T・T独立艦隊海戦譜   作:瑞穂国

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怪物が出ます

大きさとか、そういうことじゃなくて

異形の怪物ですね


極秘の依頼

「いらっしゃい、イムヤちゃん!」

 

横須賀からの突然の使者を、舞は笑顔で迎えた。

 

「お久しぶり、舞さん」

 

イムヤも屈託ない笑顔で答える。それからスッと、紙袋を取り出した。デザインを見ると、有名な和菓子店のものだ。舞の大好物である。

 

「これ、お土産です。人数分ありますよ」

 

「わあー、ありがとう!」

 

心底嬉しそに受け取った舞は、早速中身を確認した。二種類の菓子折りが入っている。

 

舞の表情が、ほんの少し寂しげなものに変わった。

 

「さすがに、餡蜜は無理だよね」

 

イムヤの方も、申し訳なさそうに手を合わせた。

 

「すみません、私の設備じゃ日持ちがしなくて・・・」

 

「ううん、気にしないで」

 

舞がこの和菓子店を気に入っているのは、昔―――まだ日本に住んでいた時だから、十歳にもなっていない頃に、おばあちゃんが買って来てくれた、カップ入りの餡蜜に感動したからだった。それから、たまに直営のお茶処に行ったりもした。子どものころから親しんだ味なのだ。

 

「これは、後でおいしくいただくね」

 

舞はそう言って紙袋をソファに置き、イムヤに着席を促す。そして自らも、彼女の向かいに腰かけた。

 

「お茶、入りましたよ」

 

丁度見計らったように給湯室から出てきたのは、秘書艦である紀伊だ。いつも通りの巫女服を揺らし、お盆に乗せた三人分の湯飲みを、舞とイムヤ、そして自分の前に置いた。取り敢えず、これで話の準備は完了だ。

 

「それで、イムヤちゃん」

 

出されたお茶で唇を湿らせ、舞が話を切り出す。その双眸は、すでに艦隊を指揮する提督のそれだった。

 

「依頼があるらしいけど、何?」

 

舞としては、これ以上何か新しい作戦は実施できない。現在のタウイタウイは、戦力的にはかなりギリギリなのだ。Z海域の調査で一杯一杯である。それに、ここのところの“ミス・シップ”の存在も気になる。

 

コクリと頷いたイムヤは、持っていた防水バッグから書類を取り出した。黒い表紙が付けられて綴られた、作戦指令書だ。

 

「まだ、先の話なんだけど」

 

イムヤはそう前置いて話を続ける。

 

「トラック攻略作戦における、側面支援をお願いしたいの」

 

「側面支援?」

 

疑問は尽きない。舞が頷くと、紀伊が席を立ち、トラック諸島周辺の大まかな地図を持って戻ってきた。それを机の上にパラッと広げて、さらに続きを促した。

 

「パラオ泊地の設営は知ってるでしょ?」

 

「ええ、もちろん」

 

二ヶ月前の海戦で海軍が獲得した島々は、フィリピンよりもさらに東寄り、つまりトラック諸島の近くに位置する。太平洋戦域における最重要拠点と海軍が位置付けるトラックは、現在ハワイと並んで、太平洋深海棲艦艦隊の本拠地だ。このトラックに対し、十ヶ月ほど前に奪還したマリアナ諸島と合わせて圧力をかけるべく、そしてトラック攻略戦における出撃拠点とするべく、海軍はパラオ泊地の設営を急いでいた。

 

「あれ以来、対豪航路における深海棲艦の出現が激減したわ」

 

「どれくらい?」

 

「今のところ、水上部隊の襲撃は一度もない。潜水艦にしたって、頻度が激減してる」

 

つまり海軍の予想以上に、パラオ奪還の効果が上がっているということだろうか。

 

「それにしたって、トラック攻略は時期尚早なんじゃ・・・」

 

「ああ、実はね。そもそもトラック攻略は、二段階か三段階に分けて行うつもりだったの。だからそのうちの一段階目の発動を前倒ししただけ」

 

それは初耳だ。まあ、そもそも舞たちは海軍の作戦に直接関わることが稀だし、というか海軍内でも認知しているのはごくわずかだし、知らなくて当然と言えば当然なのだ。

 

「一段階目の発動を前倒しにする意味は?」

 

「うーん、何か確かめたいことがあるとか何とか言ってたけど・・・詳しくはわからないわ」

 

そこまだ聞いたことで、舞にも大体の事情が呑み込めてきた。つまり、

 

「私たちには、作戦前倒しによって開いた戦力の穴を、埋めてほしいってことね?」

 

「ご明察」

 

そういうことらしかった。

 

「そういうことなら、答えはノーよ」

 

「・・・まあ、そうよね」

 

イムヤも、この答えは大方予想していたのだろう。

 

当然だ。現状、このZ海域を調査しうる戦力はタウイタウイにしかなく、彼女たちが睨みを利かせていなければ、いつZ海域から深海棲艦が出てしまうかわからない。

 

異形の深海棲艦―――“イレギュラー”と呼ばれる艦艇たちをこの海域の外へ出すことは、危険極まりなかった。その最後の門番が、彼女たち『T・T独立艦隊』なのだから。

 

「第一、私たちが誰かの目に触れることこそ、危険なことで、最も避けるべきことじゃないの?」

 

タウイタウイに所属するBOBは、その全艦が“本来は存在するはずのない”軍艦なのだ。実際に、この世に生を受けることのなかった艦艇たちの、艦娘。明らかに、彼女たちはBOBのイレギュラーであり、衆人のもとに曝すなどもってのほかだ。ただでさえ混沌としたこの世界が、さらなる混乱の渦に巻き込まれかねない。

 

それでも、イムヤは退かなかった。

 

防水バッグの中から、もう一つ、今度は茶封筒を取り出した。こういう時に出てくるのは、大抵が写真だと、舞は心得ている。目で中を見るように促すイムヤに従って、茶封筒の中身を取り出して、広げた地図の上に置く。横から、紀伊も覗き見ていた。

 

「これは・・・」

 

写真に写っていたものは、舞を驚愕させるに十分過ぎる破壊力を持っていた。

 

「トラック諸島沖で撮られたものよ。確か、一月前」

 

撮影したのは、フィリピン・ルソン島に展開する警備偵察艦隊所属の二式大艇だそうだ。同島に展開する警備艦隊は、飛行艇母艦“秋津洲”を擁しており、彼女の隊所属機が、定期的にトラック諸島への接敵を試みているのだという。

 

写真は、航行する艦隊のうち戦艦をズームしたものだ。いくらか処理はしているのだろうが、非常に映りのいい、きれいな写真だ。飛行艇の練度の高さが窺える。ご丁寧にも、写真の右下には撮られた海域の緯経度が記されていた。

 

「これって・・・」

 

紀伊も声を潜める。それを見ているだけのイムヤもまた、険しい表情だ。

 

見覚えのある艦形だ。ただし、海軍が提督全員に配布している艦型識別表には載っていない。舞がその存在を知っているのは、タウイタウイ泊地にのみ存在する、『特殊深海棲艦識別表』に同型の深海棲艦が掲載されているからだ。

 

まず目を引くのは、特徴的な四連装砲塔だ。しかもそれを、“リシュリュー”級よろしく艦前部に集中配置していた。ただし、“リシュリュー”級が背負い式に二基八門なのに対し、写真の戦艦は背負い式の二基のさらに前部に一基を配置しており、まるで“最上”型の前部甲板のようだ。つまり、四連装砲塔が三基、十二門。艦後部は主砲塔よりもはるかに小さい両用砲群で埋め尽くされており、さながらヤマアラシだ。

 

そして何より、その戦艦が他の深海棲艦とは一線を画する存在であることを示す、軍艦色と白銀の迷彩。艦首甲板の黄色い紋章。

 

特異点―――“イレギュラー”と呼ばれる、舞たちが追い求める深海棲艦の一隻だった。コードネームは“コマツグミ”。推定口径一六インチの長砲身砲を四連装三基搭載した、異形の戦艦だ。

 

「どうしてトラック沖にイレギュラーが?」

 

イレギュラーが確認されたのは、BOBと艦娘が出現してから一年後のことだ。当時から危険海域として侵入が禁止されていたZ海域において、奴らは確認されていた。T・T独立艦隊の創設はその頃とほぼ同時であり、Z海域とイレギュラーの調査と共に、同海域でのみ確認される奴らを監視し、封じ込める任を負っていた。

 

創設以来、少なくとも太平洋方面へのイレギュラー侵入は防いでいたはずだ。それとも“コマツグミ”は、ティモール海からオーストラリア大陸を大回りして、トラック艦隊に合流したということだろうか。

 

―――いや、待って。一度、T・T独立艦隊の活動が鈍った時があったわ。

 

それは、今から半年ほど前のことだ。

 

隣の紀伊も、同じことに思い至ったらしい。ばつの悪い顔をしていた。

 

「・・・提督不在の時に、見逃したのね。きっと」

 

半年前、タウイタウイには提督がいなかった。紀伊によれば前任の提督がいたのは間違いない。ただ、舞が半年前に提督として着任するまでの一ヶ月間、タウイタウイには提督が不在だったのだ。その間の指揮は暫定的に紀伊が執っていたが、提督不在の艦娘の活動が衰えるのは仕方のないことであった。

 

その間に、薄くなった警戒線を突破するイレギュラーがいてもおかしくなかった。

 

これまでのイレギュラーとの遭遇率や、紅鶴と白鶴による偵察を元に、舞はZ海域におけるイレギュラーの割合を五パーセントと見積もっている。一月の間にどれだけの深海棲艦が通過したかはわからないが、“コマツグミ”だけとは思えない。

 

「イレギュラーを叩くには、T・T独立艦隊が必要なのよ」

 

イムヤは言った。

 

確かにその通りだ。イレギュラーは、性能が高いのもさることながら、その機動や戦術も普通の深海棲艦とは一線を画する。練度も高い。

 

奴らとの戦闘に慣れた、T・T独立艦隊が有用だ。

 

舞は腕を組み唸った。

 

判断材料が、まだまだ足りない気がした。

 

「・・・作戦発動時期は?」

 

「二ヶ月後―――六月辺りと見積もってるわ」

 

「・・・回答を、もう少し待ってもらえないかな?今は、何とも言えない」

 

「もちろん。秋山中将もそのつもりで、東郷長官には許可をもらったそうよ」

 

「ありがとう」

 

これで少し、時間はできた。

 

「私たちが参加しない場合、どうするつもりなの?」

 

「第一段階で進める作戦を縮小するだけ。艦隊の撃破に全力を挙げるわ」

 

トラックには、強力な機動部隊と戦艦部隊が各一個ずつ展開している。第一段階では、この艦隊を撃破したのち、基地港湾施設への攻撃も試みる。これら施設を破壊することで、トラックにおける深海棲艦の展開能力を大幅に削るのだ。

 

が、T・T独立艦隊が参加しないとすれば、作戦に参加できるのは一個機動部隊が限度らしい。これでは港湾施設を叩くことは難しいので、艦隊撃破に全力を注ぐという。

 

その分、第二段階の投入兵力は大きくする必要がある。また、深海棲艦もさらなる増援をハワイから送るであろう。

 

「どっちにしても、T・T独立艦隊に参加してもらう意義は大きいわ」

 

イムヤはそう言って、話を締めくくった。

 

温くなった湯呑みのお茶を啜る音が、三人分響いた。

 

 

艦艇データファイル05

 

“紅鶴”型航空母艦(改翔鶴型)

 

全長・・・二五七・五メートル

 

全幅・・・二六・〇メートル

 

排水量・・・二万五六七五トン

 

速力・・・三四・二ノット

 

六五口径一〇サンチ連装高角砲八基

 

二〇ミリ四連装機銃十二基

 

常用七十二機、補用十二機

 

日本空母の完成形とも言える翔鶴型の三、四番艦は、艤装等の差異から俗に紅鶴型、あるいは改翔鶴型と呼ばれる。より対空能力の高い長砲身十サンチ高角砲に換装したことにより、総合的な対空能力は前期二隻よりも向上している。この他、竣工時から後の大型艦載機に備えた装備類(カタパルトや着艦制動索)を持っており、特に改装を必要とせず、それらの機体を運用することが可能だ。

 

紅鶴

 

翔鶴型三番艦(紅鶴型一番艦)。容姿は翔鶴に非常によく似ているが、毛先に赤のグラデーションが入っている。姉二人に対する強い憧れがある一方、白鶴の姉として気丈に振る舞う。そのためか、性格も非常に落ち着いて、物静かである。

 

白鶴

 

翔鶴型四番艦(紅鶴型二番艦)。容姿は瑞鶴に非常によく似ているが、毛先に銀のグラデーションが入っている。二人の姉に会いたいとは思うものの、今は紅鶴を大切にしたいと考えている。紫電改よりも零戦が好きで、こっそり積んでいる。




T・T独立艦隊の戦力が少ない気がするのよね・・・

駆逐艦とか六隻しかいないし・・・

でも、これ以上増やすことはできないのよね・・・

ロリコンじゃないけど、駆逐艦もっといてもいい気がする・・・
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