いないいないばぁ。   作:Gasshow

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『いないいないばぁ。』ラストの話です。と言っても、最後に番外の読み物としての話を投稿するので、本当のラストと言うわけではありません。

因みになんと!この話!ラストにして実はコラボ作品なのです!ikayaki様とのコラボ作品で、ikayaki様が話のプロットを考えて下さり、それを私が修正して文章に起こして、そして最後に二人で見直し投稿したものです。なんと言うか、作家と編集の気分的なものを味わえました。本当に感謝です!

そしてこれが前から言っていた理不尽な問題。難易度は新Lunatic.ver2改revolutionZです。ラストですから、折角だと思い難しくしました。もうこれに答えられたら預言者です。わりと真面目に。下手したら少し妄想入らないと無理かも……。ヒントはしっかりと出しますので、それを頼りにしないと不可能ですね。


ゆびきり

幻想郷。うつし世の怪異(かいい)たちが数多く住まうその土地で、人を喰らい続ける小さな小さな妖怪がいた。一見、ただの幼い少女にしか見えない彼女は、しかし残虐性を持った人喰い妖怪。人里に住まう人々は対策をしても(なお)、増え続ける被害に二進も三進もいかないと、半ばお手上げ状態だった。しかしそんな彼らの現状を打開する(すべ)として、そしてついには『博麗の巫女』が駆り出された。

 

巫女の力になすすべなく、地面に倒れ付した妖怪の子。お腹が減ってただけなのに、そう呟いた彼女の首を踏み潰そうとする博麗の巫女。しかしそこに飛び込んだのは、一人の小さな人の男の少年。どうかチャンスをあげてくれ。そう懇願する男の子。散々迷った巫女は一言、一度だけだとそう言って、遠くの空へと飛び立った。

 

それから二人は友達に。人里離れた空き地の隅で、彼らは今日も楽しく過ごす。これはそんな少年少女、二人の小さな物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーミア!今日は飴を持ってきたよ!」

 

「おー!ありがとう、美晴(みはる)

 

草花だけが咲き乱れる空き地に、幼い声がこだました。美晴と呼ばれた黒髪の少年は、一人の少女の元へと駆け寄った。

 

「いちご、みかん、ももの三つががあるけどどれがいい?」

 

少年の開いた手には三色それぞれに彩られた三つの飴玉が転がっている。

 

「う~ん。いちごかな?私、果物でもいちごが好きだから」

 

そう言って妖怪の女の子ルーミアは、赤色の飴玉を指先でひょいっと摘まんで口の中に放り込んだ。ころころと口の中で転がる飴玉が、頬に当たる度にその形が浮かび上がる。その様子を満足そうに見ていた美晴は、自身の手からオレンジ色の飴玉を摘まみ上げ、ルーミアと同じようにして口の中へと放り込んだ。

 

「おいしいね!」

 

「うん!」

 

二人はそう言って笑い合う。それからしばらく笑い合ったまま、彼らは飴を舐め続けた。それから下らない話をして、口の中の飴が全部溶けきった頃、ルーミアは美晴へと向き直った。

 

「それで、今日は何して遊ぶ?」

 

それはふとルーミアから切り出された言葉だった。

 

「実は今日ね、あやとりを持ってきたんだ」

 

そう言って美晴は、懐から毛糸で作られた細長い輪を二つ取り出して、ルーミアへと見せた。

 

「あやとり?」

 

「うん。こうしてね……。」

 

美晴は馴れた手つきで次々と指に紐を掛けていき、やがて一つの造形を作り出した。

 

「ほうき!」

 

「おぉ!凄い!」

 

両手の中に収められたそれは、明確な形をしておらず抽象的な造形だ。しかしそれでも問われれば何を指しているのか容易に分かる。それを一つの紐だけでやってしまう美晴にルーミアは感動したのだ。それから美晴がルーミアにあやとりを教える形で今日の遊びは始まった。お世辞にも器用とは言えないルーミアだが、それでも懸命に教え続ける美晴のお陰か、簡単な物なら次第にできるようになっていった。

 

 

「ねぇルーミア」

 

「なに?」

 

二人はそれぞれ自分の手元を見て、懸命にあやとりの練習をしていた。そこでふと美晴はルーミアへと一つの疑問を投げ掛けた。

 

「最近はどう?大丈夫?」

 

これだけを聞いても、何の事を言っているのか分からないだろう。しかしそれでもルーミアは意味をしっかりと取り、元気よく頷いた。

 

「大丈夫。美晴も飴をくれるしね」

 

「…………そっか。良かった」

 

美晴はそう言いながら息を吐いて、安堵し、緩んだ笑みを溢した。

 

「約束だからね。もう人間を食べたりしない」

 

「……分かってる。ちゃんと守ってるでしょ?」

 

ルーミアは仕方がないなと言わんばかりに溜め息を吐いた。しかしそれでも美晴は真剣な目付きでルーミアを見つめ続ける。

 

「約束だよ」

 

再度、放たれた言葉。それはどこか力強い何かを含んでいた。

 

「…………分かった。約束ね」

 

二人は小さな小さな小指を絡める。それは優しく、そして強く結ばれた、幼く強い約束の証しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから日が落ちる前に、美晴は人里へと、ルーミアは離れの森にある一つの小さな小屋へと帰っていった。その小屋は彼女が森を散歩していた時に、たまたま見つけた無人の小屋だったのだが、状態も良く、住み心地も良さそうだったので、それ以来ルーミアはそこに住むようにしているのだ。そして、そんなルーミアの住居とも言える場所に、一人の来客が訪ねて来た。

 

「お邪魔するわよ。状態はどう?」

 

小屋の扉を開けたと同時に、ウサギ耳の付いた頭が、家内と野外との隙間からひょっこりと顔を覗かせる。

 

「はぁ……はぁ…… 鈴仙?」

 

少し苦しそうにうめきながらも、ルーミアはその来客の名を口にする。

 

「また随分と苦しそうね。薬は飲んだの?」

 

「飲んでるけど、もう最近は効かなくなってきた」

 

 鈴仙はベッドに横たわるルーミアの側へと寄ってその側で腰を下ろし、その細い腕に手を当てる。

 

「もう人間の肉を食べないでどのくらい?」

 

「…………そろそろ半年くらいかな?」

 

それを聞いた 鈴仙は、半ば呆れたような表情を見せる。

 

「よくもまぁ人喰い妖怪がここまで耐えれるわね。別に人を襲わなければいいんだから、死肉でも食べればいいじゃない。探せばどこかしらに落ちてるはずよ」

 

幻想郷には事故や自殺で死んだ人間が度々、流れ着いてくる。理性のある妖怪たちは、それを食べて妖怪としての飢えを凌いでいるのだ。しかしルーミアはそうをしようとはしなかった。

 

「………………約束だから」

 

「…………頑固者」

 

ルーミアの状態は言わば人間で言うところの餓死に近いものだった。人間は牛の肉や、野菜を食べれば飢えを凌げる。しかし人喰い妖怪は違う。それとは別に、定期的に人間の肉を摂取しないと、餓えて死んでしまうのだ。

 

「このままだと本当に飢えで死ぬわよ」

 

「…………それならそれで構わない。本来なら私は既に死んでいるから」

 

あまり焦点の定まっていない目で、ルーミアは天井を見つめる。 鈴仙はそんなルーミアの姿を一別したあと、救急箱から錠剤が入った瓶を取り出した。

 

「患者がこうも生きる気力を見せてないと、私としてはやりごたえがないわね。はい、新しい薬よ。これでも一週間もつかもたないか。期間過ぎればまたすぐに飢えを感じるようになるわ」

 

 鈴仙が渡した薬はあくまで飢えを誤魔化す薬だ。決して飢えが取り除かれると言った類いの物ではない。

 

「ふふっ、ごめんね。でも 鈴仙には感謝してる。こんな私に今までずっと付き合ってくれてるんだもの」

 

「まぁ一度、乗り掛かった船ですもの。沈没するまで付き合うわ。海の底まではごめんだけど」

 

 鈴仙の言いぐさに、思わずルーミアは吹き出した。

 

「そうね。 鈴仙は泳げる兎だものね」

 

「…………それ馬鹿にしてる?」

 

「滅相もない」

 

むくれる鈴仙にほろこんだ笑みを見せるルーミア。しばらく愉快そうに微笑む彼女を尻目に、鈴仙は診察道具を片付け始める。しかしその途中でふと鈴仙はルーミアへとこう投げ掛けた。

 

「…………それでどうする気?」

 

「…………何が?」

 

「決まってるでしょ。今は平気かもしれないけど、また飢えが始まれば、いつか貴方は理性を失って、あの少年を襲い喰らってしまうかもしれないのよ」

 

「…………そうならない為の薬でしょ?」

 

「それもすぐに効かなくなる。そう言った筈よ」

 

 鈴仙の紅い目がルーミアを射抜く。鋭く穏やかに光る細目が、まるで浮き上がっているように見える。

 

「………………耐えてみせるわよ」

 

ルーミアは一言そう言った。その言葉にどんな意味が、どんな決意が込められているのか。それは当の本人にしか分からない。しかしただ一つだけ分かることがあるあるとすれば、彼女がもう昔の人喰い妖怪ではないと言う、ただそのことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはある冬の日。美晴は人里の子供たちと遊び、家に帰る途中だった。もう既に太陽は空から消えて、夜の暗さだけが人里を包んでいた。ここまで遅くなったのは、帰り道の途中で妙な女性に道案内を頼まれたからだった。ここ最近、ついてないなと美晴はふと思う。と言うのも半月ほど前から、ルーミアが忽然(こつぜん)と姿を消したからだ。いつも遊んでいた空き地に行っても誰もいない。一週間ずっと通いつめて、日が沈むまで待っていたのだが、それでも一度として会えなかった。仕方がないと、ここ最近は人里の子供たちと遊んでいたのだが、それでも頭の片隅には、ルーミアの姿がいつもあった。やっぱり心配だ。明日は空き地に行こう。そう思いながら美晴は帰路を駆けていった。

 

「ただいま!」

 

家に着いた美晴は、木で作られた横開きの扉を開けると同時にそう言い放つ。丁寧に揃えられた履き物。縁に置かれた花瓶。いつもと変わらない情景。しかしそこでふと違和感に気づいた。いつもなら美晴が帰ると出迎えの言葉をかけてくれる両親の声が聞こえてこない。それだけではない。更には家の中に明かりと呼べる物が何一つとして点いていなかった。不審に思いながらも、どこかへ出掛けているのかとそう美晴は結論付けて家の中へと進んだ。しかし廊下を歩く途中で何やら奇妙な音が聞こえることに美晴は気がついた。どうやらそれは奥の個室から聞こえる。怪しく思いながら美晴は廊下を進み続け、その部屋の前に立ち、そして彼は襖を開けた。

 

まず目に入ったのは金色に輝く綺麗な髪と、それを結ぶ大きな赤色のリボン。それは自分がここしばらく探し続けていた少女のシンボルだ。

 

「……………………ルーミア?」

 

なぜ彼女がこんな所に?当然、美晴の頭にそんな疑問が生まれたのだが、次の瞬間にはその疑問は全て書き消された。なぜなら彼女の周りには痛いほど鮮烈な赤が飛び散っていたからだ。それはルーミアを中心として床は勿論、壁や天井にまで飛び散っていた。そんな光景を前に美晴の思考が完全に停止し、唖然と立ち尽くす中、彼の目が暗闇に慣れ始める。

 

「 うわぁぁぁあぁぁああぁぁぁ!!!」

 

暗闇の奥から現れたのは、血だらけで(はらわた)を飛び散らせ、倒れ伏す両親の姿だった。

 

「父さん!母さん!」

 

そう叫んで二人の側へと近寄った時、美晴は気づいた。両親の側へと座るルーミアが彼らの体へと手を突っ込み、その肉を引き千切り口へと運んでいることに。それで全てを察した。それで全て理解してしまった。そして気づいた時には、ルーミアの首へと手が伸びていた。

 

「お前がッ!……お前が父さんと母さんを!!」

 

美晴は有らん限りの力でルーミアの首を締め上げる。

 

「……ガッ……ギィッ…………。」

 

苦しそうに呻くルーミアは美晴の腕に手を掛ける。しかしその手には美晴の腕を振りほどの力が込められていなかった。

 

「ガッ………ギッ……ガッ……ドッ……。」

 

それが彼女の最後の言葉だった。美晴の腕に掛けられていた手がぶらりと下へ落下する。首がガクリと支えを失う。しかしそれでも(なお)、美晴は手を緩めなかった。いや、もしくは気づいていなかったのだろう。それからしばらくしてルーミアの息が止まった事に気が付いた美晴は彼女の首から手を放した。ぼとりと鈍い音がして、ルーミアの体が地面へと落下する。それをしばらく虚ろな目で眺めていた美晴は唐突に叫び、そして泣き喚いた。喉が裂けんばかりに声を荒げた。それは何に対しての涙なのか。死んだ両親か、はたまた親友だった彼女に向ける恨みなのか。

 

ただその叫び声は暗い闇の中へと沈んでいった。深い深い闇の中へ。

 

 

 

 

 

 

 




初めてのオリキャラ。ただの幼い人間の男の子、美晴君です。本当に何の能力もありません。






ヒント1 いくら空腹で弱っていたとは言え、人間の幼子に妖怪であるルーミアが力負けするものなのか?








ヒント2 ルーミアは最後に何と言おうとしたのだろうか?








ヒント3 登場キャラの能力を把握していないと無理です。





基本こんな感じです。かなり引っかけが多いですので、それさえ気をつければ……いけるかな?【解】は既に書いていますが、今回はむちゃくちゃ丁寧に書いています。解説いらないレベルですね。

最後にこんなむちゃくちゃな作品に付き合って下さり、本当にありがとうございました(まだ番外は続きます)。

因みに哀々傘の解説を載せておりますのでよければ。


ーー追記ーー

【解】は十五日の十二時に投稿しようと思います。延長が必要と感じましたら、気軽にメッセージを下さい。あと追加のヒントは必要ですか?もうあまり重要なヒントは…………あるかないか微妙ですが。

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