今回は、完全に航空機のみの話になりました。艦娘が微塵も登場しません
それでいいのか、まあいいか
機動部隊から飛び立った攻撃隊は、ついに目標を捉えた。
索敵のために放った“瑞山”が、広大な海原に見つけたのは、戦艦二、空母一、駆逐三を擁する機動部隊だった。それから接敵を続けていた“瑞山”の誘導に従って、ここまでたどり着いたのだ。
隊長機から「突撃体勢作レ」―――「トツレ」が発せられる。攻撃隊はさらに編隊の間隔を詰め、直掩隊を残した戦闘機隊は、艦隊上空の制空権を奪取するべく、高度を上げて先行していった。彼らの開けた穴から、攻撃隊が突入して、爆弾や魚雷を投じるのだ。
もとが局地戦闘機だけあって、“紫電”改の上昇速度は速い。高度四千を進んでいる攻撃隊から分離した制空隊は、瞬く間に五千へ上りつめ、にわかに慌ただしくなり始めた敵艦隊上空へと突撃していった。
二二〇〇馬力という驚異的な力を発揮可能な「木星」発動機は、その轟音を響かせて“紫電”改を加速させる。自動空戦フラップや強固な防弾構造の採用による重量増加などものともしない韋駄天で、まだ防空体制の整わない敵艦戦隊へと、“紫電”改は次々に翼を翻していった。
航空戦において優位となる高度を取っていたのは“紫電”改の方だ。各々に狙いを付けたジュラルミンの猛禽は、地球の重力に引かれるまま、真っ逆さまに敵艦載機へと突っ込んでいく。力任せの一航過は、一時に十三機もの敵機を火達磨に変えていた。
下方へと猛スピードで抜けた“紫電”改は、小編隊を崩すことなく格闘戦へともつれ込む。ここで役立つのは自動空戦フラップの存在だ。重戦闘機とは思えない鋭い半径で回り込んだ“紫電”改は、あたふたとするしかない敵戦闘機をいとも容易く撃墜する。鏃のような形の、UFOを思わせる深海棲艦の艦載機が、次々と落とされていった。
それでも、数は深海棲艦の方が多い。敵戦闘機を圧倒するまでいかない“紫電”改だが、優勢であるのは事実だ。そこで何とかして、敵戦闘機を艦隊上空から引き剥がそうとする。突入する爆撃機や攻撃機にとって、最大の脅威は戦闘機なのだから。
じりじりと、まるで綱引きの駆け引きのように“紫電”改と深海棲艦の戦闘機が争う。お互いがお互いを牽制し、隙あらば機銃のシャワーを浴びせかける。しかし、以降は火を噴く機体が稀になってきた。
そんな中、いよいよ攻撃隊が敵艦隊へと突入し始める。直掩隊の“紫電”改も攻撃隊から離れ、加速した。それに続くようにして、“瑞山”艦爆隊が急上昇、“天山”艦攻隊は逆に超低高度へ降りて散開する。
先に突っ込むのは“瑞山”隊だ。これの錬成は、主に紅鶴が担当している。急降下爆撃による精密爆撃を主任務とし、艦攻隊の突入に先駆けて、敵の輪形陣外縁部を的確に叩くのだ。
輪形陣の外郭を構成するのは、大抵が小型快速の駆逐艦か軽巡洋艦だ。これを叩くには、正確無比な照準が要求された。
先陣を切る分、敵艦隊からの対空砲火も厚い。損害覚悟の突撃だ。
もっとも、ただ我武者羅に突っ込むつもりはない。いつでも先手は打っておくものだ。
敵艦隊外縁を固める三隻の駆逐艦の艦上に、多数の火花が散る。先に攻撃隊より分離した“紫電”改が、“瑞山”に先駆けて敵駆逐艦に突撃し、機銃掃射を掛けたのだ。
これが実に利いた。攻撃隊に張り付いていた直掩隊の“紫電”改は、通常型とは違ってより大口径の三〇ミリ機銃を積んでいた。装弾数は少なく、対戦闘機には向かないが、甲板を更地にするには十分だ。
一連射であったが、艦橋とマスト周辺を狙った機銃掃射は、その辺りに集中していたレーダーや射撃管制装置、何基かの機銃をスクラップに変えた。それだけで、“瑞山”隊には十分だった。
八機づつに分かれた“瑞山”が、一本槍となって三隻の駆逐艦に襲い掛かる。開かれたダイブブレーキの甲高い音が引き摺られ、空気が振動した。
対空砲火が飛んでくるが、射撃指揮装置を欠いた射撃など、目隠しをして矢で鳥を射るようなものだ。あてずっぽうの方向で花開く高角砲弾など、怖くもなんともない。
十分に引き付けて、機体から爆弾が切り離される。誘導索によってペラの回転半径外から切り離された五百キロの爆弾は、風切り音を引き連れて降下していく。それを確認して、先頭機から順に引き起こしを掛けた。
連続した弾着の水柱と、爆弾が炸裂する光。おどろおどろしい轟音が響き渡り、三隻の駆逐艦が爆ぜた。一隻が瞬時に轟沈し、残りの二隻も被害甚大で行き足を止めてしまった。投下爆弾二十四発中命中八発。駆逐艦への戦果としてはまずまずだ。
対空砲火に穴が開いた。その時を虎視眈々と待っていたのは、他でもない、海面をまるで這うようにして敵艦隊へ接近していた、“天山”攻撃隊三十機だ。こちらを鍛えたのは、白鶴だ。対空砲火を避けるため、海面すれすれを飛ぶ攻撃方法。魚雷の必中距離まで、接近できるだけの練度。
狙うのは、十機が空母ヲ級、二十機が戦艦レ級だ。共にeliteであるから、防御も対空砲火も厚い。だが片舷から集中的に投雷できれば、大損害を与えることはできる。
ただし、この方法を成功させるためには、より近く―――回避運動が困難なほどの至近距離へ、接近する必要があった。一千では足りないと、隊長機は睨んでいる。
ペラや翼端が海面を叩くほどの低空で“天山”隊は進んでいく。後ろに投げつけられた空気が海面を波立たせ、飛沫を散らして白い一本の線になる。それが、合計で三十本。
駆逐艦を攻撃した直掩隊の“紫電”改が、レ級とヲ級にも襲い掛かる。艦橋や舷側で次々と火花が上がり、その度に脆弱な部分が千切れて弾け飛んだ。弾薬に引火したのか、小さな爆発と共に上に吹き飛ぶ機銃座もあった。
爆弾を投下し終えた“瑞山”も、機銃掃射に加わり始めた。二〇ミリ機銃が雨霰と降り注ぎ、甲板を抉って対空砲をひしゃげさせる。
レ級が猛り狂ったように機銃を撃ち、やたらめったら両用砲を放つが、身軽な戦闘機と爆撃機は、これをひらりひらりと躱していた。青白い曳光弾の筋は、虚しく空を切るだけだ。
敵艦隊右舷から、三十機の“天山”が迫る。四翔プロペラが生み出した推力は、魚雷という重量物を抱えていてもなお、“天山”を前へ前へと推し進める。
レ級とヲ級の両用砲群が、一斉に火を噴いた。それまで“紫電”改を追い払おうとしていた箱型の砲塔から、今度は“天山”に向けて、横殴りの暴風雨が吹き荒れる。ただ、狙いは粗い。“紫電”改と“瑞山”の機銃掃射は、奴らの射撃指揮装置をいくらか封じ込めることに成功したらしい。
それでも、距離が近づけば精度は上がってくるし、そもそも密度が駆逐艦とは比べ物にならない。片舷だけで単装四基四門を指向できるヲ級、レ級に至っては連装六基十二門だ。まるで鋼鉄の壁がそそり立つような両用砲弾の嵐が、横に広がって低空を飛び続ける“天山”隊を包み込む。
飛び散った断片に捉えられた“天山”が、ズタズタになって落ちていく。
爆風に煽られ、海面に激突する機体もある。
運悪くエンジンカウルに両用砲弾が直撃した機体は、痕跡一つ残さず四散した。
だが、残った機体は、そのまま接近を続ける。
この時点で、敵艦までの距離は二千五百。隊長機は、八百での投雷を指示した。
“天山”隊はさらに距離を詰める。両用砲弾の爆風に煽られ、断片の雨が降り注いでも、コースを逸らすことなくただひたすらに海面の真上を進む。
その様は、さながら群れて海面を翔るトビウオのようだ。ゆらめく波間に不似合いなほどの、均一的なフォルム。三機を失っても、なお残った二十七機が横陣を敷き、狙いを付けた二隻の大型深海棲艦へ必殺の魚雷を叩き込まんとしていた。
灼熱の礫のような両用砲弾が超音速で飛翔し、調整された時間で炸裂して真っ黒い花を咲かせる。断片が四方八方に飛び散り、機体に当たると不気味な異音を発した。
距離二千を切ると同時に、二機の“天山”が火を噴いた。砕けて、引き裂かれた機体の破片が飛沫を上げる。
対空砲火が、両用砲から機銃に変わった。青白い曳光弾が、シャワーのように降り注ぐ。
ただし、弾幕は先の両用砲の時よりもさらに薄い。“紫電”改と“瑞山”による事前の機銃掃射は、随分と利いていたらしい。航空機にとって機銃が脅威であるように、機銃座にとっても機銃は脅威なのだ。
“天山”の高度はさらに低くなる。機銃の俯角から逃れるためだ。
残った“天山”の上には、機銃弾の絨毯が広がっていた。そこに突っ込んでは、以下に弾幕が薄いと言えども、薄皮の“天山”の機体では、ボロボロのボロ雑巾のようになるのが関の山だ。
隊長機が、さらに間隔を詰めるよう指示をする。
距離は、ついに一千を切ろうとしていた。
操作を誤った“天山”が一機、機銃に絡め取られた。
エンジンカウルが被弾し、ペラを叩き折られた“天山”が、推力を失って波間に突っ込む。
これで、残りは二十三機。レ級に十六機、ヲ級に七機だ。
ここまで来ると、もう一種の根競べである。お互いの存在を賭けた、究極の我慢比べ。
九百。
脱落する機体はない。対空砲火を掻い潜った二十三機は、まるで甲斐の武田信玄が用いた鶴翼の陣のような隊形で、二隻の深海棲艦を押し包もうとする。対するレ級とヲ級も、盛んに機銃を撃つ。なんとしても、“天山”を落とすために。
八百。
その時は来た。残った機体が、隊長機に合わせて魚雷を投下する。魚雷という重量物を手放したことで軽くなった機体が、ふわりと浮き上がろうとする。全機がそれを必死に抑え、機銃の豪雨の下を進む。ここで浮き上がれば、それはすなわち撃墜を意味するのだから。
二十三機の“天山”の後ろからは、それぞれが放った魚雷の白い航跡が追随する。
低空飛行を続けていた“天山”は、敵艦の二百手前で機体を上げる。全機がレ級とヲ級の艦上をフライパスした。
その後方から、魚雷が迫る。計二十三本。航空機から放たれる人口の長槍は、海中を疾走して深海棲艦の横腹を狙う。回避運動を行っても、必ず一発は当たる射線、しかも距離八百からの投雷だ。避けられる道理がなかった。
白い巨塔が、二隻の右舷にそびえ立つ。連続した魚雷の炸裂と、圧倒的な瀑布。船にとって恐怖の象徴と言える魚型水雷の群れは、容赦なく深海棲艦のどてっ腹に食いつき、喰い破った。その度に浸水が起こり、艦を傾ける。
最終的な命中弾数は、ヲ級に三発、レ級に六発。両艦とも、撃沈確実と言えた。
攻撃隊全体を指揮する“天山”隊長機から、この情報は機動部隊、そして火力部隊に伝えられた。
残存機が追いすがる敵機から逃れ、編隊を再度組んで帰投しようとした時。
その爆発的な光は、水平線で沸き起こった。その後に立ち上る、褐色の煙。敵艦隊を捉えた“紀伊”以下の火力部隊が、残った敵艦―――“イレギュラー”に向けて発砲した瞬間だった。
◇
艦艇データファイル07
“奥入瀬”型軽巡洋艦
全長・・・一九二・二メートル
全幅・・・一七・八メートル
排水量・・・九二〇〇トン
速力・・・三六・五ノット
六〇口径一五・五サンチ三連装砲四基
五〇口径一二・七サンチ連装高角砲四基
二五ミリ単装機銃十四基
一三ミリ連装機銃二基
奥入瀬型は栗駒型の準同型艦と言える軽巡洋艦で、二〇・三サンチ連装砲とほぼ同規格の一五・五サンチ三連装砲に主砲を換装している以外は、特に差異は存在しない。それまでの海軍の軽巡洋艦―――五五〇〇トン級と違い、本級には魚雷発射管が搭載されておらず、砲戦に主眼を置いた軽巡洋艦となっている。「砲雷分離思想」の「砲」を担当する本級の真価は、「雷」を担当する重雷装巡洋艦と組み合わされることによって発揮される。
奥入瀬
奥入瀬型一番艦。明るい茶髪のポニーテール。性格は快活明朗、そして面倒見もよい。大らかというより無頓着な栗駒や、駆逐艦を焚き付けてばかりの九頭龍に代わり、タウイタウイ水雷戦隊の指揮を執る。もっとも、性能的に島風型には追いつけないので、戦闘時は支援に徹し、実質的な指揮は龍風に任せている。実は煎餅派。
“紫電”改の性能は、「大和撫子紫電改」準拠としているので、実機とはかなり差異があります
三〇ミリを搭載した「強攻型」は、本来は重爆を叩くものですが・・・
ミッドウェー戦にも参加してたし、対艦攻撃もできるよ、きっと!
そういえば、対艦戦闘機“暁”なるものも、どこかにありましたね・・・