T・T独立艦隊海戦譜   作:瑞穂国

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どうもです。こっちも、そろそろ動かしていかないと

タイトルの通り、紀伊が砲撃戦を行うのですが、まだまだ本気ではありません

紀伊の本気にふさわしい相手は、もっと他にいます


巨砲咆哮す

機動部隊の攻撃隊から戦果が届いた時点で、“紀伊”から発艦した“瑞雲”艦上偵察爆撃機は、水平線の向こうの敵艦隊―――否、残った“イレギュラー”一隻を捉えていた。そこから送られてくる諸元を仮入力した紀伊は、その姿が水平線上に出現するのをじっと待っていた。一瞬でも姿が見えれば、その時点で射撃諸元が完成する。

 

「紀伊?」

 

「わかってます。頃合いを見て、対話を」

 

「うん。よろしく」

 

さあ、ここからが難しい任務だ。

 

“イレギュラー”の調査―――具体的には、鹵獲が目的の戦闘だ。これほど難しいものもない。

 

敵艦から戦闘能力を奪ったうえで、沈めてはならないなど。戦闘艦の意味を問われそうだ。それでも、やらなければならない。

 

彼女たちと“対話”するために。

 

「っ!敵艦見ゆ!」

 

艦橋頂部、海面から五十メートルはあろうかという位置に据えられた“紀伊”の測距儀が、水平線上に突き出る敵艦のマストの先端を捉えた。目のいい観測妖精には、それだけで十分だった。

 

「諸元修正よし。砲戦準備完了」

 

指示を。目で促す紀伊に頷き、舞は居住まいを正した。

 

「砲戦始めっ!」

 

甲高いブザー音が艦上に鳴り響く。甲板からは、すでに全ての妖精が艦内へと退避していた。“紀伊”の砲撃時に走り抜ける衝撃波は、もろに受けるには危険すぎる。

 

「撃ーっ!」

 

紀伊が号令する。一拍を置いて、左舷へと指向していた“紀伊”の主砲が、第一射を放った。

 

百雷などと、生易しいものではない。世界から一瞬のうちにあらゆる音が消え去り、砲口から生じた特大の砲炎が、視界を真っ白に染める。等速度的に広がった衝撃波は海面を容赦なく叩き、クレーターを形作った。五一サンチ砲を扱うために取られた四〇メートルの横幅も、その衝撃を完全に吸収することはできない。

 

“紀伊”に三基搭載されている五一サンチ三連装砲は、最初から全門斉射だった。普通は各砲塔一門ずつの交互撃ち方を経て斉射へと移行するのだが、紀伊はあえてそれを省いた。これには明確な理由がある。

 

上空で弾着観測を行う“瑞雲”には、“紀伊”艦上では観測することのできない気象情報を計測するための機器が搭載されている。砲弾が高空域を通過する際に受ける気圧や風速の影響を、この機器を用いて計測し、射撃諸元に組み込むことができた。

 

高高度気象観測射撃。紀伊はそう呼んでいる。現在このシステムを用いた弾着観測射撃を満足に行えるのは、“紀伊”のみだ。

 

艦上で観測できない情報を加えることができるので、射撃精度は格段に向上する。これまでの訓練では、第一射から命中弾を得る確率が五十パーセント、夾叉は八十パーセントだ。弾着修正の必要がほとんどない。

 

“紀伊”の発砲に、“イレギュラー”―――コードネーム“アマギゴエ”も気づいた。慌てて射撃諸元の算出をしているようだが、三万五千の距離で砲戦を始めた“紀伊”に対し、その砲弾が届くことはない。

 

“アマギゴエ”の搭載する一六インチ砲の射程距離は、最大でも三万五千。最大射程で放たれる砲弾が命中する道理はなかった。

 

“紀伊”の第一射が落下するまでは、九十秒近い時間がかかる。音速の二倍で撃ち出された砲弾は、その運動エネルギーを位置エネルギーへと変換しながら、物凄い速さで放物線を登っていく。その高さは、富士山をゆうに超えた。

 

「相変わらず、時間かかるねえ」

 

「待つしかありませんね」

 

舞も紀伊ものん気なものだ。

 

『提督、先行します』

 

「うん、よろしく。決着するまでは適度に距離を保って」

 

『了解です』

 

“紀伊”に付き従っていた“奥入瀬”以下三隻が、速力を上げて離れていく。水平線の先、正に今、“紀伊”が撃ち合っている“アマギゴエ”に接近するためだ。

 

「弾着、今!」

 

紀伊の声と同時に、水平線の向こうで水柱が上がるのが見えた。もっとも、特大の高さがある五一サンチ砲弾の噴き上げる水柱の、その先端部分ぐらいしか見えないが。

 

観測機から報告された命中弾は二発。初弾から敵艦をしっかり捉えている。

 

五一サンチ砲弾の威力は絶大だ。一歩間違えば、例え“イレギュラー”と言えども瞬時に轟沈してしまう。的確に弾着の成果を見ながら、射撃を続けるしかない。そのためには、多少間延びした射撃となるのも致し方なかった。

 

本来の斉射間隔の二倍以上の時間をかけて、“紀伊”の第二射が放たれる。同じ頃、“アマギゴエ”から交互撃ち方の第二射が放たれた。

 

お互いの砲弾は、遥かの高空で交錯し、それぞれの目標へと落下していく。

 

「弾着、今!」

 

“紀伊”の第二射が落下する。今度の命中弾は一発。敵艦はかなりの打撃を受けているみたいだが、頑強な“イレギュラー”らしく、この程度では沈黙しない。

 

と、その時。舞も紀伊も、異様な音が迫ってくることに気付いた。反射的に頭上を―――敵艦の第二射が降ってくる方を見た。

 

弾着の水柱が上がる。三本、そして残りの二発は、“紀伊”の前甲板に火柱を上げた。八万トンを超える“紀伊”は、その程度ではびくともしないが、それでも衝撃が襲って艦体を揺らした。

 

とっさに艦橋のへりに掴まって衝撃をやり過ごした舞は、水平線の向こうにいる敵艦を睨んだ。

 

「・・・さすがは、“イレギュラー”、ってとこね」

 

恐ろしい練度だ。主砲の最大射程距離ギリギリで撃っているのに、たった二射で命中弾を得るなど、並大抵の艦では不可能だ。

 

これが“イレギュラー”。凶悪な深海棲艦。

 

“紀伊”の第三斉射が砲声を上げる。横方向への動揺の中で艦橋の窓がビリビリと打ち震える。圧倒的なまでの砲戦火力。それなのに、言いようのない恐ろしさを、舞は感じていた。

 

“紀伊”の防弾装甲は、対五一サンチを想定しており、その厚さもかなりのものだ。そう易々と貫通される代物ではない。しかしこの距離で飛んでくる砲弾というのは、空気抵抗でエネルギーが消費されているとはいえ、ほぼ真上から降ってくる。その威力は馬鹿にならない。

 

それに、いかに堅牢な“紀伊”といえども、艦首や艦尾には非装甲区画がある。もしそこに、真上から砲弾が飛び込めば、艦の奥深くで炸裂して甚大な被害を及ぼすかもしれない。

 

「大丈夫です、提督。“紀伊”は沈みません」

 

舞の心配を悟ったのか、紀伊は静かに立っている。自信に溢れたその姿に微笑む。

 

「その点に関しては、全然心配してないよ」

 

紀伊は頷く。

 

“紀伊”の第三斉射が落下した。およそ二千キログラムもある砲弾が九発、“アマギゴエ”を包み込み、命中弾炸裂の光と炎を巻き起こす。甲板をいとも容易く喰い破った徹甲弾が、その破壊力を十分に発揮して、艦内をズタズタにする。機関部に被害が出たのか、“アマギゴエ”の速力がみるみるうちに下がっていった。

 

入れ替わりに、“アマギゴエ”の第一斉射が轟音を引きずって落下する。斉射間隔は三十秒。つまり“紀伊”が“アマギゴエ”の被害を見ながら斉射をする間に、およそ三回の斉射を繰り出す。

 

命中弾は二発。二発ともバイタルパートに命中したため、戦闘航行に支障はなかったが、高角砲群に飛び込んだ一発が、二基の一二・七サンチ連装高角砲を吹き飛ばし、更地に変えた。

 

“紀伊”が第四斉射を放った後には、“アマギゴエ”の第二斉射が降り注ぐ。今度は一発。二番砲塔の正面防盾で火花が散り、弾かれた砲弾が一拍後に炸裂する。

 

三十秒後には、第三斉射が襲い掛かってきた。損害を確認しながらのこちらと違い、向こうは遠慮会釈のない砲撃を繰り出す。二発が命中弾となり、うち一発は後部の航空作業甲板を貫いて盛大に爆ぜた。後方から衝撃が襲い来る。

 

しかし入れ替わるようにして、“紀伊”の第四斉射も“アマギゴエ”を捉えた。今度も命中弾は二発。巨大な爆炎が水柱の合間に噴き上がり、頑強な“アマギゴエ”の甲板を焼く。否、すでに行き足はほとんど止まり、艦後部がどす黒い煙で覆われていた。

 

それ以降、“アマギゴエ”が新たに発砲することはない。“紀伊”の五一サンチ砲弾は、わずかに四度の斉射で“イレギュラー”を沈黙させた。後は、細心の注意を払い、鹵獲を試みる。

 

“アマギゴエ”が最後に放った斉射弾が、“紀伊”の周囲に落下する。が、速力が落ちたことによる相対速度の誤差を見誤ったらしく、その砲弾は全てが“紀伊”の前に弾着して巨大な水柱を屹立させる。もろに艦首を突っ込んだ“紀伊”の前甲板に、局所的な大雨がバラバラと降り注いだ。

 

「“イレギュラー”沈黙。沈没はしていないみたいです」

 

「了解。奥入瀬、“彼女”に呼びかけつつ、消火活動をお願い。できるなら対話がしたい」

 

『やってみます』

 

さあ、本当の正念場はここからだ。

 

砲身を下げた“紀伊”の三連装砲塔が、再び正面を向いて固定される。「敵艦を撃沈せず無力化する」という困難というよりも無理難題と言った方がいい任務をひとまずやり終えたことに安堵して、額の汗を拭った。

 

この先はどうなるかわからない。誇り高き“彼女”は、こちらとの接触を良しとせず、自沈する道を選ぶかもしれない。だが“彼女”は、人間の及ばないほど理性的だ。舞としては、その“彼女”の理性を信じる他なかった。

 

“紀伊”が取舵を切る。ゆっくりと艦首が振られ、今しがた砲火を交えたばかりの“アマギゴエ”へと向かっていく。

 

“紀伊”の前方で“アマギゴエ”への接近を続ける“奥入瀬”以下の三隻に対して、砲弾が降り注ぐことはない。逆にしばらくした頃、辛うじて残っていた両用砲の類が、その方針に俯角をかけた。交戦の意思がないことを示している。ちなみに、五基あった主砲塔は、その全てが爆砕、または擱座していることが、上空から観測している“瑞雲”から知らされた。

 

『“イレギュラー”より返信ありました。乗艦を許可するとのことです』

 

奥入瀬からの報告に、舞と紀伊は顔を見合わせる。

 

深海棲艦という存在の探求が、始まろうとしていた。

 

 

艦艇データファイル08

 

“島風”型駆逐艦

 

全長・・・一二九・五メートル

 

全幅・・・一一・二メートル

 

排水量・・・二五六七トン

 

速力・・・四〇ノット

 

五〇口径一二・七サンチ連装砲三基

 

六一サンチ五連装魚雷発射管三基

 

二五ミリ連装機銃二基

 

一三ミリ連装機銃一基

 

甲型駆逐艦に続く、艦隊型駆逐艦の究極形として計画されたのが、丙型駆逐艦の島風型だ。甲型で指摘されていた速力の不足を補うために、高温高圧の新型機関を採用しており、公試時には最高速力四〇・九ノットを叩きだしている。雷装についても、次発装填装置こそないものの、十五射線という海軍最大の発射雷数を誇り、名実ともに夜戦の切り札として、高速水雷戦隊の一翼を担うことが期待される。

 

龍風

 

島風型二番艦。銀の長髪を顔の左でサイドテールにしている。基本的に自由奔放で、飄々とした性格。島風型で構成される第一特設駆逐隊を指揮する。

 

霜風

 

島風型三番艦。ポニーテールをリボンで結んでいる。威勢の良い性格だが、たまに勢いを削ぐようなおやじギャグを発する。

 

清風

 

島風型四番艦。黒の長髪で、制服の上からカーディガンを羽織る。一特駆では最も落ち着いた性格。男性の理想像として栗駒を慕っている。

 

荒風

 

島風型五番艦。茶髪を肩口の辺りで揃えている。江戸っ子気質で霜風に負けず劣らず威勢が良いが、どちらかと言えばツッコミ役。

 

早風

 

島風型六番艦。黒の長髪を右肩から流している。沈着冷静そのもので執事のような喋り方をするが、実はキャラを作っている。黒ペンが相棒。

 

綾風

 

島風型七番艦。青みがかった長髪で、後頭部に大きなリボンをしている。戦闘に対してヤンデレの気があり、戦闘に連れて行ってもらえないと半日拘束される。




綾風のヤンデレ設定は、某あやせさんから来てます・・・

うん、関係ないね

次回は“アマギゴエ”との接触になるかと

・・・このコードネーム考えた奴誰だよ
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