部屋と言うにはあまりにも大きすぎる。言ってしまえば広間と全く変わらない。畳がどれだけの数敷かれているのかさえ、少し見ただけでは全く分からない。そんな場所で一人、筆を持ち書物に何かを書き込む小さな少女がぽつんと静かに座っていた。
「………………出てきたらどうですか?紫さん」
「あら、気づいてらしたの?」
彼女の真正面。そこの空間がぱっくりと裂け、ゆっくりと女性が一人降りてきた。そんな奇妙な光景にも全く動じず、少女は目の下の書物にただひたすら文字を書き続ける。
「よく言いますよ。隠す気もなかったでしょうに。そもそも紫さん。貴方を呼んだのは私なんですよ」
少女に紫と呼ばれた女性は、膝を組み直し、姿勢を正した。
「そう言えばそうだったわね。それで阿求、いきなり呼び出すなんて珍しいじゃない。何かあった?」
「ええ。また十年前のあの出来事を調べる者が現れたのでご報告をと……」
阿求の言葉にピクリと紫は反応する。
「それは誰?何で今更?」
「射命丸文。目的はネタ不足。これだけ言えば、分かるはずですよね。妖怪の賢者様」
阿求の嫌みな言い草を、紫は眉一つ動かさず済ました様子で受け流す。
「また面倒ね。そんな軽い動機で突っ込んでほしくないものだわ」
頭が痛いとばかりに紫は額に手を当てる。
「それで、どうします?天魔を通じて止めさせますか?」
「いや。こうなっては仕方がないでしょう。十年前と同じようにやるわ」
その言葉に、阿求は初めて筆を止める。
「……結構、決断早いですね。もうちょっと様子を見るのかと思いました」
「どの口が言ってるのよ。十年前、魔理沙を追い詰めたのは貴方でしょ?」
阿求の口が三日月のように大きな弧を描く。その様子は楽しさ、喜び、快感そう言ったものを含んでいるように感じた。
「あれは魔理沙さんがあまりにも必死だったので、手伝ってあげたに過ぎませんよ」
呆れたとばかりに、紫は両手を少し上げて手首を外へと向けた。
「まぁいいわ。私は面倒な事になる前に、この件を終わらせる。貴方も充分、気をつけなさい」
「ええ。ご忠告感謝します」
既に誰もいなくなった場所に向け、阿求はそう言う。それから彼女は何事も無かったかのように、再び筆を持ち上げた。
ぱさりと地面に一つの手帳が落ちる。
声は聞こえない。
音は聞こえない。
何も聞こえない。
何も無い。
いや、あった。
ただ一つ。
ただ一つだけあった。
さてそれはどんな
後ろの正面だぁれ?
そうしてゆっくりと