木椅子に腰掛けた。
「今日は、ご苦労だったな。負傷者は出てしまったが、食料はまずまず集まった。良くやってくれたよ」
「いえ……私は何もしてませんニャ。リーダーの身でありながらこのザマ、私がこうして生きているのも、班員達がいたからこそですニャ」
「だが、彼を真っ先に助けに行ったのは君だろ?」
長老は微笑むことを止めずにそう言う。彼とは、若いアイルーの事を指している。
若いアイルーを助けに行ったのは自分。それは間違いないのでリーダーのアイルーは頷いた。
そしてそれを見た長老は更に嬉しそうに笑う。
「『仲間は決して見捨てない』我らの掟だ。極限状態の中で、君はそれを実行し、仲間を助け出した」
「長老……」
「君は、立派な事をしたのだ、そのことを誇りに思いなさい。
――自分は、仲間を救ったのだと」
「……ありがとうっ……ございますニャ……」
リーダーのアイルーは俯き、肩を震わせながら搾り出すようにそう呟いた。
彼は、今回の事について責任を感じていたのだ。
もっと良い対処法があったのではないか? そうすればアイツまで負傷させることはなかったのでは?
意味も無くそんな事を考え、そして自責の念がグルグルと頭の中を駆け回る。
そんな中で、長老の言葉は非常に輝いた。
こんな自分を、褒めてくれるのだと。
彼は、男涙を流した。
「さて、本題に入りたいが、大丈夫かね?」
「はい、大丈夫ですニャ」
ひとしきり泣いたリーダーのアイルーは、長老の言葉にスッキリとした返事を返した。
その顔には、迷いなど無かった。
「そうか、では早速だが何があったのか、報告してもらいたい」
リーダーのアイルーは長老の問いに返事をした後、ぽつぽつと語り始めた。
最初は、特に何も起こらず食料を調達していたこと。
しかし、数時間後突如として足音と同時に変な音が聞こえて来たこと。
これまで聞いたことも無い超大型モンスターが現れたこと。
そして、古龍であるオオナズチが手も足も出ずに超大型モンスターに消滅させられたこと。
全てを、包み隠さず話した。
「……ふぅむ」
話を聞き終わった長老はそう小さく呟くと、目を閉じた。
暫しの間、 静寂が訪れる。
「……なあ」
そのまま5分が経過した時、突如として長老が口を開いた。
「何でしょうかニャ?」
「君は、その未知のモンスターが危険だと思うか?」
リーダーのアイルーはその言葉の意味が分からなかった。
言うまでも無く、モンスターというものは総じて危険だ。
特に我々アイルーのような獣人種はモンスターからすれば格好の獲物か、玩具だ。
身体は小さく、力も人間に比べれば劣っている。
だからこそ、獣人種は互いに団結しあい、過酷な大自然の中を生き抜いているのである。
「それは、どういう意味ですかニャ?」
「そのモンスターは、我々に対して危険なのか。それほどの巨体では、我々を視認することすら難しそうだが?」
リーダーのアイルーは、長老の意図が読めた。
確かに、あれほどの巨体ならば我々のような獣人種は道中の小石のようなものだろう。
要するに、我々は小さい。小さいからこそ、あのような巨体を持つモンスターには気づかれないのではないか。と、長老は考えたのだ。
ましてやここは木々が生い茂っている樹海の真っ只中。木々が我々の姿を隠し、視認することは不可能に近いであろう。
しかし――と、リーダーのアイルーは考えた。
「私は、そうは思えませんニャ」
リーダーのアイルーがキッパリとそう言うと、長老は「何故かね?」と尋ねた。
「長老は、オオナズチの事は知ってますニャ?」
その問いに、長老は「無論だ」と頷いた。
「オオナズチは常に姿を消している……これは既に周知の事実ですニャ。では、何故そのオオナズチが未知のモンスターに突進して行ったか。
……オオナズチの性格からして、自分から未知のモンスターを攻撃することは考えられませんニャ。だとしたら、最初に攻撃をしたのは未知のモンスターだと推測できますニャ。」
そこでリーダーのアイルーは区切り、一息付くとまた話し始めた。
「ですが、オオナズチは先ほど述べたように、常に姿を消していますニャ。さらに周囲は深い木々に覆われており、とても視力で確認することは出来ませんニャ。
――しかし、視力以外で確認できる能力を持っていたとすれば?
それならば、未知のモンスターがオオナズチを攻撃できた理由も納得ですニャ。」
リーダーのアイルーの言葉に、長老はまたもや目を瞑り、考えた。
未知のモンスターは目の他に、介在物に邪魔されず相手を確認できる何らかの能力を持っている。
あの規模のモンスターならば、そんな能力を持っていても可笑しくない。
だとすれば、いかに身体が小さい獣人種でも未知のモンスターに発見される恐れがある。
そうなれば、間違いなく生活は今よりも苦しくなるだろう。
食料の調達にも今以上に警戒をする必要があるため効率は落ち、未知のモンスターに見つかればその時点で終わりだ。
獣人種は弱小種族。そんな種族が古龍さえも圧倒するモンスターに抗するなど、自殺行為に等しい。
(我々の戦力ではどう足掻いても、そのモンスターには勝てないだろう。
しかし、我らが何もしなくても、我が息子達がモンスターに殺されてしまう恐れもある。 ならば、早急にこの地域から離れたほうが被害は少なく抑えられるだろう)
村長の脳裏に浮かび上がったのは、この地域への撤退。
未知のモンスターが徘徊しているこの危険地帯に、わざわざ居座る必要性は無い。
下手をすれば殺されてしまう環境に、誰が好き好んで生活しようとするか。
(……反発は、必至だろうな)
だが、そう簡単に”気持ち”というものは変わらない。
皆、長い間この集落で暮らしてきたのだ。それも何百年もの間。
当然、郷土愛というものも持ち合わせている。
そんな中で、得体の知れないモンスターが現れたからといって素直に移住に従うか。
当然、ほとんどの者が反発をするだろう。
『今まで我々には何度か危機が訪れたが、ことごとくそれを回避した。今回も、回避できるだろう』と。
長老も、普段のモンスターならばそんな事を言うつもりは無い。
しかし、今回はあまりにも相手が悪すぎる。
もたもたすれば、集落が全滅してしまうかもしれない。
「何とか、説得するしかないか……」
「はっ?」
長老の突然の言葉に間抜けな声を出したリーダーのアイルーを尻目に、長老は深々と息を吐いた。