「なぁ……ウイルって必殺技とかってあるのか?」
「は?」
朝に鍛錬をしていると才人からそんな事を聞かれた。
「いきなり、なんだ?」
「いやさ、デルフと話してたんだけどさ。ギーシュはゴーレム。ルイズは爆発。キュルケは火球だろ?」
「そうだな」
「ウイルの戦い方見てると接近ばかりでこう……必殺というか目立つ魔法がないなと」
「………」
才人に言われ、考える。
確かに自分の戦い方は、接近が多めで目立った魔法を使ってはいない。
体術と戦術を絡めた方法が多いので、そう見えるのだろう。
「まぁ……ラインメイジなんてこんなもんだ。ギーシュみたいにゴーレムを複数運用できればいいんだけどな」
「うん?……ウイルはゴーレム使えないのか?」
自分の言葉に才人は不思議そうに首を傾げている。
「無理だな。一体、二体位なら操れるけど…七体ものゴーレムの複数運用なんて出来ない」
「……ギーシュってすごい?」
「すごいぞ。ある意味で天才だな」
正直、ギーシュの頭の中はどうなってるのだろうかと思う。
普通一体、二体を操るだけでも頭が混乱するのにギーシュはアレだ。
マルチタスクに長け過ぎている。
「一体、二体のゴーレムを運用してもなー……正直ラインだと微妙だ」
「そんな物なのか」
「そんなものだよ。だから俺は戦術含め接近戦を好んだりする」
これでも結構悩んだり、考えたりしている。
ラインから一向に上がらない自分が戦いにおいて、上の敵に勝てるようにするにはと何時も悩んでいる。
そうでもしないとこの世界では、簡単に命を落としてしまう。
「これが火とか風のラインならまた違ったんだけど……」
「そういえば、ウイルは土だっけか」
「そそ、土も気に入ってるからいいんだけどね。派手な魔法を使ってはみたいな」
頭の中で幾つか自分でも出来そうな魔法を思い浮かべるも、直ぐに却下した。
どれもこれも精神力的にも効果的にもよくない。
遊ぶだけならいいが、敵との命を懸けた戦いの時に適さなかった。
「効率良いのを選ぶとな……どうしても地味になる」
「確かに見てるとそんな感じだな」
「サイトー!ウイルー!」
そんな話をしているとルイズの声が聴こえてくる。
上の太陽の傾きを見て朝食の時間だと判断する。
「先に行っててくれ、汗を拭いてから行くわ」
「ん、分かった。ルイズに言っておくよ」
「頼む」
木にかけていたタオルを手にして汗を拭きつつ才人達を見送った。
汗を拭きつつ、隣に座っていた人物へと視線を向ける。
「ご飯だし、移動しよっか。カリオストロ」
「ん……あぁ、朝食か」
木にもたれ本を読んでいた、カリオストロへと声を掛ける。
カリオストロは、本から視線を外すと閉じて起き上がった。
「いこっか」
「あぁ……そういえばだ」
「うん?」
歩きだすとカリオストロがニヤニヤと笑い、此方に言葉を投げかけてきた。
今度は何を企んでいるのだろうかと不安になる表情に些か眉を潜めた。
「必殺技~……あるんでしょ?」
「………」
良い笑みを浮かべるカリオストロの言葉に少しばかり足が止まる。
「なんでそう思った?」
「だって~……サイトの問いに対して
「そうだったかな?」
「うん……ギーシュのゴーレムの話題をして逸らしてたもん☆」
カリオストロの言葉に首を振る。
才人は誤魔化せてもカリオストロはやはり無理らしい。
本を読んでいるので此方の話を聞いてないだろうと思っていたが、しっかりと耳にしてたらしい。
「……まぁ、あるよ。切り札」
「やっぱりか、んでだ。どんなんだ?」
カリオストロの興味津々の目を見て暫し考え込む。
自分が考えた出した『必殺技』は、他の生徒に見せたり教えたりすると危ない物なのだ。
簡単に真似が出来て殺傷力が極めて高い。
「ん~……まぁ、カリオストロになら大丈夫か」
だが、此方の魔法が使えないカリオストロなら特に問題はないかと考え直す。
カリオストロが他の人にバラす筈もなく、教える事にした。
マントの後ろに隠していたナイフを手に取り、軽く木に向かって投げた。
手に持っていたナイフは綺麗な直進で木に向かっていき―――
『―――』
ナイフに魔法を当てるとその場で消えた。
「………は?」
「これが俺の必殺技。切り札だ」
カリオストロは消えたナイフを追って目を細める。
しっかりと消えたナイフの方向を見据えるカリオストロを見て、内心冷や汗をかいた。
「………ん~~」
そんな事を考えていると、手で肘を支え、もう片方の手を顎に当て考え始める。
朝食の時間も押しているが、カリオストロなら直ぐに思いつくだろう。
「なぁ……もしかして、『―――』の魔法って物にも作用したり?」
「正解。あれは人だけでなく物にも作用するよ」
「つまりは……だ。お前は――――」
数十秒ほどの時間を置いて、カリオストロが正解を口にする。
あれだけのことでよく答えに辿り着く物だ。
「な、必殺技だろ?」
「何ていうか……エグイな」
「だよな」
「簡単に真似出来る上に暗殺に適してる」
カリオストロの評価に苦笑する。
認められて嬉しいという気持ちもあるが、簡単に真似が出来る分、他の人にバレるのが怖い。
これを真似する人が出てきたら……ハルケギニアは酷い事になるだろうな。
「まぁ……受けたら即死だろうし。いいんじゃないか?」
「見せる様な事がない事を祈るよ」
そんな会話をしながら並びながら朝食へと向かった。
後にこれがフラグだったんじゃないかと頭を悩ます原因ともなったのだが……。
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「懲りねーなー」
「何時もの事だよ」
朝食も終え、授業を受ける為に教室へとやってくると、才人を取り合い、ルイズとキュルケが争っていた。
キュルケが才人を抱きしめ、才人の顔へと豊満な胸を押し付けている。
才人はそれが嬉しいのか幸せそうに鼻を伸ばしているが、後ろを見た方が良いと思った。
キュルケに抱きつかれた才人を他の男子生徒が、親の敵を見るような目で見ている。
それを呆れつつも見送り、真ん中辺りの席を確保し座った。
カリオストロも隣に座り、持っていた本を読み始める。
『お熱のキュルケ!!』
『お熱じゃなくて微熱よ!微熱!魔法もゼロなら記憶力もゼロなの?』
『はんっ、胸でしか釣れない癖に何が微熱よ』
『あるものを使って何が悪いのよ』
机に肘を置き、顔を支え、ボーと黒板を眺める。
意外にも時間があったらしく、今だに先生はやってこない。
こんな事なら、カリオストロみたいに本の一冊でも持ってくるべきであった。
「席に座りたまえ」
そんな事を思っていると扉が開いてギトー先生が入って来た。
先ほどまでの騒ぎは嘘のように静まり返り、全員が席へと座る。
ルイズは何時ものように自分の隣にやってきて座り、才人も倣い座ろうとするもルイズに睨まれ、大人しく地面に座った。
先ほどの鼻を伸ばしていた罰なのだろう。
「では授業を始める。このクラスでは今期初めての授業だったな」
ギトー先生は、自分と同じく黒い髪に、漆黒のマントを纏っている。
自分と違う所は髪を長髪にしており、冷たい雰囲気だろうか。
そのお蔭で不気味に思えてくる。
魔法使いらしい魔法使いだとも思った。
「知ってのとおり、私の二つ名は『疾風』だ」
ギトー先生は自信満々に胸を張り、辺りを見渡す。
生徒は全員静かに真面目に先生を見返している。
それをギトー先生は満足げに頷き、話を続けていく。
「最強の系統は知っているかね?ミス・ツェルプストー」
先生の言葉を聞いて空を見上げる。
話の脈絡のなさに少しばかり外へと出て行きたくなった。
「『虚無』とかじゃないですか?」
「ちっち、伝説の話をしているわけではない。現実的な話をしているのだ」
「………」
ギトー先生のキザったらしい嫌味な言い方に、キュルケが不機嫌そうに眉を潜めるのが見えた。
「それなら『火』に決まってますわ。全てを溶かし、燃やし尽くす火こそ最強です。ミスター・ギトー」
キュルケが直ぐに澄ました表情となり、挑発的に髪をかき上げた。
「ほほぅ、なるほど、なるほど……。残念ながら外れだ」
「むっ」
ギトーの言葉にキュルケは勿論、教室に居た『火』のメイジ達の表情が歪む。
自分が得意とする魔法を馬鹿にされたと感じたのだろう。
「試にだ。この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけたまえ」
『これ何の授業だったかなー』とそんな事を思いつつも次に行なわれる光景を思い浮かべた。
どうせ、キュルケが出した火球を風の魔法で打ち消すのだろう。
「どうしたね?君は確か、『火』系統が得意であっただろう?」
怯んでいるキュルケにギトーが追い討ちを掛ける。
正直キュルケが怯むのも頷ける話だ。
いきなり人に向かって火球を放てって無茶もいい所だろう。
もしも……だ。
もしも、他の人に当たったら?先生に当たってしまったら?
トラウマ確実だ。
「どうした?その有名なツェルプストー家の赤毛は飾りかね?」
「火傷ではすみませんよ?」
鼻を鳴らし、挑発すれば、キュルケの目が釣りあがった。
キュルケの顔から笑みが消え、静かに静かに燃える火の様な真剣さが伝わってくる。
キュルケが胸の谷間から杖を抜くと、赤毛が真っ赤な炎のように波打つ。
詠唱を唱え、キュルケの前に小さな火球が出来上がり、辺りの酸素を吸い取って大きく大きくなっていく。
どうやら全力で撃つ様だ。
近くに居た生徒達は慌てて机の下へと避難し隠れる。
キュルケは直径一メイルほどの大きさになった火球を見て満足げに頷くと、手首を回転させ胸元にひきつけ、火球を押し出すようにビシっと杖を先生へと向ける。
勢い良く迫り来る火球を先生は避けもせず、静かに静かに見据え、腰に差した杖を引き抜いた。
その杖を剣を振るうかのように薙ぎ払い烈風を巻き起こした。
烈風が一瞬にして火球が掻き消え、その向こうに居たキュルケを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたキュルケを才人が心配そうに見ているのが見えたので、軽く蹴りを入れ顎でキュルケの方を示す。
それに気付いた才人は、頷きすぐさま動き出した。
倒れているキュルケを助け起す、才人を見ていると先生の声が聴こえてくる。
「諸君、これが『風』だ。最強たる所以だ。全てを薙ぎ払い、『水』も、『火』も、『土』も、『風』の前では立つ事すらできない」
「………」
胸を張り言う先生の言葉に、本を読んでいたカリオストロがビクリと反応をする。
カリオストロが出たら酷い事になるので止めて欲しい。
服を掴み、立ち上がれないようにすれば、カリオストロに睨まれた。
それでも放せない。
「残念ながら試した事はないが、『虚無』さえ吹き飛ばすだろう。それが『風』だ」
辺りをぐるっと見渡し演説は続いていく。
「目に見えぬ。『風』は見えずとも諸君等を守る盾となり、矛となる」
先生の言葉に頷く。
先ほどの行為はどうかと思ったが、風の特徴をしっかりと理解し教えている。
……最初の行為と自慢らしい言い方を除けばいいのだけどな。
「もう一つ、『風』の最強たる所以をお見せしよう。ユビキタス・デル・ウインデ……」
先生の呪文を聞いて目を見開く。
まさか、ここでこの魔法は見れるとはと。
今後の対策として何かヒントを貰えるかも知れないと真剣に見始める。
しかしそのとき………、教室の扉が開き、呪文が中断された。
教室に居た全員が入って来た人物へと視線を向けた。
そこに居たのは、珍妙な格好をしたコルベール先生だ。
頭に馬鹿でかい、ロールした金髪のカツラを被っている。
服もレースの飾りや刺繍やらがあり、めかしこんでいるが正直合っていない。
「あー……ミスタ?」
「あややや、ミスター・ギトー!失礼しますぞ!」
「えーと……あー……どうぞ?」
同僚の珍妙な格好にギトー先生も呆気に取られている。
「今日の授業は全て中止であります!」
教室のあちら此方から歓声が上がった。
逆にギトー先生は不服そうに口をぎゅっと閉じた。
コルベール先生は両手を振り上げ、歓声を止めると重々しく喋りだす。
「えー、皆さんにお知らせですぞ」
もったいぶった拍子にのけぞり、カツラが落ちる。
ずり落ちたカツラとコルベール先生の頭を見て、タバサがポツリと呟いた。
「滑りやすい」
教室が爆笑に包まれる。
キュルケがタバサの肩を叩き何か言っているが、声のせいで聴こえなかった。
そんな爆笑の中、コルベール先生が顔を真っ赤にさせ大きな声で怒鳴った。
「黙りなさい!黙りなさいこわっぱどもが!貴族は可笑しい時は下を向いてこっそりと笑う物ですぞ!これでは王室に教育の成果が疑われる!」
先生の剣幕に全員が一斉に黙り込んだ。
それを息を整えつつ見渡すとコルベール先生が咳をして、改めて言葉の続きを話始めた。
「えーおほん。皆さん、本日トリステイン魔法学院に、恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇れる可憐な一輪の花」
そんな口上を聞いて、ふと両隣を見る。
右にルイズ、左にカリオストロ。
一輪どころか咲き誇っているなと思った、勿論口にはしないが。
「アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸されます」
この言葉に教室はざわめくも自分の頭の中では警報が鳴り響く。
なんだろうか、嫌な予感がする。
「したがって、急なことですが、今から全力で歓迎式典の準備を行います。生徒諸君は正装に着替え門に整列すること!」
先ほど笑っていた生徒もこれには黙り込み、神妙に頷いた。
「諸君の立派な姿を姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ!よろしいですな!」
先生の話も終わると生徒もギトー先生もざわめき慌て始める。
そんな中、自分だけが嫌そうな表情で見送った。
「………休めないかな?」
「駄目よ」
「だよなー……」
未だに消えない嫌な予感を胸に、机に項垂れた。
<必殺技>
必ず殺す技と書いて必殺技。
ウイルの切り札の一つは正しくそれである。
『―――』の魔法の説明文を見て最初に思い浮かんだのがこれだった。
<一輪の花>
ルイズもカリオストロも美少女である。
特にカリオストロは姫様の前に出して良いか迷いものである。
……姫様より美しい!不敬だって!ってさすがにならないよね?
<ミスター・ギトー>
読み返して思ったが、黒髪の長髪と描写されていて驚いた人。
金髪かと思ってた。
<滑ってるぞ、コルベール>
コルベール先生のあの格好はなんだったのだろうか?
緊張をほぐす為に笑いを取った?本気?
良く分からないものである。
<天才ギーシュ>
ゴーレムの複数運用。
あれだけのゴーレムを自由自在に操るギーシュは才能の塊である。
性格も良い、顔もよし、家柄もよし、気遣いも出来る。
女癖以外完璧じゃね?
<アンリエッタ>
姫様からは逃げれない。
ついでにお髭の旦那も付いてくる。