いないいないばぁ。   作:Gasshow

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今回はNormalなので、謎も文章表現もかなり軽めにしました。いつもと違い最低限の事しか書いてないですね。非常に分かりやすいと思います。



いたずら

いたずら

 

それは“因幡てゐ”にとってある種の娯楽だった。長く生きる中で適度に娯楽を欲する中、自分に一番合っていると思ったのが“いたずら”と言う自分の背丈に似合った存在だった。

 

そんな彼女のいたずらの一番の被害者と言えば、皆がある一人の人物の名を口に出すだろう。同じ場所に住み、同じ兎である彼女の名をーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里の大通りを歩く兎が二匹。人の林が散らかす騒音の中、彼女たちはそれらを掻い潜るようにして、足を運び進めていた。背の高い方は野菜の入った大きな袋を。低い方は肉の入った小さな袋を持っていた。

 

「そんなもん大量に買い込んでどうするつもりなの?鈴仙。人参なら分からないでもないけど、前もトマトを大量に買って帰ってきたし」

 

ふと背の小さな兎ーー因幡てゐが彼女の隣に並ぶ大きな兎ーー鈴仙にそう尋ねた。

「気分よ気分。たまには良いじゃない。それにトマトは師匠に言われて買ってきたのよ」

 

そう返す鈴仙はいつもと違い、どことなく上機嫌だった。今にも鼻唄を歌いそうなその様子は、てゐを不気味がらせるのには十分な材料であった。そんな様子で彼女たちは大通りを抜けて、いつしか人の行き来が少ない裏の小道を歩いていた。

 

「唐突だけどさ、鈴仙が買い物に誘ってくるのんて珍しくない?」

 

「あーその事なんだけどさ……」

 

鈴仙はバツが悪そうに頬をかく。

 

「私さ最近誰かにつけられてるんだよね」

 

「…………つけられてる?」

 

「うん」

 

「誰が?」

 

「私が」

 

「誰に?」

 

「それが分かったら苦労しないわよ」

 

それもそうかと、てゐは低い声でウーンと唸った。

 

「でね、実はその私をつけてるヤツがいたら、捕まえるのを手伝って貰おうかと思ってね」

 

なるほど。それで私を買い物に誘ったのかと、てゐは一人納得した。

 

「でもさ、鈴仙でも捕まえられない奴を私が捕まえられるかな?」

 

「何もてゐ一人に任せる訳じゃないわ。私とてゐで捕まえるのよ」

 

鈴仙はてゐにそういうが、てゐ自身はあまり納得していなかった。と言うのも、鈴仙をもってしても手がかりすら掴めない人物に、てゐが一人混じった所でどうこう出来るとは思えないからだ。そうなると鈴仙が自分を誘った理由は簡単に推測できる。恐らく鈴仙は不安なのだ。元々彼女は臆病な性格。自分が必死で捕まえようとしているのに何も事態が進展しないことに、多少なりとも不安を抱えているのだろう。それなら今、鈴仙の機嫌が良いことにも納得がいく。

 

そんな自分勝手な推測を経てたてゐは、ふと自分の中にあるいたずら心が芽生えた事を自覚した。てゐはそれを実行に移すため、帰路である竹林の中に自分たち二人が完全に入りきるまで期を待った。そしてこの瞬間だと長年の勘と経験に任せたタイミングで鈴仙に話を切り出した。

 

「あっ!ごめん、鈴仙!私、人里でやらなきゃ行けないことがあるの忘れてた!」

 

「えっ!?本当に?何よそれ?」

 

「実はお師匠様に薬草の発注を頼まれてたんだ。今から戻ってやっておかなくちゃ」

 

それはもちろん嘘で、てゐが鈴仙と離れるためにでっち上げた建前である。

 

「ん~明日じゃだめなの?」

 

鈴仙はてゐに懇願するような視線を向ける。

 

「大丈夫だよ。もう竹林の中でじゃん。確か誰かの視線を感るのは人里の中だけだったんでしょ?」

 

「うーん、まぁそうなんだけど」

 

「なら大丈夫だよ」

 

てゐはなるべく優しい声色でそう言う。すると鈴仙も納得したのか、こくりと一つ頷いて明るい笑顔を浮かべた。

 

「そうよね!まあそれでも現れた時は私一人でもとっちめてやるわよ!」

 

「うんうん、その意気だよ」

 

そう言うてゐだが内心は上手くいったと、一人笑いを圧し殺しながら鈴仙に笑みを送っていた。

 

そうして二人はそれぞれの道を行った。一人は竹林へ、そうして一人は人里へ。だがこの時は二人とも気がついていなかった。まさかこの選択が、一匹の兎を地獄に落とすことになると言うことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙は竹林の中を一人進んでいた。しかしその足取りは慎重で、彼女の目線は自身の足元まで落ちていた。と言うのも、ここら一帯はてゐがいたずらで作った落とし穴が大量に設置してあり、少しでも気を抜くと、その落とし穴の中に真っ逆さまと言う事態に陥るからだ。

 

永琳からもてゐに落とし穴を作ると言う行為を止めるように言っているのだが、普段永琳に対して従順なてゐが唯一断固として許容しないのが、この“落とし穴の作成を止める”と言う命令だった。まあ、鈴仙自身このいたずらに参っていると同時に、これはてゐのアイデンティティーでもあると内心納得している部分もあった。そんなこともあり、鈴仙は永琳と違いでゐに何も言っていない。

 

そんな複雑な地雷地帯に足を踏み入れいる鈴仙だが、ふとあの視線を感じた。敵意でも無ければ、警戒でもない。言ってしまえばカメラのような無機質で何の感情も籠っていないあの目線が。

 

「そこ!」

 

鈴仙は自身の斜め前の茂みに段幕を放つ。しかしその瞬間に、目線の主は一目散に逃げてしまう。

 

「待て!」

 

鈴仙は追いかける。今日こそ、今日こそ犯人を捕まえると意気込みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、てゐは人里へ帰ると見せかけてこっそり鈴仙の後をつけようと彼女が進んでいるであろう林道を駆け足気味に進んでいた。と言うのも自分が鈴仙の言う視線の主に成り代わって彼女を驚かそうと言ういたずらを思い付いたからである。

 

そして、てゐは鈴仙に追い付くため足を動かし道を進む。ここから永遠亭まではかなり距離がある。てゐが鈴仙と別れてから十分。まだ余裕で追い付ける。てゐはそう思っていた。思っていたのだが……。

 

「爆音!?」

 

ふと唐突に前方から爆音が聞こえてきた。 方向は鈴仙の通るはずの道と同じだ。 大きくはない。むしろ耳の良いてゐでなければ聞き逃してしまうような小さな音。しかし聞き間違えではないと、そうてゐは断言できた。

 

「もしかして……」

 

鈴仙に何かあったのか!?そう判断したてゐは先程とは違い全力で地面を駆ける。歩き馴れた竹林の中をぴょんぴょんと跳び跳ねるようにして駆けた。駆けて、跳ねて、そして見つけた。彼女は自分の作った落とし穴の中にいた。深い深い、暗い暗い穴の中に。

 

 

 

「…………れい……せん?」

 

頭から血を流し、ぐったりとした姿で兎は横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 




本来は『いきもの係』を書こうと思ったのですが、少し意見を聞きたくなって間にこの話を挟みました。と言うのも難易度理不尽の『いきもの係』と言うこの話、むちゃくちゃ文字数多くしても構いませんかね?具体的には分かりませんが、少なくとも三万文字は行くと思います。ですが無理矢理に文字数を減らすことも出来ます。恐らく八千文字くらいまで。

どっちの方が良いですかね?私的に三万文字まで行くと、読むの面倒なんじゃ?とも思っています。もしよろしければご意見をお願い致します。どちらにしても次更新するのは相当先です。今の内に意見を聞いておこうと思ったので(でないと書き始められない)……。

あ、あと『謝罪文』の解説を載せました。
それと質問が多かったので『有るか無きかのすずろごと』の考え方も。

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