三脚の悪魔   作:アプール

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第21話

(……なるほど、そういうことか)

 

 俺は恥も外見も無く転げ落ちるように洞窟の奥へと逃げてゆく二足歩行の猫らきし生物――アイルーを見ながらそう呟いた。

 それと同時に、分ったことがいくつかある。

 第一に、俺が探知した熱反応はモンスターでは無かった。

 いや、元地球人からすれば二足歩行で言語を喋る猫などモンスターもいいとこだが、この世界ではアイルーは微妙な部類だ。

 独自な文化と社会を持ち、更に人間との共存を実現しているからだ。やはり、言語が話せると言うものはそれだけで社会を築けるものなのだろうか。

 

 そして、更に奥に潜んでいる同じような熱反応を見るに、ここはあのアイルーの集落かなにかだろう。

 アイルーは人間のように集団性が強く、集落を作る場合がある。

 まあ、あの体を見れば群れを作るのも納得がいく。

 人間よりも遥かに低い身長。そして筋肉の力もそれ相応に低いだろう。

 そして、この世界は凶暴性の高いモンスターがウヨウヨと溢れている。

 むしろこの環境下で群れを作らないなど、よっぽどの馬鹿か自殺願望者くらいな者だろう。

 

(しかし、まさかアイルーとはなあ) 

 

 少し意外だ。

 何せ、この樹海はテロス密林よりも遥かに危険な場所だ。

 俺はトライポッドになっているから別に何ともないが、アイルーとなるとここで生活するのは格段に厳しくなる。

 先ほど述べたように、基本的にアイルーはモンスターハンターの世界では弱者の立場だ。

 世間じゃオトモアイルーとか何とか言っているが、考えてもらいたい。

 身長数十cmのアイルーが全長数十メートルのモンスターと対峙している姿を。

 どっちが勝つかといえば、一目瞭然だ。大人と子供どころの話ではない。

 基本的に、体の構造が違うのだ。勝てる訳が無い。勝てるとしたら、精々ランポスぐらいなもんだろう。

 そのため、アイルー達は難を逃れるために人間の懐に入り込んで一緒に生活をすることなど、この世界では珍しくも無い。

 そのアイルーが、こんなところで生活を営んでいるなど、呆れを超えて脱帽するよ。

 

(だが、結局知らないモンスターなど存在しなかった訳か)

 

 俺は胸中に渦巻いている失望感を紛らわせる為にため息を付いた。 

 アイルー。モンスターハンターでは随一の人気を誇っていたマスコットキャラだ。

 その愛くるしい姿が世間に大ヒットし、単体でのゲームまで発売されるなど、恐らくモンスターハンターで一番人気のあるモンスター(?)であろう。

 そのアイルーに、会ってみたいと思ってみたことは当然あった。

 何せモンスターハンターの看板ともいえるようなモンスターだ。むしろモンスターハンターの世界に来てアイルーに会いたくないという奴はそう居ない筈だ。

 なら何故失望しているのかというと――期待を裏切られたからだ。

 

 俺はこの樹海にアイルーが住んでいるなど、想定していなかった。

 重ね重ね言うが、アイルーは弱い。

 いくら意思疎通ができ、集団戦法が使えるとはいえ所詮は弱小種族。リオレウスなどに出会ったらたちまちの内に指揮系統がズタズタにやられ各個撃破されるだろう。

 そのように考えた俺は、アイルーはこの樹海にはいないと判断した。そして俺の知識ではあの熱反応の集団に該当するモンスターが存在しなかったため、知らないモンスターなのだと推測し、歓喜した。

 だが、結果はこれである。

 

 ――してやったり。

 

 そんなこと言いながらドヤ顔を決めているアイルーの姿が思い浮かび、少しイラっときた。

 

(……まあ、いいか。それじゃあアイルー達の自宅訪問といきましょうかね)

 

 俺は洞窟の出入り口の前に待機させていた触手を動かし、そしてその洞窟に突っ込ませる。

 洞窟は所々が木で補強されており崩れにくくなっているが少し小さく、触手の身動ぎはできるが激しく動かすとなると壁に当たってしまい、動きが制限されてしまう。

 こんな所で奇襲を受けたら少々厄介だ。

 俺はアイルーの奇襲に備えるため進む方角を熱探知機でくまなくチェックし、慎重に触手を進める。

 そうして奥の方に突き進んでいくと、洞窟の幅がだんだんと広くなってきた。それと同時に、何やら声が聞こえる。

 声といっても鳴き声ではない。れっきとした言葉だ。

 熱探知機で確認すると、すぐ近くに八つの熱反応が確認できる。

 距離的に、あと数十秒で接敵するだろう。

 

(さあ、一体どんな反応を見せてくれるかな?)

 

 俺はそんな事を思いながら、触手をアイルー達の前に踊り出させた。

 

「で、で、で、出たニャッ!!?」

 

 すると、先ほど出会ったアイルーが顔面蒼白になりながら俺を指差し叫んだ。

 

「な、なんニャあのモンスターは!?」

 

「へ、蛇だニャ!!」

 

「そんなこと言ってないで、早く逃げるニャ!?」

 

 あのアイルーが叫んだことによって他のアイルーや黒い猫――メラルーが俺の触手に気づき、次々に騒ぎ立てる。

 そして一斉に背を翻したかと思うと、遁走し始めた。

 

(おお、おお、鬼ごっこか?)

 

 俺はそんな軽口を叩きながら、遁走するアイルー達を追いかける。

 俺からしてみれば単なる遊びだが、向こうからしてみれば命をかけたリアル鬼ごっこなため全速力で逃げ惑っている。

 恐らく今俺の顔を見れば相当ゲスい顔をしているだろう。トライポッドだから表情無いけど。

 

 だが、その鬼ごっこはすぐに幕を下ろした。

 

「あっ! 援軍が来たニャ!!」

 

 一匹のメラルーが嬉しそうに声を弾ませながらそう叫んだ。

 見ると、確かに複数のアイルーやメラルーが武装を施し、こちらに向かってくる。その数、23匹。

 遁走しているアイルー達は、仲間の下に逃げ込めば助かると思ったのか、よりいっそう走る速度を上げる。

 それを見た武装したアイルー達は、弓を持った部隊を前に出させ、援護射撃のつもりか俺に矢を射ってきた。

 こういった環境で育ったためか、練度は中々良いらしく、矢の精度も精確だ。このままいけば放った矢はおれのレンズに突き刺さっただろう。

 ……これが普通のモンスターならばの話であるが。

 

「ニャッ!?」

 

 矢を放ったアイルー達が驚きの声を発した。

 矢は俺の数センチ手前に現れたシールドによって阻まれ、衝突の際に起こったエネルギーに支えきれず根元から折れ、地面に落下した。

 映画では触手は普通に攻撃できたが、このトライポッドには触手にもシールドが施されている。

 何故かは分らないが、現実的に考えて触手にもシールドはあったほうが良いので特に気にしてはいない。

 むしろここだけは映画に忠実であってほしくなかったからホッとしている。

 

「な、何が起こったニャッ!?」

 

 一方で攻撃を完全に防ぎられたアイルー達は混乱状態に陥っている。

 まあ、当たると確信していた攻撃が数センチ手前でいきない全矢が根元から折れて落下するなど、想像もしていなかったのであろう。

 だが、これが科学力の差。弓という骨董品な武器で現代よりも数世紀上の科学技術で作られた兵器に挑むなど、自殺行為以外の何ものでもない。

 とはいえ、実際操ってみれば欠点もあるが。

 まず、こういった洞窟での戦闘は不向きだ。

 基本的に俺の身体はでかいため、広い場所じゃないとその効力を発揮できない。

 そして今この状況だが、俺はアイルー達に対して効果的な攻撃方法を持っていない。

 槍の触手は洞窟の狭さによって通れない。となれば、俺はこの偵察用の触手で戦わなければならない。攻撃方法は”たいあたり”と”しめつける”しかなく、蛸なのに蛇のような攻撃方法をしなけらばならない。

 

(……まあ、それでも負けはしないか)

 

――こっちにはシールドがあるのだ。

 俺はそう高を括っていた。

 

(とはいえ、流石に深追いをするのは止めるか)

 

 そう思い、俺は逃げているアイルー達を追っている触手を停止させた。

 その反応に、アイルー達は戸惑った様子を見せる。

 

「と、止まったニャ……?」

 

「牽制が効いたのかニャ?」

 

 等など、口々に何かを言っている。

 そして逃げているアイルー達は、今がチャンスだとばかりに猛烈にダッシュをし、転げまわるように仲間の下にたどり着いた。

 

「接近班は左右から包囲! 遠距離班は牽制で弓を射続けろ!」

 

 仲間の帰還を見届けた武装したアイルー達は、指揮官らしきアイルーから受けた命令によって再び動き出した。

 ツルハシやハンマーを装備した部隊は左右に展開し、距離を詰めてくる。

 弓を装備している部隊は牽制で再び矢を射ってくる。

 しかし、結果は先ほどと同じで数十センチ手前でシールドに叩きつけられ、根元から折れながら地面に落下していく。

 それでも弓を装備している部隊はめげずに矢を射続けている。これが普通のモンスターならばその牽制によって嫌にもそちらに意識を向けてしまうだろう。

 だが、生憎俺は人間の知能を持ち、さらに指揮官が言った言葉も理解できている。作戦はお見通しだ。

 

 俺はまず右に展開しようとしている部隊めがけて突進し、横薙ぎをしかけた。

 が、これは全員が素早く伏せの姿勢をとったため空振りとなった。

 

「ニャアッ!!」

 

 そして素振りによって動きが鈍くなっている所に、伏せた部隊は一斉に得物を触手の腹へと突き刺し、また叩き付けた。

 だが、その攻撃もまたシールドによって弾かれ、双方ともに初手は散々な結果となった。

 

「なんニャコイツ!! 見えない何かに攻撃が弾かれるニャッ!?」

 

 一匹のメラルーがそう叫ぶが、俺はその叫びを無視し触手を地面に叩きつける。

 危険を察知した部隊達は素早くその場を転がるようにして離れるが、動作が遅かった一匹のアイルーが足を押し潰される。

 そのアイルーから絶叫の声が上がるが、それをまたもや無視して今度は左に触手を横薙ぎにする。

 

 それによって運悪く左に逃げた数匹が轢かれ、吹き飛ばされるか下敷きになった。

 

「この野郎っ! いい加減にするニャ!!」

 

 俺が右の部隊と攻防を続けている中、左に展開した部隊が触手の後方に躍り出て、一斉に得物を触手に叩きつける。

 だが、その行為はまたもや無駄に終わった。

 勢い良く叩きつけられたツルハシはシールドによって刃こぼれし、ハンマーを叩き付けたアイルーの手は衝撃のよって痺れる。

 

 放っておいても特に支障は無いと思うが、むなむなしいので俺は意識を右から左の部隊に変え、触手を少し後退させる。

 もしかしたら気を引き付け負傷者を救出するのが目的なのかもしれないが、無駄な足掻きにしかならないためまんまと引っかかってやるとしよう。

 

 後退したことによって触手と対面した左の部隊は、先ほどの光景を見て恐怖心が沸いたのか、数匹の足が震えている。

 しかし、それでも触手を睨めつけているのは余程郷土愛が強いのか。何にせよ、賞賛に値する。

 

――だが、無駄な事だ。

 

 どれだけ勇気を振り絞ろうが、圧倒的な科学力の前では紙の厚さにも劣る。

 

「ハアッ!!」

 

 一匹のアイルーが雄たけびを上げながら俺に突進を開始する。

 それと同時に、残りの部隊が二手に別れて触手に回り込もうとしている。

 それを見た俺は、目の前にいる一匹のアイルーは囮で別部隊が俺を挟攻しようとしているのだと悟った。

 

(また、それか)

 

 集団戦法では基本的な戦術だが、肉薄攻撃。いや、全ての攻撃が効かない俺にとってその行為はなんの脅威にもならない。

 俺は別部隊に構わず単騎で切り込んでくるアイルーに意識を集中させた。

 

「くらえニャ!!」

 

 そう叫びながらアイルーはその手に持っているハンマーを振りかざし、触手に勢い良く叩き付けた。

 もちろんシールドが正常に機能し、無常にも触手にはなんのダメージも与えられない。

 その光景に、アイルーは苦々しく顔を歪ませる。

 だが、それでもアイルーは再度力強くハンマーを振り下ろし、同じ場所に何度も何度も叩きつける。

 恐らくダメージを蓄積させればシールドを破ることが出来ると考えているのだろうが、無駄だ。

 このシールドはM1エイブラムスの砲撃や、A-10やAH-64の編隊から対戦車ミサイルの掃射を受けても傷一つ負うことがなかったのだ。

 そのシールドが、人間よりも力の劣るアイルーによって振り下ろされたハンマーに破られるなど、あり得ない。

 

「この! この! さっさと撤退するニャ!!」 

 

 そう叫びながらアイルーは懸命に通る筈の無い攻撃を続ける。

 だが、そろそろ時間切れだと思った俺は、それまで攻撃を甘んじて受けさせていた触手を前に勢い良く突き出させた。

 

「ギニャッ!?」

 

 いきなり動き出した触手に対応できなかったのか、アイルーはその突進に対処することが出来ず、全身をシールドに叩きつけられ後方に勢い良く跳ね飛ばされた。

 そして俺はそれを追撃し、吹き飛ばされたアイルーの真上に来たかと思うと、触手を一気に振り下ろした。

 

「この化け物ッ! こっちに来るニャ!!」

 

 触手の後ろでは別部隊が俺の気を逸らそうと勢い良く得物を叩きつけている。だが、シールドがあるので俺は気にすることなく振り下ろすのを続行した。

 

「グギャアアァアァァアアアッ!?」

 

 全身とはいかなかったが、下半身を潰されたそのアイルーは絶叫を上げる。

 脱出しようともがきにもがき、素手で触手を殴りつけるがその都度シールドによって阻まれる。たちまちの内に素手の毛は吹き出る鮮血によって赤黒く染まった。

 

(さて、あとは後ろのあいつら片付けたら終わりにするか)

 

 俺はこのアイルーが戦闘継続不可能だと結論付け、触手を持ち上げる。

 下には下半身が潰れ、血溜まりに浸かっているアイルーがいるが気にも留めず、俺は触手を後退させる。

 と同時に触手を左にしならせ、先端部分が弧を描くようにして後退し、遠心力を利用して触手を鞭のように左にいる部隊に叩きつける。

 

「ッ! 皆後ろに下がるニャ!!」

 

 前は触手の先端が弧を描くように迫り、横は触手の図体が邪魔で通れない。ならば退路は後ろにしかないと悟った左の部隊は急いで後ろに下がる。

 だが、そうはさせないと俺は退路にある触手を左に曲げ、左の壁に密着させる。

 退路を防がれた部隊は何とか逃げ出そうと触手を乗り越えようとするが、触手に触れる前にシールドに弾かれてしまい掴まる事さえできない。

 ジャンプで逃げようとする者もいるが、飛距離が伸びず口に土が飛び込む。

 そうこうしている内に触手の先端部分が間近に迫る。

 

「くそぉ!! 全員跳躍しろニャ!!」

 

 そして逃げることは不可能だと判断したのか、全員が触手に挟まれ潰れる前にジャンプをした。恐らく挟まれる面積を少しでも抑えたかったのだろう。

 だが、無論挟まれることには変わりは無く、洞窟内には複数の悲痛な絶叫や悲鳴が木霊した。

 

 俺が挟むのを止め、先端部分を右に引き離すと、はさまれた部隊はボトボトと地面に落下する。

 その何れも足は完全に挟まれており、もはや歩行することは永久に不可能だと思うほど悲惨な惨状になっている。

 それを見た右の部隊が雄たけびを上げて触手めがけてボロボロになった得物を叩きつける。弓を持った部隊は隙を伺い、倒れている部隊を救出しようとしている。

 

(……ここのアイルー達は本当に優秀だなぁ)

 

 俺はその光景を見ながらそう呟いた。

 普通これまでの惨状を見たら怖気付くか、恐怖のあまり逃げ出す者が出てくるだろう。事実、アイルー達の顔には恐怖が滲み出ている。

 だが、逃げ出すものは一匹もいない。皆瞳に炎を燃やし、戦い続けている。

 

(もう、いいか……)

 

 俺はそんなアイルー達の姿勢に毒気を抜かれ、次第に戦闘によって高ぶった気持ちも冷めてきた。

 ここまでして生きることに執着しているアイルー達に、胸を打たれたのかもしれない。

 

 俺はスルスルと触手を真っ直ぐに直すと、そのまま後退を開始した。

 その光景を、アイルー達は用心深い様子で見てくる。

 圧倒的な武力で圧倒しているのに、ここにきてわざわざ引き返す俺に疑問しか感じないのだろう。

 しかし、俺はそんな事しったことではないとばかりに後退を進め、最終的には洞窟から脱出した。

 

(ふぅ…)

 

 俺は張り詰めた空気を和らげるため軽く息を吐き、触手を収納する。

 状況終了。

 その言葉が脳内に反復し、戦闘が終わったことを身体に染み込ませる。

 

(いやあ、いい戦いだったな)

 

 俺はしみじみとそう思った。

 あれほど絶望的な状況でありながら死力を奮い戦い続けたアイルー達の姿に、甚く感服したのだ。

 

(彼らに、敬意を示すか)

 

 そしてそう考え付いた俺は、息を吸う動作をし――

 

――ヴォオオオォオォォオオオッ!!

 

 咆哮を、響かせた。

 

 

 

 

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