T・T独立艦隊海戦譜   作:瑞穂国

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どうもです

今回は、本編短めの代わりに兵器紹介を一度に二つ行っております

その分、次回はのびのびと航空戦を書かせてもらえればと


双鶴の饗宴

甲板に並べられた艦載機は、野太い発動機の音を響かせている。風上へと驀進する空母の甲板には、前縁から流れてくる白い水蒸気が一本たなびいており、正しく風に艦首を向けていることを示していた。

 

暖機を終えた自らの艦載機隊をチラリと横目で見遣って、白鶴は自信ありげに頷いた。すでに攻撃隊の準備は整っており、遮風柵を下げてチョークを外せば、艦載機は本領とする大空へと駆けていくだろう。その指示となる弓を放つタイミングを、白鶴は自らの右舷を進む姉から図るべく、じっとその艦橋を見つめていた。

 

“白鶴”含めた機動部隊は、現在セレベス海を南東に進んでいる。第七次深海棲艦調査の準備が整ったことによる出撃だった。

 

編成は、旗艦“紅鶴”、“白鶴”、“鞍馬”、“九頭龍”、“早風”、“綾風”。そしてその前衛として、火力部隊の“紀伊”、“奥入瀬”、“龍風”、“霜風”が配置されている。舞はそのうちの“紀伊”に乗り込んでいた。

 

“紅鶴”と“白鶴”から放った“瑞山”が敵艦隊を捉えたのは三十分前。戦艦二、空母一を含む艦隊だ。これに向かわせる攻撃隊の準備を、二人は急いでいた。こちらの艦隊は、まだ敵の触接を受けていない。先手を撃つ絶好の機会だ。

 

その時を今か今かと待ちわびていた白鶴は、“紅鶴”のマストにはためくものを見て、弓を持つ手に力を込めた。

 

「よし!」

 

マストに掲げられたのは、「攻撃隊発艦始め」を示す旗だ。

 

艦橋を振り向き、こちらを窺っている妖精に、手振りで「遮風柵下ろせ」を指示する。艦橋にいない今は精神同調ができないため、艦の運行に関わることは全て妖精に頼まなければならない。BOBにとっても、攻撃隊の発艦作業はもっとも危険を伴う作業なのだ。

 

攻撃隊の前面で風を遮っていた柵が下ろされ、妖精がチョークに取り付く。いつ見ても、どうして飛ばされないのか、不思議な光景だった。

 

発艦指揮所に立つ白鶴は、風上に向けて矢を番えた。きりきりと引き絞られる弦。その先を見ながら、横目で姉の様子を窺った。

 

“紅鶴”に動きがあった。遮風柵のすぐ後ろに位置取っていた一番機の“紫電”改が、スルスルと前に進みだし、やがて大きな力に引っ張られるようにして甲板の前縁を蹴った。重量の大きな機体は重力に引かれて降下し、あわや海面にぶつかるかと錯覚するが、強力な発動機がペラを回すことで翼に生まれた揚力が、しっかりとその機体を持ち上げた。

 

“紅鶴”の攻撃隊が発艦を始めた。

 

「第一次攻撃隊、発艦始め!」

 

それに倣うようにして、白鶴も自らの艦載機に発艦を命じる。その声が終わらないうちに弦を開放し、張力が伝わって細い矢を艦の前方へと放った。それを合図に、カタパルトに設置された先頭の“紫電”改が加速を始め、“紅鶴”機と同じように大空へと翔け出していった。

 

発艦作業は続く。一番機に続いて、二番機、三番機。それが終われば、今度は“瑞山”、そして“天山”。

 

カタパルトのおかげで、その作業は早い。ものの十分で終わる発艦作業を見送って、白鶴は艦橋へと戻った。

 

すぐに所定の位置に着き、精神同調。舵を預かってもらっていた妖精が、すぐに返してくれた。

 

『各艦、対空警戒を厳となせ』

 

すぐに、紅鶴の声が通信機より聞こえた。この艦隊を率いるのは彼女だ。

 

「紅鶴姉、第二次攻撃隊は?」

 

無線風刺が解かれているのをいいことに、白鶴は紅鶴に尋ねる。もし第二次攻撃隊を出すなら、早めに準備しなければならない。

 

『もう、白鶴。忘れたの?今回は戦闘機を多めに積んでるから、攻撃機は第一次で全部よ』

 

「・・・そうでした」

 

我ながら間抜けだ。自分の搭載機のことを忘れる艦娘って、果たしてどうなんだそれ。

 

『第二次は出さず、火力部隊で“イレギュラー”の鹵獲を試みる。それを援護するのが、私たちの役割よ』

 

「はーい」

 

何かつまんないな、と思ったことは、黙っておこう。

 

攻撃隊は編隊を作り、間もなく進撃を開始しようとしている。全部で七十八機。内訳は、“紫電”改二十四機、“瑞山”二十四機、“天山”三十機。

 

攻撃隊を出してしまうと、もうやることはなくなってしまう。機体の操作は搭乗員妖精がやっているから、白鶴は母艦の操作に集中するだけだ。空母艦娘ゆえ仕方のないこととはいえ、暇を持て余すのが好きでない白鶴にとっては、これが本当に退屈だった。

 

とりあえず、左右両舷の対空砲座の動きを確認する。操作自体は白鶴ができるが、手動装填の部分は妖精にやってもらうしかない。滑らかな動きを確認し終わると、後は本当にやることがなくなってしまった。

 

「あーもう!暇あーっ!」

 

攻撃隊が進発を始めるころ、通信機を完全に切って艦橋で叫ぶ白鶴に、妖精たちは苦笑を浮かべるのだった。

 

 

「第一次攻撃隊、進発したそうです」

 

戦闘時の服装にキャストオフしている紀伊が、隣に立つ舞に報告する。今日も今日とて、舞は第一種軍装に、不釣り合いなキャップ帽を被っている。キャップ帽は旧自衛隊のもので、前面に大きく『184』と『かが』と書かれている。お土産物だろうか。

 

「了解。こっちはどう?」

 

「敵艦隊との距離は五十海里。接敵まで一時間です」

 

「結構近かったね」

 

「元々、それを狙ってますから」

 

火力部隊の役割は、非常に難しいものとなっている。なぜなら、機動部隊の攻撃の後、目視で敵艦隊を確認し、“イレギュラー”が存在すれば、その鹵獲を目指すのだから。

 

そんなもの、できるはずがないのである。元々鹵獲という方法自体が、ありとあらゆる好条件が重ならなければ取りえないものなのだ。一撃で仕留めるのは簡単だ。だが、寸止めというのは、よほど腕がよくなければ不可能である。その辺りは、生身の人間も兵器も変わらない。いやむしろ、兵器は敵を葬ることを前提としているため、さらに難易度は上と言えた。

 

奇跡を人為的に起こせというようなものである。それでも、過去七回の調査で、五回“イレギュラー”と接敵し、二回鹵獲と調査に成功しているのだから、褒めてもらうには十分すぎる成果と言えた。

 

「まあ、奇跡は起こすもの、なんて言葉もあるしね」

 

「?何の話ですか?」

 

「ううん、こっちの話」

 

舞の言葉に、紀伊が首を傾げる。が、特に気にした風もなく、再び前を見つめた。

 

巨大な“紀伊”の前には、いっそ小柄に見える“奥入瀬”が先行する。それを挟むようにして、二隻の島風型駆逐艦が展開していた。対潜警戒を行いつつ、いざ敵艦隊と接敵となった時は、邪魔な駆逐艦や巡洋艦を打ち払い、“紀伊”の道を開くためだ。

 

「そろそろ、増速しますね」

 

「うん、よろしく」

 

“紀伊”の機関が唸る。極太の煙突からは濛々と黒煙が立ち上り、三百メートル近い艦体が前へ押し出される。“紀伊”が発揮しうる最大速力、二七ノットに合わせて、火力部隊は前進を始めた。

 

触接中の“瑞山”からは、敵艦隊の情報が逐一知らされてくる。敵艦隊は、戦艦二、軽母一、駆逐三の小規模な艦隊だ。だが戦艦二隻を有しており、油断はできない。しかも、うち一隻は、軍艦色に白銀の迷彩が特徴的な深海棲艦、舞たちが探す“イレギュラー”であることがわかっていた。

 

過去の索敵からアタリをつけて出撃したが、今回もそれが図に乗ったらしい。“瑞山”の妖精が言うには、一六インチ連装砲を前部に二基、後部に三基搭載しているとのことだ。艦型識別表によれば、コードネームは“カガミサキ”、あるいは“アマギゴエ”と思われる。両方とも、この周辺で確認例がある“イレギュラー”だ。

 

と、ここまで“イレギュラー”の方ばかり問題にしてきたが、実はもう一隻の戦艦も厄介だった。レ級と呼称されるかの深海棲艦は、何をとち狂ったのか、戦艦の砲戦能力に空母の艦載機運用能力を持つ異色の軍艦だった。艦前部に一六インチ三連装砲塔が二基、煙突から後ろは斜めに張り出した航空機発着艦用の飛行甲板だ。

 

“紅鶴”率いる機動部隊には、すでにレ級を集中的に狙うよう指示を出している。いかに“紀伊”が強力な戦艦とは言っても、一六インチ砲艦二隻を同時に相手取れば、それ相応の被害を覚悟する必要がある。修復のために入渠すれば、出渠までには半月か、長いと一月が掛かってしまう。

 

機動部隊と火力部隊。両艦隊の連携こそが、作戦成功のカギだ。

 

その、一番槍となるべき攻撃隊の羽音が、“紀伊”の後方から聞こえてきた。機関の轟々たる音にも負けない力強い音だ。発動機が高速で回すペラは、火力部隊の上空を覆わんばかりに、風を切る美しき旋律を奏でていた。

 

―――頼むよ、妖精さん。

 

上空を通過していく七十余機の攻撃隊。爆音が木霊する海域を、“紀伊”は進んでいた。雲一つない晴天の空に映える銀翼を、舞は双眼鏡を覗き込んで見守る。紅鶴と白鶴が鍛え上げた妖精たちだ。必ずや、戦果を挙げてくれることだろう。

 

接敵まで後一時間。これから始まる序曲を、舞はじっと待ち続けた。

 

攻撃隊から「突撃体勢作レ」の通信が届いたのは、それからすぐのことだった。

 

 

艦艇データファイル06

 

“栗駒”型重巡洋艦

 

全長・・・一九二・二メートル

 

全幅・・・一七・八メートル

 

排水量・・・九二〇〇トン

 

速力・・・三六・五ノット

 

五〇口径二〇・三サンチ連装砲四基

 

五〇口径一二・七サンチ連装高角砲四基

 

二五ミリ単装機銃十四基

 

一三ミリ連装機銃二基

 

八八艦隊の成立に当たって、海軍を悩ませたのは、戦艦群を支える補助艦艇の建造であった。少ない予算で大量の艦を建造するため、新造艦艇の簡略化と同規格化が進んだ。その結果生まれたのが、栗駒型重巡洋艦である。「砲雷分離思想」によって雷装を廃した本級は、奥入瀬型軽巡洋艦と同規格の艦体を使うことにより、量産性と整備性が格段に上がった。半面、砲力では同時期の米重巡を圧倒するには至らず、あくまで戦艦の補助艦艇という位置付けとなった。

 

栗駒

 

栗駒型一番艦。長い黒髪を一本にまとめ、黒の学生服に身を包む。口調がさばさばしているのと合わさり、男顔負けの男らしさのようなものをまとう。性格は、武士道を地で行くような、はっきりとしたもので、仲間のためなら自らの身を顧みない。イメージはいぶし銀。

 

 

兵器カタログ01

 

艦上爆撃機“瑞山”

 

全長・・・九・三八メートル

 

全幅・・・一三・九二メートル

 

重量・・・三八〇〇キログラム

 

速度・・・四八五キロメートル毎秒

 

二〇ミリ機銃二挺

 

七・七ミリ機銃一挺

 

二五番二発、又は五〇番一発(又は魚雷一発)

 

本機は、水上偵察爆撃機“瑞雲”の艦上機型であり、基機譲りのバランスのいい性能を誇る。戦闘機並みの運動性能があり、軽装ならば防空戦闘も可能としていた。本機の名称が爆撃機にもかかわらず「山」となったエピソードは、慣例に縛られない深津大悟中将(当時航空本部長)の武勇伝としても有名である。




大和撫子紫電改における深津中将のエピソードには事欠きませんねえ

まだ馬力の弱い航空機で丸太釣ったり、二式大艇でライトニング落としたり

次回は、航空戦になります

ちなみに、イレギュラーがイレギュラー過ぎるせいで、レ級があまり強くないっていう事態が起こります
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