T・T独立艦隊海戦譜   作:瑞穂国

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ここのところの連続投稿で疲労気味な作者です

こっちの投稿は、パラオの曙より遅くなるかと

一応、時間軸はほとんど同じですので、そのつもりで読んでいただけると


あるべき艦

砲口から迸った爆炎が収まり、艦上に束の間の静けさが訪れた。長砲身三六サンチ砲八門から放たれた砲弾は、計算通りに弾道を描いて飛翔していった。

 

第二斉射を見送った舞は、そこでニヤリとほくそ笑む。ここからが“雲仙”の本領発揮であることは、彼女が一番よく知っていた。

 

「次発装填完了!撃ーっ!」

 

第二斉射の飛翔中にもかかわらず、早々と“雲仙”の第三斉射が咆哮を上げた。その間隔はわずかに十秒。並の重巡洋艦よりも早い。細い艦体に載せるために、連装にならざるを得なかった新設計の三六サンチ砲塔は、代わりに破格の速射性能を手に入れていた。

 

第二射弾着の水柱が上がるのと、“雲仙”の第四斉射が放たれるのはほとんど同時だった。八つの火球が海面に衝撃波のクレーターを作り出し、その閃光の中に敵戦艦の至近弾が噴き上がる。

 

「命中!二発!」

 

雲仙が叫ぶ。

 

「畳みかけっ・・・てるね、もう」

 

「次発装填完了!第五射、撃ーっ!」

 

ワンサイドゲームに近かった。鋼鉄の暴風となって吹き付ける三六サンチ砲弾に、敵戦艦は為す術もない。もちろん、一六インチ砲艦として自らと同等の砲撃に耐えられる敵戦艦の装甲は、いくら長砲身高初速の三六サンチ砲を以ってしても貫通は容易ではない。しかし、バイタルパート以外の比較的装甲の薄い区画をズタボロにするには十分過ぎた。

 

砲塔型の両用砲が、弾薬庫の誘爆を引き起こして吹き飛ぶ。

 

太い直立煙突が半分に千切れ、黒煙を噴き上げた。

 

錨鎖庫に飛び込んだ砲弾は艦首に大穴を穿ち、左の主錨を脱落させる。

 

カタパルトがひしゃげ、炎が航空燃料に引火して甲板を黒く焼いた。

 

当たり所の良かった一発が、三連装砲塔の天蓋を破って炸裂し、砲塔を真っ二つに引き裂く。

 

マストが折れて、後部艦橋を押しつぶすように圧し掛かった。

 

機銃は爆風でほとんどが跡形もなくなり、更地となった甲板に炎がのたうつさまは、まさに地獄絵図さながらとなった。

 

敵戦艦もやられっぱなしではない。一発の一六インチ砲弾が航空作業甲板に命中し、カタパルトをもぎ取った。しかし、対四一サンチを想定した“雲仙”の装甲は、それ以上の被害を許さなかった。

 

第九射を放つと同時に、“鞍馬”から通信が入る。

 

『姉さん、こちらは終わったわ』

 

「ん、りょーかい。こっちもすぐ終わらせる」

 

『よろしく。龍風たちと待ってるから』

 

「はいはーい」

 

通信がそこで切れる。しばらくして、第十射が砲口から火を噴いた。

 

「あっちは終わったって」

 

「そっかそっか。こっちもパパッと終わらせちゃって」

 

「りょーかい」

 

舞の意図を汲み取ったのか、雲仙が次の砲撃を放つまでに、先ほどよりも時間があった。何かしらの準備の後、“雲仙”が第十一斉射の砲炎を噴き上げた。艦橋から見える前甲板で迸った光の中に、火焔を吐き出す四門の長砲身三六サンチ砲が見える。その仰角は、心持ち低く調整されている。

 

それまでよりもいくらか低い弾道を描いた八発の三六サンチ砲弾は、“雲仙”が第十三斉射を放つ頃に弾着し、七つの水飛沫と一つの火柱を噴き上げる。狙いが低いために、手前に弾着した六発の砲弾のうち、雲仙の意図した効果を発揮したのは四発だった。

 

水中弾効果。一式徹甲弾が、ある条件下で発現させる特殊な仕様によって水中を直進した砲弾は、あらゆる艦船共通の弱点である喫水線下の下腹に突き刺さり、あっさりと大穴を開けた。威力こそ魚雷に劣るものの、バルジの妨害を受けない水中弾は、いかんなく実力を発揮し、すでに沈黙している敵戦艦に、トドメとなるには十分過ぎるほどの浸水を引き起こす。

 

「撃ち方待て」

 

第十一射の効果を見た舞は、雲仙に命令する。“雲仙”は、第十四射の準備をしたまま、加熱した砲身を上向けて砲撃を中止した。第十二、十三射が連続して落下すると、敵戦艦は右舷への傾斜を急速に高め、ついに横倒しとなった。威容を誇った丈高い艦橋が衝撃で叩き折れ、黒光りする船腹が天を仰いだ。最早二度と、その脅威を洋上に曝すことはない。

 

舞は筋肉を弛緩させ、一息を吐く。

 

「作戦完了・・・かな?」

 

双眼鏡を燃え盛る敵艦へ向け、舞は確認を取るように呟く。

 

「捕捉した敵艦は全部沈めたみたいだよ?」

 

「うーん、ならいっか。そろそろ陽も昇るし、早く帰っちゃお。『逐次集マレ』を掛けといて」

 

「はーい」

 

すぐに、“雲仙”から五隻の僚艦へ通信が飛ぶ。これにより、彼女たちの一連の戦闘は終わりを迎えた。

 

 

 

「お疲れ様です。提督、雲仙さん」

 

開いていたドックへと艦体を押し込めた“雲仙”から降り立った舞と雲仙を、ドック脇で迎える声があった。戦闘中に結んでいた髪を下ろした舞は、声の主に手を振る。

 

肩から先のないセーラー服に、黒のニーハイソックス。青の一本線が入ったチョーカー。二頭の龍が描かれたリストバンドを左手に嵌めている。軽巡洋艦娘の奥入瀬は、朝早くの帰還にもかかわらず、柔らかな笑みを浮かべていた。快活なポニーテールが揺れる。

 

「ただいまー」

 

奥入瀬へ駆け寄ってそう言った雲仙は、彼女とは対照的だ。肩口の大きく開いた巫女服に、袴をアレンジした濃い赤のチェック柄スカートを穿いている。舞は会ったことがないが、金剛型四姉妹の服装によく似ているらしい。同型の鞍馬は、スカートが濃緑のチェック柄だ。

 

髪型は、緩いカールのかかったロング。それがあたかも、軽い鳥の羽のように風に漂う。

 

雲仙の後に続いた舞は、笑顔のまま軽く手を上げ、砕けた敬礼をする。奥入瀬も同じようにして答礼した。

 

「泊地の警備お疲れ様。特に何も?」

 

「はい。あ、綾風ちゃんは栗駒先輩が宥めてくれてます」

 

「ほんと?助かったー」

 

心配事の種が事前に摘み取られていたことに、安堵のため息を漏らす。件の駆逐艦娘には、所謂“ヤンデレ”の気があるようで、戦闘に出してあげないと、半日ほど詰め寄られることになるからだ。

 

もっとも、頻度の差はあるとはいえ、同じような症状を発症する艦娘はもう一人いるのだが。

 

―――さすが栗駒先輩、よくわかってらっしゃる。

 

よく気が付く重巡洋艦娘を拝みたい気分で、舞は手を合わせた。

 

が、そう思ったのも束の間。

 

「後で、九頭龍ちゃんと演習させてあげてくださいね」

 

「結局それかあああああああっ!」

 

―――さすが栗駒先輩、よくわかってらっしゃる。

 

さっきと全く違う意味合いで、舞は同じ感想を抱くのだった。栗駒先輩、今日のおやつ抜き。

 

今夜は、騒がしい夜になりそうだった。

 

こほん。舞は咳払いを一つ。

 

「ま、まあそれは置いといて」

 

可及的速やかに、解いておかなければならない疑問がある。

 

「奥入瀬、一つ訊いていい?」

 

「はい?」

 

奥入瀬は可愛らしく首を傾げる。

 

「・・・紀伊は?」

 

舞は、この泊地の秘書艦の居所を尋ねた。

 

「・・・」

 

沈黙。

 

「紀伊は?」

 

再度尋ねる。

 

「・・・あ、あははは」

 

奥入瀬の乾いた苦笑に、舞はうなだれる。

 

タウイタウイの秘書艦を務める戦艦娘は、真面目で仕事のできる大和撫子だが、長らく出番がないと、こうして時々拗ねてしまうのだ。

 

「・・・後で声掛けとくか。自室でしょ?」

 

「はい。お願いしますね」

 

若干困り顔で笑う奥入瀬に頷く。一方、雲仙はどこか楽しげな様子だ。

 

「いっそ一日ほっといてみなよ。面白い反応が見られるかもよ?」

 

そんなことをのん気に言った次の瞬間、奥入瀬の表情が引き攣ったのに気づいたのは、舞だけだった。

 

「へー、それは楽しみですね」

 

ギクリ。

 

肩を大きく震わせた雲仙は、冷や汗をダラダラと流して、ゆっくりと後ろを振り返る。

 

雲仙とよく似た服装。ただし、こちらは完全な巫女服で、スカートではなく深紅の袴を穿いている。両袖の端には桜の花びらが散りばめられており、戦国時代の姫君を思わせる長く幅の広い黒髪に、水平線から昇る太陽をイメージしたティアラが輝いていた。

 

件の艦娘―――タウイタウイ泊地の秘書艦である超弩級戦艦娘、紀伊は、その端正な顔に柔らかな笑みを浮かべている。

 

「お帰りなさい、提督、雲仙」

 

「う、うん。ただいま」

 

突然の登場に驚きつつも、舞は紀伊に答えた。一方、

 

「お、おおおおお、お帰りなさい紀伊姉さん!」

 

雲仙、動揺しまくりである。

 

「もー、雲仙たら何言ってるのー。帰ってきたのは雲仙の方でしょ?」

 

「そ、そうっすね」

 

口調までおかしくなっていた。ニコニコと擬音が聞こえてきそうな紀伊に対して、明らかにたじろいでる雲仙は、体を仰け反らせて頬をひくつかせている。その額には、うっすらと汗が流れていた。

 

「ところで、雲仙?」

 

「お、押忍」

 

「朝帰りなのに元気そうね」

 

「い、いやー、どうかなー」

 

明らかに目の据わっている笑顔の紀伊から後ずさる。が、紀伊がその右手首をがっしりと掴んだことで、ついに動けなくなった。紀伊はこれ以上ないほどの満面の笑みを浮かべると、ことさら落ち着いて口を開いた。

 

「丁度よかった。これから栗駒と朝の稽古なの。一緒に行きましょう?」

 

丁寧に尋ねる口調だが、そこには明らかに、有無を言わせない迫力が込められていた。「ひっ」という雲仙の悲鳴など意に介することなく、器用に彼女の襟を掴んで稽古場まで引っ張って行ってしまう。おそらく、先に稽古場で待っている栗駒と共に羽交い絞めにされ、強制的に道着に着替えさせられたうえで、みっちりその剣術をしごかれることだろう。

 

もがく雲仙の叫び声が、ドック脇に響いていた。

 

「ちょっ、提督笑ってないで助けてよー!」

 

「朝御飯までには戻ってねー」

 

「この裏切り者ーっ!!」

 

 

 

「「「いただきまーす!」」」

 

食堂に集まった泊地所属の全艦娘が、一時に手を合わせ、朝食に感謝の意を示す。艦娘の食事を担当する食堂部の貴澄貴子が、その挨拶に微笑んでいた。

 

「あー、死ぬかと思ったー」

 

あれから約一時間。げっそりと痩せているように錯覚する雲仙が、一番お腹を空かせているようだった。箸を取るや否や、あらゆるおかずをすっ飛ばしてご飯に手を付けた。

 

「うっうっ、美味しい・・・」

 

涙を浮かべながら、あっという間に一杯を平らげ、貴子におかわりを受け取りに行く。その様子に嘆息したのは、優美にバランスよく箸を動かす栗駒だった。

 

「あの程度でへこたれるな。清風を見習ったらどうだ」

 

話を振られたのは、同じように朝稽古に参加した駆逐艦娘だ。栗駒の斜め右前に座る彼女は、機械的と思えるほど、淡々とおかずを口に運んでいた。

 

いや、ちょっと待て。

 

「おーい。清風ー?」

 

普段なら、栗駒に褒められると飛び上がって喜ぶ彼女が、まったくの無反応だ。訝しんだ霜風が、清風の顔の前で手を振る。

 

「・・・おい。清風が灰になってんだけど」

 

「む?」

 

栗駒の箸がピタリと止まった。

 

「・・・どういうことですかね、栗駒さん?」

 

半目の雲仙が尋ねる。箸を置いて思案顔となった栗駒が、淡々と答えた。

 

「紀伊に頼まれて、普段より少し厳しめにしたのだが・・・」

 

「いや、何をどうしたらああなるのよ・・・」

 

白鶴が呆れ気味に呟く。

 

この後、雲仙、清風両名が朝御飯によって回復したことで、改めて貴子の素晴らしさを思い知ったタウイタウイ泊地であった。ちなみに紀伊は、後追いでやってきた筋肉痛で秘書官机から動けなくなったところを、舞に散々からかわれたのだった。

 

 

艦艇データファイル02

 

“紀伊”型戦艦

 

全長・・・二九三・六メートル

 

全幅・・・四〇・一メートル

 

排水量・・・八万一〇〇〇トン

 

速力・・・二七ノット

 

四五口径五一サンチ三連装砲三基

 

五〇口径一二・七サンチ連装高角砲十六基

 

二五ミリ機銃多数

 

俗に『超大和型』と呼ばれる本級は、文字通り大和型を大きさ、搭載火器共に拡大発展させたものである。ただし、構造物の配置にはいくらか変更点が見られ、大和型、信濃型(改大和型)から得た教訓が活かされていた。特に大きいのは、副砲の廃止と高角砲の増設で、新型高射装置の性能も相まって高い対空性能を誇る。また、爆風の影響範囲拡大により、砲塔と構造物群、航空作業甲板の間隔も、大和型より広く取られることなった。

 

紀伊

 

紀伊型一番艦。長い黒髪に巫女服だが、その下には戦闘時の制服(大和型と共通)を着ている。一応泊地の秘書艦であるが、舞が滅多に出撃させてくれないため、たまに拗ねる。実は泊地で最後に着任した艦娘であり、以後、新しい艦娘は着任していない。




さて、そういうわけです

タウイタウイ泊地が一体どういう場所で、なぜ“存在するはずのない”軍艦がいるのか

何と言いますか・・・パラオ編では説明しきれないところを補っていく感じでしょうか

もちろん、こちらだけでも十分に楽しめるように書いていくつもりですので、応援のほどよろしくお願いいたします

それでは、また
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