T・T独立艦隊海戦譜   作:瑞穂国

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こちらも『IF作戦』の発動です

日本艦隊が深海棲艦と機動部隊戦を繰り広げる最中、舞たちも“コマツグミ”との接触を目指します


トラック沖

トラック沖の夜明けを、舞は“雲仙”の艦橋で迎えた。

 

昇った朝陽が海面を赤々と照らしだし、艦首で割れる波がキラキラと輝く。シャープな“雲仙”の艦影を、飛び散る水飛沫が引き立てた。

 

「んーっ。やっぱり、海の上で迎える朝は格別だね」

 

仮眠を取った雲仙が、艦橋の窓から差し込む陽差しに向かって大きく伸びをする。彼女の言葉に、舞も大きく頷いて同意を示した。

 

「まさに、水平線から昇ってくる感じだからね」

 

「綺麗でしょ?」

 

ひとしきり深呼吸をした雲仙は、艦橋内所定の位置に歩み寄り、ピッと立つ。艤装を背負い、精神同調の準備に入った。

 

「それじゃ、提督」

 

「うん、よろしく」

 

「にしし、任せてって」

 

雲仙はイタズラっぽく笑って、目を閉じ、精神同調に入った。

 

「ブレイン・ハンドシェイク」

 

瞬間、唸る“雲仙”の機関の調べが、明らかに変化した。煤煙を吐き出し続ける煙突の下、強力な機関が轟音を上げるさまは、まるで戦いを前にした獅子が威嚇の咆哮をしているかのようだった。

 

やがて、雲仙が目を開く。“雲仙”と一体となった彼女には、果たしてこの世界がどのように映っているのだろうか。

 

「精神同調完了。システム正常、各部戦闘準備よし」

 

と、すぐに入電があった。

 

「“紅鶴”から入電。『索敵機、発艦準備完了』」

 

「返信、『索敵機発艦始め』」

 

舞の指示を受けて、雲仙が後続の空母に指示を伝える。数分の後、二隻の空母から索敵機となる“瑞山”が飛び立った。

 

「・・・難しい任務になるね」

 

それぞれの砲口へと飛び去っていく索敵機を見つめて、舞がポツリと呟いた。

 

舞たちの現在位置は、トラックの南六百海里ほどの位置だ。目的は、この近海に展開する、“コマツグミ”を中心とした艦隊の捜索と、これの撃滅。ただし、守らなくてはならないことがある。

 

トラック沖で作戦行動中の日本艦隊に、自らの、そして“イレギュラー”の存在を悟られてはいけないこと。

 

これを守るためには、細心の注意が必要だった。

 

日本艦隊の作戦計画書は、イムヤに手渡されている。“コマツグミ”との戦闘をトラック南方に限れば、接触することはまずないはずだ。

 

「やっぱり、夜戦で決めるの?」

 

同じようにして索敵機を見送っていた雲仙が、何気なく尋ねる。

 

「まあ、一番派手に動けるのは夜戦だからね。日中は、やっぱり空の目があるし」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「“紅鶴”と“白鶴”には、第一次攻撃隊でトラックの港湾施設を叩いてもらう。これで、トラック環礁の深海棲艦は、こっちの存在にも気づくはず。その上で、改めて“コマツグミ”以下の艦隊を攻撃する」

 

これは、『IF作戦』参加時から決まっていたことだ。港湾施設と警戒艦隊の残党を完膚なきまでに叩き潰す。側面支援としては絶大だ。

 

問題は、“コマツグミ”の艦隊に空母が含まれているか否か。

 

―――こればっかりは半々だね。

 

深海棲艦は、人類と同じく空母の集中運用を可能とするだけの連携を持っている。だから、トラック環礁の空母を一つの艦隊にまとめて、一個機動部隊として運用すると予想していた。

 

だが、深海棲艦が“コマツグミ”の存在をより重く見ていれば。そちらを守るために、優先的に空母を配備している可能性もある。

 

とにかくこればかりは、実際に索敵機が艦隊を見つけてみなければわからない。舞としては、一刻も早く、敵艦隊が見つかることを祈るばかりだ。

 

「・・・ねえ、提督」

 

「ん?どうかした?」

 

「さっきっから、紀伊姉さんがものすっごく戦いたそうなんだけど・・・」

 

「・・・あー」

 

“雲仙”の後方で、機動部隊の守りに着く超巨大戦艦の様子がありありと浮かんだ。普段戦闘をできる機会が少ないだけに、こうした時は意外と最前線に出たがる。

 

「・・・まあ、決着は夜間砲撃戦だろうし、出番はあるよ。・・・多分」

 

正直、舞は迷っていた。

 

できれば、“コマツグミ”とは直に話してみたい。なぜ、Z海域を出たのか。なぜ、トラック沖に来たのか。

 

“イレギュラー”という存在は、何の理由も考えもなしに動くような深海棲艦ではない。

 

会って、話がしたい。そんな危険な考えを持っていることに、舞は今更ながら気づかされた。

 

「・・・迷ってる?」

 

「うん、まあ、ね」

 

「それは、“コマツグミ”を沈めてしまうかどうか?」

 

舞は押し黙る。

 

話はしてみたい。だが、トラック沖で彼女と会談することは危険すぎる。一歩間違えば、自分たちと“イレギュラー”の両方の存在が、第三者に知られてしまう可能性が高い。

 

“コマツグミ”との決着。それは、彼我どちらかの完全撃破以外にないものだろうか。

 

「・・・まあ、今悩んでも仕方ないよね」

 

まずは、やってみなければ。やって、自分に何ができるのかを、見極めなくては。

 

波濤の先を見遣る。“紅鶴”から、トラック諸島への第一次攻撃隊発艦を知らせる報告が入ったのは、それからすぐのことだった。

 

 

“雲仙”では、その高い通信能力を生かして、電波の傍受を行っていた。深海棲艦側のものは解読できないが、日本海軍側のものはわかる。傍受した内容を、雲仙が暗号を翻訳して、舞に状況を知らせた。

 

「一機艦(第一機動艦隊)が空襲を受けてるみたい」

 

「敵機動部隊の位置に関しては、何かわかる?」

 

「トラックの北西海域にいるみたいだよ。数は正規空母三、軽空母二」

 

「じゃあ、空母は機動部隊に集中してるんだね」

 

「そうみたい」

 

これで、少し負担が減る。

 

「引き続き、傍受をお願い。何かあったら報告して」

 

「了解」

 

雲仙と言い交わした舞は、マイクを取って紅鶴を呼び出した。

 

「紅鶴、第二次攻撃隊の準備は?」

 

『準備できてます。後は甲板に並べるだけです』

 

「了解。もう少し、待ってて」

 

通信を切って、舞は考え込んだ。

 

―――事前偵察で絞り込んだ位置に、“コマツグミ”の艦隊がいない・・・?

 

索敵機からは、いまだに「敵艦見ゆ」の報告は来ていない。単純に、何らかの要因で捉えそこなったのかとも思ったが、索敵機からの定時連絡が途絶えることもないし、該当海域の雲量も少なく快晴だ。索敵機側のミスとは思いにくかった。

 

とすれば、どこにいるのか。“コマツグミ”がトラックの南方を行動区域と定めていることは明白で、そこには何らかの理由があるはずだ。だとすれば、それをそう簡単に曲げるとも思えない。

 

例えば、以前アスチルベが言っていた、深海棲艦の起源に関する探究が目的だったとしよう。目当てとするものが見つからず、他の海域に映ってしまったのだろうか。

 

その可能性は低い。Z海域に展開する多数の“イレギュラー”たちが、一年以上をかけてようやく「目当てのものはない」と判断できたのだ。たった一隻の“イレギュラー”が、わずか数ヶ月でこの広大なトラック南方海域を捜索しつくし、「目当てのものはない」と判断できるとは到底思えない。

 

“コマツグミ”は、まだ近くにいる。舞はそう思っていた。

 

ある種の勘だ。半年近く『T・T独立艦隊』を率いてきて培われた、提督としての勘。

 

―――確証はないけどね。

 

自嘲気味に、舞は心の中で笑った。

 

「索敵機から。そろそろ燃料が危ないから、帰投するって。それと、第一次攻撃隊のトツレを受信。一機艦航空隊の姿はなし」

 

雲仙が報告する。

 

「了解。索敵機は、“紅鶴”に集中的に降りるように伝えて」

 

「わかった」

 

雲仙が索敵機に指示を出す。舞もマイクを取って、紅鶴に索敵機の集中回収を命じた。

 

「これで、深海棲艦―――“コマツグミ”もこっちの存在に気付いたはず」

 

だが、舞は自らの表情が険しくなっていることに気付いた。

 

何だろう。何か、引っかかる。何か、違和感がある。

 

本当に、“コマツグミ”はこちらに気付いたのか。

 

なぜ、発見できないのか。

 

トラックの南方に位置取った意味は?

 

空母を従えてない理由は?

 

何かが引っ掛かる。舞の思考を掻き乱す。掴めないその正体に、眉間にしわが刻まれるのがわかった。

 

答えは唐突に示された。

 

『電探に感!三時の方向より急速に接近する艦影あり!』

 

“雲仙”の艦橋に響いた叫びは、紀伊のものだった。

 

「艦影!?」

 

「提督、こっちの電探も捉えた!」

 

雲仙が声を張り上げる。電探に映る影から、その詳細を読み取っていった。

 

「距離四万。数、十二。戦艦一、巡洋艦五、駆逐艦六。速力二八ノット!」

 

―――強襲・・・!

 

舞は背中が寒くなるのを感じた。現在の第零別働艦隊―――零別艦は、輪形陣を敷いている。一本槍となって突っ込んでくる敵艦隊には、このままでは対処できない。唯一すぐに動けるのは、輪形陣最前部から突出している“雲仙”だけだった。

 

「紅鶴と白鶴の退避を優先!敵艦隊は、一先ず雲仙と龍風、清風で迎え撃つ!」

 

舞は即断した。これを受け、“雲仙”と輪形陣右翼に位置取る二隻の駆逐艦が大きく舵を取る。残った艦たちは速力を調整しつつ、まずは輪形陣を解いて二隻の空母を戦場から遠ざけようとした。

 

「九頭龍、紅鶴と白鶴の直衛をお願い」

 

『了解』

 

本当は戦いたくてしようがないという様子ながらも、九頭龍は了承の意を示す。

 

『提督、まずは敵駆逐艦を引き剥がせばいいんでしょ?』

 

転針した“雲仙”の右舷を進む龍風が尋ねる。

 

「うん。ちょっときついと思うけど、しばらくは二人でお願いね」

 

『『了解!』』

 

言うや否や、二隻の駆逐艦は急激に加速して、迫りくる敵艦隊へと突撃する。その動きを見て取ったのか、電探に映る影のうち、小さなものが六つ、動きだした。

 

「敵艦隊見ゆ!」

 

距離三万。“雲仙”の艦橋から、ついに敵艦隊が見えた。舞は双眼鏡を覗き込み、その姿を見る。

 

水平線の向こう側から、摩天楼を思わせる構造物がせり上がってきた。お互いが高速で接近しているため、その姿はみるみる大きく、はっきりとしてくる。

 

―――間違いない。

 

敵艦隊の中央、一際巨大な深海棲艦がいる。数隻の駆逐艦と巡洋艦を従え、白波を蹴飛ばしながら驀進するその姿は、戦国時代の騎馬武者を彷彿とさせた。

 

丈高い艦橋。幅広の艦体。ハリネズミのような両用砲群。そして何より、前甲板に集中配備されている、特徴的な三基の四連装砲塔。

 

コードネーム“コマツグミ”。舞たちが探していた、“イレギュラー”。

 

『紅鶴と白鶴の退避完了しました。これより、支援に向かいます』

 

紀伊が報告する。そして、それから数秒後。

 

“コマツグミ”が、その砲身を振り立て、巨大な砲炎と共に第一射を放った。

 

 

艦艇データファイル10

 

“コマツグミ”

 

全長・・・二六〇・〇メートル

 

全幅・・・三八・五メートル

 

排水量・・・六万トン(推定)

 

速力・・・二八ノット

 

五〇口径一六インチ四連装砲三基

 

三八口径五インチ連装高角砲十六基

 

四〇ミリ四連装機銃八基

 

二〇ミリ単装機銃二十四基

 

元はZ海域北部に確認された“イレギュラー”であるが、『T・T独立艦隊』の活動低迷期に海域を脱したらしく、トラック沖にて再確認された。“イレギュラー”としては初めて、Z海域外で活動する。主砲を前甲板に集中配置し、重要防御区画を短くする発想は“ネルソン”級や“リシュリュー”級などと共通だが、本艦は後部甲板を対空火器で埋め尽くしており、総合的な防御能力は圧倒的に上である。




トラック沖に出撃した二つの艦隊

そしてこれからは、ここに米艦隊も加わっていきます

ここから、世界が動きだします
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