三脚の悪魔   作:アプール

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第28話

 飛び散る木材の破片、宙に舞う煤け破けた衣服、爆破炎上しながら沈没する帆船群。

 そしてそれに伴う人々の悲鳴、怒号。

 金融都市、または城塞都市であるカルパンドラは今、地獄絵図の惨状を描きつつあった。

 

「ひいいぃぃぃっ!? 化け物だあああぁぁ!!!」

 

「逃げろおおおぉぉおおっ!?」

 

「邪魔だ! どけ!」

 

「痛っ! 止めろっ! 俺を踏む、グアアアァァッ!?」

 

「押さないで! 私のお腹には赤ちゃんが…っ!」

 

 突如として現れた見慣れぬ超大型モンスター。そしてその超大型モンスター達から攻撃を受けているという事実に、群集は一瞬でパニックに陥った。

 我先に逃げようと競い合い、時には相手を押し転倒させ、その転倒した人に足を取られてこれまた転倒する。

 そして転倒した人に待ち受けていたのは、恐怖に駆られ逃げ惑う人々の足であった。

 皆足元を注意する余裕など無く、全体重を乗せた足で転倒した人々を踏みつけながら逃げ惑う。

 転倒した人は起き上がろうにも、人々の足は絶え間なく襲い掛かり、人垣が邪魔で起き上がろうにも起き上がれない。

 頭を蹴られ、腹を踏まれ、足を骨折する。

 群集が過ぎ去った後には、不幸にも人間自身によって生まれた犠牲者が横たわっていた。

 骨折程度で済んだらまだいい方で、中には腹を何度も踏まれた事によって体内の臓器が破裂。または背骨や肋骨が折れ、鋭利となった骨が肉や臓器に突き刺さりその激痛によって悶え苦しんでいる人もいる。

 だが、この光景はこれから起こるであろう地獄の幕開けに過ぎなかった。

 

「湾岸砲台隊! 装填急げ!」

 

 突然の超大型モンスターの奇襲に泡を吹いた守衛隊は、文字通り吹き飛ぶほどの速度で持ち場に駆け寄り、隊長の指示により直ちに戦闘態勢に入った。

 その中で、湾岸砲台隊の部隊はカルパンドラの高台に設置してある砲台に取り付くと、急いで火薬や砲弾を装填し始めた。

 

「急げ! 早くしろっ!」 

 

 隊長の叱咤を受けながら、隊員はこれまでの訓練どおり素早く装填する。

 まず先に砲口から火薬を詰め込む。そして次に、重さ何十キロもある砲弾を持ち上げ、砲口内に詰め込む。

 

「装填完了!」

 

「照準を合わせろ!」

 

 装填を終えた湾岸砲台は、隊員数人の力によって砲車を動かし、その砲身を来襲してきた未知の超大型モンスターに向けられる。

 そして砲車付近に付いているハンドルを操作し、砲身の仰角を合わせ照準が完了した。

 そして照準が合わさったのを確認すると、隊員全員が砲の後ろにいないよう、横に身を寄せる。

 

 

「照準合わせました!」

 

「同じく、1番から14番砲まで照準合わせました!」

 

「撃てーーーっ!!」

 

 隊長の号令の下、湾岸砲台隊は一斉にその砲口から黒色火薬が燃焼する際に発生する黒煙を吐き出した。

 カルパンドラ内に重々しい轟音を轟かさせ、砲身に留まっていた砲弾は火薬が燃焼、爆発する際に生み出された運動エネルギーによって勢い良く砲身から飛び出し、未知の超大型モンスター目掛けて突っ込んでいく。

 が、届かない。

 砲弾は目標に対し遥か手前で失速し、海へと落下し巨大な白い水柱を生み出した。

 その結果に対し、隊長は分りきっていたと冷静に次の指示を出す。

 

「砲車を戻し、洗浄を急げ! グズグズするなっ!」

 

 砲撃の衝撃によって数メートル後ろに戻った砲を隊員たちは押し戻し、そして洗浄棒を砲口から突っ込み、砲撃後に大量にこびりついた火薬滓を拭き取る。

 火薬滓を綺麗に拭き取らねば砲の精度が悪くなり、最悪の場合暴発を引き起こす可能性があるためこの作業には手が抜けられない。

 それを分りつつも、隊長はこの時間にもどかしさを感じていた。

 

(クソッ、これも国やギルドの不備のせいだ)

 

 隊長は内心で悪態を付いた。

 カルパンドラの湾岸砲は、旧式であった。

 旧大陸でもっとも重要な都市であるドンドルマ及びその砦には、最新鋭の後装式である大砲が配備されている。またその砲身にはライフリングが施されており、弾道や貫通力の面で遥かに優れている。

 対してここに配備されている砲は、前装式であった。後装式では砲の後ろから砲弾を詰める事ができ、また厄介な洗浄を戦闘中にはしなくて済むため装填時間が大幅に短縮できる。しかし前装式では砲の前から砲弾を詰める事になるため身を露出することになり危険性が増す。さらに洗浄をしなければならないため装填時間は後装式に比べ数十秒もの差が出てしまうのである。

 そしてなにより、配備されている湾岸砲は滑腔砲であった。

 滑腔砲であるため十分な回転が起こらず、砲弾が見当違いな方向に飛んでいってしまう事など日常茶飯事であり、たとえ命中したとしても十分な貫通力が得られないため炸裂弾では無い限りモンスターに対して有効な打撃を与える事が出来ないのである。

 

 新式と旧式ではこれほどの差がありながら何故新式にしないのかというと、理由は単純で明確。新式の大砲は製造コストが旧式に比べ数倍高いからである。

 ギルドとしてもできるだけ新式の大砲を行き渡らせたいが、生憎それができれば苦労はしない。

 そしてギルドが採った方法は、重要度が高い場所に優先的に配備する事であった。

 そしてカルパンドラの沿岸には、これまでモンスターが出没した事など数度しか無かった。

 その数度でも、全てがカルパンドラの港までには行かずテロス密林の方角に行ってしまいこれまで湾岸砲は訓練以外で発砲したこと等無かった。

 そのような経緯があり、カルパンドラの湾岸砲は旧式のままであった。そしてその事に、守衛隊や役人もそれほど気に留めていなかった。

 ”どうせお飾り”誰もが、そう思っていたからだ。

 

(チッ! 今更口汚く罵っても仕方ねえか。今ある装備で何とかするしか……)

 

 気持ちを入れ替え、隊長は沖合いに聳え立つ6体の超大型モンスターを睨めつける。

 超大型モンスター達は、相変わらず港に停泊している帆船を執拗にブレスで薙ぎ払い、粉砕させている。時々火薬庫にブレスが直撃したのか、大音量とともに黒煙が噴出し、あっという間に帆船が海底に沈んでいく。

 

「1番砲から14番砲まで装填完了しました!」

 

 目の前で起こっている地獄とも呼べるような惨劇をただただ見つめていると、隊員が声を張り上げてそう報告した。

 そして半ば反射的に、「照準を合わせろ!」と命令をする。

 その言葉に隊員たちがハンドルを操作し、仰角を合わせる。先程と違い、今度は仰角を高くとっている。

 

「照準合わせました!」

 

「撃てーーーっ!」

 

 カルパンドラに二度目の砲撃音が響き渡る。

 今度の砲撃音は先程より重く、空気をより振動させる。目標まで遥か手前で落下したため運動エネルギーを上げるために火薬量を増やしたのだ。

 砲門から黒煙が噴出し、砲弾が勢い良く飛び出てくる。

 砲弾はこれまた一直線に超大型モンスターに向かい、中々落下しない。

 ――いけるか。誰もがそう期待を胸にふくらませた。

 だが、結果は空振り。確かに超大型モンスターの元には届いたが、空気抵抗によって軌道がそれ砲弾が明後日の方向に飛んでいったり、仰角をとりすぎてしまい飛距離が伸びず手前で落下したりするなど、命中弾は一発も無かった。

 

 だが、精度は確実に上がっている。あと1・2回修正砲撃をすれば命中弾が出てくるだろう。

 隊長はそう判断し、次弾装填をさせるために洗浄を急かす。

 だが、ここで超大型モンスターに新たな動きが出た。

 

「た、隊長! 奴等がこっちに向きました!!」

 

 そう、飛んでくる砲弾に鬱憤を覚えたのか、2体の超大型モンスターが湾岸砲大隊に向きを変えたのだ。

 その顔の横には、先程からブレスを放っている触手のような物体が2個。

 

 ――あのブレスが放たれれば、火薬に引火して……

 

 そう考えた付いた隊長は、背筋が凍るような気分に襲われた。

 口の中が急速に乾き、うまく声が出てこない。

 ”早く、早く撃たなければ!”

 隊長はそう内心で叫ぶものの、未だ洗浄が終わっていない。

 洗浄をしている隊員は汗を垂れ流しながら全力で火薬滓を拭き取っているものの、隊長にはそれが凄まじく遅いと感じられた。

 そして、最悪の時間が来てしまった。

 

 ――2体の超大型モンスターから放たれた4本の光線が、湾岸砲台に向けて放たれた。

 

 その照準はこの旧式大砲とは比べ物にならないほどに精確であり、4本全てが湾岸砲に直撃した。

 直撃した湾岸砲はブレスによる高熱によって砲身が溶け出した。また運悪く洗浄が早く済んだ大砲では装填が行われており、大砲内に詰め込まれていた火薬に引火、暴発を引き起こした。

 砲身内部で爆発し、荒れ狂ったエネルギーはブレスによって耐久度が著しく落ちた砲身をやすやすと切り裂き、エネルギーを外部へと放出する。

 熱風と衝撃が隊員達を引きずり倒す。

 中には凶器と化した鉄の破片が隊員達に突き刺さり、その傷口を焼き重度の負傷を与える。

 一気にして、ブレスが直撃した砲台付近は死屍累々とした光景が広がった。

 

 だが、被害はそれだけでは収まらなかった。

 高熱を帯びた鉄の破片の一つが、火薬樽に深々と突き刺さったのだ。

 その火薬樽は、瞬時にして爆発。更にその衝撃と熱風が無造作に置かれていた他の火薬樽を襲い爆発。誘爆を引き起こし巨大な火柱を生み出した。

 

「ぬおおおっ!?」

 

 火薬樽が大爆発を起こした衝撃により、隊長はその身を吹き飛ばされ、勢い良く背中を壁に叩きつけられた。

 その激痛により、隊長はその顔を歪める。

 

「く、くそっ……全員無事かっ!」

 

 大声を張り上げた事により全身に激痛が走るが、それでも構わず隊長は大声を張り続ける。

 そしてその声に、答える声がいくつも返ってきた。

 だが、その声は弱弱しく、また数も少ない。

 改めて隊長は周囲を見渡すと、隊長に瞳に凄惨な現場の姿が映し出された。

 

 衝撃により内臓をやられたのか、口から血をとめどなく垂れ流す者。手足が曲がるはずのない方向に曲がってもがき苦しんでいる者。破片が頭や腹に突き刺さり、既に事切れている者。

 そこは、まさに戦場であった。

 戦場で休んでいる時間など無い。隊長は自分に課せられた使命を思い出し、己を奮い立たせる。

 今こうしている間にも、一般市民が犠牲になっているのだ。避難が完了するまで、何が何でもあの超大型モンスターを食い止めなければ――

 そう思いながら、隊長は立ち上がる。膝がガクガクと振るえ、今にも倒れそうになる。だが、それを抑えて無理矢理立ち上がった。

 

「無事な者は無事な大砲で砲撃を続けろ! 奴を絶対市内に入れてはならん――っ!」

 

 が、ここで二度目の大爆発。見ると、先程ブレスを放った2体の超大型モンスターが再びブレスを放ち、今度は直接火薬樽を攻撃していた。

 再び荒れ狂う熱風に襲われた隊長は再度吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 

(お、おのれ小癪な……っ!?)

 

 二度目の立ち直りは早かった。自分をこんな目に合わせた相手を罵りつつも目を開き、立ち上がろうとする。

 だが、隊長の目に映った光景は――

 

「―――ガハッ……ぁ……」

 

 グシャっという音が、腹から鳴った。

 無意識に、腹から”生えている物体”に手を添える。

 何が起きた――?

 突然の出来事に、事態の把握ができない。

 腹が、熱い。まるで腹に熱された石を置かれたような熱さだ。

 隊長は恐る恐るといった様子で目線を下げ、そして腹を見る。

 

(……ああっ)

 

 そこには、槍が刺さっていた。

 何処に刺さっているのか? 自分の腹だ。

 腹から血が流れ、槍を伝って地面に垂れ落ちる。

 そんな光景を、当事者であるのにどこが他人事の様子で隊長は見ていた。

 

(なんで……なんでこんな事に……)

 

 隊長は腹を見るのをやめ、そして目の前を見て、力なくそう呟いた。

 そこには、高熱に晒されたためかドロドロに溶けた、または粉々になった大砲の残骸が。そして奥を見ると、帆船の攻撃を終え市街地に攻撃を転換している超大型モンスターの姿が。

 学校が粉砕され、町役場が燃え、ギルド支部が倒壊する。

 市街地の至る所に火の手が上がり、倒壊した建物に挟まれもがいている所に燃え広がり、生きながら灼熱の炎に飲まれていく。

 あちこちから悲鳴が聞こえ、その悲痛な叫びは収まる事を知らずカルパンドラ中に轟く。

 そして空からは、破け煤けた衣服が霰の様に降り注ぐ。

 そんな阿鼻叫喚な光景に、隊長は恐怖した。

 

(あれは……あれは、モンスターなんかじゃない……)

 

 全身が震え、意識が途切れ途切れになっていく中で、隊長はこの地獄を引き起こしている張本人である超大型モンスターの姿を見た。

 頬から生えている触手からブレスを放出し、無慈悲に人間を殺戮していく。

 隊長はその姿が、どこか楽しんでいるように見えた。

 光り輝いているのに、輝いていない瞳。ただ淡々と殺戮を続ける姿。

 その全てが不気味であり、恐怖が湧いてくる。

 そんな事ができるのは――

 

(悪魔だっ……三本脚の……あくっ……ま……っ)

 

 ガクリっと隊長は全身から力が抜け、そして突如襲ってきた睡魔に任せて目を瞑った。

 そして、二度とその目が開く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひいいいぃぃっ!? 出口はどこだぁーーっ!?」

 

「誰か! 誰か助けてーーーっ!!」

 

「死にたくねえっ! 死にたくねえよおぉぉーーっ!?」

 

 大通りを、無数の人々が駆け回る。

 ある者は馬車を用意し、一家全員と家財を持ち出し逃げ出すもの。ある者は必要最低限の荷物を持ち逃げ出すもの。ある者は、逃げることに必死で靴さえ履いていない者。

 その全てが、一斉にある場所に向かって走っていった。そこは、カルパンドラで三つしかない出入り口である、門である。

 必然的に唯一の脱出路である門には人々が大勢詰め寄るため、門周辺には人々の群れで埋め尽くされた。

 

「おい! 押すなよ!」

 

「うるせぇっ! 早く行け!」

 

「あ、おい! お前順番を抜かすな!」

 

「黙れ早い者勝ちだっ!!」

 

 皆我先に出ようとするため各地で押し合いが始まり、その分だけ脱出時間が遅くなる。

 守衛隊はなんとか秩序を取り戻そうと声を張り上げるが、そもそも数が少なすぎた。

 1つの門に何万人もの群集が殺到するなど、全くの想定外であった。

 そして、この事態は超大型モンスターの格好の的であった。

 

 一筋の光線が、門周辺に立ち並んでいる建物を薙げるようにして吹き飛ばす。丁寧に瓦礫がその群集に当たるように角度を調整しながら。

 重さ数十キロの石材が軽々と宙を舞い、そして群集の頭上へと降り注ぐ。

 辺り一面人で埋め尽くされているため、人に当てる事は容易い事であった。

 直撃が予測される地点では人々が逃げようとするが、人垣が邪魔で転倒すら許されない。

 あちこちで罵倒が飛び交い、押し合いが始まる。生きる為に人を殴り、身代わりにする。

 そして、門周辺に瓦礫の雨が降り注いだ。

 運悪く瓦礫が頭上に直撃した者は頭をかち割られ、血が吹き出る。

 更に続く悲鳴によって辺りは完全にパニックとなり、我先へと脱出するために門へと駆け出してゆく。

 守衛兵がパニックを治めようと必死に声を張り上げるが、恐怖に駆られた人間を止めるにはあまりにも小さく、無力であった。

 元々混雑していた門が更に混雑し、通過速度がさらに遅くなっていく。

 そしてそれに付け込むように、攻撃が激化していく。

 光線が大通りを縦に割るかのように放たれる。光線に触れた者は一瞬にして灰になり消滅。着ていた衣服が破け宙を舞う。

 

「頼む! 頼むから動いてくれ!」

 

「このままじゃ俺達全員皆殺しにされるぞ!?」

 

 悲痛な悲鳴が広がり、それがまた人々を不安にし、パニックを引き起こす。

 これまで幾つもの死を見て、そしてそれが我が身に降りかかると思うと、正気ではいられなくなるのだ。

 

「お、おい! また来るぞっ!?」

 

 絶望の声が、また広がる。

 超大型モンスター1体がこちらに照準を合わせ、そして二つの触手が煌いている。

 明らかに、こちらに向けて撃つ気だ。

 

「早く行け早――っ!」

 

 群集が口々に告げる騒ぎ声を掻き消すように、光線が再び放たれた。

 その光線は一瞬にしてその目標である門に着弾し、門の上部を切り崩すかの様に門を縦に吹き飛ばす。

 一瞬にして重心を失った石レンガが崩れ落ち、門の真上に落盤する。

 門を通り抜けていた人々はその光景を目を見開きながら見て、落下してきた石レンガ数十トンもの瓦礫に押し潰された。

 そして門の周辺に居た人々は、門が粉砕された爆風によって転倒し人間ドミノを作り出していた。

 人間に押しつぶされた衝撃の痛みでもがき、あちこちで負傷者が多発する。

 更に爆風によって砂煙があちこちに撒き散らされ、視界を奪ってゆく。一体何が起こっているのかわからないこの状況下で、視界が映らない事は何より混乱を誘発させる。

 怒号と悲鳴が飛び交い、人災によってさらに被害を拡大させる。それに構う余裕など誰も無かった。

 目に粉塵が入らぬよう擦りながら目を開き――――全てが絶望した。

 

「も、門が……っ」

 

 誰かが、力なく呟く。

 門が、瓦礫によって完全に塞がれていた。

 門の上層部分が落盤し、何千何万もの石レンガの瓦礫で埋め尽くされていた。

 

 ――閉じ込められた。

 誰もが、そう考え付くと同時に、再び絶望感が湧き出してくる。

 

「ウワアアアァァッ!! 出せ! 俺をここから出せえええぇ!!」

 

「嫌っ! 私死にたくない!」

 

「もうダメだ……俺達全員ここで……」

 

 半狂乱を起こした人々が、門であった場所に駆け寄ると、瓦礫を狂ったように掻きだし始める。

 しかし、一つ一つの石レンガの重さは数十キロあるうえ、石レンガが重なり合っているため取り除ける箇所は非常に少ない。またその箇所を取り除いたとしても、何の意味も無かった。

 だが、半狂乱を起こした人々はそんな事ににも気付かず一心不乱に瓦礫を掻き出す。何か希望に縋りついていないと、それこそ狂乱してしまうからだ。

 いや、既に狂乱を引き起こしている人々も見受けられる

 大声で何かを喚き散らしている人や、道路に力なく座り項垂れ、何かブツブツと呟いている人など。

 希望など、どこにも無かった。

 

「ここはもう駄目だ! 西門に避難しろ!」

 

 だが、守衛兵の言葉に再度希望が持ち上がった。

 守衛兵の言葉は、希望に飢えていた人々に驚くほどの速度で浸透し、脳内に理解させる。

 ――そうか、まだ完全に閉じ込められた訳では――

 暗闇の中から一筋の光が見えたことにより、再び群集は動き出す。

 我先へと西門に続く道に殺到し、守衛兵の言葉が聞こえず立ち尽くしていた人々を押し倒しながら突き進む。

 最後の希望に向かって。

 

 

 ――希望など、粉砕されてしまった事を知らずに。

 

 

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