三脚の悪魔   作:アプール

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それではどうぞ。


第26話

 思わぬ出来事によって思わぬ戦力を手に入れた俺は、今こそ人間達を叩き潰すべきだと勇んで脚を踏みしめ始めた。

 が、特に目的地も決めておらず、モンスターハンターの地理などゲームにあったところぐらいしか知らないため、一体どこに何があるのかがサッパリ分らなかった。

 そして俺はどこか適当な所でも襲おうかと考えた。しかし、記念すべき人類殺戮の第一歩。気分的に大都市を襲いたいところだ。

 ところが、問題が生じた。この樹海は余程の辺境であったため、人一人の熱反応さえ感じられないのだ。

 大都市を襲いたいが、その肝心の大都市が見つからない。

 どうしたものかと考えたが、ふと俺の脳裏にある事が浮かび上がった。

 

(確か、テロス密林の近くに大きな都市があったような……)

 

 そう、俺がまだテロス密林に居た頃の記憶だ。

 テロス密林付近に、確か膨大な数の人間の熱反応が探知できた場所があった。

 初めて見た時は何て所に来てしまったのだとすぐに引き返してしまったが、今となっては物凄く行きたい場所だ。

 何せ人間の熱反応は軽く万を超えていた。モンスターハンターの世界観を考えると、その数値は立派な大都市、いや巨大都市に匹敵する。ここを襲えば出だしは順調になるし、更に人間達に確かなダメージを与えられる事ができる。

 それに、テロス密林は俺が生まれ育った故郷だ。生まれ育った故郷を人間から奪還するといった名義もある。

 そして距離もそれほど遠くは無い。ウォータージェット推進機を使えば一日ぐらいで着く事ができる。

 まさに、俺のために用意されたような都市ではないか。

 

(よし。第一目標はここに決定だ)

 

 条件の良さに、俺は迷わずその巨大都市を目標に定めた。

 そして善は急げとばかりに俺はトライポッド達に命令し、再び脚を動かし始める。

 その足取りは軽く、俺の意思は眩く光る炎のように高揚していた。

 前世では味わった事のない、未知の感覚。

 とてつもなく楽しい事が行える、極度に興奮している状態。

 俺はこの感覚に酔っていた。

 

 だが、その感覚もすぐに冷める事となった。

 

(……ん? なんだあれは?)

 

 俺はトライポッドに停止の命令を出しながら、熱探知機で遠方を測る。

 そこには、複数の熱反応が固まっていた。

 一つは、この前見たアイルーの熱反応とそっくりだ。恐らく、この熱反応はアイルーだろう。

 だが、もう一つの熱反応が問題だ。

 その熱反応は――人間だ。

 

(人間がこんな辺鄙な所になんのようだ?)

 

 俺は人間がこの地に来る理由が分らず、首を捻る。

 俺を追ってきたのか――とも考えたが、その熱反応は樹海とは逆方向、すなわちテロス密林方面に進んでいる。

 熱反応は数十と複数あり、その速度は速い。人の足では到底出せないような速度だ。

 樹海は足元が暗く、また根が張っているため足場が悪い。馬に乗るなど、到底出来ない場所だ。馬が足を取られ転倒し、挟まれ動けない間にモンスターに食われるのがオチだ。

 となれば、人間の交通手段は二つに限られる。

 一つは海、二つは空。だが、空はまず無いといっていいだろう。ここは飛竜種のモンスターがウヨウヨいる所だ。飛行船で来たとしても撃墜されてしまうだろう。

 となれば、残りは一つ。

 

(船で来たのか)

 

 船。その単語に、俺は思考を廻らせる。

 基本的に船と言う物は,湾岸整備がされた場所で初めて使用できる物だ。

 帆船であるため現代の様に過敏ともいえるような整備を施さなくても良いが、それでも整備をしなければ何れ腐り果ててしまう。

 また食料や真水の補給にも港は必要だ。まあこれは港が無くても効率は悪いが補給できるのでその限りではないが。

 そして何が言いたいのかというと――あの船を付回せばあの巨大都市に行けるのではないか。

 俺がテロス密林からここに来るまで、集落はあれど港はそれほど無かった。

 もしあの船が整備のために帰港をするのであれば、あの巨大都市に向かわなければならない。あの巨大都市は海に近かったため港湾都市であると推測する。あれ程の規模ならばドックも完備されているだろう。

 そしてこの辺にドックがある都市といえばあそこしかない。辺境な港にドックなんてある訳が無いないからだ。

 

(こいつは良いチャンスだ……)

 

 丁度良い、道案内をして貰おう。俺はそう考えた。

 何せあの巨大都市を見つけたのは生まれてからかなり初めの方だ。まだこの身体に慣れて居なかったため地図に保存をする事が出来なかった。

 要するに、俺はあの巨大都市の場所が分からなかったのだ。

 漠然とは記憶に残っているが少々信憑性に欠けるため不安だったのだが、まさかあちらから知らせてくれるとはまことに僥倖だ。

 まあ、もしかしたら途中の港に停泊してしまう場合もあるが。その時はその船は無視して自分で探す事にしよう。

 

(さてさて、気づかれないように海に潜って追跡をするか)

 

 とりあえずあの船を尾行するという方針に結論付いた俺は、人間達に気づかれない為にある程度距離をとりながら海岸へと向かう。

 こんな身体だ。陸なんかを歩いて尾行などしたら間違いなく見つかってしまう。

 そうなれば、あの船は巨大都市に帰港をしなくなるだろう。

 また、例え見つからなくても高確率で地域住民には見つかってしまう。

 今更見つかったところで別にどうとも思わないが、出来ればあの巨大都市には奇襲で襲いたい。

 いきなり現れた6体のトライポッドを右往左往し逃げ惑う人間達の様はさぞや面白い光景であろう。

 市民を守る為に勇敢に立ち向かう護衛兵やハンター達を光線兵器で薙ぎ払い、触手で叩き潰す。

 そして守られる存在が居なくなった市民たちの前に、死に物狂いで戦った護衛兵やハンター達の生き残りが無残に生血を吸い上げられている光景を見せ付けてやる。

 ああ、最高の征服感だ。ゾクゾクしてくる。

 

 これからの事を想像し、俺は気分を高揚させながら海岸へと歩く。

 最早、人間の価値観などミクロ程も無くなっている事に疑問にすら感じていなかった。

 そう、その様はまさに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 船の尾行を始めてから早数日が経過した。

 結構な時間がたっているが、追跡をしている船はようやくテロス密林に入っていったばかりである。

 やはり、帆船であるためその移動速度はかなり遅い。

 蒸気機関などの動力装置も搭載されていないため、その移動手段は風が頼りだ。だが風だけでは移動速度が遅すぎる。

 もっとも、この遅いの感覚はウォータージェット推進機を知っているからこそ出てくる物で、そんな物を知らない人間達には十分早い部類に入るだろうが。

 そしてその遅い移動速度の中、退屈をしていた俺は暇潰しに俺のコンピューターに送られてきた膨大な量のデータを読み漁っていた。

 

 例えば、火星人の歴史。

 

 火星人は数千年も前に火星で現代地球よりも遥かに優れた科学技術を持つ文明を築き上げていた。

 だが、悲劇的な出来事によって火星の二大超大国が戦争を勃発させた。

 火星の大地には地球の兵器よりも遥かに強力で、そして深刻なダメージを与える汚染兵器を惜しみも無く使用した。

 近隣諸国がその汚染兵器の使用を止めるよう何度も取り立ててきたが、繁栄か滅亡の瀬戸際に立たされていた二大超大国はその声を一蹴し、更にその近隣諸国に対し自分の味方になれと参戦を要求した。

 戦火は次々に拡大し、第四次火星対戦が勃発。最早、火星の事など気に留める余裕など無かった。

 そして第四次火星戦争の末、火星の文明は滅びた。

 数々の汚染兵器によって大地は荒れ、汚染物質に侵された体内では内部から腐敗してもがき苦しみながら死に絶えていった。

 どうにもならぬと悟った数少ない生き残りの火星人たちは、火星を捨て宇宙船に乗り、そしてこの状況を想定したマニュアルを読みながら宇宙船を発進させた。

 マニュアルの手法は簡潔にいうとこうである。『他の惑星を乗っ取り生存権を確保せよ』と。

 

 火星人たちはそのマニュアル通りに動き、そして火星から最も近い生命溢れる惑星――モンスターハンターの惑星にやって来た。

 火星人たちは事前に埋められておいた旧式の戦闘機械『トライポッド』に戸惑いながらも、しかし戦闘能力は圧倒的であったためこの惑星で営んできた人類を侵略し、食糧に変えた。

 人類は最初は抵抗した。だが、戦力差は歴然としており、各地で敗走を始め、最終的に統率など無きに等しい状態にまで陥った。

 ここまで来ると、もう火星人たちの行く手を阻む者など誰も居ない。火星人たちはトライポッドを操り人間達を思う存分捕獲し、その新鮮な生血を喰らった。

 そして故郷である火星に似せる風景を作り出すために、火星に生えていた赤々しい蔦のような植物を肥料である生血と一緒に散布し、この惑星を赤一色に染め始めた。

 

 最早、この惑星の頂点は人間ではない。火星人だ。そう人類に知らしめるかのように植物を散布し、そして人間達を捕獲した。

 自分達は、無敵だ。我々は、永遠に栄え続ける。

 火星人たちは次第にそう思い込むようになってきた。

 

――が、現実は火星人に対し残酷であった。

 

 最初の異変は、この惑星にやってきて二週間が経った頃だ。

 突如として、一人の火星人が咳き込み始めたのだ。

 粉塵を吸い込んで咽たわけでもなく、何も無いのに咳き込みが止まらない。

 可笑しな事だ、と火星人たちは思った。

 そして翌日、その火星人の顔は赤くなり、悪寒が体中を廻り始めた。

 酷い頭痛が襲い、息が荒くなる。

 火星人は何か身体に異常が起きたのかとすぐさま医者に診察を頼んだが、体に異常は見つからなかった。

 これほど苦しいのに異常が無いなんてあり得ない。検査をやり直してくれと言い、何度も検査をやり直した。

 だが、何度やっても体に異常は無い。

 そしてそうこうしている内に、その火星人は己から出てくる熱によって気が遠くなり、やがて激しい音を響かせながら床へ倒れた。

 これが、火星人たちにとって悪夢の始まりであった。

 

 火星には、細菌やウイルスといった微生物が存在していなかった。

 故に、病気などは起こらない。病気という概念すらなかった。

 故に、病気の対処法なぞ、分るはずも無かった。

 

 人間の生血や空気に含まれていた細菌やウイルスは、たちまちのうちに何の抗体も持たない火星人の体に浸透。パンデミックを引き起こした。

 次々に嘔吐・頭痛・腹痛・発熱等の症状を引き起こし、まともにトライポッドすら操縦できない状態にまで陥った。

 そして数日間悶えた挙句、体力の無い者から死に絶えていく。

 何故死んだのか、理由も分らぬまま。

 施設内は火星人の死体で埋まり、トライポッド操縦者は操縦室内で死に絶え、各地で無残な姿のままトライポッドが巨大な棺桶と化した。

 そして一ヵ月後、全ての火星人は死に絶え、ここに火星人の歴史に幕が下りたのである。

 

(何て無様な歴史だ……)

 

 俺は火星人たちの傲慢しきった歴史を見て、冷めた目でそう呟いた。

 圧倒的な科学技術を手に入れ、自らを神だと思い込んだその愚かさ。この世の生物で万能な者などそれこそ神でしかあり得ないのに。

 故に、火星人は滅びた。決して科学は万能ではないということを忘れていた事によって。

 そして俺は改めて誓った。この火星人たちのように傲慢をし過ぎないようにと。

 俺も生き物だ、傲慢はする。

 だが、その傲慢で現状判断を鈍らせるような事はしない。

 敵が新たな兵器や戦術を繰り出してきたのならば、俺もそれに対抗しよう。

 所詮人間だからと、思考を停止させる訳にはいかないのだ。

 

 そしてその後、俺は数多くのデータを読み漁りながら船の追跡を続けた。

 トライポッドの基本性能やら、火星人たちの日記やら。

 本来ならばあまりの退屈さに気が変になりそうだが、このデータのお陰で退屈せずに済んだ。

 全く、科学技術様様だ。

 

 

 

 

 

 そして更に日が進み、早数日が経過。

 ふと、熱探知機を確認すると遠方に多数の熱反応が群れているのが確認できた。その種類は何れも人間、またはアイルーであった。

 それを見た俺はまた村かと思った。ここに来るまでに俺は多数の村を確認している。今回のもまたその部類なのかと考えたのだ。

 だが、違った。

 俺が進む度に人間達の熱反応が大幅に増え始めたのだ。

 千を超えたときは冷めた目で。万を超えたときは醒めた目で。そして十万を数えた時には、歓喜した。

 間違いない、あの巨大都市だ。

 あの捜し求めていた、巨大都市だ。

 

(ふーむ、流石に数が多い)

 

 俺はまじまじと巨大都市の熱反応数を見ながらそう呟いた。

 あれ程の規模となれば、ハンターの数もさぞや多い事であろう。

 防衛兵器も、多数配備されているに違いない。

 

(まあ、俺には関係ないか)

 

 トライポッドに通常攻撃は通用しない。

 全てシールドで弾き返されてしまうからだ。

 本来なら、中の火星人を殺さなければこのトライポッドは倒す事が出来ない。

 

 しかし、俺は自立している。

 他のトライポッドも、完全自立とまではいかないが、全て俺の指令で動く事ができる。

 操縦者が無しで。

 これは、数が少ない火星人たちが広大な領域を維持する為に作られた装置によって作り出されたものだ。

 一体のトライポッドに火星人が乗り込み指揮官となり、複数の無人トライポッドに指令を与え、それを実行させる。

 こうすることによって、数が少なくとも大量の戦力を保持する事が出来るのだ。

 そして俺は、その指揮官機に憑依した。

 もし俺が普通のトライポッドに憑依すれば、こうはいかなかったであろう。

 

 (さてさて、せめてもの情けだ。己の寄港地を拝ませる事ぐらいやらせてやるか)

 

 本来なら、巨大都市の位置が把握できた時点であの船はもう用無しだ。直ぐにでも始末したい所だ。

 だが、せっかく俺をここまで先導してくれたのだ。最後は冷たい海の中ではなく暖かい大地の上で寝かせてやる。

 

(さあ――さっさと寄港するんだ。早く楽しまさせてくれよ)

 

 俺は速度が遅い船を海中から見つめながら、その時が来るのを今か今かと待ち望んでいた。

 

 

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