話は変わって、皆様が初見殺しだと思うスペルカードって何ですか?個人的な経験で言うと……
一位『正直者の死』
二位『そして誰もいなくなるか?』
三位『きゅうけつ鬼ごっこ』
……です。
あれですよね。これのHard以上を初見でさばき切る反射神経を持つ人は人間ではないと思います。
ちなみに今回の話は難易度Lunaticです。
その場所は数え切れないような本の数々と、それを収納する古木の棚に埋め尽くされていた。空気もどこかこもったような、かび臭さが漂っており、場を照らす光量は十分とは言い難く、薄暗いその様子は、不気味とそう言うには十分だろう。そんな『
「久しぶりね、パチェ」
入ってきたのは、まるで子供のような身長と体格を持ち、それに不釣り合いなほど大きな
「…………レミィ。私たちは今日、会ったわよ」
そう返したのはどこかおっとりとした紫色の服を着た女性だった。やけに白い肌が不健康的で、彼女の目は自身の手に持った本にのみ向けられていた。
「おや、こうして親友が訪ねてきたんだ。せめて目線だけでも合わせて欲しいわ。それに私は一応、この館の主人であるレミリア・スカーレットなのだから、少しくらいは礼儀を示して欲しいわ。ねぇ、パチュリー・ノーレッジ」
レミリアと名乗った少女は、ククッと笑ってパチュリーと呼ばれた女性が座る、目の前の
「……それで、何しに来たの?」
「暇潰し。日が昇るまでまだ少し時間があるわ。それまで私の話し相手をして欲しいの」
それを聞いたパチュリーは、面倒だわとそう呟きはしたものの、目線を上げてレミリアと話をする姿勢をとった。
「小悪魔。紅茶を二つ、
「は、はい!かしこまりました、パチュリー様!」
本棚の陰で姿は見えないが、近くにはいるのだろう。声量の少ないパチュリーの声にちゃんと反応し、返事も返ってきた。
「…………ごめんなさい」
何故だろうか?そのやり取りを聞いたレミリアは口角を下げ、すまなさそうにパチュリーへと謝った。
「…………いいのよ。あの子もきっと本望だったと思うわ」
パチュリーは一瞬、呆気に取られたものの、次には優しい笑顔を浮かべた。それから、小悪魔を通してパチュリーはレミリアへと紅茶を渡し、二人はそれぞれ紅茶を口へと入れる。
「パチェ、こうしてお前がここに来てどれくらい経った?」
「確か……四百年じゃなかったかしら?」
「そうね。初めは驚いたものだったわ。いきなりヒョロヒョロな、今にも倒れそうな魔女が
レミリアは愉快そうに笑う。
「……あの時は、魔女狩りの全盛期だったから、私も大変だったのよ。逃げて逃げて逃げて逃げた先が
「あんな人が寄り付かない町外れに建っているんだから、普通じゃないと言うことくらい分かるでしょうに」
「あの時は必死で逃げ回ってたから、頭が回らなかったの」
パチュリーはムスッと
「前から思ってたけど、もう少し体力を付けたらどう?
いわゆる『魔女』と呼ばれる彼女達は、魔法の実験をする際に、トリカブトやヒ素などの有毒な鉱物や薬草をよく使う。それ故に、彼女たちは体が弱り、病弱になってしまうのだ。それはパチュリーも例外ではなかった。
「考えてはいるのだけれど、どうも実行する気になれなくてね……」
「何なら私が一緒に付き合いましょうか?」
「止めてよね。吸血鬼の身体能力に合わせてたら体がいくつあっても足りないわ」
それからも、二人はとりとめのない会話をしていく。昔話なんてほとんどしなかったのだろう。その話題は全く尽きることはなかった。
「しかしパチェ、貴方がここに来てくれたことは本当に感謝しているのよ。おかげで私は、紅魔館は大きく変わることができた」
レミリアは不敵な笑みを浮かべて、真っ直ぐにパチュリーを見た。
「…………それはあの時の事を言っているの?」
「それも一つね。まさか隙間の妖怪でさえどうにも出来なかったフランの《狂気》を、あの貴方が取り除いてしまうなんてね」
それを聞いたパチュリーは、心外だとばかりに机に肘を立てた。
「あら。私が貴方の為に長年研究していたのは知っているでしょうに」
「くくっ、そうだったわね」
レミリアは意地悪く笑う。
そう。レミリアの妹である『フランドール・スカーレット』はある種の呪いのような《狂気》に囚われていた。発作が起こっては、自身の力を持って目に見えるもの全てを破壊していった。それが例え、実の姉であっても。『フランドール・スカーレット』とはそう言う吸血鬼だったのだ。だから彼女は長い間、紅魔館の地下へと幽閉されていたのだ。
「しかしあの時は私を抜いた四人で地下に行って、フランを押さえ込むとは思わなかったわ」
「レミィは最終防衛線。私たちが失敗した時の為に、地上で待機していて欲しかったの」
「そのせいで、フランが《狂気》から開放される瞬間は見られなかったけどね」
「地味なものよ。ちょっと光ってすぐ終わり。私が実験に失敗した時の、爆発と似たようなものよ」
「何よ。それじゃあ、フランに使った魔法は失敗していることになるじゃない」
「何を言ってるのよ。魔法は完璧よ。私を誰だと思ってるのかしら?」
「紫もやし」
「違いないわね」
二人は同時にふふっと笑みを溢した。
「でも良かったの?フランの《狂気》は吸血鬼の本質だった。それを取り除いたと言うことは、もうフランは吸血鬼としての全てを放棄したことになるのよ」
フランドールを
「………………いいのよ。私は咲夜と、美鈴と、フランと、貴方と過ごす日常が欲しかったのだから。フランもきっと、貴方たちに感謝しているわ」
レミリアの笑みに答えるように、パチュリーは
その時だった……
バンッ!
と扉が勢いよく開かれて、そこに金髪の少女が現れた。背中にはレミリアのように羽があるが、しかしその羽はキラキラと輝いており、まるで宝石をぶら下げたような形状をしていた。
「あっ!お姉様いた!」
その少女は走り出すと、レミリアの元へと飛び込んだ。
「フラン、どうしたの?」
レミリアは、フランの体を受け止めつつそう尋ねた。
「だって今日、まだ一回もお姉様に会ってなかったから」
「フランは甘えん坊ね」
フランはすりすりとレミリアの体に頬を擦り付け、パチュリーは紅茶を飲みながら、微笑ましいものを見るようにそう尋ねる。
「いいじゃない。私はお姉様が大好きなんだから。って言うかお姉様とパチュリーは何をしていたの?」
言いながらこくりと首を傾げる。
「ただの無駄話よ。意味の無い、ちょっとした昔話をね」
「えっ!?何それ!?ずるい!私もしたい!」
レミリアは目を細め、愛おしそうにフランを見つめた。そう、本当に愛おしそうに……。
「……そうね。いっぱい話をしましょう。今からも、そしてこれからも」
机に置かれたティーカップは三つとなり、図書館に響く笑い声は何処までもこだました。そうして三人は、朝日が完全に昇りきるまで話をした。それはそれは楽しそうに……。
前回は一瞬で解かれてしまったので、今回は難しめです。ですが、謎のクオリティーは上がっています。自分で言うのもあれですが、初めて納得できる話構成ができた短編です。
と言うことで、ヒントは以下。
ヒント1 レミリアはずっと地上にいた。フランが《狂気》から解き放たれた瞬間は一切見ていない。
ヒント2 なんかこの話のパチュリー高性能すぎない?
ヒント3 なぜ始めの方で、レミリアはパチュリーに謝ったのか?
取り合えず、今回はヒント三つにしました。出そうと思えば十個くらい言えますが、そんだけ出したら多分またすぐに解かれてしまうので。今回は少しだけ推理をしないと解けないようになっておりますので、これを解けた人はシャーロック・ホームズですね。
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