T・T独立艦隊海戦譜   作:瑞穂国

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どうもです

今回は日常回です

後、色々設定の説明とか

ていうか、基本的にタウイタウイは戦う気があるのかビミョー。極秘任務中だからね、仕方ないね


来たる朝陽

タウイタウイ泊地。

 

秘書艦の朝は早い。朝食には程遠い午前六時、紀伊はすでに布団から出て、支度を終えていた。自らの服装を、姿見に向かって確かめて、納得するように頷く。それから姿見にはカバーを掛け、部屋を後にした。

 

紀伊の向かう先は、鎮守府内の道場だ。毎朝、栗駒と共に稽古をしている。

 

寮の入った庁舎から道場まで、廊下と外通路を通って五分くらいだ。紀伊の履いた下駄が、カランコロンと高い音を出していた。

 

ふと外を見れば、庁舎の周りを走っていく影が見えた。元気なポニーテールを揺らしているところから、奥入瀬だとわかった。稽古には参加していないが、彼女も朝早くから自主訓練に余念がない。

 

「やだ、遅れてしまいますわ」

 

と、ゆっくり歩いていく紀伊の後ろから聞こえてきたのは、先日朝稽古で灰と化した駆逐艦娘の声だった。サラサラのロングヘア―を揺する清風を振り返り、紀伊は声を掛ける。

 

「おはよう、清風。まだ時間は大丈夫よ」

 

「あら、おはようございます紀伊さん。違うの、早くしないと、栗駒様の着付けているところが見れないでしょう?」

 

「そういうこと・・・」

 

そのまま走り抜けていく彼女を、紀伊は苦笑して見送る。栗駒を理想の“男性”像として憧れる清風は、こうして件の重巡洋艦娘を追いかけているのだ。栗駒の方も特に迷惑がる様子もなく、朝稽古への参加を申し込んできたときは、それは嬉しそうにしていたものだ。

 

―――少しゆっくり行きましょうか。

 

そんなことを思いながら、外通路への扉を開く。

 

朝早くても、泊地は温かい。そっと吹き付ける風に深呼吸をして、新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。美味しい、という表現は、少しずれているだろうか。ただ感覚としてはそれに近い。無駄な混じり気のない、泊地の朝だ。

 

―――鶏舎の様子でも見ていきましょう。

 

興味が高じて島風型姉妹が始めた養鶏のことを思い出した紀伊は、元気なニワトリたちの姿を見に行こうと、寄り道をすることにした。

 

 

 

「ふう・・・」

 

朝稽古を終えた紀伊は、道場内に設置されたシャワー室でさっぱりとして、稽古中は結んでいた長い髪をタオルで丁寧に拭きながら更衣室へ戻った。甘酸っぱい汗の匂いがする部屋の中には、すでに着替えを終えようとする栗駒と清風がいた。

 

「先に失礼するぞ、紀伊」

 

「お疲れ様ですわ、紀伊さん」

 

栗駒が黒の詰襟を上から三番目のところまで留めて、先に更衣室を出る。続くようにして、島風型共通の制服の上からカーディガンを羽織った清風が、栗駒の横に並んだ。

 

―――あの二人、付き合ってるのかしら。

 

まさかね、と考えて、紀伊も元の巫女服へ着替え始める。体を巻いていたバスタオルを取り払い、棚から丁寧に畳んだ服を取り出す。露わになった超弩級のそれが、たわわに揺れた。

 

テキパキと着付けていくのは、朝と変わらない。数分のうちに全てを整え、大鏡で確認する。納得の仕上がりだ。使った道着は、後で洗濯するために籠にまとめておく。

 

更衣室を後にし、道場の窓の戸締りを確認、電灯もすべて消す。それらを指差し確認して、扉を閉め、鍵をかける。これで完了だ。

 

「よし」

 

やりきったように鼻から息を吐いた紀伊は、くるりと踵を返し、道場を後にする。見上げれば、先よりも高い位置に太陽があった。そろそろ朝食時だろうか。そんなことを思いながら、履いた下駄をカランコロンと鳴らして、舗装された通路を歩いていく。

 

ただ、紀伊の選んだ道は、行きの時とは違っていた。食堂のある庁舎の方ではなく、各艦が停泊する港湾施設の方へ足を向けたのだ。

 

埠頭が近づくにつれて、風も感じやすくなる。その中には、確かに潮の香りが含まれていた。これが、朝だとまた違うものなのだ。その匂いが、紀伊は特に好きだった。

 

六つある埠頭に、紀伊の艦は係留されていない。大きすぎて近づけないのだ。代わりに、島風型や栗駒たち巡洋艦が埋めていた。その内、第一埠頭に係留されている巡洋艦を見止めて、紀伊はその舷側に歩み寄った。

 

艦首には、帝国海軍の象徴たる菊の御紋が輝く。艦体は、巡洋艦としては大きい部類に入るだろうか。“奥入瀬”をさらに引き延ばしたような細身の艦体は、見るからに素早そうだ。搭載されている三連装砲塔が、さらにがっしりとした印象を与えている。

 

艦全体を眺め見て、おそらくこの艦の主は起きているだろうと確信した。息を吸い込み、“彼女”にはっきりと聞こえるよう、声を張り上げる。

 

「千尋さーん!おはようございまーす!」

 

艦橋の窓の向こうに、きらめく人影が見えた。

 

「紀伊さん!」

 

艦橋の横、見張り所から顔を覗かせたのは、紀伊と同じように巫女服をまとった少女だった。長い髪は透き通るように白く、神話に登場する神聖な白蛇を思わせる。風にはためくそれを押さえ、彼女は見張り所のへりから飛び降りた。

 

巡洋艦の艦橋とはいえ、トップの見張り所ともなればそれなりの高さがある。普通ならただでは済まない。

 

が、不思議な現象が起きた。重力に引かれて落下していた彼女が、甲板が近づくにつれて次第に減速しだしたのだ。袴から伸びた足が甲板と触れるころには、その速度はゼロに近くなり、ふわりと軽い羽のように着地した。それから、特に何かを気にするわけでもなく、紀伊の方へとやってくる。

 

「おはようございます」

 

明るい笑みを浮かべて、紀伊に挨拶した。大きな笑顔に、紀伊も自然と顔がほころぶ。

 

彼女は、名を村雨千尋といった。軽巡洋艦“三瀬”の主であるが、紀伊たち艦娘とは違う。「船魂計画」と呼ばれる人工BOBの建造を目的とした計画の一号艦として、人間の手によって作られた“三瀬”は、艦娘の代わりとして人間の少女を選んだ。

 

しかし、計画の失敗によって、千尋は“三瀬”の魂に取り込まれ、以後は艦娘と同じ存在としてこのタウイタウイで戦っている。

 

「これから御飯ですか?」

 

紀伊の問いに、千尋は曖昧に頷いた。

 

「はい。皆さんに朝食を作らないと」

 

「賑やかそうですね」

 

紀伊は、千尋をタウイタウイの食堂へ誘うことはしなかった。以前はやっていたが、断り続ける千尋に無理強いはできない。

 

「あ、そうだ。お漬け物がいい感じになったので、今夜あたりに届けますね」

 

誤魔化すように柏手を打った千尋の言葉に紀伊は目を輝かせた。

 

「ほんとですか?楽しみです」

 

「気に入っていただけて良かったです」

 

千尋が艦内で作っている漬け物は格別だった。ごはんのお供としてこれ以上のものは存在しない。対抗可能なのは、取れたての鶏卵を使った卵かけご飯くらいのものだ。

 

「それじゃあ、こちらも何か、おかずを用意しておきますね」

 

「ありがとうございます」

 

「和食でいいですか?」

 

「もちろんです」

 

千尋も微笑むと、ちらっと艦の入り口の方を見遣って、切り出した。

 

「それじゃあ、そろそろ。皆待ってますから」

 

「すみません、朝食時に」

 

お互いに手を振って分かれる。千尋は“三瀬”の艦内へ、そして紀伊は、元のように庁舎へ。目的は同じでも、帰る場所は違うのだ。

 

それを寂しいと、今はもう感じない。思う必要はないことに気づいた。

 

朝食の話題が出たことで、不覚にも紀伊の腹の虫が鳴り出した。それにほんのりと頬を染めて、歩調をわずかに早める。目の前に迫りつつある泊地の庁舎は、朝陽に照らし出されてどこか神々しささえ感じる光景だった。その一角にある食堂から、朝の賑わいが漂っていた。

 

「あ、紀伊さん!」

 

そんな紀伊の後ろから、声がかかった。元気ハツラツとして明るさに満ちた声だ。タッタッと駆けよってくる足音からも、声の主が誰であるかは言うまでもなくわかった。

 

振り向けば、紙袋を抱えた奥入瀬が走ってきていた。

 

「稽古、終わったんですね」

 

「ええ、いい運動だったわ。奥入瀬も、随分走っていたじゃない」

 

「えへへ、走るのだけは得意ですから」

 

照れたように頭を掻く仕種が愛らしい。変人揃いのタウイタウイ泊地で、唯一と言っていい真面目な彼女は、こうして時折見せる可愛らしさが、特に際立って見えた。

 

「艦娘なのに、走るのが得意っておかしいですよね」

 

「そうかしら?島風型の皆は、いつも元気にはしゃぎまわっているわよ?」

 

「あの娘たちは別ですよう」

 

そう言って苦笑いした。軽巡である彼女にとって、元気が服を着てるような島風型の皆は、頭を抱えたい原因かもしれない。

 

「ていうか、あの娘たちがはしゃぎ回るのは、大体九頭龍が焚き付けるからですし」

 

奥入瀬は、タウイタウイ所属のもう一人の軽巡洋艦娘の名前を出した。防空巡洋艦であり、本来水雷戦隊を率いる立場ではない彼女は、何をどう間違ったのか、夜戦が大好きであった。自由奔放な性格で、奥入瀬の頭痛の種を増やして回っている。

 

「まあ、ほんとは私が、水雷戦隊のボスとしてビシッと言うべきなんでしょうけど・・・」

 

「・・・無理でしょうね」

 

「無理ですね」

 

二人して、諦めに似た苦笑を漏らす。島風型の四〇ノットに追いつける艦は、残念ながらタウイタウイには存在しなかった。三六ノットと、速い部類に入る奥入瀬を以ってしても、島風型の暴走を止めることはできない。

 

「そうは言っても、元気なのはいいことですから」

 

そう言いながら、奥入瀬が庁舎の入り口を開く。次の瞬間、一陣の風が廊下を走り抜けていった。

 

「こらっ!霜風!廊下は走らない!」

 

奥入瀬の注意に、呼ばれた駆逐艦娘は「やべっ」と呟いて急制動を掛けた。

 

「まったく、もう」

 

奥入瀬が紙袋越しに溜息を吐く。その横顔を窺って、紀伊は可笑しさが込み上げてきた。

 

「なんだか、お母さんみたいね、奥入瀬?」

 

「せ、せめてお姉さんって言ってくださいよ」

 

わずかに顔を赤くしながら、奥入瀬がプクーっとほっぺを膨らます。容姿相応の可愛らしさに、紀伊はまたクスリと笑いを漏らした。

 

紀伊と奥入瀬が入った扉から、食堂はすぐだ。掛けられた暖簾をくぐると、すでに大半の艦娘が集まって、食事の準備か、おしゃべりをしていた。準備は二人を当番制で回しているから、この中のほとんどは、おしゃべりをしに集まっているだけだ。

 

ちなみに、その場にいなかったのは、超巡洋艦の一番艦と、夜戦好きの防空巡洋艦、そして―――

 

「・・・また、提督は寝坊ですか」

 

食堂を見回した紀伊は、盛大な溜息を吐いた。これで皺が増えたら舞のせいだ。

 

「まだ、起きてきませんね」

 

食堂部の貴子が、奥入瀬から紙袋を受け取って答えた。奥入瀬の持っていた袋の中身は、どうやらパンだったらしい。庁舎からそう離れていないところに造られたパン焼き釜は、舞たっての要望で食堂部が製作したもので、毎朝焼き立てのパンを提供してくれていた。

 

紀伊はちらりと時計を確認し、もう一度溜息を吐く。

 

「・・・いい加減起こしてきますね。そろそろ朝御飯ですし」

 

「お願いします」

 

細い眉を八の字に下げる貴子に見送られて、紀伊は食堂を後にする。執務室の横にある提督私室は、庁舎の中でも寮に近いところにある。食堂とはほぼ反対側だ。

 

廊下に流れ込む朝陽の中、ゆったりとした紀伊の足取りに合わせて、下駄が鳴る。考えるのは、もちろん舞のことだった。

 

致し方なかったこととはいえ、舞は十六歳の若さで提督となった。以来、慣れぬことのはずなのに、懸命にその職務を果たしてくれている。紀伊としても、頭の下がる思いであった。

 

とはいえ、最低限の生活リズムは守って欲しいものだ。

 

舞の着任以来、秘書艦兼お守り役として戦ってきた紀伊は、内心で溜息を吐きながら、辿り着いた舞の部屋の扉をノックするのだった。

 

 

艦艇データファイル03

 

“三瀬”型軽巡洋艦

 

全長・・・一九一・〇メートル

 

全幅・・・一八・八メートル

 

排水量・・・一万一〇〇トン

 

速力・・・三六ノット

 

六〇口径一五・五サンチ三連装砲五基

 

六五口径一〇サンチ連装高角砲二基

 

五〇口径一二・七サンチ連装高角砲二基

 

六一サンチ四連装魚雷発射管二基

 

二五ミリ三連装機銃六基

 

「船魂計画」―――人類の手でBOBを建造する計画の、一号艦である本艦は、結果的に本計画最後の完成艦となった。実験の過程で、浅羽少佐以下参加した乗組員全員が妖精となり、コア・ガールの村雨千尋も艦娘となってしまっている。Z海域調査の目的でタウイタウイ泊地に派遣された本艦は、同地で唯一建造を行えるBOBであったが、千尋の消耗が激しく、紀伊を最後に建造を行うことができなくなっている。

 

村雨千尋

 

“三瀬”のコア・ガール。長い白髪に、巫女服をまとった少女。元は人間であったが、「船魂計画」の失敗により、崩壊した“三瀬”の魂に取り込まれ、以後は艦娘となっている。『霊感』と呼ばれる不思議な感覚を持ち、深海棲艦を含めたあらゆる艦船の魂を感じ取ることができる。




話の都合上、村雨千尋はかなり設定を変えざるを得ませんでした・・・ごめんなさい

「船魂計画」中の事故については、もう少し後の方で詳しく書きます。浅羽少佐も色々あったんです

それでは、また。こっちは一週間ペースぐらいかな?
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