凡才錬金術師と天才錬金術師   作:はごろもんフース

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閑話:最悪

 

「ここかね」

 

 夜が更けた頃、フードを被った女性――フーケが一つの宿屋兼酒場へと辿り着いた。

その酒場はラ・ロシェールの隅っこのほうにあり、酒樽の形をした看板には『金の酒樽亭』と書かれている。金どころか、一見すると廃屋のようにも見えるほどに小汚い中にフーケは足を踏み入れていった。

 

 

「っ……なにが」

 

 仲間のドゥドゥーに呼ばれてこの酒場に来たのだが、中に足を踏み入れ眉を潜めた。

未だ営業している時間帯だというのに中は真っ暗で何も見えない。

しかも人の気配もなく、まさに廃屋といった状態であった。

 

昨日街を歩いて居た時にこの前を通ったが、その時はやっていた事を考えれば不気味である。

休みであれば扉が閉まっている筈、そう思い調べるために杖に手を掛けた。

 

「あぁ……ごめん、来てたんだ」

「……その声、ドゥドゥーかい?」

 

 杖を握った瞬間、先ほどまで気配がなかった酒場の真ん中に人の気配が現れた。

その気配は突如現れたように浮き出てきて更に異様さを増す。

それでも声がここに呼んだ仲間の声と分かりフーケはほっとした。

 

「まったく……人を呼んでおいてなんだい、この部屋は」

「あはははは、仕事してたから灯りを灯せなくてね。今灯すよ」

「そうかい」

 

 ごそごそと動くドゥドゥーにため息をつき、近づく。

そうすれば何かを足が蹴っ飛ばした。

その蹴っ飛ばした物は大分大きく重いのか、少し蹴っ飛ばしても場所を変えない。

更に入り口部分から風が入り込み気付かなかったが、何か異臭のようなものも感じ取った。

 

「何か……足に……」

「動かない方がいいよ、そこら辺いっぱい転がってるし、転ぶよ」

「転がってる?」

「あぁ……点いた」

 

 ドゥドゥーの言葉に首を傾げつつも地面を見て自分の蹴っ飛ばした物を見ていれば、灯りが灯った。

暗闇に居たせいか眩く照らす灯りに目を細めつつも、そのまま地面を見る。

 

「え?」

「いやー……もっと数増やせって言うから大変だったよ」

 

 ケラケラとドゥドゥーが笑う中、フーケは地面から目を離せずに居た。

フーケの視線の先には、見覚えのある物があった。

此処から出て通りを歩けば何処にでも居る存在、何処でも目にする者。

 

――酒場の地面を多い尽くすように人が倒れていた。

 

 

「なっ……あっ……」

「なるべく首を飛ばさないように、五体満足で殺せって言うからさ。首の骨を折ったり、心臓を貫いたり……」

 

 明るくなった店内へと視線を巡らせる。

そこには赤く染まった地面や壁、そこに横たわる白い肌の死体、死体。

この酒場でのんびりと笑って、酒を楽しんで居たであろう人達の残骸が残っていた。

 

「な、なん……で……?」

「上司がもっと数を増やしなさいってさ、何でも滑る子爵で試した相手が予想以上だったみたいだよ?」

 

 恐怖に顔が引き攣り、声が出ない。

それでも何とか聞けば、ドゥドゥーは特に何も思っていないかのように答えた。

 

(異常だっ……こいつらは……異常だっ!!)

 

 前の時、フーケが脱獄する時も人を殺していた。

あの時は脱獄するという目的があった上に相手も敵意を持っていた。

しかしだ、今この場の殺人は違う。

何も知らずに酒を楽しみ喉を潤し、仲間と語り合っていた一般人。

それを何の躊躇いもなく目的の為に殺したのだ。

 

「うふふふ……気に入りませんか?」

「だっ誰だいっ!!」

 

 顔を青ざめ、そんなことを考えていれば階段から誰かが降りてきた。

その人物は、フードを深く被り薄く氷を突き立てるような声で笑っている。

それでも身のこなしや、体型と声から女性だと分かった。

 

「あなただって……目的の為なら殺すでしょう?」

「わ、私はっ……」

 

 フードを被った女性は、軽い足取りでフーケに近づくと耳元でそう囁く。

その囁きにフーケは何も言えなくなった。

フーケ自身にも目的がある、その目的の為に今現在動いており、目的の為ならば人をも殺す。

今こうして目的の為に罪もない人を殺したこいつ等と一緒ではないかと思ってしまった。

 

「あー……匂いが酷くなってきた」

「そうね、そろそろ動かないと怪しまれるわね」

 

 人を大量に殺したのだ、血や尿といった様々な液体が溢れ異臭を放つ。

それにドゥドゥーが鼻を摘まみ臭いとアピールすれば、女性も頷き肯定する。

 

「ふふ……()()()()()

「……え?」

 

 女性は手を前へと差し出す。

女性の手には綺麗な水色の指輪が付けられており、その指輪が水の波紋を描くように蠢いた。

何度か蠢いた後、ポタリと一粒の雫が酒場の地面へと落ちる。

雫が落ちれば、それは波紋のように地面を伝っていく。

 

そして――それが起きた。

先ほどまで白目を剥き、舌をだらしなく出していた死体がゆっくりと動き起き上がった。

首を折られている者、心臓を一突きされている者、首を掻っ切られている者。

その全てが一斉に立ち上がったのである。

 

「っ……!!」

「生きる屍……『リビングデット』かしら」

 

 フーケが指を一つの死体に向けて示せば、フードの女性はにこやかに告げた。

 

「生きてると色々と不便なのよ……死んでいれば痛みも悲しみも何も感じない」

 

 女性が言うように動いた死体達は、痛みも感じてないのか何も表情に出していない。

その事にフーケは理解が追いつかず、ただただ見つめているだけとなった。

 

全員が立ち上がった事を確認すると女性は、手を軽く叩く。

叩けば、首が折れている者は自分の手で無理矢理首を元に戻し。

心臓を突かれていた者は服を脱ぎ血をそれで拭うと準備されていた鎧を着込む。

他の者もそうだ、自分達の姿が生者と変わらぬ姿になるように準備を整える。

 

「まだ揃えます?」

「いや、もう十分に揃ったから要らないわ。それに今回はただの余興ですし」

(十分に……そろった)

 

 その言葉を聞いてフーケは力なく、その場に崩れ落ち座り込んだ。

 

「……わ、私が教えた……盗賊は……」

「勿論……立派な兵士()に」

 

 地面を見て、何とか希望を持っていった言葉。

その言葉でさえ相手に呆気なく打ち砕かれた。

今回の襲撃で盗賊団の力が必要と言われて、ここら辺を仕切る知り合いを紹介した。

あまり関わりはないが、それでも多少なりの縁があったのだ。

 

「あ゛っぁぁ……」

「あーあー……泣かしちゃった」

「あらら、刺激が強かったかしら……まぁいいわ。役に立たなければ同じようにすればいいし」

 

 最後にはフーケは己の迂闊さを恨み、自分の未来を想像して絶望した。

体が冷え込み、両腕で自分を抱きしめわんわんと泣く。

それを見てもドゥドゥーもフードの女性も態度を変えない。

むしろ女性のほうは楽しそうに笑うだけだ。

 

「それじゃ……頼むわね。ドゥドゥー」

「いいけど……あの使い魔はどうするの?」

「こっちで引き付けるから、その間に……」

「了解! フーケも作戦通りに動いてね、そうじゃないとこの人達みたいにされるから」

 

 そして、そのまま死の兵士を引き連れドゥドゥーも女性も去って行った。

酒場に残ったのは、あらゆる体液と異臭と一人泣き崩れる女性だけであった。

 

 

この夜、一件の酒場が火事を起し消えていった。

大きな火事であったが、奇跡的に死者は零であった。

 




《フーケ》
救いはない

《ワルド》
捨て駒

次回『亡者の群れ』
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