恐らくごく一部の高位の神のみがその存在を知るだけだろう。
この世界の神々は、
俺だって全部が全部聞いているわけではない、先入観を与えられると、どうしても態度に出てしまうこともあるので、なるべく必要な情報だけを拾ってこちらにやってきた。
そう、やってきた。
俺の知る世界からこちらの世界へと。
アカラナ回廊、そう呼ばれる時間と空間を支配し、超越するソレを使って。
だからここは正真正銘、俺にとっての異世界だ。
この世界にサマナーはいない。代わりに冒険者と称される者たちがいる。
逆に俺たちの世界に冒険者はいない、代わりにデビルバスターと呼ばれる存在がいる。
俺たちの世界にモンスターは存在しない、だが代わりに悪魔と呼ばれるモノが存在する。
妖精、精霊、妖怪、怪物から伝承の中の悪魔、はたまた天使や、神などと言う存在まで、ひっくるめて俺たちの世界では悪魔と呼ぶ。
現世に現れ人に害をなす悪魔たちを討滅せんために、その悪魔たちと契約し使役する存在。
それを
* * *
「
告げる、自身に宿る魔法の名を。
「
そして、現状の自身が持ちうるたった一つの力を。
呟きと共に、足元に召喚陣が現れる。
その中央から光の玉のようなものがふわりと昇ってきて…………。
ぱん、と光が弾け飛ぶ。
薄暗いダンジョン内が一瞬、まばゆいほどに照らされ。
後には一人の少女が残された。
「…………………………………………?」
金糸の長髪を揺らしながら、少女…………ルイが首を傾げる。
目の前には大量に湧いたモンスターたち、後ろには召喚者である自身。
「ルイ」
一体何に当惑しているのか分からないが、それでも名を呼び、繋がれたパスを伝って命令を飛ばせば、目を細め、こくりと一つ頷き。
「メギド」
呟きと共に指先から放たれた黒紫色の光が高速でモンスターたちの元へと飛来し…………弾ける。
バァン、と破裂したような音を立てながら四散する光に飲まれ。
一瞬後には、全てのモンスターがその姿を消していた。
「……………………サマナー」
その光景を見て、押し黙る自身に、どこか不機嫌そうにルイが呼びかける。
「なんか機嫌悪そうだな、どうした」
「…………繋がりが悪い」
能面のようにぴくりとも動かない無表情なのに、どこか苛立たしさを滲ませながらルイが答える。
「繋がり?」
その言葉に疑問を浮かべると、ルイが押し黙り、一つ息を吐くと口を開く。
「…………この世界はどの世界とも直接的に繋がっていない」
「…………ふむ…………ああ、
言いかたが迂遠なので気づくのに少し時間がかかったが、ようやく理解する。
「と言うことは、もしかして、ここにいる神々の分霊ってのは」
「…………本体と繋がっていない」
俺の予想を肯定するかのように、ルイがそう言った。
悪魔、と俺たちの世界で呼ばれる超常の存在たちは、全て魔界と言う場所に存在している。
それがどういう世界なのか、実際にはほとんど分かっていないのが実情ではあるが、とにかく全ての悪魔は魔界に住み着いている。
だが悪魔たちが魔界から現世へと出ることはできない、正確にはしない。
悪魔と言う存在を受け入れるには、世界と言うのは余りにもちっぽけな器でしかないから。
最下級の悪魔であろうと、その本体が現世に顕現すれば、一瞬で世界が滅びる。それほどまでに、悪魔と言うのは超常的であり、絶対的な存在だ。だから悪魔の本体は魔界から出ることは無い。
では現世に現れる悪魔たちが何なのかと言われれば、それは分霊と呼ばれる概念存在である。
文字通り、分かたれた霊。自らを分けた霊。概念的には日本の神道が最も適格だろう。
要するに、本体の力の何十分、何百分、何千分、何万分の一、と言う極々微小に…………それこそ、世界と言う器に収まる範囲で力を分けた自らの分身を送り込んでいるのだ。
故に悪魔の存在する世界は、どんな形であれ、魔界と接し、繋がっている世界だと言える。
その前提を覆したのがこの世界である。
「そうだよな、
この世界の神…………悪魔たちは地上に降りてくるまで天界にいた。つまり、人間と直接的なつながりを持っていない。
にも関わらず奇妙なほどにその性質は俺たちの世界のものと符合する。
まだ全ての神を調べたわけではないが、世界が異なっていてもニュクスは夜の女神であり、ヘファイストスは鍛冶の神であり、、フレイヤは美の女神であり、ロキは
「概念が逆輸入された、そしてその後に世界は閉ざされた、こんなところか?」
原因は…………まあ恐らく、あの男の言っていたことなのだろうが。
悪魔とは本来、伝承から形作られる。本体は魔界にいても、その権能が現世においてどこまで引き出されるのか、その上限は実はその世界におけるその悪魔の逸話から作られる。
神話、伝承で為したことの大きい悪魔ほど、同じことができるし、伝承の中で力が弱いとされた悪魔は、現世に顕現してもほとんど力を引き出せない。
その上限を意図的に崩せるのが悪魔召喚師であり、だからこそ、悪魔も召喚師と契約をなすのだが、それは今は置いておくとする。
「…………おかしな世界」
ふと呟いたルイの言葉、それがこの世界の全てを現している。
「まあそれもそうだろうな…………こんな世界、他にはねえよ」
何せ、この世界には…………。
「…………四文字が存在しない、そんな世界は…………初めて」
能面のまま、ルイがそう呟いた。
* * *
――――――――どんな物語にもストーリーラインと呼ばれるものがある。
例えば今日一日のベル・クラベルと言う名の少年の物語で言うなら、朝ホームを出る、途中で酒場の店員と知り合う、夜にお店にく約束をする、アリスと共にダンジョンへ行く、四階層まで進む、ダンジョンを出る、ホームへ戻る、神様にステ―タスを更新してもらう、ニュクスファミリアへお金を届ける、夕飯を食べに行く、アイズ・ヴァレンシュタインと再会する、そして…………。
ダンジョンへと行く。
「ああああああああああああ!!」
感情の赴くままに振り下ろしたナイフが最後に残ったモンスターを両断し、消滅させる。
「…………はあ、はあ、はあ」
震える拳を握りしめて、また走り出す。ダンジョンの奥へ、さらに奥へと。
――――――――ストーリーラインとは言わば、物語の大まかな流れ、その物語を構成する上でピックアップされた大雑把なあらすじと言ったところか。
跳びかかってきた
だがさすがに三匹目までは避ける余裕も無くその鋭利な爪を携えた毛むくじゃらの腕が振り下ろされ。
「っぐ、ああああ!」
逆に三匹目へと寄っていくことで、打点をずらし爪を掻い潜る。
代わりにその勢いのままにタックルされ、勢いよく地面を転がる。
だがすぐさまナイフを地面に突き立てながら勢いを止め、体制を立て直す。
――――――――英雄の物語はいつだって決まってこうだ。
強い英雄は悪いモンスターを退治し、可愛いヒロインと結ばれてハッピーエンド。
そんな物語に憧れた。
「くそ! くそっ!! くそぉぉぉ!!!」
ゴブリンを一閃、二閃、三閃と一刀一殺で処理しながら突き進む。
直後にダンジョンリザードと呼ばれる天井や壁に張り付くトカゲのようなモンスターが次々と降り立ってくる。
こちらを威嚇するように唸り声を上げるダンジョンリザードの群れに、けれど何の躊躇も無く踏み込んでいき。
「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ナイフを振り上げる。
――――――――そこにある、英雄たちの苦労も、苦悩も、苦悶も、何も考えもしなかった。
オラリオに着た時、何かが始まると思っていた。
何かが変わると思っていた。
アイズ・ヴァレンシュタインに出会ったことで、初めて明確な何かが見えた気がした。
「足りない、こんなんじゃ…………全然足りない!!!」
走る、さらに走る。奥へ、奥へ。
四層を超え、五層を超え。
そしてやがて六層へと到達する。
――――――――“雑魚じゃあ釣り合わねえんだ、アイズ・ヴァレンシュタインにはなあ”
何もかもが砕け散った気がした。
――――――――ストーリーラインと言うものがある。
物語の流れ。こうなるから次はこうなる、こうなったから次はこうなると言う因果のような流れ。まるで流れるように、ベル・クラネルは考えもしなかった。
ただ出会い、いつか自然とその誰かと結ばれるのだと、無垢なほどに信じていた。
憧れていた英雄譚のように。物語の英雄たちのように。
――――――――何をバカなことを言ってるんだ!!!
どうして気づかなかったのだろう。どうして思い至らなかったのだろう。
英雄譚の英雄たちは、いつだってそうだったではないか。
困難を乗り越えた先にこそ、物語の結末は待っているのだ。
「…………ウォーシャドウ」
現れたのは六層の中でも最強とされるモンスターが複数。
今朝までのベルならば間違いなく逃げ出していただろう相手。
それでも……………………。
――――――――“雑魚じゃあ釣り合わねえんだ、アイズ・ヴァレンシュタインにはなあ”
ぎりっ、と食いしばった歯を軋らせる。
拳を、そして手の中のナイフを力いっぱいに握りしめ。
「やるんだ…………やるんだ…………やるんだ!!!」
一瞬で覚悟を決め、真っすぐに飛び出した。
* * *
「…………ボロ雑巾?」
「…………………………死にかけか?」
ダンジョンからの帰路。七層から六層に入ってすぐにあたりで倒れている冒険者らしき人間を見つける。
血だらけである、生きているのか、とも思ったが、よく見れば僅かに呼吸をしているのか胸が上下しているのが分かる。
「…………大丈夫か?」
多分脇道にいたら普通に無視して帰っていたが、さすがに目の前、しかも道のど真ん中にいるのでは無視しづらい。
そっとのぞき込み声をかけ。
「…………ぁ……ぃ…………ぅ…………」
ボロ雑巾から嗚咽にも似た声が漏れた。
「……………………………………ん?」
と言うかよく見ると、何か既視感がある。どっかで見たことあるような…………具体的には今日。
とは言うものの、顔も髪も血塗れで真赤だし、服もボロボロで半分以上原型を留めておらずいまいち判別しづらいが。
「……………………ベル?」
何となく、目の前のそいつがベルなんじゃないかと思った。
そしてそれに答えるように。
「あ…………り…………す…………?」
俺の名を呼んだ。
怪我は酷かったが命には別条はないようだったベルを背負い、ダンジョンを抜け出す。
すでにオラリオの街には日が昇っており、朝日が眩しい。
ダンジョンの内部は薄暗く、夜目に慣れてしまっているから余計にそう感じるのかもしれない。
換金できそうなものもあるのだが、それはさすがに後回しにすべきだろう、とベルのホーム、ヘスティアファミリアを目指す。
「……………………アリス」
とその途中で、ベルが不意に俺の名を呼ぶ。
「どうした?」
「……………………ありがとう」
「…………事情はよく分からんが…………まあ、あれだ…………無茶するのは構わんが、あんまりあの神様に心配かけるなよ?」
「……………………うん」
「それと、無茶するならまずもっと冷静に自分の状態を問え。今回みたいにダンジョンの中で倒れてたら、もう次なんて無いんだからな」
「……………………うん」
「あとはあれだ………………………………治ったらまた一緒にダンジョン行くか」
「……………………うん」
弱弱しく、ベルが背中で何度も頷く。
そうこうしているうちに、ベルたちのファミリアのホーム、寂れた廃教会に着く。
入り口に寄りかかっている少女が一人。
ベルの主神であるヘスティアだとすぐに気づく。
「…………ベル、着いたぞ」
「…………うん、アリス」
「なんだ?」
「……………………ありがとう」
二度目の礼の言葉。それが単純にここまで連れてきてくれて、と言う意味なのか、はたまた別の意味でなのかは知らないが、まあどちらでもいい。
「…………ああ」
短く呟き、直後ヘスティア神と視線が合う。その視線が俺の背中へと向き。
「べ、べべべ、ベルくううううううーーーーーーーーーーーーーーん?!
オラリオの街の女神の絶叫が響いた。
ようやく出てきたメガテン要素。
因みにルイのステをダンマチ風にしたら多分こんな感じ。
ルイ
Lv.3
力:C…678
耐久:D…523
器用:B…724
敏捷:C…665
魔力:S…999
《魔法》
【■■■■■■】
・速攻魔法
・万能魔法
・神威の欠片
《スキル》
【■■■】
・■■■の分霊である
・レベルアップに必要な経験値(エクセリア)が増大する
・同レベル帯よりも能力が高くなる
【契約】
・アリスと契約を交わしている
・契約主の命に従う
因みにかなり弱体化してます。
理由? マグネタイトが無い(