T・T独立艦隊海戦譜   作:瑞穂国

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遅れて申し訳ないです

日本海軍がトラック沖で激闘を繰り広げる中、舞たちの戦いも激化していきます


砲弾の乱舞

砲弾の暴風雨は、まるでスコールのように唐突に、しかし激しい勢いで降り始める。その只中に放り込まれるのは、危険極まりない。

 

“コマツグミ”の放った第一射は、轟音を引きずって“雲仙”の頭上から降ってきた。もっとも、お互いに向き合った状態で、相対速度が六〇ノットを超えているのだから、さすがの“イレギュラー”も命中弾は得られなかった。

 

「両舷一杯!」

 

機関を最大に唸らせながら、雲仙が叫ぶ。前方への強い加速に、舞は艦橋のへりに掴まることで耐えた。

 

「このまま突っ切って!接近戦を仕掛ける!」

 

「了解!」

 

“コマツグミ”は、非常に特異な艦だ。その主砲は、全てが前方に配置されており、すなわち現状の向かい合った状態では、“雲仙”が圧倒的に不利だった。

 

ともかく、このハンデを詰められるだけの近距離に入らなければ話にならない。分厚い“コマツグミ”の装甲は、いくら長砲身高初速の三六サンチ砲をもってしても、二万を切らなければ効果は望めなかった。

 

―――そこまで、何としても辿り着かないと。

 

砲撃を始めれば、後はどうとでもなる。速射能力が異様に高い“雲仙”の三六サンチ砲なら、十二門の一六インチ砲にも十分対抗できるはずだ。

 

『龍風、敵駆逐艦との交戦に移る!』

 

『清風、同じく交戦に移りますわ』

 

“雲仙”の前を行く二隻の駆逐艦から、短い通信が入った。“コマツグミ”の前衛として展開する六隻の駆逐艦。それを同時に相手取ろうというのだ。

 

“雲仙”に先駆けて、前方海面で砲火が迸る。戦艦に比べればはるかに小さいが、それでも連続的に多数の砲炎が踊る様は、言い知れぬ迫力がある。最高峰のスペックを誇る二隻の駆逐艦は、その速力と巧みな操艦にモノを言わせて、敵駆逐艦を翻弄していた。

 

「やるうっ」

 

雲仙が指を鳴らす。直後、“雲仙”の右舷至近に、海水の白い柱が出現した。四万トンの艦体が衝撃に煽られ、わずかに振動する。

 

「・・・もう前後を合わせてくるなんて」

 

雲仙が“コマツグミ”を睨むようにして言う。相対速力の大きさに惑わされて、“雲仙”を大きく通り越していた“コマツグミ”の砲撃は、すでにその誤差を詰めることができたのだ。

 

縦が合えば、残るは横だ。高速力で驀進中とはいえ、“雲仙”に命中弾が生じるのは時間の問題と言えた。

 

「距離は?」

 

「二五〇(二万五千メートル)!」

 

―――後少し。

 

一瞬、この段階で発砲してしまうことも考えた。だが、“コマツグミ”と戦うためには、艦を回頭させて“雲仙”に搭載されている全八門の主砲を使えるようにしなければならない。この段階で舵を切れば、距離を詰めるのが遅くなってしまう。

 

二万メートルを切らなければ決定的な打撃を与えられない以上、今はただ突き進むしかなかった。

 

「何発か喰らうかもしれないから!提督も覚悟しといて!」

 

「了解」

 

雲仙の勧告に、舞は頷いてヘリを掴む手にさらに力を込める。艦橋で衝撃に耐えるには、体の軽い舞はこうするしかなかった。

 

“コマツグミ”がもう一度発砲する。これが四度目の射撃だ。昼戦なら、そろそろ夾叉や命中が出てもおかしくない頃合いである。

 

そして、案の定。

 

“コマツグミ”は、三基の四連装砲塔から、それぞれ二門ずつ、観測射を放っていた。すなわち、飛翔する砲弾の個数は合計で六発。これが、六つの水柱を立てることになるのだ。

 

だが、今回は違った。生じた水柱は五本。一本足りない。では、残りの一発はどうなったのか。

 

その答えは、強烈な衝撃となって舞に示された。へりに掴まっていても思わずよろめいてしまうほどの激しい揺れが艦橋を襲い、ともすれば足が床から浮きそうになる。

 

「きゃ・・・っ」

 

「提督、大丈夫!?」

 

雲仙が慌てて尋ねた。舞はコクリと頷く。驚きはしたが、この程度で怯むような舞ではない。

 

「被害報告」

 

「右舷一番高角砲に被弾。一番高角砲は大破、使用不能。戦闘航行に支障なし」

 

「さすがは“雲仙”ね」

 

「当然!これぐらいじゃあ、びくともしないって」

 

そう言って雲仙は笑った。舞もつられて笑ってしまう。

 

とはいえ、状況はかなり厳しい。縮まったとはいえ、彼我の距離はいまだに二万三千。しかもこれからは、三十秒ごとに斉射が降ってくる。一六インチ砲十二発をまともに受け続ければ、いかに“雲仙”が「巡洋艦という名前の何か」のように堅いと言えども、長くはもたない。

 

“コマツグミ”は不気味な沈黙を続けている。斉射へと移行するべく、その準備を進めているのだろう。まさに、今しも獲物を仕留めんとする野獣のようだった。

 

そして、時は来た。

 

「“コマツグミ”発砲!斉射!」

 

「・・・来たっ」

 

それまでに倍する勢いで、“コマツグミ”が砲炎を吐き出す。巨大な炎が上がり、さながら地獄を思わせる。そこから飛び立ったのは、十二発の高初速一六インチ砲弾だ。

 

現在距離は二万二千。砲弾が届くまでは三十秒程度しかない。

 

“コマツグミ”が二度目の斉射を放ったとき、先に放たれた第一斉射の十二発が落下して、多数の水柱を噴き上げた。海水の塊に覆われる“雲仙”。その内側で、命中弾炸裂の衝撃が走り抜け、火焔が踊った。

 

「ぐ・・・っ」

 

その内の一発は、またしても艦橋の至近に落下した。頑丈で丈高い“雲仙”の艦橋が、まるで巨人の手に弄ばれているかのように激しく揺さぶられる。舞は渾身の力で、艦橋のへりに掴まっていた。

 

「紀伊、そっちはどう!?」

 

零別艦に所属する超弩級戦艦は、焦りの滲む声で返答した。

 

『すみません、私が“コマツグミ”を捉えるにはまだ時間がかかります!それと、観測機の準備をしていなかったので、高高度気象観測射撃は使えません!目視で撃つしかないです!』

 

「了解!まだもちそうだから、慌てず正確にね」

 

『はい!』

 

次なる衝撃が襲い掛かってきた。今度は一発。舞の眼前で“雲仙”艦首に巨大な破孔が穿たれ、そこから火柱が噴き上がった。

 

「艦首に被弾!ダメコン急いで!後少しで決戦距離だから!」

 

雲仙が檄を飛ばす。幸い、艦首が浸水している様子もなく、速力は衰えていない。ゆえに、“雲仙”はついに、決戦距離としてた二万メートルを切ることができた。

 

「面舵三五!左舷砲撃戦用意!」

 

舞が雲仙を振り返り、声の限り叫んだ。

 

「面舵三五、左舷砲撃戦用意!測敵始め!」

 

雲仙が復唱する。とはいえ、四万トンの“雲仙”がすぐに舵を切れるはずもなく、転舵までの間にもう一度、十二発の一六インチ砲弾が降り注ぐ。

 

圧倒的な瀑布。甲板をバラバラと打つ水滴は、まるでスコールに当たっているかのようだ。そして、艦を揺るがす衝撃が、今度は後部から襲ってきた。前につんのめるような動きに、舞は腕を突っ張って耐える。

 

「帰ったら筋肉痛になりそう」

 

「揉んであげるから安心して」

 

雲仙と軽口を言い合っているうちに、艦首が右に振られ始める。これで相対位置が変わるから、“コマツグミ”も射撃をやり直さなければならなくなるはずだ。もっとも、相対速力と彼我の距離が小さくなった分、確実に少ない射撃で当ててくるだろうが。

 

こちらが回頭している間、“コマツグミ”の砲撃が止む。束の間の凪―――否、どちらかと言えば台風の目だろうか。ほんの一時の、静かな時間。

 

「回頭完了!主砲射撃用意!」

 

回頭中に左舷へと向けられた三六サンチ砲八門が、その砲門が開かれる時を今や遅しと待っていた。

 

「敵艦再び発砲!」

 

回頭によって斜め左舷方向に移った異形の深海棲艦が、その砲口に再び主砲発射の火焔を躍らせたのだ。

 

「最初から斉射!?」

 

よほど腕に自信があるのだろう。“コマツグミ”は、初弾斉射に踏み切った。

 

が、それがこの艦娘―――雲仙の闘志に火を点けた。

 

「それは私の十八番だあああああああっ!」

 

叫び声と共に、“雲仙”が第一射を放った。こちらも同じく斉射だ。長砲身三六サンチ主砲が八門一斉に咆哮を上げ、散々撃たれてきた敵艦に向けて飛翔していく。お互いの砲弾は上空で交錯し、それぞれの目標へと降り注いだ。

 

“コマツグミ”の射弾が、“雲仙”の周囲で炸裂して、衝撃で艦体を揺さぶる。だが、命中弾はなかった。砲弾は全てが左舷海面にまとまって弾着し、十二本の水柱となった。

 

今度は“雲仙”の砲撃が落下する番だ。放たれた八発の三六サンチ砲弾が、流星群となって“コマツグミ”に降り注ぐ。

 

―――お願い・・・!

 

祈りを込めて、舞はその行先を見守った。

 

立ち上る水柱。その合間に、

 

「命中弾確認!二発!」

 

二本の火柱が上がった。

 

「見たかっ!」

 

「連続斉射に移行!畳みかけて!」

 

「りょーかいっ!」

 

返事と第二斉射が同時だった。四基の三六サンチ連装砲が一斉に咆哮を上げ、お返しとばかりに八発の砲弾を放つ。

 

「次発装填完了!第三射、撃ーっ!」

 

“雲仙”の主砲は、その速射能力を遺憾なく発揮した。わずか十秒で装填を終えると、先の射弾が落下する前に三度目の斉射を放つ。“コマツグミ”は、いまだに次発の装填を終えていなかった。

 

「遅いって!」

 

第四射が放たれる。砲撃の反動で艦体が揺れ、艦橋の窓を震わせる。

 

“コマツグミ”も発砲する。再び斉射だ。が、その砲炎が収まらないうちに、“雲仙”の第二射が落下して、命中弾炸裂の閃光と爆風を振りまく。

 

「第五射、撃ーっ!」

 

遠慮はない。戦果を確認する間もなく、“雲仙”が再び発砲した。“コマツグミ”は堅牢な深海棲艦だ。格下の三六サンチ砲では、相当数を撃ちこまない限り無力化することはできない。

 

“雲仙”の第三射が落下する。爆炎が“コマツグミ”の艦上で噴き出し、装甲の薄い部位を容赦なく削り取る。引き千切られた高角砲が吹き飛んで、宙を舞った。

 

「第六射、撃ーっ!」

 

本日六度目の発砲だ。第一射からは一分ほどしか経っていない。加熱した砲身に飛沫が触れて、ジュッと音を上げる。

 

“雲仙”第四射の落下と、“コマツグミ”の第二射弾着がほとんど同時だった。第六射の砲声が収まった“雲仙”艦上に炸裂音と破砕音が響き、細い高角砲の砲身が弾け飛ぶ。逆に“コマツグミ”艦上にも命中弾が生じ、主砲の正面防盾に弾かれて火花を散らす。甲板に食い込んだ砲弾が、鋭い断片を辺りにまき散らした。

 

『提督!』

 

第七射を放つ“雲仙”の艦橋に、紀伊の声が届いた。

 

『敵艦を捉えました!支援砲撃始めます!』

 

「ありがとう!早風と綾風は!?」

 

『龍風たちの支援に向かいました!』

 

「了解!」

 

通信を終了し、舞は左舷前方の“コマツグミ”を見遣る。“雲仙”の第七射発砲と同時に、“コマツグミ”もまた、斉射を放っている。

 

「雲仙、後少し!やれるでしょ!?」

 

「当っ然!」

 

額に汗を浮かべながらも、雲仙が笑う。被弾と損傷は、艤装装着者の艦娘にも痛みとなって感じられるのだ。

 

“雲仙”の第八斉射が、大気を震わせる。負けるわけにはいかない。そんな覚悟を滲ませた咆哮だった。

 

加熱した砲身が冷却機構によって冷やされ、開かれた尾栓から砲弾が込められる。ほとんどを自動化されたこれらの作業は、あっという間に終了した。揚弾機が動き、次に砲身に込められるべき三六サンチ砲弾を準備する。

 

「第九射、撃ーっ!」

 

砲撃の反動は、水圧機の駆動によって吸収される。が、全てを吸収することなどできずに、横への揺れが生じた。

 

次発装填作業が急がれる中、“コマツグミ”の第三射が襲い掛かってきた。

 

立ち上る水柱。迸る閃光。

 

それまでで一番大きな衝撃が、“雲仙”艦橋を揺すり、舞を突き飛ばした。




戦闘が長い・・・

意図的に長くしてるけど、二話とか三話またぐのが普通になってきとる

次回、“コマツグミ”との戦闘が決着!(多分!)
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