「取り乱しました……すみません」
「い、いえ」
あれから十分ぐらい泣き冷静になると開口一番に謝罪をする。
何とも言えない事を仕出かしてくれた人だが、相手はお姫様だ。
それでも思いが表情に出てしまい、少しばかり頬を膨らませて睨む。
「それで……その話を私にして何をしろと?」
「ルイズには、手紙の回収を頼みたいのです」
「……回収ですか」
「回収です」
あの話の流れから予測していたが改めて言葉で聞くとあまりにも酷い。
手紙の回収と簡単に言ってくれたが、相手の場所は空の上のアルビオンで今現在反乱の真っ最中だ。
そう簡単に会えるわけがない、むしろ会う前に命を落す危険性のほうが高かった。
「絶対ですか?」
「はい、頼れるのがルイズだけと言う状態でして」
「……そうですか」
顎に手を当て考え込む。
色々と混乱をしたが現状で自分を頼るというのは分かる。
手紙の回収を頼もうにも他の人の場合、信用しきれない所が出てくるのだ。
レコン・キスタがお城に入っている可能性が高い、いや確実に何人かは入っているだろう。
どれだけ人を規制しても影のように沸いてくるのが諜報員だ。
「人員はどれだけ割くおつもりで? あと日にちなども」
「私が動かせるのは一人だけですね。 時間は明日には」
「一人……明日……どなたが?」
「グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド様を」
「……そうですか」
聞かされた人員に眉を潜めそうになるも当然かと思った。
若き天才であり、実力もある、更にはヴァリエール家と深い繋がりもあると優良だ。
何より自分の元婚約者なのだ、信頼を置けると思ったのだろう。
(時間もなし、送られてくる人も完全に信用できない。 更には相手の居場所も不明と……)
「……ルイズ?」
情報を繋ぎ合せて考えれば、頭が痛くなった。
内容が内容なだけに他言出来ず、相談する時間も人も全くない。
(断りたいけど、断ったら国も傾く可能性がある……詰んでるわね、これ)
断りたい所だが、これを断った所で自分の危機が少し遠ざかるだけだ。
他の人が取りに行き成功したとして、その人がレコン・キスタの人員だったらそこでトリステインは終わる。
皇太子が手紙を燃やしてくれるのを期待するのもありだが、それはそれで怖い賭けだ。
普通なら燃やすであろう手紙だが相手も人間だ。
追い込まれた人間がどんな行動に出るか私には分からない。
「……此方からも人員を選出しても?」
「その方は信用できる方なのですか?」
「この世の誰よりも」
姫様の問いに笑顔で間も無く言い切る。
彼以上に信用も信頼も出来る人物はいない。
迷惑をかけることになるが、これ以上は自分の力量では無理がある。
ここは素直に頼る事にしようと決めた。
「わかりました、此方も無理を言ってますからね。 許可します」
「はい、サイト! ウイルを……」
「おぅ……呼んで来ればいいんだな?」
姫様の許可を頂き、サイト呼びかける。
先ほどの話を聞いてたのでサイト自身もある程度は危機感を持っているのだろう。
ウイルの名前を出せばあからさまにほっとした表情を見せた。
「お願いね」
「すぐに連れてくるさ」
ウイルを引き込むことに決めた瞬間、心が軽くなりサイト同様ほっとする。
多分今の自分の表情は今日一番安心しきった表情をしているだろうとそう確信出来る。
サイトは腰に差してあったナイフを手に取りルーンの効果を発動させる。
ルーンが光り輝けば目にも留まらぬ速さで動き扉を開く。
その様子を姫様は驚き、私自身は頼もしそうに見ていた……見ていた。
この時、もっと深く考えていればと思う。
姫様に頼んで他の人に聴こえないように魔法をかけてもらうこと……。
姫様が私の部屋に向かってる事を見た人が自分の友達で有る可能性を……。
その友達が女性関係に関してはだらしがないが、義理堅く友達想いだった事を……。
扉を開いた先でギーシュが両手を軽く上げ、諦めた表情で立っている姿を見てそんな事を考えた。
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「んでだ……ギーシュも巻き込まれたと?」
「参ったよ、サイトがルーンを発動して動くとは考えてなかった」
「……ごめん」
ウイルの部屋で私とウイルとサイトとギーシュとカリオストロの五人が顔を合わせる。
既に魔法を掛け声を外に出さないようにしており、先ほどの相談をしていた。
結局の所、他言無用であるはずの話をギーシュも聞いてしまい巻き込む羽目となった。
「よりによってギーシュかー」
「ごめんなさい」
「ルイズのせいじゃないから」
ギーシュを巻き込むこととなり、ウイルがぼやく。
その言葉に思わずシュンとなり謝るとウイルは軽く私の頭を撫でてから私を抱き寄せ、自分の膝上に座らせた。
膝上に座り込むとそのままウイルは両腕で抱きしめるかのように包み込んでくれる。
そんなウイルの行動にまたもや涙腺が緩み泣きそうになるも耐えた。
腕の中は暖かく、お風呂に入ったばかりなのか匂いも石鹸の香りで落ち着いた。
「ギーシュだと何かあるのか?」
「問題大有りだな」
「これでもボクは元帥の息子だしね……これでボクが亡くなれば……」
「この国が割れるな、ちなみにルイズも同様だ。ルイズが亡くなったら公爵と元帥が手を組んで大暴れだろうね」
先ほどの言葉が引っかかったのだろう。
サイトが不思議そうにウイルに質問を投げかける。
その質問に対してウイルとギーシュは何て事無く問題点を指摘した。
「な、なるほどな……でも軍人だしお姫様の命令とかで『名誉』だ! とかはないんだな」
「任務が任務だし、名誉でも何でもないさ」
「というと?」
「今回の任務は秘密裏に行なわれる行為、姫様に感謝されど他の人はまったくもって知らないことだ。戦争で勇敢に戦い死んでいくのとはわけが違う。死んでも世間的には名も何も残らない任務なんだ」
「……」
サイトはその言葉に対して思うところがあったのか更に眉を潜め腕を組んで考え込んだ。
暫く唸るような声を出していたが、結局何が言いたいか思いつかなかったのだろう。
そのまま不服そうに頷き、先を促した。
「取り敢えずは情報整理かな」
「それがいいね。サイトもよく分かってないだろうし」
「あー……頼むわ」
腕の中で落ち着き大人しくしていれば男性三人が相談を続けていく。
その光景を見るだけで先ほどの不安がなくなる。
やはり、頼れる人が居るということは本当に幸運なんだと幸せな事なのだと改めて思った。
「姫様から渡された任務は、『恋文の奪還』。相手はアルビオンのウェールズ皇太子。時間の猶予なしで明日の早朝には出て欲しいと」
「オマケにアルビオンはレコン・キスタによる内戦中、手紙の所在も皇太子も危ういかな」
「その無謀な任務を俺とギーシュとルイズとサイトとワルド子爵のみで行なう」
「あれ……カリオストロは?」
「カリオストロは……気分次第かな」
改めてウイルとギーシュが任務の内容などを整理していれば、サイトが不思議そうに首を傾げた。
そのサイトの言葉にウイルは少し眉を潜め、横に居たカリオストロへと視線を向けた。
カリオストロはパジャマ姿でベッドに寝転び、つまんなそうに手紙を眺めていた。
カリオストロの見ている手紙は、任務を言い渡された際に姫様から受取っていた物だ。
その手紙は、姫様用の刻印でしっかりと封をされていたのだがカリオストロは気にせず開けていた。
「……はっ、つまんねー。なんだよこれ」
「勝手に開けて……それで内容は?」
「『亡命しませんか』、アホだろ……こいつ」
勝手に読むのはいけないと思ったが此方も命が掛かっている。
このぐらいなら許されるだろうと思い押し黙り、二人の会話に耳を澄ます。
ウイルに内容を聞かれたカリオストロは短く答え、手紙を戻すと手でパンッと手紙を軽く叩いた。
そうすれば、切られた筈の封は元通りとなりカリオストロの手を離れ、ひらひらとベッドの上に落ちる。
魔法をまともに使用できない私から見ても本当に凄い技術だと思う。
ウイルが言うには錬金術を使用しているとのことだが、まったくもって理解が出来ない。
詠唱はなし動作も最低限で最高の効果を発揮する、そんな錬金術があるのだろうかと驚いた物だ。
「亡命の催促か……ないな」
「国を滅ぼす気満々だな、こりゃ」
「あー……ごめん、何で亡命を促すと国が滅ぶんだ?」
何とも酷い姫様の評価をしている二人に対してサイトが縮こまりながら手を上げた。
他国から呼ばれているせいもあり、状況がよく飲み込めていないのだろう。
そんな縮こまったサイトを呆れる人も居らず、ウイルが微笑んで答えていく。
「亡命なんてされたらアルビオン制圧後、それを理由に此方に襲い掛かってくるよ」
「あー……でもさ、亡命しようがしないが、どの道攻められるだろ……これ」
ウイルの言葉にサイトは壁に貼ってある地図を示して告げた。
レコン・キスタの目的は『王政から共和制』と『聖地奪還』。
王家からの共和制ということは、トリステインにまでその思想を押し付けてくる可能性がある。
更には聖地奪還のほうも問題だろう。聖地がアルビオンの反対側にあり、その進路の途中にトリステインがあるのだ。
どうみても同盟もしくは、アルビオン同様制圧してくると考えられた。
更に言ってしまえば、ガリアとゲルマニアにも進路を取れるが相手は大国だ。
大国を相手にするよりは、小国のトリステインを落とし二つの国と同盟をする際の手土産にするほうが楽である。
「されるだろうね。でも亡命の有無で結構変わるものなんだ」
「というと?」
サイトの質問に対してウイルは一度言葉を切ってから続ける。
その際にウイルが此方の頭を優しく何度も撫でてくれた。
私はそれに目を細め、体の向きを逆にし抱きつくと頭を胸板に押し付けぐりぐりとする。
そうすれば、ウイルは手を腰に回してきてぎゅっと抱きしめてくれた、本当に幸せな時間だ。
「時間の問題だね。亡命してなければ相手が此方に攻めて来る動機がなく時間を稼げる。逆に亡命していればそれを理由に間髪を容れずに攻められる」
「ふむ」
「相手は戦いの最中だし、その延長戦として攻めて来れる訳だ。ほとんど準備をしてないトリステインなんてすぐに終わるよ」
「なるほどな……準備する時間が違うのか」
「そういうこと……まぁ時間あっても足が揃わないのがトリステインなんだけど」
見も蓋もない言葉に誰も笑えない。
ウイルの言った言葉が事実なので笑いにすらならない。
笑ってるのはカリオストロぐらいでサイトなんかは顔を引き攣らせていた。
「何より姫様の婚姻による同盟もまだ終えてない。 とにかくトリステインに必要なのが時間だ」
「それをこの手紙が軽くぶち壊そうとしてるんだから笑えるよな」
「……でもさ、亡命してもバレなければ」
「可能性を残してはいけない、諜報員が居る事は確実と思った方がいい。 どれだけ隠しても見つかるものだよ」
「そうか」
サイトが手を軽く上げ希望を述べてみるも即座に反論された。
サイト自身、無理だと思っていたのだろう。
反論されればすぐに黙り込み静かに頷いた。
「……と話を戻して任務の事を話そうか」
「だな。 脱線させちまってすまない」
「いいさ、改めて危機を実感出来たからさ」
その後、どうするかの話し合いや準備を含め夜を深く過ごしていった。
《私からあなたへ》
アンリエッタからウェールズ皇太子へ
アンリエッタ専用の刻印と始祖ブリミルに誓った文を一緒にした時限爆弾
相手を爆破せず、自爆用の一品
《癒されルイズ》
抱きしめられ、頭を撫でられ癒され中
アンアンがその場に居たら嫉妬間違いなし
……ルイズの行動には少し計算も入ってるかも知れないが、可愛いから仕方がない
《抱きしめルイズ》
柔らかくて、いい匂いで小柄で抱きやすいのだ、しょうがない
しかも可愛いくて知的な美少女ときた
ウイルも人間、不安がり癒されたいと思うもの
《送られてくる人も完全に信用できない》
放って置かれた年月は長い
ウイルと出会い変わった自分を鑑みて『人は変わる』ものだと理解した
故に信用できない
《よりによってギーシュ》
……彼、軍を纏める元帥の四男坊なんですよ!
本当に頭が痛い
《ぶぢぎれお父様ズ》
恋文の奪還で娘、息子が亡くなりました!
切れても仕方がない、むしろ切れない道理がない
《気分屋カリオストロ》
気分次第では任務も一発で解決どころか、レコン・キスタも滅ぶ
出番が薄い? しょうがない、彼の本気は戦争後なのだから……
《頼れる人が居るということは本当に幸運》
ギーシュはしっかりとルイズに友達認定されてる模様
何だかんだ原作でもサイトを気遣い、支えてくれたナイスガイ
ゼロの使い魔で友達にしたいのはと聞かれたら、ギーシュを選ぶ
《お土産トリステイン》
正直、亡命されてたら速攻で終わりを迎えていたと思う
内戦終了後のタルブ戦でのんびりと構えていた事からも分かりやすい
《夜を深く過ごしていった》
別に深い意味はない
《アンリエッタ》
アンチにしたくないが、本編通りにしてもアンチになってしまう子
作者は好きなキャラクターなのだが……普通に書いててもこれである
彼女を輝かせる事が出来るのかがこの小説で一番の心配事である