「授業が始まっていますよ!」
広場に行くとコルベール先生の声が聴こえる。
生徒達は先生の声に従い、犬に追われる羊達のようにいそいそと戻って行く。
(これで決闘の件は問題ないかな)
決闘の件で生徒達は、粛清を望んでいた。
しかしだ、蓋を開ければ才人は奮闘し引き分けとなる。
これに不満を持つ者も多いだろう。
不満を持ったらどうするか?決闘を挑む?ギーシュとあれほどの戦いを見せた才人に?
それこそナンセンス。
戦いの『たの字』も知らない学生が敵う相手ではない。
平民に負けたとなれば学生生活も、お先真っ暗となる。
故に、才人に何も言えず、しかし誇りが故に認められず棒立ちとなる。
だからこその先生の仲介。
目上の人、それも教員者の仲介があり言われれば逃げ道となる。
今回の事で才人は『腫れ物』扱いはされるだろうが、まぁ良い結果とも言えた。
「結構派手にやったな」
「あー……ウイルか」「参ったね。君にも見られていたか」
寝転び治療を受けている二人に声を掛ける。
才人とギーシュは、お互いに大の字となり仲良く並んでいた。
これも青春の1ページとなるのだろう。
「ウイル!カリオストロ!」
「やぁ、ルイズ……と昨日のメイド?」
「はろー☆」
才人の隣に居るルイズに声を掛けられ、後ろをうろうろと歩いているシエスタに視線が行く。
ルイズは涙目でシエスタは、才人が心配だが貴族が多いのでどうしようかと言った所か。
「えっと……君の名前は?」
「シシシ、シエスタでしゅ!」
名前を知っているが、聞いてみる。
シエスタとは特別に交流したわけでもなく、知らない間柄なのだ。
ここで何故知ってるのか聞かれるのも面倒でミスをしたくない。
驚かさないように優しく投げかけるもシエスタは涙目で舌を噛んだ。
『……痛い』と呟き舌に手を当てている。
なんというか、仕草といい可愛らしい子とだなと思った。
同時にこれから彼女に迫られる才人を羨ましく思う。
自分であれば、迫られたら手を出してしまいそうだ。
ルイズといい、シエスタといい、此方の世界の女性は容姿が素晴らしい。
声も良ければ、容姿、性格、家柄と全てが完璧だ。
生前に彼女や結婚などに興味がなかった自分でも心が惹かれた。
「……シエスタか。君は才人と仲が良いのかな?」
「あのっ、えっと……す、少し前に会いまして……ほ、ほかの子達に比べれば……」
才人の介抱の件もあり、渡りに船かと思い聞いて見れば。
シエスタは顔を真っ赤にさせ、チラチラと才人を見ている。
なんという判りやすい態度、才人よ手が早過ぎないだろうか。
いや、貴族が絶対とされた世界の中で果敢に貴族に立ち向かう才人……憧れるのもまた『真理』か。
「なら丁度好い、才人の介抱をしてくれるメイドを探していた所でね。君がしてくれないかい?」
「わ、私がですか!?」
「そう君が。オールド・オスマンに許可も頂いているから問題もないよ」
『それで構わないよね』と視線をルイズへと向ければ、ルイズも意図を読んで頷いてくれた。
以心伝心、少しの事なら視線で判ってくれる友人に恵まれ嬉しい限り。
「どうかな?」
「ぜ、ぜひお願いします!」
軽く微笑み聞けば、シエスタが大きなお辞儀をして答えてくれた。
大き過ぎて、頭のカチューシャが落ちて慌てて拾い上げる事となり慌てだす。
巨乳+ドジっ子メイドか……才人が羨ましい。
「勝手に決めてすまない。ルイズ」
「ううん、私じゃ思いつかなかっただろうし、ありがとう」
シエスタとの会話も終わり、ルイズへと声を掛ける。
無邪気な可愛らしい笑顔に笑顔で応えつつも胸がチクリと痛む。
今回の結果は、副産物だ。
ルイズに恩を売る為に行なった事で、罪悪感で素直にお礼を受取れない。
視線をルイズから逸らし、地面を見て、治療してもらっている才人を見て、空を見上げる。
「……あー……なんだ。俺としてはルイズにしてもらいたい事があってな……その」
暫し悩むも結局の所、素直に話すことにした。
このまま抱え込むと後で思い出し、うじうじと悩むと生前で経験済みだ。
それならいっその事、素直に話そうと思った。
「くすっ、判ってる。何をすればいいの?」
罰悪そうに頬を指で掻き視線を逸らし言えば。
ルイズは、きょとんとしてから口に手を当て上品に笑い、受け入れてくれた。
なんというか、ルイズの器が広すぎないかと思う。
普通『恩を売る為にやりました、だからこれやってね』と言われて直ぐに納得出来るだろうか。
自分だったら嫌な気持ちになり、素直に受け入れられない。
それなのにルイズは受け入れ、笑顔で応える器がある。
自分とは違うなと少しばかり苦笑する結果となった。
「ヴァリエール公爵に手紙を出して欲しい。些細な事でもいいから君の手紙を」
「うん」
「その時に俺の手紙も一緒に送ってくれ」
「判ったけど……何を頼むの?」
昨日の晩に書いておいた手紙を懐から差し出しルイズへと渡す。
手紙を渡せばルイズは受け取り、不思議そうに首を傾げた。
「カリオストロの事で『名』を貸して欲しいと」
「あー……あの容姿だものね」
「あぁ……あの容姿だから」
お互いに視線を合わせカリオストロへと視線を向ける。
カリオストロは魔法に興味津々なのだろう、才人の隣で治療の様子を見ていた。
ついでに隣に居たギーシュに下着を見られてるけど……構わないのだろうか……あ、蹴った。
「流石に上の人等に言われたらな」
「まぁ、抗えないわよね。判ったわ、お父様に私からも言って見る」
「ありがとう、ルイズ」
感謝の意味も込め、頭を優しく撫でるとルイズは大人しく目を細め気持ち良さそうに頬を緩めた。
ルイズの髪はしっかりと手入れされているせいか、触り心地が良く、撫で心地が良い。
なんとなく飼っていた猫を思い出す。
「あとは……ルイズが通っている仕立て屋の位置と紹介状をお願いできるか?」
「いいけど……結構いい値段するわよ?あそこ」
「それはなんとかする。オールド・オスマンから才人とカリオストロの生活費が出るから場合によっては負担してもらうさ」
最後のお願いを告げ、手を離す。
「才人、動けるか?」
「あー…無理すればなんとか」
話を終えると丁度才人の治療も終わる。
去っていく治療してくれた先生に頭を下げてから才人へと視線を向けた。
治療を終えた今でも才人は寝転がり、少し体を起すと辛そうだ。
「魔法で運ぶから動かなくていいぞ」
「いいのか?」
「怪我人に歩けと言えるか」
「判った、ありがとう」
『レビテーション』を唱え才人を浮かせた。
「それとギーシュ……かっこよく振られとけよ」
「かっこよくか……そうだね。かっこよく振られてくるか」
最後にギーシュへと視線を向け、言い忘れていた事を伝える。
何があろうと原因はギーシュの女癖だ。
傷つけた責任位取るべきだろう。
「あー……それと才人を救ってくれてありがとう。モンモランシーのフォローはしとく……」
「本当かい……!!」
決闘の原因でもあるが、才人を救い、今回の交渉の結果を作り出した1人だ。
フォローの一つでもしておくべきだろう。
モンモランシーには、朝にカリオストロを口説いた件を話せばいいだろう。
可憐なカリオストロより自分を選んだ。
プライドの高いモンモランシーなら、それだけで問題ないと判断する。
「それじゃな。先生……才人を連れて行かないと行けないので俺達はこれで」
「あぁ、先生方にも伝えておくよ。君達はそのまま今日は休みなさい」
教室に戻るギーシュとコルベール先生に挨拶をしてその場を去った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「それで……どちらの部屋にするの?」
「あー……俺の部屋かね。お風呂もトイレもあるし、才人は動くのも辛そうだしな」
「ルイズの部屋じゃ駄目なのか?」
「無理ね。私の部屋3階だもの……苦痛で呻きたいって言うなら構わないけど」
ぷかぷかと浮いた才人を運びながら部屋へと向かう。
その最中に何処へと向かうのかを聞けば考えてなかったらしい。
変な所で抜けてる奴だ。
「大きなベッドはルイズとカリオストロ。才人は、裏にあるベッドを運んでそこで……俺はまたソファーで寝るよ」
「なんか悪いな」
「そう思うなら、うかつな行動は慎めよ」
「う゛っ」
疲れた様子でウイルが呟やき、才人が突っ込まれる。
才人の態度にこれは、またやらかすなと思った。
これは判ってない態度だ。
間違いを二度犯す人間のそれだ。
「ちょっと待ってろよ」
「おぅ」
部屋に戻ると才人をソファーに寝かせ、ウイルは裏へと引っ込む。
大きなベッドの裏には暗幕があり、その後ろへと入っていくので付いていく。
「へー……」
「なんだ、付いてきたのか」
「あっちに居ても暇だもん☆」
暗幕を潜れば、部屋の残りの半分が姿を見せた。
4つの大きな本棚が並び、その置くにはL字型のテーブルが置かれている。
テーブルの上には様々なフラスコや中身が入っており、いかにも研究をしていますと言わんばかりに置いてある。テーブルの横には、薬品や草などが納められている棚が幾つかあり、その棚の横に一人用のベッドが鎮座していた。
そのベッドを魔法で運ぶウイルを横目に本を一つ取り出し開く。
中にはミミズが這った様な文字が続き、読めない。
(そういえば……此方の文字を覚えないとな)
「あー……文字は流石に読めないか?」
「戻ってきたの?」
文字を覚えようと考えていると後ろから覗き込むように格好でウイルが立っていた。
ベッドの方を運び終わり、暇にでもなったのだろう。
「文字教えようか?」
「……基礎だけお願い、後は自力で解くから☆」
「判った」
ウイルの言葉に頷き、基礎だけ教わる事にした。
全てを教えてもらってはつまらない。
苦労した方が良く覚えられ、解ければ楽しい。
研究が再開できるまでの間の暇つぶしにもなる。
椅子に座り、ウイルが持ってきた本を見る。
本には、剣を持ち竜に立ち向かう少年が描かれていた。
物語の類の話と判断する。
「なんて題名だ?」
「これは『イーヴァルディの勇者』だな。平民に人気な物語」
「へ~……」
「文句言わないんだな」
「あぁん?文句言う筈ないだろ。たかが物語、されど物語。伝承や絵本の類だって立派な書物だ。中に隠された意味を
そう、こう言った物は馬鹿に出来ない。
深い意味が隠されている事も多々ある物だ。
「それじゃ、読んでくれ」
「判った……」
ウイルが読み、文字の一つ一つを丁寧に教えていく。
それを頭に叩き込み、同時に物語への中へと入っていった。
「これでお終い。文字の方は大丈夫か?」
「問題ない、なるほどな……『イーヴァルディの勇者』か……中々に楽しめたな」
物語を読み終わるとそんな感想を抱く。
竜相手に剣1本で立ち向かい勝利する平民……なんともまぁ……
竜を貴族に例えればまさにそうだ。
(まずは……この物語が何時頃から読まれているのか、次に作者と……)
様々な情報を頭の中で整理し真理を読み解く。
流石に情報が少ない為、得られるのも少ない。
今後の研究の一端として読み進めていこうと思い表紙を撫でる。
「そういえば……ウイルは、どんな研究をしてるの~?」
「あー………」
研究と言う言葉で思い出し、聞いてみる。
聞けばウイルは、眉を潜め腕を組み呻り始めた。
何かあるのだろうか。
「森の奥とかの珍しい植物とか鉱石を拾ってきて、どんな効果があるか、どんな役割として使えるかとか……そういうの地味に調べてる」
「ふ~ん……まぁ普通だね☆」
なんとも言葉に困る回答に素直に答えれば、苦笑しつつ『普通だろ』とウイルは答えた。
「残念ながら今の俺にはこれが精一杯。コルベール先生見たいに閃きと才能なんてないからね」
「コルベール……あぁ、あのハゲ頭の」
ウイルが出した人物を思い出し、眉を潜める。
どうやらあの人物も研究者らしい。
そこまで言葉にするとウイルは研究を始めるのか、ガチャガチャと器具を動かし、草を煎じていく。煎じた草を他の液体に混ぜて反応を見ては記録を取り、火に掛けて反応を見ては記録を取る。
その様な行為を何度も何度も根気よく続けていった。
その様子を椅子に座り、文字を解読しつつ横目でたまに見る。
時間を過ぎてもウイルのやる事は変わらない、劇的な変化が起きるわけでもなく、淡々と成果が得られず進む。それでもウイルは楽しそうに面白いとばかりに表情を変えて行く。
(……そういえば、他の奴等の研究している所を見たことなかったな)
横目で見つつそんな事を思い出す。
常に1人で孤高の存在として君臨していた自分。
他人などに興味はなく、ひたすら真理を追い求めた自分。
そんな自分が今では、こうやって他の人と関わりを持つようになっている。
それが少しばかりおかしく、軽く笑う。
ウイルの研究の様子を見るにど素人のそれ、才能の欠片もなく、人生の全てを研究に捧げて1度大当たりするかしないかの才能。
きっと悠久に生きる自分にとってたった100年程度の付き合い。
それでも……
「こういうのも悪くないか」
たまには人と関わりを持つこともいいかも知れない。
ただひたすらに努力し天才を見上げる凡才を見てそんな気持ちを抱いた。
辺りが暗くなり、月の光を背に本を読み、ウイルの様子を伺う。
カリオストロの異世界での二日目はそうやって幕を下ろした。
ベッドで寝れない主人公……。
いつになったらカリオストロと共に寝れるのだろうか。