T・T独立艦隊海戦譜   作:瑞穂国

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遅くなってすいません!

ていうか、パラオの方が色々あって引っ張ったので、結局時系列が問題なく揃ったっていう・・・何このオチ!?

今回はかなり短めです


決断を下す

陽の沈んだ執務室。全ての執務を終えても、舞は静かに、執務机の上で手を組んでいた。その視線の先には、黒い表紙の書類がある。一ヶ月半前、イムヤがわざわざ持ってきてくれた、トラック攻略作戦―――『IF作戦』の作戦指令書だ。

 

「・・・まだ、残ってたんですね」

 

ゆっくり執務室に入ってきたのは、同じく執務を終えた紀伊だった。夕御飯でも知らせに来たのだろう。

 

「ちょっと・・・考え事」

 

「あまり根を詰めすぎるのはよくありませんよ?」

 

心配そうに言った紀伊に、舞は薄く笑った。

 

「もう、夕御飯?」

 

「はい。準備できてます。後は提督だけですよ」

 

「そっか」

 

それでも舞は、まだ執務机を動かなかった。代わりに大きく仰け反り、背もたれに体重を預ける。

 

一週間前の、アスチルベの姿が思い浮かんだ。執務机には、あの時の茶葉入れが置かれている。彼女が舞に託した、想いだ。

 

「・・・行くしか、ないんだよね」

 

「・・・トラック攻略戦、ですか」

 

「そう」

 

現状、強力な“イレギュラー”と戦うことができるのは、舞たち『T・T独立艦隊』だけだ。その“イレギュラー”がトラック近海に展開している以上、舞たちが出撃して叩くしかない。

 

―――でもそれは、皆が誰かの目に触れるかもしれない、ってこと。

 

できれば避けたい。けれども考えてみれば、いつまでもここに閉じこもることなどできないのだ。いずれ、紀伊たち“存在しない”はずの艦娘たちは、外界へと出ていかなければならない。

 

深海棲艦の存在の探求が、このZ海域だけに留まらないのであれば、いずれ『T・T独立艦隊』の手には負えなくなる。

 

“イレギュラー”がいつまでこの海域に留まるのか―――いつまで、舞たちと関わるつもりなのか。それは誰にもわからない。決めるのは“イレギュラー”たちだ。

 

「・・・行こう」

 

舞は決断する。

 

通常艦隊で“イレギュラー”と対峙するのは危険だ。

 

行先はトラック。『T・T独立艦隊』は、初めてZ海域を出る。

 

 

 

「えーっと、皆に重大発表がありまーす」

 

夕食もほとんど終わった頃。全員の前に立った舞は、開口一番そう言った。

 

「重大?」

 

「発表?」

 

フォークに巻いたパスタの最後の一口を口に運びながら、龍風と霜風が反復する。食後のティータイムを楽しんでいた鞍馬と栗駒も、こちらを見遣った。

 

咳払いを一つ。

 

「今回、我がタウイタウイ泊地は、『IF作戦』に参加することにしました」

 

食堂から、カタリとも音がしなくなった。その場にいた全員が、舞に視線を送っていた。

 

「「「・・・えええっ!?」」」

 

次の瞬間、全員が驚きの声を上げる。調理場の奥で後片付けをしていた貴子も、何事かとこちらを覗き込んでいた。

 

「つ、つまり、それはその・・・この海域を、出るってこと?」

 

雲仙がおずおずと尋ねる。舞は黙って、その首を縦に振った。

 

「だ、大丈夫なのかなあ。私たちが、この海域の外に出て」

 

「そこはまあ・・・気にしない方向で」

 

舞は曖昧に答える。

 

「もちろん、できるだけ見つからない航路を取るけど。絶対に発見されないって保障はないかなあ」

 

そもそも、アメリカ側の軍事監視衛星が生きていれば、すでに『T・T独立艦隊』が発見されている可能性が高い。青い海の戦艦としては“イレギュラー”といえる『T・T独立艦隊』の艦艇たちを大っぴらにしていないということは、アメリカという国は彼女たちを許容するつもりはないということだろうか。

 

「『IF作戦』ということは、トラックですか」

 

鞍馬が言う。

 

「トラックを確保する作戦の、重要性は理解できます。ですがなぜ、私たちが参加する必要が?理由を聞かせてほしいわね」

 

「うん、それはね」

 

舞は机の周りに集まるよう目配せする。全艦娘が舞の周りに群がり、その目を見つめる。舞は持ってきた封筒―――イムヤが横須賀から持ってきた二式大艇撮影の画像を保管していた封筒を出して、中から写真を取り出す。机の上に並べたそれを見て、全員が重い沈黙を共有した。

 

写真に写るのは、彼女たちが戦う特殊な深海棲艦。長砲身一六インチ砲を四連装で三基、艦の前部に集中配備した、特徴的な艦影。白銀と軍艦色の迷彩と、前甲板の紋章。

 

「コードネームは“コマツグミ”。トラックの南で撮影された写真よ」

 

「・・・出ちゃったんだ、“イレギュラー”が」

 

このことが持つ意味を、その場の全員が知っている。

 

通常のBOBたちが相手取るには危険すぎる相手だ。異様に高い練度は、時として最大射程付近での命中弾という信じがたい事態を引き起こす。

 

特に、この“コマツグミ”は危険だ。同航戦はもちろんのこと、反航戦や丁字戦においても高い火力を発揮する。唯一の攻略法と言えるのが後方からの攻撃だが、そもそも後方から追いかけながらの砲撃など、困難以外の何ものでもない。

 

だが、舞たちならできる。“紀伊”は正確無比な高高度気象観測射撃を用いて、そして“雲仙”と“鞍馬”は高速力を生かした機動戦で。撃破する方法も、それを実現する性能と練度もある。

 

今、トラック沖の“コマツグミ”と戦えるのは、舞たちしかいないのだ。

 

「それに、私たちが南から接近すれば、『IF作戦』主力部隊と合わせて、トラックの敵艦隊は二方向に戦力を割かなきゃいけなくなる。確かな側面援護になるはずよ」

 

戦術的な利点も、舞は語る。それでもその場の、重い空気は変わらなかった。

 

いわば彼女たちは、箱入り娘のそれと変わらない。Z海域という狭いところに閉じこもり、外の世界を知らない少女たち。

 

それでも、いつかその殻は破らなければならない。いや、近いうちにきっと破られる。舞にはそんな予感があった。

 

「・・・行こう」

 

最初に口を開いたのは、雲仙だった。いつになく難しい顔をして写真を眺めていた彼女は、真面目な表情で周りに頷く。

 

「やれるのは私たちしかいないんだから」

 

賛同の声が上がった。島風型の駆逐艦たち、九頭龍、白鶴、紅鶴、奥入瀬、栗駒、鞍馬。事前に、三瀬にも賛同を取り付けている。

 

「それに、訊いてみたいこともたくさんあるしね。なんで、この海域を出たのか、とか」

 

龍風が言った。

 

ここに、『T・T独立艦隊』の『IF作戦』参加が決定した。

 

 

最終的に、『IF作戦』に参加するBOBは以下の通りとなった。

 

・第零別働艦隊

 

磯崎舞特務大尉

 

“紀伊”、“雲仙”、“紅鶴”、“白鶴”、“栗駒”、“九頭龍”、“龍風”、“清風”、“早風”、“綾風”

 

艦隊は、パラオ泊地に集結しつつある主力艦隊に合流するわけにもいかず、あらゆる目を避けてトラック環礁の南方を目指していく。

 

『T・T独立艦隊』の、誰に語られることもない戦いが、幕を開けた。




いよいよ、舞たちの本当の戦いが始まります

そしてここから、いよいよアメリカ艦隊の本当の出番です

第一次トラック沖海戦は、いろんな物事が動きだすきっかけとなりそうですね
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