アニマの設定はなくし、いままで通りでやっていきたいと思います。
「………ちっ、何が物理で殴ればよ。こんな分厚い『固定化』破れるわけないじゃない」
ウイル達が城下町から帰ってきた夜。
暗い暗い闇の中、1人のフードを被った人が
足の裏にある壁を何度も叩くように踏みつける。
勿論、しっかりとした固定化の魔法がかかっており、傷一つつかなかった。
「………オールド・オスマンが居ない日は、今日だけだってのに」
足を止め、誰も居ないのに呟き、考え込むかのように腕を組み顎に手を当てた。
腕を組んだ際に豊満な胸が柔らかく動き、腕に合わせてその形が変化する。
「………」
暫くの間、壁を歩き回り、カツンカツンと渇いた靴の音を鳴らす。
そして数分経った頃に懐に手を入れ、何かを取り出した。
取り出したものはナイフで、軽く壁を傷つける。
壁を切り付けるも効果はなく、傷一つつかなかった。
「取り合えず……殴って駄目なら違う方法を探すか、別の所のを盗むか」
そう呟くと今まで働く事を忘れていた重力が働き、女性の足が壁から離れ落ちていく。
「――――『クリエイト・ゴーレム』」
女性が落ちながらも杖を振り呪文を唱え魔法を紡ぎ出す。
杖を地面へと向ければ、地面が盛り上がり女性へと迫る。
体を空中でくるりと回し、迫ってきた土の壁へと着地した。
ゴゴゴゴゴッと大きな地響きを起こしながらも盛り上がっていき、先ほど女性が立っていた壁ほどまで大きくなった。
盛り上がった土は、『人型』をしており、大きさは三十メイルにも及ぶ大きさであった。
『やれ』
杖を振り、命令するとゴーレムが動きだし、大きな腕で壁を思いっきり殴りつける。
壁を殴るとゴォンと大きな音と振動を起こし土ぼこりが舞う。
「げほげほ……やっぱり、無理か」
土ぼこりに咽ながらも壁を見れば、傷一つないことに落胆したように呟く。
壁はほんの少しだけ土で汚れた程度でまったくもって変わりがなかった。
「さて……どうするか。これを使うのも癪だしね。貰いもんだし何が起こるか」
大きな音を立ててしまい、見つかるのも時間の問題だろう。
そんな時であった――
「ったぁ!?」
女性の隣にあった壁が大きく爆発したのだ。
女性の体に爆発が直撃しなかったものの爆風で煽られ驚愕の声をだす。
己の身を隠すために着ていたであろうフードで顔を隠し耐えた。
「な、なんだい……いきなり」
爆発も収まり、何があったのかと下を見下ろす。
下を見下ろせば、二人の男女が立って此方を見ていた。
女性の方は唖然としており、男性は呆れたように首を横に振っていた。
「にゃろ~……直撃してたらどうするのさ!」
チラっと後ろを見れば爆発した壁に罅が入っていた。
三十メイルの大きさのゴーレムでも罅すら入らなかったのだ。
そんな壁に罅を付ける魔法をぶつけられそうになり怒りに怒ったのだろう。
「………んっ、罅?」
ふと、気付いたか、男女に杖を向けた所で女性が振り返り、壁を凝視する。
「チャンス!」
暫く凝視した後に、杖を男女から外し壁に向け、もう一度ゴーレムで殴りつける。
「はっはっはー!やった!」
ゴーレムで殴りつけると先ほどの苦戦が嘘のように壁が崩れていく。
女性はフードを深く被りなおすとニヤリと笑い、中へと進入を果たす。
「破壊の杖はっと……」
中へ入ると様々な物がしっかりと並べられ大事に保管されている。
女性は最初からそこにある事を知っていたかのように淀みなく歩く。
「あった、あった♪」
目的の物が見つかり嬉しそうに鍵を壊し中身を取り出す。
目的の物は、真っ黒で大きな円筒型の物体であった。
『破壊の杖、確かに領収いたしました。――土くれのフーケ』
腕で抱え込むと杖を取り出し壁に文字を刻む。
「これでいいね♪」
壁に書いた文字を見直し、機嫌よく走る。
結構ゆっくりしていたので流石にそろそろ人が集まりそうだ。
走り、空いた穴から外へと飛び出そう―――として出来なかった。
「なっ!?」
壁からゴーレムに飛び移ろうとした瞬間、下から男性が湧いてきたのだ。
フライで飛んできたであろう人物に女性が驚き、口を開いたまま固まる。
「っ!!」
「ちっ!!」
唖然としていた女性だが、相手の次の行動に気付きしゃがみ、攻撃を回避した。
月明かりに照らされ鈍く光り輝いていた剣が頭の上を通り過ぎていく。
『錬金っ!』
『フライ!!』
避けた瞬間、男性が地面に着地し、もう片方の籠手先を針に変化させ突き刺してくる。
まったくもって容赦ない攻撃に涙声ながらも女性は飛んで回避する。
女性は、飛びながら男性を避けるように上へ回りこみゴーレムへと逃げる。
攻撃を避けられた男性は、飛んだ女性に視線を合わせつつ自分の後ろに来た際に冷静に蹴りを入れた。
ガンッと大きな音を立て蹴りが女性が持っていた円筒へと当たり、女性が後ろに吹き飛ぶ。
「うくっ……『フライ』!!」
「………」
女性は吹き飛びながらもフライを唱え、ゴーレムに突っ込むとそのまま姿をくらます。
男性も急いでフライで飛び上がり、女性を追おうとするもゴーレムの制御を切ったのか、ゴーレムが崩れ落ちていった。
「……無理かな」
「ウイルー!!」
困り顔でゴーレムを見ていると下に居たピンク色の少女に呼ばれる。
男性は、少し考え込むように土の塊になったゴーレムを一瞥するも下へと降りた。
「どうだった?」
「ごめん、逃した」
ピンク色の髪の少女が、結果を聞いてきたので男性は素直に頭を下げた。
「別にいいんだけど……ウイルから逃げるなんてすごいのね。『土くれ』って」
「いや……俺から逃げるぐらい余裕で出来ると思うけどね?」
「そうかしら?」
「そうだよ」
きょとんと首を傾げ見てくる少女に男性は苦笑する。
「取り合えず……先生達も今の騒ぎで来るだろうし。ここで待たないと」
「ん~散歩のつもりが大変な事になったわね」
「なんだろうな、いつも事件に巻き込まれてる気がする」
「そういう運命なのかしら?」
「……嫌な運命だな」
二人の男女は人が集まるまで軽口を叩き合い、笑い合う。
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「それで……なんでキュルケ達も付いてくるんだよ」
翌朝となり、宝物庫に呼び出された俺達にキュルケ達が付いてくる。
あの時、現場に居たのはルイズと俺だけだったのにも関わらず、こうして付いて来る。
「いいじゃない。暇なのよ」
「暇って……結構一大事なんだけどな」
「盗賊が盗んだんだって?」
「あぁ……相手をしたけど逃げられた」
『盗賊ってすごいな。ウイルから逃げるなんて』と才人が言い放ち、苦笑する。
ルイズといい才人といい、評価が高い気がする。
「だってさ……ウイルは子爵に勝っただろ?」
「勝ったな」
「子爵は……えっと、す、スクウェアで一番凄くて。盗賊はトライアングル……っていう一段下のクラスだろ」
「それを言うなら、俺はラインだ。結局の所クラスなんて宛てにならないよ。今回は逃げに関しては相手の方が俺より一枚上手だった。それだけさ」
「そうか……相手が凄いんだな」
ようやく理解してくれたらしい。
その事にもう一度苦笑しながらも、部屋の前へと辿り着きノックをする。
何度か扉を叩くと『入れ』と重苦しい声が聴こえ、返事をして扉を開く。
扉を開くと、既に教員が勢ぞろいして、此方へと視線を向けていた。
「呼ばれましたので参上致しました」
「うむ、ご苦労」
視線を無視してオールド・オスマンへとお辞儀をするとにこやかな笑みを返してくれた。
此方が緊張しないようにと気を使ってくれたのだろう。
「……ごほん、先ほどの話の続きですが、土くれのフーケ!魔法学院に手を出しおって!忌々しい!」
「衛兵はいったい何をしていたのかね?」
「平民が役に立つとでも?踏みつけられてお終いだろ」
「それより当直は!当直は誰だ!」
次々に教師が好き勝手言って騒ぎ出す。
それを横目で見ながら行儀良く待っていると、ミセス・シュヴルーズが震え上がった。
どうやら彼女が昨日の当番だったらしい。
昨晩、駆けつけてくるのが遅かったところを見るにさぼって寝ていたのだろう。
本来であれば夜通し門の詰め所で待機をしておかなければいけないのにも関わらず。
「ミセス・シュヴルーズ!あなたが昨日の当直では!」
教師の1人が思い出したのか、早速とばかりに問い詰める。
自分に責任が回らないように先に釘を刺しておこうと言う魂胆か。
まぁ、責任の所在をしっかりとさせておくことは良いことなので特に何も言わない。
しかしだ、秘宝を盗まれた、責任を追及されたミセス・シュヴルーズは泣き出してしまう。
「も、申し訳ありません」
素直に謝るミセス・シュヴルーズを見て好感を抱く。
言い訳をするのでもなく、しっかりと謝罪し自分が悪いのだと認めていた。
「泣いてどうしますか!お宝は戻ってこないのですぞ!!それともなにか、
「わ、わたくしは……」
ミセス・シュヴルーズ言葉に詰まる。
学院の秘宝ともなれば、値段がどのぐらい付くかも分からない品物だ。
弁償といわれても出来ないのであろう。
そう思っていると彼女が床に泣き崩れた。
「これこれ女性をそう責めるのはいかんよ」
「オールド・オスマン……しかしですね」
オールド・オスマンが彼女を鬩ぎ立てる教師に注意を促す。
ここで彼女を追及してもしょうがないと分かってるのだ。
「しかしですな!ミセスは当直なのに寝ていたのですぞ!?責任を取ってもらわねば!」
教師の言い分も良く判る、しかしだ。
この場において話すのは別の事だろうとも思った。
責任がミセス・シュヴルーズにある、と分かったのだ。
さっさと切り替えて次の話題に移るべきだろうに……しつこい人だ。
「あー……ミスタ、なんだっけ?」
「ギトーです!!お忘れですか!!」
「そうそう。ギート君。ギート君、そんな名前じゃった」
「ギトー!」
「君は怒りっぽいのぉ……怖いわ。それはそれでじゃが、この中でまともに当直をしたことのある者が何人おられるかの?」
怒るギトー先生を流し、鋭い視線で辺りを見渡す。
教師達はお互いに顔を見合わせるも恥ずかしそうに顔を伏せた。
どうやら誰もまともにやったことがないらしい。
「さて、これが現実じゃが……。責任があるとすれば我々全員じゃ。この中の誰もが……私含めて、まさか魔法学院に賊が入るとは思わんかった」
「………」
全員がオールド・オスマンへと視線を集中させる。
「ここにいるのは優れたメイジ達、誰が好き好んで相手をしたいと思うか。じゃが間違いであった」
穴が空いた壁を見て寂しそうに微笑む。
「この通り、賊は大胆不敵に入り込み、『破壊の杖』を奪っていきおった。つまりは……油断じゃ、我々は油断していた。故に責任は我々にある」
オールド・オスマンが言い切るとミセス・シュヴルーズが感激したように抱きついていく。
「おおぉ、あなたの慈悲にお心に感謝いたします!!」
感謝する彼女のお尻をオールド・オスマンが撫で上げる。
おい、なんでここでセクハラをするんだよ、今ので好感度がぐんと下がったぞ。
「えんじゃよ……えぇのぉ。ミセス……」
声が、心の声が漏れてます。オールド・オスマン。
「わたくしのお尻でよかったら!いくらでも!」
ミセスの言葉で他の教員も気付き、じと目でオールド・オスマンを見つめる。
オスマンは、こほんと咳をして誤魔化した。
本人からしたら場を和ませようとしたのだろうが、いつもがいつもだ。
誰も突っ込まず、何時もの事だと呆れた。
「で、犯行の現場を見ていたのは……「俺達です。オールド・オスマン」……そうじゃった」
またお前かという視線で見ないで欲しい。
別に好き好んで事件に首を突っ込んだり、起しているわけではない。
「詳しく説明したまえ」
「はい」
ルイズをチラっと見て頷き自分が前に出ると視線で言うと軽く頷いてくれた。
「なんじゃ……おぬし等のその「俺に任せろ」「分かってるわ、頼りにしてる」とか思える遣り取りは」
心を読まないで欲しい。
当たってるだけに性質が悪い。
「ルイズと昨晩散歩をしている時に……「なんじゃ、デートか羨ましいの」……散歩です!!」
「あら、私達も一緒に居たじゃない」
ちゃかしてくるオールド・オスマンの言葉を否定し捏造するキュルケを睨む。
「散歩していると壁にくっ付いていた人影がありましたので見上げた所。フードを被った人が壁に引っ付いてました」
「なにそのホラー」
「オールド・オスマン?」
「分かったわい、何もいわんよ」
何回口を挟めば気が済むのだ。
「暫く見ていると壁から足を離し、ゴーレムを呼び出すとそのまま壁を殴り始めまして、壁を破壊し中へと進入しました」
「ふむ」
「このままではと思い、自分がフライで飛び上がり、剣で応戦でしたのですが、蹴り上げた所をゴーレムの中に入られ逃げられまして」
「なんと!応戦までしたのか!」
「残念ながら……逃げられましたけど。情報も得られました」
「情報?」
「フーケは『女性』です」
自分の言葉に場がざわめきだす。
「して、理由は?」
「体つき、顔つき、声、ローブの下はスカートを履いており、女性と思われます」
「さすがにスカートを履いた男性とは思いたくもないの」
「同感です」
オールド・オスマンの言葉に同意してしまった。
近くに心が男の体が女性の奴が居るがアレは、また別だ。
「ふむ……後を追うにも手がかりはなしか、そういえば……コルベール君」
「はい」
髭を撫でていたオールド・オスマンがコルベール先生へと問いかける。
何かに気付いたようだ。
「ときに、ミス・ロングビルはどうしたのかね?」
「それが……、朝から姿を見ていません」
「この非常時に?」
「はい」
オールド・オスマンの顔が歪む。
露骨に怪しいので彼女がと思ったのだろう。
そんな事を話しているとミス・ロングビルが扉を開け、急ぎ足で此方へとやってくる。
「ミス・ロングビル!何処へ!この一大事に離れていては疑ってくれと言ってるようなものですぞ!」
コルベール先生が彼女を心配し声を上げる。
しかし、ロングビルはコルベール先生を一瞥し落ち着き払った態度でオールド・オスマンに告げる。
「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりました」
「調査?」
「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎ。そしてこの宝物庫はこのありさま、すぐに壁のフーケのサインを見つけまして調査をしておりました」
「仕事が早いの、それで結果は?」
オールド・オスマンが真剣な表情で問いかける。
「はい。フーケの居場所を突き止めました」
ミス・ロングビルの言葉に教師がざわめく。
「誰に聞いたんじゃね?」
「はい。近在の農民に聞き込みをした所、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの『男』を見たそうです」
「男?」
「男です」
場に何とも言えない空気が漂う。
視線がロングビルと自分に漂わせている。
「えーと……そのなんじゃ」
「はい?」
「悪いがそれは別人じゃな」
「わふ!?」
オールド・オスマンが可哀想な子を見るような目でミス・ロングビルを見る。
他の教師も哀れむような視線であった。
「ミスター・ウイルが交戦してのぉ」
「……はい」
「男でなく、フーケは女性であったと証言しとるんじゃよ」
「………じょ、女性?」
オールド・オスマンの言葉にミス・ロングビルの口元が引き攣る。
なんか、ごめんなさい。お疲れ様です。
「な、仲間の可能性は?」
「それもなくは……ないか」
「そ、そうですよね!ね!」
時間を掛けて調べたのを無駄足にしたくないのだろう。
ミス・ロングビルは一生懸命、訴えかける。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」
………半日、馬で四時間?
「すぐに王室に報告を!!手がかりも少ない今、そこに行くしか!」
コルベール先生がすぐに提案する。
いつもは冷静で思考深いのに今日はどうしたのだろうか。
「ばかもの!王室なんぞにしらせている間にフーケが逃げるわ!その上……身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族か!」
ビリビリと腹の底から響き渡る怒号に全員が黙り込む。
「魔法学院のお宝が盗まれた!これは魔法学院の問題じゃ!当然我らで解決する!!」
この言葉にミス・ロングビルが嬉しそうに微笑む。
まるでこの答えを待っていたかのように。
「では、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」
オールド・オスマンが咳払いし、有志を募る。
しかし、誰も杖を挙げない。
全員困ったように視線を彷徨わせるばかりだ。
「おらんのか?おや?どうした!ラインメイジの彼でさえ応戦したのじゃぞ!フーケを捕まえて名をあげようと思わんのか!」
自分の事が挙げられるも誰も挙げない。
苦々しく自分を睨む者が大半で嫌気がさした。
「おぉ……杖を挙げたか……って『ミス・ヴァリエール』?」
ようやく杖を掲げた者が現れ、オールド・オスマンが破顔するも直ぐに強張る。
杖を挙げた一人目は……ルイズであった。
こんな感じでやっていきます。
ご迷惑をおかけしました。